「早く離したい」という気持ちが半減するねらい目の付け方

早気を確実に克服するためには、体の仕組みを学ぶ必要があります。そこで、「眼」の機能を具体的に調べると、早気の原因と対策法がわかります。

例えば、的の見方を変えると恐れの感情が少なくなるのがわかります。詳しく調べると、会の最中に焦りの感情が発生しずらい「物の見方」が存在します。

今回は、早気経験者に有効な狙いの定め方について解説していきます。

薄目して藤頭を見ると、「離したい」感情が消える

早気を直したい場合は、会に入ったときに「半眼」にしてぼんやり的を見るようにしましょう。早気になると、的を見ると反射神経的に「離したい」と思うのですが、半眼にするとその気持ちが薄れます。

次に的の見方です。

早気にかかった人は会に入ると、的を先に見ようとします。この見方をすると、的を見たと同時に離したい気持ちが出てしまい、我慢できずに離してしまう可能性があります。

そこで、狙いの付け方として、先に藤頭を見ます。次に、藤頭から透かすように的が見えます。弓の延長線上に的があるようにして、ねらい目を合わせます。このように見ると、矢を離したいという気分が軽減されます。

文章で見ると、的を先に見ても同じように思うかもしれません。しかし、実際に「藤頭」から見て狙いを定めてみると、「離したい」という気持ちが軽減されるのがわかります。この理由は、次のように説明されます。

人は物をみるときに、基準を一つ作ると、見ている物の遠近感が出ます。例えば、あなたが電車の中でスマートフォンを持っているとします。そこに、向かい側に人がいるとして、その人の靴をみるようにしてください。靴だけを集中して見ると、靴をはっきり認識できます。

しかし、最初にスマートフォンを見て、その延長線上にくつがあるように見てみましょう。すると、同じ距離から靴をみているのにも関わらず、靴がはっきり見えず、遠くに見えるように思います。この理由は、スマートフォンという「基準」を作ったことで、ほかの対象物と「遠近感」が生まれるからです。て、結果的に遠く見えるように感じます。

わかりやすく説明すると、カメラのフォーカス機能に当たります。撮影する際に、一つの対象物に焦点を当てて、ほかの景色をぼかしてみるようにします。すると、同じ景色をみているのにも関わらず、焦点を当てている箇所は近く見え、ほかの景色が遠く見えるように感じます。

この原理を弓道における「ねらい」でも考えてみます。藤頭を見ることで、藤頭に焦点が当たり、的がぼやけて見えます。的を見ている行為は変わらないのに、見る場所を変えるだけで見え方が異なります。このようにして、「離したい」と思う気持ちが薄まります。

この話は、「もたれと早気」の違いについて説明されたときにお話しを受けました。

ある日、道場で早気ともたれの症状と特徴について話していたときに、目のつけ方に違いがあるとわかりました。「早気の人は的を見ると早く離してしまう、もたれの人は藤頭を見るので長くなってしまう」ということです。遠くのものに注目して見過ぎてしまうと早く離してしまい、近くの物に注目して見過ぎてしまうと遅く離してしまうのです。

もたれになるくらい藤頭を見続ける必要はありませんが、5秒程度楽ににもてるようになるために、的ばかりみないように意識します。それによって、「離したい」という意識を減らすことができ、会が長くなるのです。

的という「視覚情報」が「離す」行動の引き金になる脳の仕組み

よく「的と目があった瞬間に離したくなる」と早気経験者は話します。実際にそのような方が的を見ず、「目をつむって会を保ってもらう」ようにすると、不思議と数秒長く保てるのです。あるいは、巻き藁では長く会を保てるのに、射場に立つと早気になってしまう人も多くいます。

このように、早気になってしまう理由として、「的」という外界物が、次に行う動作が無意識に決めてしまっているからです。脳科学の世界で、この反応を「フィードフォワード」と呼びます。

フィードフォワードとは、普段の生活や行動をしているときに、人はその行動を「自分の意志」で行っているのではなく、「周りの環境」によって、決定づけられるとう考え方です。例えば、家にいるときは勉強に集中できなくて、外の喫茶店に行くと、勉強に集中できてしまうことがあります。これもフィードフォワードの考え方により、説明がつきます。

人によって、自分の家が持つ役割や考え方が異なります。ある人にとっては、「家の中の空間」が「勉強するための空間」かもしれませんし、「くつろいだりゴロゴロするための空間」であるかもしれません。これは、脳のフィードフォワードの反応によって意識づけられます。

あなたにとって家が「ゴロゴロするための環境」と脳に記憶させたとします。すると、家で勉強しようと思っても、非常に難しいでしょう。なぜなら、そのような人の場合、家の中にいると、「くつろぐ場所」と認識し、脳から「休みなさい」と身体に命令させるからです。

その場合、家にいて勉強しようと頑張るのではなく、「家庭教師を呼んで勉強を見てもらう」「図書館など場所を変えて気持ちを切り替える」などと対処する必要があります。

この反応を早気経験者に当てはめた場合、「的」という外界物が「矢を放つ」という行動を起こさせる刺激になってしまっています。そのため、早気になってしまった人は、「射場」「的」といったものに対しても、心の動揺を誘っていると考えなければいけません。

目の働きを利用して、早気を改善した実例

「早気」と「目」の関係を考えたときに、昔の文献で興味深い内容があります。それが、早気を改善しようとしたときに、的ではなく、最愛の息子を置いて改善した例です。この内容は弓道教本二巻に記された内容です。

1789~1801年頃(徳川時代、寛政頃)に、阿部という旗本の家士に、弓術に熱心で長い間精を注いでいた人がいました。その人が早気という癖に取りつかれ、的に向かえば、肩まで右手がよらないまま離れてしまうくらい、早気になってしまいます。

そのとき弓術の師も一度、弓の稽古をやめるように勧めたが、本人はそのことを効かず、日夜直す工夫をこらしていました。しかし、それでも早気が直らず、「心ではやめんと思えど、拳が放してしまう。誠に悔しい」と言っていました。

そこで、早気を直す方法として、大切なもの、価値のあるものを的前に置いて会の時間を長くしようと考えました。家に伝わる、主人より賜った古画の屏風、主人拝領の紋服を掛けました。そして、それに向かって弓を引きました。しかし、それでもこらえず放してしまいました。

「これではとても弓取ることができない自分が恨めしい」と自分を恨み、ついに最終手段に出ます。

それは、自分の子供を的前に置いたのです。もしも、いつも通りにこらえず放してしまったら、子供に矢が刺さって殺してしまいます。

現代では考えられないことですが、「拳を離さば我が子の命を取る、もしこうなれば親子ともに死のう」と言って、子供に矢先を向けました。

すると、恩愛の情のおかげか、いつもの早気が失せて放しませんでした。

そして、絶えず修行を続け、早気癖も止まったと言います。

的や自分の私物では早気になってしまう。でも子供の場合は早気になりませんでした。この理由として、子供が視界に入ったときに、「離す」「焦り」という感情以上に、「子供を愛している」という感情が出てきました。そのため、射手は離すことができませんでした。

視界に入る情報は早気の改善に非常に大切です。もし、どうしても離してしまう場合は、的を見る習慣をできるだけなくしていくようにしましょう。薄目にして焦点を変えることで、会に入っても焦りの感情が少なくなります。

もう一度的を見たら離したくなるフィードフォワードを抑えるポイントを言います。「的を見過ぎない」「薄目にする」「藤頭を見る」です。この三つを心がければ、早気は確実に克服できます。明日から取り入れるようにしましょう。

ここまで読まれてきて、さらに早気を克服するためには、「具体的な目標決め」が必要です。あとは、クリアするべき課題を設定し、その克服法を理解するようにしましょう。次に、早気を改善したい人が心がけたい「早気改善のための3つの目標設定方法」について解説していきます。

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