弓道における射の悩みは、経験を重ねても尽きることはありません。しかし、それらの悩みは強い弓を引くことで確実に解消ができます。少し強い弓を引く稽古方法は、昔の弓道家も実践されている方は多く、また強い弓を骨格に基づいて引き収めることで技術の向上させてきました。
あなたが少し強い弓を使おうと思った瞬間に、これまで以上に質の高い稽古を行うことができます。そして、少し強い弓を用いることで、全ての射癖を改善することができます。
少し強い弓を用いると、今使っている弓が軽く引ける
まず、少し強い弓を持つメリットは「今持っている弓が軽く感じる」ことにあります。
弓力は、自分の体力相応の力のものを選択します。例えば、13kgの弓が素引きしやすいのであれば、13kg程度のものを選択します。ただ、最終的な射型を気にせず、ただ押し開くことだけを考えれば、適当な弓力は変わります。少々力んでもいいのであれば、誰でも今の弓力より少し強い弓を用いることは可能です。
どのような方も最初は「弓のkg数が上がった」という先入観が入るため、体が力みます。したがって、はじめは少々力んでも問題ないので、弓を押し開こうという気持ちをもって弓を引いてください。すると、後になって弓を押すための適切な角度がわかってきます。加えて、弓を引くための体力、筋力もついてきます。その結果、今使っている弓を軽く引けるようになります。
ここで、簡単な実験をします。
まず、重りでも何でもいいので、重いものをもってください。すると、重いものを持ち、支えようとすると腕、肩、体幹部の筋肉が働きます。その状態で30~1分程度持ち続けます。次に、その状態で、いつも持ち歩いているスマートフォンをもってみてください。
すると、いつもと違ってスマートフォンが軽く感じます。これは、モノを持ったときに、軽いものを持ったときには働かない体幹部の筋肉を活用し、腕や肩の負担なく持てているからです。さらに、重いものを持つために、持ちやすい腕の位置、体の状態などを学習するようになり、「より楽に持つための最適な状態」を体で覚えるからです。
これによって、少し強い弓を用いれば、今持っている弓を軽く引けるようになります。今持っている弓が軽くなれば、射型が楽に整い、射癖も直っていきます。
弓を軽く引けるようになれば、射癖は改善される
これまで、私は300人以上の弓道関係者に弓の引き方を解説、指導してきた経験からお話しすると、射癖にかかってしまう人の原因に「引き分けが小さい」ことが挙げられます。
会で左肩が上がる理由
引き分けが小さくなると、上から見て両肩の線と弓の線が離れます。すると、弓の反発力を体全体で受けることができないため、腕や肩に力が集中してしまいます。このため、左肩に力がかかってしまいます。
早気になる理由
会に入って、胸が張った反り腰の姿勢になると、背筋が張って上半身が緊張します。すると、呼吸が浅くなり、気持ちの焦りが大きくなります。ここで、少し強い弓を持ち、軽く弓と併用して稽古すると、軽い弓をより軽く感じるようになり、上半身の緊張が少なくなります。したがって、早気の症状も改善されていきます。
ゆるみ離れになる理由
引き分けが小さく、弓の反発力を最大限に引き出せなくなると、右ひじを裏的方向(的と逆方向)に押す力が弱くなります。したがって、離れにおける右拳を後ろに押し出す力が弱くなり、離れがゆるみます。少し強い弓を用いて、弓の反発力を最大限受けられるようになれば、右こぶしを後ろへ動かす力、スピードが養われ、鋭い離れが生み出されます。
上記のように、前まで使っていた弓が軽く感じるようになれば、矢数も多くかけられます。すると、実力が加速度的に向上するのです。
少し強い弓を引いて怪我の心配はないのか?
ただ、多くの人は今よりも弓力が大きくなると「怪我をするからやめろ」と言います。弓力が高くなると、筋肉に負担がかかって弓が引けなくなると思い、そのようにアドバイスされます。
ただ、誤解してほしくないのは、弓の15kgは「会」に入ってから15kgです。つまり、あなたが13kgの弓しか引けない力しかないのであれば、たとえ15kgの弓を持ったとしても13kgの弓力しか引き出せません。いきなり、無理して2kg分の負荷をいきなり増やすことはできません。筋肉の限界や怪我に陥る前に矢束がとれなくなるのです。
そこで、頑張って引こうとすると、13kgから14kg、15kgと負荷がかかっても耐えられる射型を獲得できます。反対に、もしも弓の力に負けてしまったら、それ以上弓を押し開くことができません。
実際に、私も25kgの弓を用いたとき、はじめは矢束最大限とれませんでした。何とか弓を引き寄せていき、口割についた瞬間に離すといったことを繰り返してきました。そうして、押す方向を変えたり、筋肉の力みを取り去ったりした結果、今は25kgの弓で稽古できるくらい引けるようになりました。
この間、怪我をすることはありませんでした。なぜなら、はじめは最大限に押し開くことができず、20~18kg程度の弓力しか引き出せなかったからです。つまり、25kgの弓ではなく、20kg程度の弓を引いて稽古しているのと同じです。しかし、何度も稽古し続けているうちに、弓を少しずつ押し開けるようになりました。
この過程で怪我をすることはありません。肘や肩が痛くなり始めてきたら、弱い弓に変えて稽古をしていました。
もし、怪我をするくらい筋肉に負担がかかった場合、怪我をするより前に弓自体を押し開けなくなります。したがって、少し強い弓を用いて怪我をしてしまうということは念頭に置かなくても問題ないと判断できます。
少し強い弓をもって射型は崩れないのか?
次に、「少し強い弓を用いて射型は崩れないか」という疑問があります。結論から申し上げると、弓のkg数を変えたといって射型が
変わることはありません。むしろ、少し強い弓が引けるようになれば、前よりもはるかに射型がきれいになることは間違いありません。
もしも、強い弓を用いて射型が崩れてきたら、軽い弓に戻せば問題ありません。軽い弓で稽古を続けていれば、崩れていた射型はもとに戻ってきます。射型が戻ってきて、少し強い弓を用いても問題ないと思えれば、また使用を再開すればよいだけです。つまり、少しずつ取り入れていって、弓を稽古していけば良いのです。
少し強い弓をもって、安全対策は問題ないか?
さらに、少し強い弓をもって、「安全対策」は問題ないのか?という疑問があります。この質問に関する回答は、「少し強い弓を持った方が安全対策についての意識が上がるため、用いるべき」と説明します。
弓道における安全対策は弓のkg数が強いといって危険なことが起こるわけではありません。軽い弓であっても、弓道における事故は起こっています。
むしろ、弓のkg数を変えず、今まで通りに稽古をして、弓の引き方を変えようと取り組まないほうが、過信してしまって事故を起こすリスクがあります。
ある弓道関係者のお話しで、「竹矢を用いて、弓道を稽古していた称号者の方が矢を上に飛ばしてしまった」という話があります。これは、私がこれまで所属した連盟でも、錬士の方が竹矢を上に飛ばしてしまい、場外に出てしまいそうな問題が起こったことがあります。
このような事例は、実際にあると確認はいただいています。つまり、弓道の稽古では、軽い弓で自分にとって引きやすい弓でも事故のリスクがあるということです。
車の事故でも同様に、初心者ではなく経験者のほうがひいてしまうことがあります。これは、車の運転自体に慣れてしまい、「注意力」が低下したからです。この注意力を引き上げることが、根本的に事故を防ぐことにつながります。
そこで、少し強い弓を用いることで、リスクの管理、危機回避の方法をよく知れるようになります。
当サイトの弓道団体では、少し強い弓を用いて稽古をされる方が中にはいます。そのような方が、少し強い弓を用いる場合、「はじめは巻き藁からする」ことを推奨します。
なぜなら、何もしないで強い弓をもって射場に立つと、予期せぬ事態が起こって暴発し、射場の外に飛んでしまう可能性があるからです。そのため、慣れないうちは「巻き藁」で稽古します。巻き藁で毎回の稽古で5~10射程度引くようにし、そこから射場に立つようにします。
すると、巻き藁で数本弓を引いた後なので、射場に入っても気持ちに余裕をもって引けるようになります。これによって、急に気持ちが焦ってしまい、矢束をとれないうちに離してしまい、暴発させて上に飛ばしたという問題は最小限に回避できます。
いずれにしても、軽い弓のままずっと稽古していては、何も変わることはありません。もし、射癖に悩んでいる、弓の稽古に行き詰っているということがあれば、少し強い弓を用いての稽古を試してみてください。まずは、今の弓のkg数+3kg程度から初めて、少しずつ稽古していきます。