教本の「自己の適当な弓力」の定義、意味が間違えている

弓道の実力を伸ばすためには、体力相応の弓力を高めていくことは大切です。現在、13kgの弓を持っているのであれば、15kg、15kgの弓を持っているのであれば17kgと、少し強い弓を引けるようになってくると身体に負担なく弓が引けるようになります。

ただ、指導者の中には「弓のkg数が上げては、怪我をするし射型が崩れるから上げてはいけない」と説明する人がいます。なぜなら、弓道の教本に、「体力相応の弓」を用いるように説明されるからです。

ただ、気を付けなければいけないことが、弓道教本の「体力相応の弓」は意味を間違えて用いていることです。昔の弓道書籍を見ると、教本の体力相応の弓の引用文となる文章があり、意味を間違えて使用しているのがわかります。

決して、強弓を進めているわけではありませんが、弓道の本を読むと、あまりに「弓を強くしてはいけない」という記述がありすぎるので、中立的に内容を解説します。この内容を見て、「本当に弓のkg数を上げたらダメか?」ということに対して再度考えるようにおすすめします。

教本の体力相応の弓力の文章の引用は現実離れしている

まず、「体力相応の弓力」ですが、弓道教本は以下のように説明しています。

弓の力が射手の体力に合致するか否かは矢束一ぱいに引いて「会」に至ったときに決定されるもので、自己の体力相応の力の弓を使用しなければならない。したがって、強くても、弱くてもいけない。弓二張の肩入れができる力の限度の二分の一が自己の適当な弓力といわれている

(「弓道教本一巻」 99~100ページより引用)

このように記されていますが、文章だけを見るといまいち意味がわかりません。なぜなら、「弓二張の肩入れできる力」というのであれば、今持っている弓を二張もって素引きしなければならず、そのようなことができる人はほとんどいないからです。

例えば、「現代弓道講座に、男性女性の弓の平均弓力」が記されています。その中には、女性は13kgと記されています。もし、弓道教本の文章をそのままとらえると、13kgを持っている女性は弓二張もって「26kg」の弓力で素引きができて、ようやく「13kg」を使用できることになります。

イメージしていただければわかりますが、そのような女性は全国探してもほぼいないと推察されます。現在、300人以上の弓道関係者が私のところに参加され、ほぼすべての13kgのお持ちの女性に、私の26kgの弓を持たせたことがあります。しかし、その中で大三(矢束半分の開き)すらとれない人が大半でした。

ちなみに、男性であっても同様です。15kgをお持ちの男性に、26kgの弓を素引きさせたところ、最後まで開けない人がほとんどです。このような現状を見ると、教本の「弓二張の肩入れできる力」という言葉は現実離れしていることがわかります。

この文章から見てもわかる通り、弓の適当な力の基準をつけることは困難です。つまり、本人が15kgが引きやすいと思えれば、15kgが適切な弓力であると考えるのが適切です。そこから、+2kg上げるとなると、その人にとって「少しだけ強い弓」になります。すべての人に当てはまる「体力相応の弓力」を数字つけるのは困難と考えてください。

つまり、ご自身の体力や技術が伸びてくれば、弓のkg数もおのずと上がっていきます。このように、弓の力が上がったとしても、身体に負担なく弓が引けたとなれば、「ご自身の弓の技が進んでいる」と判断できます。

教本の体力相応の弓の文章は射學正宗から来ていると推測される

ただ、引用文をよく見ていただけるとわかりますが、文章の最後には「~~といわれている」と記されています。つまり、教本の文章は、明確な根拠ある実験を行った結果、導き出されたものではなく何かしらの言い伝え、引用文から来ていると考えられます。

では、この引用文は何でしょうか?具体的には、中国から来ている「射學正宗(しゃがくしょうしゅう)」です。

射學正宗は、弓道の書籍の中で心や精神的な内容を具体的に記述された書籍です。弓道教本二巻では42ページに、「射學正宗」という言葉だけは記されています。しかし、射學正宗の原文を観察すれば、持っている弓の半分程度の弓力を適切な矢束とするという文献があります。

~惟だ臂力多き者能く勁弓(強弓)を引く大率百斤を以て準と為す 弓を空引きして能く百斤を彀する(こくする:会に至るの意味)者は射時只ゴ五十斤を用ふ大約力を用ふること

(射學正宗 拓仏門より引用)

下線部を見ると、教本に記された「弓二張を肩入れしたときの半分を体力相応の弓力といわれている」の文章と意味が非常に似ているのがわかります。つまり、教本の体力相応の弓力は射學正宗の拓物門から来ていると強く考えられます。

ただ、そうであるならば、教本に書かれた体力相応の弓力の意味を取り間違えているのがわかります。なぜなら、中国と現在の時代背景が異なるからです。

当時、射學正宗の著者である高頴氏の時代、中国では強弓を引くことが当たり前とされていました。なぜなら、遠くに飛ばし、
現代弓道講座の文章には、中国の射手には100kg以上の弓を引いていたとも言い伝えも存在しています。

そこで、高頴氏は、年齢を重ねて弓を引けなくなっていたときに「関節をきちんと適切に収める弓の引き方の重要性」を解説します。その中で、高頴氏は、適切に関節に無理なく引くためには使っている弓の強さ、重さ、握りの太さなどをきちんと考えるべきであると考えました。

そこで、引用文に記された百斤は1斤500、600kgに換算されます。つまり、高頴氏の体力相応の弓力は「50kgの弓を素引きできるのではあれば、25kgの弓を用いて射型を整えてください」という意味です。

つまり、現代弓道での「15kg程度がだいたい体力相応の弓力」の説明にはなりません。「50kgの弓を素引きするのであれば、25kgの弓を用いてね」という説明であって「15kgの弓を持っているとすると、30kgの弓を素引きしないといけない。そのような弓は引けないから俺はやはり15kgしか引けない」というとらえ方、意味ではないからです。

今の弓道家の大半が強い弓を空引きせず、何となく15kgを体力相応と決めつけてるように思います。本当に体力相応の弓力を15kgと説明し、指導するならば、30kgの弓を別に購入して、素引きできないといけないことになります。にもかかわらず、「今持っている弓よりもkg数を上げると、怪我をするから引かせるのをやめる」指導は教本の文章の意味を取り間違えているのがわかります。

ちなみに、高頴氏の先ほど取り上げた引用文の手前には「強弓を喜び用いて力のかなわないのを顧みないこと、気おくれする人が弱い弓をもって矢を遠くに飛ばすことができないと心にとめないのもいけない」と説明しています。つまり、強い弓以外にも、弱い弓にも良くない面があるときちんと記述しています。

このあたりの文章を読み、「本当に弓のkg数を上げることはよくない」「弓のkg数を上げると怪我をするから上げてはいけない」と考えていいのか、きちんと考え直す必要があります。

もう一度言います。「強い弓に益がない」と言い切るのは多いに誤解があります。強い弓にも多いにメリットがあり、さらに今の時代であれば、強弓(30kg以上)はいかないにしても、少し強い弓(20~25kg程度)の弓はせめて引けるくらいの弓の引き方は学ばないといけません。

そうでなければ、知識はたくさん持ち合わせていますが、弓の引き方を細かく説明できない指導者が増えてしまう危険があります。このような状況を回避するために、まずは+2kg程度の弓から弓力を増やしていき、弓の技術を高めていく必要があります。

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