3.踵荷重の姿勢の反論について誤解を解説

教本の先生の文章を合理的に考えれば、「踵に体重を乗せるのが適切」とわかります。踵荷重姿勢によって、背筋が緩んで、弓を打起こしやすく、引きやすくなります。

が、ここまで説明しても、拇指球に体重を乗せる方が良いように思いたくなる人はまだいるかもしれません。例えば、

・踵に体重を乗せると弓を引くときに後ろにのけぞる危険がある

・膕(ひかがみ:膝裏)を伸ばすためには、拇指球に体重を乗せないといけない

・よく、「重心は拇指球に乗せるように」と言われるから

この3つの理由で、弓道の世界では踵より拇指球に体重を乗せたほうが良いと言われています。

ただ、この3つの内容も誤解があります。

・解剖学的に、拇指球に体重を乗せた方が、体は後ろにのけぞる

・「膕を伸ばす」の意味を根本的に間違えている

・拇指球に体重を乗せると、拇指球重心にならない

「え?、そうなの?どういうこと?」と思うかもしれません。はい、その驚きの通り、三つの内容は誤解であり、全て根拠があります。それを以下に解説します。

この三つの内容を理解して、拇指球重心に対する誤解を解きほどいてください。

母指球を体重乗せた方が体が後ろに倒れる

まず。体は

かかとに体重を乗せると、前に倒れやすい

つま先に体重を乗せると、後ろに倒れやすい

ようにできています。

試しに、踵に体重を乗せてください。両腕で軽く円形を作って上方に上げてください。ほぼ全ての人はスムーズに重心が前方に移ります。

逆に、つま先に体重をかけて、腕を上方に上げてください。体が後ろ方向に倒れてしまうのがわかります。

弓道は弓を広げて体を割り込ませていく運動です。なので、常に体を前に倒れるように力をかけたいと考える人もいます。

であれば、手前の段階でかかとに乗せておいた方が有利です。

引いている最中に拇指球に体重をかけたいと思うのであれば、あるいは体をのけぞらせたくなければ、手前の段階で「踵」に体重を乗せておいたほうが合理的です。

もし、つま先に体重をかけて身体を後ろに倒れないようにするためには、骨盤を前傾させて自ら上体を前に傾けないといけません。そうすると背筋が張って、姿勢が崩れます。

体が後ろに仰け反らないようにするために、自ら姿勢を崩す必要なんてありません。

最初から踵に体重をおけば、こんなことになりません。

では、なぜかかとに体重を乗せると体が退けぞりやすいという話が出てきたのでしょう?

それは、「拇指球荷重の姿勢から踵を体重を置くと、体が後ろにのけぞりやすい」と言っているのではと推測されます。

確かに、最初につま先に体重を乗せてから踵に乗せ替えると、体は後ろにのけぞります。しかし、この話はつま先に体重を乗せていることを前提にしています。

最初から体重を後ろに乗せていれば、この問題は起こりません。

弓道教本の胴造りの説明には、「脊柱、項を真っすぐに伸ばし」と記されています。背筋を伸ばすためには、拇指球に体重を乗せるのは不適切です。

拇指球荷重によって、骨盤を前に傾けてしまうと、腰部の背骨は前にずれて背筋が張ります。この行為は「脊柱(背骨)を伸ばす」ことになりえません。

そのため、拇指球に体重を乗せすぎるのはよくありません。

膝裏を伸ばす=膕(ひかがみ)を伸ばすという認識が間違えている

次に、拇指球に体重を乗せた方が良いと解説される根拠として、「膝裏をピンと張るため」と説明する人がいます。

いわゆる、「膕(ひかがみ)を伸ばす」。踵に体重を乗せると、膝裏が曲がってしまうので不適切と言うのです。

これは、弓道連盟の「ひかがみ」の認識を誤っています。

ひかがみを伸ばすとは「膝裏を伸ばす」ことではなく、逆で「膝裏を凹ませる」ことです。

「ひかがみを伸ばす」とは、「膝裏の皮膚を伸ばすこと」ではありません。「膝周りの筋肉を緩めて伸ばしてあげる」こと。つまり、筋肉が緩む=伸びると解釈されます。

実際に、戦前の弓道の指導では、ひかがみをピンと伸ばすのではなく、へこませることで張ると説明しています。

全日本弓道連盟初代会長の宇野要三郎範士は

脚の張り方は膝関節の司る役目であるから、両膝の関節が凹むくらいに裏側を張るのであります。

~宇野要三郎範士著「基本体型」より~

以下、基本体型の原文を写真で乗せると

両膝の関節を凹むくらいに裏側を張るのであります(宇野範士「基本体型」より)。

要するに、昔はひかがみを張ることを「膝関節をへこませること」と解釈して使っていました。

理由は、膝裏をへこませると、重力によって、ふくらはぎの筋肉が自然と引っ張られます。

だから、「凹むくらいに張る」です。つまり、やることは「膝裏を凹むように、脚の筋肉をゆるませること」です。

つまり、「膝裏をピンと伸ばす=ひかがみを伸ばす」ではありません。

しかし、同じ部分が教本では、なぜか、「ピンと脚筋を張るように」と文章が切り替わっています。

足指の相互が開かぬように指を寄せ詰めて(原文と同じ内容の文章)、土踏まずにやや含みをもたせて(・・・・

膝関節は出っ張らぬように寧ろ引き込む位にピンと脚筋を伸ばし(内容が書き換えらているところ)、足の外側から踵にかけて・・・・「弓道教本P63-64」

また、原文の切り取りによって、内容が書き換えられてしまっています。だから、多くの人は「ひかがみを伸ばす=膝裏をピンと伸ばす」と誤解してしまったのです

膝裏の皮膚は、上半身までつながりがあります。

治療の世界では、肩凝りの施術の際に、患者さんの両腰、両足の位置を合わせて行う方もいるほどです。そうすることで、足と肩の皮膚の引っ張り具合を均等にし、施術効果を減らさないようにするためです。

今日の弓道指導のように、本当に膝裏を伸ばそうとすると、骨盤が前傾します。それで、太ももの前側が縮まって、骨盤が前に引っ張られます。

すると、ピンと伸ばして筋肉を縮めているので、ひかがみを縮めているともいえます。

この図の通り、ひかがみを伸ばすと、太ももの前側も背筋もみんな縮んでしまいます。

もし、ひかがみを伸ばしたければ、踵に体重を乗せましょう。すると、膝関節をへこんで、ふくらはぎが緩むことで、下方向に伸ばされます(張り)ます。だから、ひかがみが伸びるのです。

拇指球に体重を乗せると、拇指球重心にならない

最後に、拇指球に体重を乗せた方が良いと考える理由として、「拇指球重心にしないといけないから」と言われていることがあります。

結論を言います。踵に体重を乗せても、拇指球周辺に重心は収まります。

常に、拇指球重心の姿勢にしたい場合、踵に体重を乗せた方が良いです。

この内容で反論される人は、「重心」と「荷重点」の言葉の意味を混同して使っている可能性があります。

例えば、車で考えてみます。

ある止まっている車が別の走っている車に衝突したとします。止まっている車がぶつけられた場所が「端」の方であれば、その車はくるくる回転します。

この時に、当たった場所が「荷重点」、車の中心が「重心」になります。

別の車が衝突することで、止まった車の先端に圧力がかかります。圧力や重さが乗った点が「荷重点」となります。回転している最中は中心部は変形したり動いたりしません。

これは、車の中心部位に重心があって、重さがあるから動かないと説明できます。

重心とは、その物体の中で一番動きにくく、結果的に重さがかかった点(意識的ではなく、自然とです)、荷重点は、重さが加えられた点です。

ということは、連盟のお話される

拇指球に体重を乗せましょう(少し体を前かがみにするように、拇指球に体重を乗せよう)

という指導は、「拇指球重心」ではなく「拇指球荷重」の姿勢のことを言っています。

この内容は正確に理解しないといけません。「拇指球付近に意識的に体重を乗せる」と「拇指球に重心が乗る」訳ではないからです。

物体の重心は、三角形の場合「三線の中心線の交わった点」と定義しています。

この定義にしたがって重心の位置を計算すると、踵に体重を乗せても母指球重心に結果的になります。

つまり、踵、母指球荷重にしても、重心は「中央よりやや前」に収まります。

しかし、拇指球に体重を乗せ続けると、重心が中指の付け根の方によります。

なぜなら、足のアーチが崩れて親指と小指の間がより広がるからです。

拇指球に圧力をかけ続けることで、足のアーチが崩れてしまうと、足の甲が横に広がります。すると、三角形が横長になって、重心が「中指の付け根」の方に寄ってしまいます。

少なくとも、足の内側にある拇指球側に重心が移ることはありません。

この内容梅路見鸞氏は、「猫背の者は、重心(力の中心)は、中指の付け根付近に収まる(心月射儀「足踏み 力の中心」の項より)と解いています。

さらに、教本の文章で、神永範士、富田氏は体の重心は足裏の中央より後ろに置くべきと解説されています。

であれば、身体の重心を後ろにするためにも「踵荷重の姿勢」。

さらに、足自体の重心の位置も拇指球付近にキープし続けるためにも「踵荷重の姿勢」にした方が、よくないですか?

つまり、足自体の重心を拇指球付近で維持するためにも、積極的に踵に体重を乗せてください。

こちらも、チェックしてみてください。

ということで、ここまでの話をまとめると

・体を後ろに仰け反らせたくない

・膕を伸ばしたい

・拇指球重心にしたい

と思ったら、踵荷重の姿勢で引いてください。それで全ての問題は解決されます。

さらに、拇指球荷重の姿勢にすることの弊害はあります。「拇指球荷重にすると、的中率が下がってしまう根拠」を身体の仕組みから解説しました。ぜひ、ご覧ください。

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