早気を改善するためには、練習方法を変えることも検討しましょう。練習の仕方を変えることで、意識の持ち方や筋肉の使い方が変わり、弓を楽に弓を引けて、自然と会が持てるようになります。
各県の弓道関係者に聞くと、様々な早気の改善方法があることがわかりました。その中で、もっとも優れた方法である「強弓と弱弓を交互に使う」練習法について解説していきます。強い弓と弱い弓を活用することで、早気は確実に改善することができます。
強い弓と弱い弓で早気を克服できる
今あなたがお持ちの弓は何kgですか?ここでは、あなたが持っている弓より強い弓を「強弓」、弱い弓を「弱弓」とします。そこで、以下のように定義します。
あなたが持っている弓 13kg(例)
13kgより+2~3kgを強弓
13kgよりー2~3kgを弱弓
あなたが学生であれば、部室の中から自分の弓より2、3kg強い弓、弱い弓を選択してください。そして、その弓を併用して使うのです。友人が持っているのであれば、友人に借りれば良いし、なければ自分自身で安いグラスの弓でkg数を計算して購入しましょう。強弓と弱弓を併用して稽古すれば、確実に早気を改善できます。
この理由は単純に弓を変えれば引き方が変わるからです。
あなたが13kgの弓を使い、100本以上矢数をかけたとします。すると、稽古をしている最中に、13kgの弓力に慣れていき、刺激や反発力に対する体感が薄くなっていきます。新弓や使ったことのない弓を使うと、普段持っている弓と違い、何か「違い」が出てくると思います。それは、普段使っている弓に慣れきっているからです。
そこで、強い弓を使ったとします。すると、13kgの弓と違い、反発力や体に迫る圧力が変わるのがわかります。すると、通常より大きな刺激が脳に行き渡り、使う筋肉量が増えます。それによって、いつもより強い反発力が身体にかかれば、姿勢を保とうとします。
これによって、いつもより弓を引くための筋力を要します。そこで、強い弓で2、3本引いたら、普段の弓に戻してみましょう。すると、「こんなに軽いのか!?」と思うほど今までより軽く弓が引け、心に余裕ができます。心に余裕にもてるようになれば、2、3秒程度その場で会を持たせるのも十分に可能です。
当弓道コミュニティで主催の稽古会で起こった出来事で、「早気が直らなくて困っています」と言っていた方がいました。その方に、使用している弓のkg数を聞いて、それより3kg程度強い弓を貸しました。「取り懸けは深く取り懸けて弓を引いて」「なるべく腕をリラックスさせて下さい」などアドバイスをして、2、3本程度弓を引かせました。その後に、普段持っている弓で稽古させました。
すると、その場で1秒しか持たなかった会が3~5秒程度持つようになったのです。その方は、「一度強い弓を引いたら、自分の弓がいかに軽いかがわかった」とお話ししていました。2,3kg程度の強さであれば、取り懸けで指先にかけずに行えば弓を引けます。そうすることで、弓の引き方を簡単に変えられて、会を長く持つことができます。
もし、13kgの弓を使い続ければ、13kgに耐えられるだけの筋力を発揮できません。そこで、15kgの弓を使用すると、15kgに耐えるだけの筋力が自然と使われ、13kgの弓を楽に引けます。この精神的な余裕が発生することで、会における「焦り」は大幅に軽減できます。
そして、強い弓を用いた後、できれば、自分の持っている弓より軽い弱い弓も用いてください。おそらく、強弓と併用して使えば、弱弓を使用して5秒程度の会は確実に実現できます。自分の持っている弓より強弱を変えていけば、早気になってしまった弓の引き方を改善できるのです。
弓を変えて引き方が変わってしまっても何も問題はない
なお、弓を変えるように説明すると、次のような反論が変えってきます。
「強い弓で引こうとすると、指導者や高段者にやめておけと言われます。なぜなら、強弓を引くと、引き方が変わって、それが癖になってもとに戻せなくなる、正しい射形で引くために自分の筋力より負担になる弓を使うなと言われます」
このような理屈は全て無視してください。強い弓と併用して弓を用いて稽古してください。そして、自分の弓で会を長く保つことができるくらいに、
まず、早気にしても、技術にしても、「弓の引き方」を変えなければ改善できません。同じ弓で同じように弓を引いて、実力が伸びることは現実的にあり得ません。野球の技術向上、マラソン、柔道、剣道にしても、技術を伸ばすためには、自分の身体に負荷をかけて多少のリスクを背負いながら行うのが普通です。にも拘わらず、弓道に限って「それを行うと引き方が変わるからダメ」という理屈は通りません。
さらに、弓のkg数が増えたからと言って、引き方が変わって癖になって元に戻せないことはありません。むしろ、強い弓を引いた後に、軽い弓を使うと、これまで以上に楽に引けるため、引き方は良い方向に変わります。
確かに、13kgの弓を持っている人が、いきなり26kgの弓を持ったとします。この場合、体に負荷がかかりすぎて体を壊すリスクもあるかもしれません。しかし、2、3kg程度なら頑張れば引ける弓力なので、怪我のリスクは非常に少ないといえます。もし、高齢者で頑張れなければ強弓で素引きだけでもいいのです。
そのように自分の力量に合うように、練習方法を考えて実践すれば、自分の持っている弓と併用しながら使用できます。
「一度悪い癖がついたら射型が元に戻らない」ことは理論上あり得ない
さらに、指導者が言う、「弓を変えたら、引き方が変わって癖になってもとに戻らない」という理屈ですが、体の仕組み上そのようなことが起こることは99,9%ないといえます。
もし、本当に弓の引き方が変わって元に戻らない現象が起こったとします。その場合、元の自分の持っている弓に戻せばいいだけです。少なくとも、脳の仕組み上、一度ついた悪い癖が永遠に記憶されてもとに戻らないことはほぼないといえます。
人の60兆個ある細胞は1日3000億個新しい物に変わり、1年かけて新しい細胞に入れ替わります。記憶も同様に、悪いと思っていた記憶もよいように解釈されて脳に保存されることも普通にあります。にも拘わらず、弓の引き方だけが一度癖がついて永遠に戻らないということは理論上あり得ません。本当にそのようなことを平気で言う人がいるのであれば、根拠、データ、検証結果を提示してもらう方が良いです。
もし、指導者の言う通り、「引き方が変わるから弓を変えてはダメ」という発言を真に受けたとします。すると、早気で癖づいたあなたの弓の引き方は何も変わらないため、永遠に早気のままです。この現状の方がよほど「ダメ」です。むしろ、指導者、経験者は、早気になってしまった人に「今の引き方では、早気が癖づいているので、強弓を軽く引いて弓の引き方を変えてみては」と提案する方が理にかなっています。
にも拘わらず、「引き方が変わって、癖になるからやめた方が良い」という発言は、「あなたは早気の引き方のままでいなさい、でも早気は改善しなさい」と矛盾したことを言っているとしか思えません。本当に早気を改善したいのであれば、たとえ権威の高い人が言った発言にしても、疑ってください。そのような矛盾発言をされている権威あるものに従って、早気のままになったとしても、その方は責任は取りません。
なので、自分の権利を尊重し、強弓をもって稽古してください。強い弓を持ったとしても、100%早気は改善できないかもしれません、しかし、同じ弓を使い続けたときに比べて、劇的に弓が楽に引けるのは間違いありません。その事実を理解して、明日から自分の弓だけで稽古するのか、一張り増やして併用して使用するかを検討ください。
軽い弓に変えるだけでは本質的に早気は改善できない
ただ、他県の弓道関係者に早気の克服方法を聞いたところ、「弱い弓」と併用して使用して早気を改善される練習法があることも聞きました。
自分の持っている弓より2,3kg軽い弓を用います。軽い弓に変えれば、いつもより軽く楽に弓が引けるために会が楽にもてます。そうして、軽い弓で会が5秒程度持ったら、自分の弓に変えるのです。このようにすれば、早くなった会を長くすることができるのです。実際に、弓道の古い文献には、早気になってしまった人に軽い弓を渡して稽古させた文章も残っています。
この方法のメリットは、誰でも取り組める点にあります。しかし、デメリットとして自分の持っている弓を「強く感じてしまう」可能性があります。
軽い弓(自分の弓よりー2、3kgの弓)で稽古すると、自分より軽い弓を持った方が楽に感じてその体感が脳に記憶されます。そうして、自分の持っているときの弓の使用頻度が減ると、自前の弓で自然と使っていた筋力より少なくした弓の引き方があなたのスタンダードになってしまいます。すると、元に弓に戻したときに会が長く保てません。
結局、普段あなたが持っている弓で会が長く保てない状態は結果的に変わっていません。そのために、弱い弓だけを用いて会を長くすることは、現実的に難しいと言えます。
このような事実を踏まえて、軽い弓だけではなく、強い弓を持ってみるようにしてください。とは言っても+2,3kg程度でいいのです。別に30、40kgの弓で稽古するといっているわけではありません。少しの工夫をするだけで、苦しい練習をすることなく、早い会に対するモヤモヤや罪悪感が全て一掃されるとご理解ください。
強い弓を使用するときの目安
強い弓を持てば、今の持っている弓が楽に引けるようになり、会が長く保ちやすいことは説明しました。次に、強い弓を引く目安や頻度について解説していきます。
ここでの目安は、「10本引くとしたら、4本は引けるようにする」のを目標にしてください。例えば、ひと手持って弓道を稽古したとします。すると、次のように稽古をすれば良いです。
12本で稽古したとする
1~4本の内、1,2本は強弓、3,4本は自分の弓
5~8本の内、5,6本は強弓、7、8本は自分の弓
9~12本の内、9~12本は自分の弓
(もし、体力的にしんどい場合は、自分の弓のところを「弱い弓」を変える)
この程度であれば、強い弓を引きながら、自分の弓で稽古できます。怪我のリスクを最小限に抑えられ、かつ疲労度も気にすることなく、稽古できます。できれば、強弓の矢数:自分の弓の矢数=1:1程度を目指すようにしてください。そのように続けていけば、自分の弓を引くのが楽になり、会も自然に持つようになってきます。
そして、強い弓をもって稽古するときの注意点は一つだけ伝えておきます。「取り懸け」で指先近くで絶対に取り懸けないでください。指先近くに取り懸けして、強弓を引いたら、全く弓が引けないどころか、怪我のリスクが格段に上がります。弽の紐をゆるめて、親指と中指(四つ弽の場合は薬指)を楽に寄せられるようにして、弓を引くようにしてください。これによって、弓の反発力が強くなっても、右手の抑えが強く聞くようになって、弓を引けるのです。
加えて、強弓を引くときは、1、2本巻き藁で試して引くようにしてください。いきなり強い弓をもって引くと、左肩の押しが負けてしまい、上に飛んでしまう可能性があります。それを防止するために、巻き藁で1、2本引いて、真っすぐに刺さるようにしてから稽古するようにしてください。これは、普通の弓であったとしても、行う普通のことです。
八節の逆の動作を行うと、強い弓を持たなくても、早気を改善できる
ただ、ここまでの文章を聞いて、「強い弓が用意できない」という方がいるかもしれません。そのような方に、「強い弓を持たなくても強弓と同じように稽古できる練習方法」を解説します。
それは、八節動作の逆の動作を行い、繰り返すことです。「大三から引分」の動作を行っては元に戻し、また弓を引き分けるようにします。目安として、引き分けに入って、会に入って離したくなったら大三に戻します。
すると、弓の引き方を徐々に変えられます。この動作を繰り返すことで、「腕の裏側の筋肉」に効率よく負荷がかけられるからです。
筋肉には瞬間的に力をかける力を力の加え方と、持続して力を加えるかけ方があります。会を長くしたい際は、持続して力を加える筋力を養う必要があります。
今回紹介した「大三⇔引き分け」の動作を繰り返す手法は、長く持続的に筋肉を使う力を養います。強い弓を用意できない場合は、巻き藁の前に立ってひたすら弓を引き分けて、大三動作に戻す作業を続けてください。これによって、会に入って長く筋肉を使い続けられるようになります。
以上の内容を理解することで、自然に会を長くできます。実践ください。