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「踵荷重の姿勢」は「背筋が緩む」「足のアーチ構造を崩れにくくなる」などのメリットがあると解説しました。これにより、体の無駄な力みが取れて弓を引きやすくなります。
しかもこの手法は、
弓道教本のほぼ全ての先生が推奨している
ことがわかっており、そのほかの文献でも「踵荷重の姿勢」を解いています。
ここでは、その内容を解説しますが、その前に
足裏全体に均一に体重を乗せるためには、踵荷重の姿勢にしないといけない
ことを理解してください。そうすれば、教本の先生が踵荷重の姿勢を推奨しているとわかります。
踵に多めに体重を乗せると、足裏全体に均等に乗る
足裏は、「踵」「拇指球」「小指球」の三箇所が地面と接地しています。
この3点を結んだ「足裏を支持する面(支持面)」が、下半身と上半身を支える足の安定性に関わります。
上半身を安定して支えるためには、この支持面が大きい方がよく、そのために3点に均一に体重を乗せる必要があります。
であれば「踵に多め、拇指球に少なめ」に体重を乗せましょう。
理由は、踵は拇指球に比べて地面に接する表面積が大きいからです。
足裏に体重を均一に乗せるためには、面積当たりにかかる「圧力」を均一にしなければいけません。
表面積が大きい踵には多めに、表面積が小さい拇指球には少なめに体重を乗せれば、二箇所の圧力が均一になります。
もし、拇指球に多めに乗せると、圧力が不均一になってしまいます。
つまり、足裏全体に均一に体重を乗せるためには、「踵多め、つま先少なめ」にしなければいけません。
これを理解すれば、教本の先生が「踵に多めに体重を乗せる」ように指導しているとわかります。
9人の先生が踵に体重を乗せることを示唆している
では、弓道教本やその他有名な弓道の先生が解説されている文章を抜粋してみます。
神永範士:重心の位置は、左右の拇指のつま先とその反対側の踵を結んだ交差点上に落ちるくらいが良い
宇野範士:ゴムの中くぼみが吸い付くように立つ
浦上範士:左足はつま先、右足は踵に乗るように立つ
高木範士:不安定な姿勢がもっとも合理的に自然体な姿勢である(原文の方を引用)
佐々木範士:一部に凝りのある体重の乗せ方は間違っています
富田範士:神永範士と同じ内容
吉田能安氏:床に乗せたせんべいを足で挟んで割る心持ちで立つ
本多利実氏:地面に踏みつけるようにして立つ
梅路見鸞:少し膝を微に引きて
弓道連盟:三重十文字
(参考文献:弓道教本、心月射儀、本多弓術書、正法流「弓の道」より)
この9人の先生の文章は、どれも踵に体重を乗せないと実践できません。文章の意味を読み解いてみましょう。全員が共通して同じことを言っているとわかりますから。
神永範士、富田範士:重心は中央よりちょい後ろ
二人の先生の通り、二つの線を結んだ点を結ぶと「中央よりちょい後ろ」になることがわかります。
(イラスト:「弓道教本二巻より抜粋」)
神永範士、冨田範士の解説された重心の位置を実践するには、「踵」に体重を乗せる必要があるとわかります。
少なくとも、拇指球荷重の姿勢では、上の絵のように中央より後ろに重心に乗せるのは不可能です。
意識的に足首に乗せるようにすることで、上の絵のような位置を重心を乗せることができます。
浦上範士は右足は踵に置くように解説している
次に、浦上範士は左足はつま先に置くように書いてありますが、右足は踵です。こうする理由は、「体が前や後ろに力がかかっても倒れないため」と解説されています。
左足に乗るように説明しているのは、浦上範士が斜面打起こしであることと関係します。
斜面打起こしでは、左腕を斜め下に伸ばすために、どうしても体の左側の重みが前方に動いてしまいます。
特に、浦上範士の日置の弓構えは、稲垣氏の印西派と似たように左腕を弓構えの段階で伸ばし気味にするため、左足のつま先側に体重が乗りやすくなります。
斜面打起こしの中でも、「腕をそこまで伸ばしきらない」タイプもあります。
例えば、下の写真のモデルの「富田範士(尾州竹林派)」のような場合は、体重は踵に乗せたまま、体重は足裏の踵寄りに乗せるように解説されます。
(名前が日置、尾州竹林とあっても、教えている先生によって構え方にこだわりがあるようですので、ここでは「浦上先生の日置」、「冨田先生の尾州竹林の斜面」と言っておきます。)
つまり、浦上範士の日置の弓構えでは、左足の拇指球側に体重が乗りやすくなるのは仕方ありません。ただ、そうであっても、右側は踵側に体重を残すように解説されます。
これは、斜面打起こしの場合であっても、体重を後ろに残すように解説されているのと解釈できます。であれば、正面の構えでは踵側に体重を乗せるのが適切と言えます。
宇野範士、佐々木範士:均一に体重が乗れば、吸い付くような感覚になる
宇野範士の文章の「吸い付くような感覚」とは「均一に体重を乗せる」という意味です。
なぜなら、足裏全体に均一に体重を乗せると、地面から足裏(特に拇指球)にかかる「地面反力(反発力)」が少なくて済むからです。
足裏に体重を乗せるときに、乗せた部位に接する地面から足裏を押し返す「地面反力」が発生します。
この地面反力が高すぎると、足裏の皮膚にかかる負担が強くなります。特に、拇指球にかけすぎると、面積あたりにかかる圧力が強くなりすぎてしまい、足裏の一部が圧迫されます。
もし、足裏の体重を均一に乗せた場合、それぞれの部位にかかる地面の反発力は少なくて済みます。拇指球にかかる負担が減ることで、あたかも足裏が地面に「ピタリ」とつき、「吸着した感覚」になるのが想像できます。
すると、佐々木範士の「どこか一部に足裏の体重が乗った足踏みは失敗」という解説も同じ意味であるとわかります。これも「足裏全体に均一に体重を乗せる」ことの重要性を解いています。
であれば、踵に多めに体重を乗せる必要があります。
高木範士:教本は原文と意味が違う文章を記載しています
高木範士は弓道教本には、上体の重心線を「やや前方」におく必要があると解説しています。
体全体がしっかりとドッシリと据わり、地から生えたようになり、すらりとなるようにしなければいけない。この体勢を作るには、頭部、上体、下体が一直線に落ちる姿勢に修正を加えるのであって、全身の背面の筋肉がほんの少し引っ張られる程度に、全身を曲げないでそのまま前方に傾かせるのである。
(弓道教本二巻 P78より)
ここで、多くの弓道関係者は
やっぱ母指球重心に乗せた方が良いじゃん
と勘違いするのです。私もそうでした。
しかし、原文を調べて見たら、弓道教本は意味が全く真逆の内容を引用されていました。高木範士も踵荷重の姿勢を推奨しています。その根拠を下に示します。
安易姿勢は一般に「休め」の姿勢として知られている姿勢に近いもので、、、、このままでは行射に適当な姿勢とは申されません。
この姿勢を少し修正いたしますと、行射に適する姿勢となります。・・・退いている上腹部を前方に押し出し、状態の前面が全体として下腹部の前面とほぼ垂直に、同一面へ来るまで上体を傾かせると・・・背面の筋肉が強く引かれるようになる。
かように修正された姿勢を便宜上B姿勢(安易姿勢のこと)と名付けておきますが、この姿勢も筋骨の凝っている部分が多く、さらに下半身が硬すぎる結果、ややもすると行射が力の射になりやすく
(「本多流弓術書」P145-146より)
この文章の通り、前屈みの姿勢は結果的に力の射になってしまうと解説し、その上で、
正常姿勢:頭部、上体、下体の重心線が一直線に足関節に落ちる姿勢で、極めて不安定であまり愉快ではない姿勢ですが、筋肉が硬くなったり緊張したりすることが一番少ない姿勢。
(「本多流弓術書」146より)
という文章がすぐ後に記されています。
つまり、弓道教本の高木範士の説明は一部の内容を切り取り、言いたい内容が変わっています。
弓道教本は高木範士が推奨する「適切な姿勢」に修正を加えて背筋が引っ張られた姿勢が適切と説明しています。しかし、原文ではこの姿勢は力んだ射になってよくないと解説されています。
したがって、身体の重心線をやや前方におくのは適切ではなく、本当に目指すべき足踏みは脚が不安定なくらい緩んでいる状態です。
そのためには、踵に体重を乗せなければいけません。踵荷重の姿勢にすると、ふくらはぎ、太ももなどの脚の筋肉緩めることができるからです。
つま先に体重を乗せると、ふくらはぎ、太ももに力が入ってしまい、脚の筋肉が緊張します。脚をゆるませた姿勢にするためには、踵荷重の姿勢が適切です。
したがって、高木範士の足踏みも「踵荷重の重要性」を解いています。
吉田能安の説明は踵荷重の姿勢を言っている
次に、吉田能安の説明の「せんべいを割った姿勢」も弓道の世界でよく使われます。
ただ、吉田能安の説明は「つま先立ち」の重要性ではなく、「踵に体重を乗せる」ことを説明しています。
なぜなら、踵に体重を乗せなければ、せんべいは割れないからです。
もしくは、踵にも体重を乗せて足裏に均一に体重を乗せるように説明しているかもしれません。
つま先に体重を乗せたままではせんべいは綺麗に割れません。実際には全体重を踵にずしりと乗せることで、せんべいが割れます。
ただ、今日の弓道の指導では、この教えを「つま先立ちにさせて、ゆっくりと踵を下ろして、拇指球に体重を乗せたままにする」ように使われる場合があります。
つまり、「つま先立ち」になることが大切と解釈して「せんべいを割る立ち方=拇指球に体重を乗せる教え」と誤解しています。
もし、この教えを「拇指球荷重の姿勢が大切」と解釈したければ、「つま先の下にせんべいを乗せて、それを割るよう」にしないといけません。
であるなら、本多利実氏の「地面を踏みしめるように立つ」という説明も踵荷重の姿勢とわかります。
地面を踏みしめる時、つま先に多めに乗せて「踏むしめる」と表現されるでしょうか?表面積が大きい踵にしっかり体重を乗せることで「地面を踏みしめる」状態を作れます。
また、梅路氏の「少し膝を微に引きて」という文章も同様です。「膝を後ろに引く=踵に体重を乗せる」と解釈できます。
以上、9人の先生が踵に体重を乗せるように姿勢の作り方を解説しているとわかります。
弓道連盟の三重十文字の使い方は文献上間違い
なお、弓道連盟は教本一巻に記載されている「三重十文字」を推奨しています。
三重十文字
両肩の線と腰の線を足踏みの線を上からみて一直線に揃えることである
おそらく、弓道連盟の指導者は「腰の線と足踏みの線を一直線に揃える」ことを三重十文字と解釈しています。しかし、「原文」を調べると、内容が間違えています。
原文では、三重十文字は「足裏の面が腰と両肩を含めた体に入る」ようにと説明しています。
その時、足首の骨の線と両腰骨、肩の線が上から見て揃えるようにと解釈されます。
三重十文字の言葉と同一の意味で使われているのが「上肩、妻肩、地紙に合わせる」という教え。上肩は「両肩」、妻肩は「腰骨」、地紙は「足裏」を指します。
この文章は「足裏全体を含んだ面の中に、腰骨と肩を合わせる」よう解説しています。すると、結果的に両肩、両腰を含んだ上半身が両足裏によってできる面の中に収まるように立てます。
しかし、弓道連盟の説明する三重十文字では、地紙を足裏ではなく「足踏みの線」に変えています。「腰の線と足踏みの線」を合わせるようにすると、前屈みの姿勢を作らないといけません。
こうすると、前かがみであるため、矢の長さ引くのは難しいです。あるいは、大三で上半身が反った「反り腰」姿勢になったり、出尻になってしまいます。
確かに、youtubeで高段者の射を見ると、腰から体を折った姿勢、前かがみ姿勢などで引いている人を多く見かけます。
これは、連盟では、足踏みの線に腰と肩の線が合わせることが「正しい」という認識になっているとわかります。
しかし、このように、原文の内容をねじ曲げた「間違った姿勢」を取り続けていれば、「猫背」「出尻」「両肩のずれ」など失敗がたくさん起こります。
これを、連盟の人は「それが修練だから稽古して直すしかない」と勘違いをいう人もいます。
いえ、単に間違った内容を鵜呑みにして、自ら悪い方向に進めているだけです。誤解を直さないと永遠に射型の崩れに悩みます。
そのため、三重十文字は、「足踏みの線を腰に合わせる」のではなく、「腰と両肩の部位が足裏の面からはみ出しすぎないように、踵に体重を置く」のが適切な解釈です。
以上の内容を理解すると、ほぼ全ての先生が
とわかります。踵に体重を乗せて、弓を引くようにしてください。
ちなみに、こう言った「踵の重要性」を深く知るために打ってつけの教材もあります。→「踵に体重をおけ、圧倒的に弓を引きやすくなる」
こちらも、チェックしてみてください。
しかし、このように言っても、まだ「とはいえ、拇指球荷重の姿勢が正しい」という思いこみがあるのではないかと想像します。では、その誤解をスッキリ解くために、
「踵荷重に関する反論に対して、根拠を持って説き伏せる」という記事もご覧ください。