胴づくりの射癖:何が何でも下腹に力を入れてはいけない理由

弓道を稽古していて、

 下腹に意識をこめよう(丹田)

 腰を入れる

 へそをつり上げるように

これらは全て弓構えに入る前の姿勢を説明したものです。このように「下っ腹」や「腰」など体の一部分を指す言葉が書かれていると、読み手はその部分を意識したり、力を入れようとします。

このように、下っ腹に力をこめるのはまずいです。体を前かがみにしたり、骨盤を前傾させたり、このようにすると、弓が引けなくなるどころか、どんどん下手になって弓をやめなければいけない事態になる可能性があります。

そのくらい、下っ腹に力を入れると射に悪い影響を及ぼします。では、この内容について解説していきます。

「下っ腹」という言葉を真に受けると太ももの付け根が緊張してしまう

では、なぜ下腹や丹田という言葉を意識してはいけないかを解説します。この部位を緊張させてしまうと、太ももの付け根が緊張するからです。

下腹や丹田という筋肉は、太ももの付け根の骨から背骨にかけてついている「腸腰筋」という筋肉が関係しています。例えば、「下っ腹周辺を意識する」「体を傾けて下腹を圧迫させる」このようなことをしたときに下腹が硬くなるのは腸腰筋が硬くなるからです。

腸腰筋が硬くなること自体はまだ悪くありません。問題はこの次、腸腰筋が硬くなると、股関節と太ももをつなぐ「太もも前側の筋肉」が緊張します。この筋肉は骨盤を前に傾けるときに働く筋肉であり、太ももの付け根の筋肉が硬くなります。

このように太ももの付け根が硬くなることで様々な障害に陥ります。その一例をあげると

1、腹部に酸素が入らなくなる

太ももの付け根が硬くなってしまうと、腹部の空間が狭くなります。これによって、腹部に取り込まれる酸素が減ってしまい、呼吸動作がしずらくなります。

「呼吸が浅くなってしまう」という症状に陥った場合、それは腹式呼吸ができなくなってしまっている状態です。それに加えて太もも付け根の筋肉が硬くなっている可能性が非常に高いです。

このような状況に陥ってしまうと、落ち着いた状態で射を行うことが難しくなります。太もも付け根が硬くなることで、起こる影響について解説していくと、

2、姿勢が無意識にゆらゆら動きやすくなる

太もも付け根の筋肉が硬くなることで、上半身が前に傾きます。このように、上半身が前に傾いたままで弓を引こうとすると、高い確率で姿勢がぐらつきます。

弓を引くときに、体を後ろに傾かないように、最初に少し前に傾けるように構えるように指導することがあります。しかし、この発想は危険で、前に傾けるほど、後ろにも傾きやすくなります。

体を前に傾けて上半身を屈めると、後ろから誰かに押された時は姿勢が保てます。しかし、前から押されると、上半身が後ろに倒れやすくなります。

体を前に傾けているから体が後ろに倒れるわけではありません。体を前に傾けると足裏の体重は母指球周辺にきます。すると、上半身は前から押された時にもっと後ろに倒れやすくなります。

したがって、体を前に傾けることは、上半身の姿勢を崩れを防ぐことに繋がりません。

構える時に、背中の筋肉が柔らかいと上半身を真っ直ぐに保ちやすいです。

背中の筋肉が縮んでいると、一時的には良い姿勢を維持することはできます。しかし、弓の反発力が掛かると姿勢を維持するのが難しくなります。

したがって、弓を引く時は上半身を傾ける必要はありません。むしろ、下腹・丹田に力を入れて、体を前にかがめてしまうと、かえって上半身が前後に揺れやすくなります。

腰を入れるという考え方も間違えている

なお、同じ弓道の表現として「腰を入れる」と解説される先生もいます。腰を前に突き出すように姿勢を整えるのです。

この動作も行なってはいけません。理由は、腰を前に突き出すと首関節に力が入ってしまうからです。

首回りの筋肉を硬くしてしまうと、弓を引いている時に感情の起伏、気持ちの動揺が起こる可能性が高くなります。首には、興奮時に働く交感神経が通っております。首の血管が縮むと、交感神経にスイッチが入ってしまい体がさらに緊張してしまいます。

どの程度、首の筋肉が固まるかを実験してみましょう。まず、軽く膝を曲げて少し腰を立てるようにします。すると、顎を引いて首の後ろが伸ばしやすいですね。次に、腰を入れるように前に突き出して、腰を入れて立ってみてください。この状態で首を伸ばそうとしても、伸びないどころか少し首が痛いのがわかります。

中には、腰を前に突き出した姿勢を維持し続けると、妄想や理想に心が奪われて真の修行ができないとまで解説した書籍もあります。そのため、首の後ろを緊張は退路の元。腰を前に突き出さないように、弓を引くのが大切です。

このように、丹田を意識しよう、下腹に力を籠めようと指導している人は、非常に危険です。たとえ高段者に指摘されたとしても無視してください。

「下っ腹を意識する」の本当の意味を理解しよう

そのため、ここで、下っ腹を意識するの本当の意味を理解しましょう。

丹田とは実際には臍周りではなく、臍下8センチ下の場所からさらに8,9センチ程度体の中の周りをさすものです。つまり、イメージでいうと、背骨の一番下の骨より少し体の中にあたります。

この空間を内側から膨らますことが「丹田を意識」するの本来の解釈です。逆に、周辺の筋肉に力を入れて、この空間を狭くするような身体の使い方は丹田を意識したことにはなりません。

その空間を力を入れて狭くするのはなく、むしろ広げるようにしましょう。まず、上半身の無駄な力みを抜きましょう。そして、上体の重みを腰の真ん中、体の中に落とすようにします。

こうすることで、体のみぞおち部にある横隔膜が下方に下がります。これにより、お腹の内部の圧力(陰圧)が高まり、少しお腹が膨れます。これによって、身体の重心がさらに下がって結果的にブレない胴作りが完成します。

この姿勢を意識すると、下腹に力が入らずに楽に立てます。加えて、余計な力みや意識もなく、伸び伸びと弓を引けます。

したがって、弓を引く時は、

下腹に力を入れない

ことを意識して弓を引いて見るようにしてください。

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