打起しから大三に入るとき、腕がどうしても力んでしまう。時間をかけてゆっくり引こうとすればするほど、かえって力が入ってしまう。そんな経験はないでしょうか。
私のもとには「丁寧に引こうとするほど弓が重く感じる」「大三で腕が疲れてしまう」という相談が本当に多く寄せられます。実はこれ、あなたの努力の方向性が間違っているのではなく、「間の取り方」と「立ち方」に根本的な原因があるのです。
今回は、私が実践している弓と禅の観点から、★ 正しく待てば開く力が3倍に上がり、間違った待ち方をすれば待つほど力が低下するというメカニズムを詳しく解説していきます。
結論:「間を開ける」ことで開く力は増大する
最初に結論をお伝えします。打起しから大三、大三から引分けへと移行する際に、適切な「間」を取ることで、腕を休めながら開く力を格段に高めることができます。
私自身、体重は50キロ台でギリギリ60キロにいかない程度ですが、47キロの弓を引き、前回は56キロの弓にもチャレンジしました。自分とほぼ同じ体重の弓であっても、大三を取って引分けまでいけるのは、この「間の取り方」を正しく実践しているからなのです。
ただし、ここで重要なのは、★ この立ち方でなければ間を取ることはできないという明確な条件があるということ。つまり、立った構えの段階で、あなたの弓が楽に開けるかどうかは、ほぼ決まっているのです。
なぜ「間を取る」と開く力が上がるのか
弓を構えるとき、私たちは足踏み、胴造り、弓構え、打起しと、時間の経過とともに動作を進めていきます。この構造の中で、力をかける方向は刻一刻と変化していくわけです。
例えば、腕を上に上げる動作。これは正直言って、せいぜい1秒あるかないかの時間です。そこから切り返して開いていく動きも、止まっている状態から動きに切り替わるまで、そんなに時間がないのです。
★ だからこの間に何か意識して力を加えようとか、筋力を上げようとか、そういうことはもう無理なのです。基本的にはエネルギーのかけ方で決まるということになります。
ここで重要になってくるのが「間を開ける」という概念です。打起しから大三に入る一歩手前、そして大三から引分けに入る一歩手前。この2つのタイミングだけは、あえて動作を止めて間を取った方が、開く力が増大するチャンスになるのです。
正しく待つと何が起こるのか:3つの重要ポイント
では、正しく待つとは具体的にどういう状態なのでしょうか。実際に試していただきたいのですが、腕を上に高く上げて力を抜いてみてください。
通常、腕の筋肉は前に出ます。ところが、胸の筋肉を開き、お腹の筋肉も開き、体の前の面を全部開いた状態で腕を上に上げて休むと、腕は横方向に動こうとするのです。
この状態で静止すると、以下の3つの重要なポイントが得られます:
- 肩がはまる:肩関節が安定した位置に収まる
- 腕が休まる:筋肉の無駄な緊張が解ける
- 開く力が強くなる:体幹からの力が腕に伝わりやすくなる
弓の上部が長いがゆえに、親指に少し力をかけるとテコの原理で引き上がっていきます。そもそも最初の構造であなたの体が横に開いていて、胸の筋肉が開いているならば、次に力を抜いたら腕の筋肉は横に行くのです。
打起しというのは、腕を上に上げながら体重は下に沈むようにするもの。グーンと下に下ろしながら待つ。★ これがゆっくり動作をするために絶対必要な「間を空ける」という概念です。
猫背では間を取っても逆効果になる
一方、猫背になっている場合はどうでしょうか。今日の弓道界では前かがみ胴造りが好まれる傾向がありますが、足踏みを60度にして体を前かがみにした状態で腕の筋肉を伸ばすと、腕の筋肉は前に行ってしまいます。
力を抜いてもこう行き、同時に腕を上に上げても横に開くのがすごくやりにくいのです。だから何が起こるかというと、ゆっくり動かそうとすると力が入ってしまう。
★ ゆっくり動かした方が開く力が増大して楽に開けるパターンと、ゆっくりすればするほどどんどん力が入って弓が引けなくなってしまうパターン。この違いは、立ち方の段階で決まっているのです。
私の言う「立った構えで弓が楽に開けるかどうか決まる」というのは、まさにこのことです。正しく立たないと、あなた自身が自分でブレーキをかけているのです。開く力がこのぐらい強く出ていたとしても、実際はあなたが猫背になっているせいで開く力が全然出ない。つまり、無意識にブレーキがかかっている状態になっているのです。
恥骨を引き上げる:開く力の土台を作る
では、正しい立ち方とは何か。ここで掘り下げたいポイントがあります。それは「恥骨を引き上げる」ということです。
★ 恥骨を引き上げるって結構大事です。なぜかというと、先ほどお話しした腕を上に上げたときの開く力、これが俗に言う体幹の力、インターナルエネルギーというものだからです。
腕を動かすという動作はどこから始まるのかというと、基本的に背骨の筋肉、胸椎ですね。ここが動くことによって腕の筋肉にその動きが伝わり、腕の筋肉に影響を与えるという順番なのです。
インターナルエネルギー、体幹の力というのは、要するに体を上に伸ばす力です。例えば、肩の位置に対して耳の位置が前に出るとしんどい。なぜしんどいかというと、体が縮んでしまうから。体幹を上方に伸ばす力が出ていないから、肩の筋肉が縮んでしまうのです。
これを正しい位置に取ってくると、力が抜けるだけでなく、頭が軽くなり、上に引き上がっているような感覚が得られます。胸の筋肉や背中の筋肉のバランスが整って、体を上に伸ばす力になっているのです。
恥骨の引き上げ方:仙腸関節と尾骨の使い方
恥骨を引き上げる際、重要なのは無理やり上に引き上げるのではないということです。仙腸関節と尾骨を自然と中に入れていくことで、恥骨が前から上に引き上がるような状態を作るのです。
具体的な感覚としては:
- 仙腸関節と尾骨を下ろして中に入れるような状態にする
- お尻の下のところに力が入る
- お尻の上部は柔らかく、下部は硬い状態になる
- 恥骨が前に引き上がっている感覚が得られる
この構造を作った状態で腕を上に上げていくと、胸の方が開く力がすごく出ていると感じられます。腕の筋肉が横に開きやすく、開いてくださいと言っている、開きたくなるような状態になるのです。
★ ほとんどの人は恥骨が前に引き上がっているのではなくて、後ろに逃げて骨盤を開いている状態なのです。骨盤を開いた状態で腕の筋肉を上げると、別に何も持っていなくても肩が上がってしまいます。
★ 恥骨が引き上がっていないという状態は、弓道の八節をやる上でかなり致命傷です。射法八節をやるのも難しくなりますし、体配をやるのにもすごく難しくなってしまいます。
弓手・馬手が落ちる原因と対策
最後に、離れで弓手(左手)や馬手(右手)が落ちてしまうという悩みについてお話しします。
一般的には「もっと横に伸びましょう」と言われることが多いと思います。しかし、弓と禅の観点で言ったら、★ これは伸びが衰えてしまっているのです。この打起しのお腹から引き上げて全身で伸びる感覚が消えているのです。
阿波研造先生の言っている弓と禅では、左手と右手が無限遠方にどこまでも引き伸ばされているような、そういう感覚を得られるような開き方をしないといけないと言われています。これは、待てば待つほど開く力が増大されている状態なのです。
具体的な稽古法
以下の手順で練習してみてください:
- 立ち方の確認:仙腸関節と尾骨を中に入れ、恥骨を前から上に引き上げる。お尻の下部に力が入り、上部は柔らかい状態を作る。
- 胸を開く練習:弓を持たない状態で、胸の筋肉を開いて腕を上に上げ、力を抜いたときに腕が横に動こうとするか確認する。
- 間の取り方の練習:打起しで腕を上げた状態で静止し、体重を下に沈めながら、肩がはまって腕が休まる感覚を掴む。
- 大三への移行:間を取った状態から、腕の力を抜いたまま大三に入る。弓に任せて、それについていくような感覚で動く。
- 引分けへの移行:大三でも同様に間を取り、開く力が増大してから引分けに入る。
まとめ:正しく立ち、正しく待てば、弓は自然と開く
今回お伝えしたかったのは、弓道における「間の取り方」が開く力を3倍にも高める可能性を持っているということです。ただし、それは正しい立ち方があってこそ。
恥骨を引き上げ、胸を開き、体幹のインターナルエネルギーを使えるようになれば、あなたも強弓を楽に開けるようになります。私も30個くらいの大三のバリエーション、広い大三、狭い大三、近い大三といろいろな状態を取れるようになりましたが、それだけ動かしても体幹は安定するのです。
形にとらわれず、まずは恥骨を引き上げた状態をキープすることから始めてみてください。それが、あなたの射を根本から変える第一歩になるはずです。






