「大三から引き分けに移るとき、どうしても力んでしまう…」「ゆっくり引こうとすると、かえって手先に力が入ってしまう…」そんな悩みを抱えていませんか?
実は、これは多くの弓道家が経験する共通の問題なんです。私自身も以前は、丁寧に引こうとすればするほど肩が上がり、腕が力んでしまう経験をしてきました。しかし、ある「間の取り方」を理解してから、劇的に開く力が変わったのです。
結論からお伝えします。★ 正しく「間を開ける」ことで、馬手の開く力は3倍に上がります。逆に、正しく待てないと、待てば待つほど引く力は低下していくのです。これは感覚的な話ではなく、身体の構造とエネルギーの使い方に基づいた明確な事実なのです。
全ては「立った構えで決まる」という真実
私が弓と禅のサイエンスを研究する中で、最も重要だと確信しているポイントが2つあります。それは「姿勢」と「エネルギー」です。
★ まず立った構えで、当たるかどうかはほぼ決まります。大三動作を綺麗にするのも、離れ動作がスムーズにいくのも、会が安定して開けるかどうかも、これはもう全て、弓道における胴造りと足踏みに関わる姿勢に関係しているのです。
多くの方が胴造りと足踏みを意識して稽古されていると思います。しかし、上手くいかないことが多いのではないでしょうか。その原因は、最初の立ち方で意識していないポイントがたくさんありすぎるからなのです。
立ち方が正しくないと、弓を持って「さあ開くぞ」と思った瞬間に、違うことを考えてしまったり、無駄な力の入れ方をしてしまったりします。動作の中でいろんな問題が起こってしまうわけですね。
なぜ「正しく立たないとブレーキがかかる」のか
ここで重要な物理学的な視点をお伝えします。弓を開く動作において、私たちが発揮できる「開く力」には、実は「見えないブレーキ」がかかっていることがあるのです。
★ 正しく立たないと、あなた自身が自分自身でブレーキをかけているのです。例えば、開く力がこのくらい強く出ていたとしても、実際はあなたが猫背になっているせいで、開く力が全然出ません。つまり、無意識にブレーキがかかってしまっている状態なのです。
これは筋膜のつながりで説明できます。猫背の姿勢では、胸郭が閉じ、肩甲骨が前方に引っ張られます。この状態では、広背筋や僧帽筋下部といった「引く動作」に必要な筋肉が最適な長さで働けません。結果として、腕の末端の筋肉で補おうとして力んでしまうのです。
エネルギーのかけ方が開く力を決める
弓を開いてから会に至るまで、動いている時間はせいぜい5秒程度です。さらに言えば、打起しから大三、大三から引き分けへの切り返しの瞬間は、1秒あるかないかという短い時間です。
この短い時間の中で、何か意識して力を加えようとか、筋力を上げようとか、そういうことはもう無理なのです。基本的にはエネルギーのかけ方で決まるということになります。
力のかけ方には違いがあります。腕を上に上げるにしても、力を込めて上げるのか、力を抜いてふわりと上げていくのか、その最初の力のかけ方が、上に上がっていく力に変わっていきます。それが適切な時間、刻一刻と正しい方向に向いていれば、良い結果につながるのです。
「間を開ける」と静かに静まるほど弓が開く
ここからが今日の核心です。「間を開ける」とは何か。それは、動作の中で適切なタイミングで静止し、身体を休ませながら開く力を蓄えることです。
★ 正しく待てば開く力が3倍に上がるし、正しく待てなかったら、待てば待つほど腕の筋肉は力んでいくのです。
オイゲン・ヘリゲル先生の『弓と禅』では、「左手と右手が無限遠方にどこまでも引き伸ばされているような感覚が得られる開き方をしないといけない」と言われています。これはまさに、待てば待つほど開く力が増大されている状態なのです。
私は体重50キロ台、ギリギリ60キロいかないくらいの体重ですが、それで47キロの弓、前回は56キロの弓にもチャレンジしました。自分とほとんど同じぐらいの体重の弓であったにもかかわらず、一応大三を取って引き分けまではいけるのです。これは正しく待つことで、開く力を最大限に引き出せているからです。
間を開けるべき2つのタイミング
では、具体的にどのタイミングで間を取ればいいのでしょうか。
★ 弓を静止してもいいタイミングは2つあります。打起しから大三に入る一歩手前と、大三から引き分けに入る一歩手前です。
この2つのポイントでは、あえて動作を止めて間を取った方が、開く力が増大するチャンスなのです。なぜなら、この静止によって3つの重要なことが起こるからです。
- 腕の筋肉が休まる
- 肩がはまる
- 開く力が強く出る
腕を上に上げて、胸の筋肉を開いた状態で静止し、力を抜くと、肩がはまって腕が休まりながら、開く力が強くなります。だから弓のキロ数が強くても、肘がしっかり張られて動作することができるのです。
猫背姿勢では待つほど力んでしまう
一方、今日の弓道で多く見られる「前かがみ胴造り」の状態では、全く逆のことが起こります。
足踏みを60度にして体を前かがみにすると、腕の筋肉は前方に向かいます。力を抜いても横には開きません。この状態で腕を上に上げても、横に開くのがすごくやりにくいのです。
その結果、ゆっくり動かすとどんどん力が入ってしまいます。これが、ゆっくり動かした方が開く力が増大して楽に開けるパターンと、ゆっくりすればするほどどんどん力が入って弓が低くなってしまうパターンの違いなのです。
恥骨を引き上げることの重要性
ここでさらに掘り下げたポイントをお伝えします。★ 恥骨を引き上げることは、最初の立ち方でめちゃくちゃ重要です。
先ほどお話しした「開く力」、これは俗に言う体幹の力、インターナルエネルギーというものです。腕を動かすという動作は、基本的に背骨の筋肉、胸椎が動くことによって腕の筋肉にその動きが伝わっていく順番なのです。
インターナルエネルギー、体幹の力とは、要するに体を上に伸ばす力です。例えば、肩の位置に対して耳の位置が前に出ると辛いですよね。なぜ辛いかというと、体が縮んでしまうからです。体を上方に伸ばす力が出ていないから、肩の筋肉が縮んでしまうのです。
これを正しい位置に取ってくると、力が抜けるだけでなく、頭が軽くなり、上にヒューッと伸びる感覚が得られます。これは胸の筋肉や背中の筋肉がバランスを整えて、体を上に伸ばす力になっているからです。
恥骨の正しい引き上げ方
恥骨の引き上げ方にはコツがあります。★ 無理やり上に引き上げるのではなく、仙腸関節と尾骨が自然と中に入っていって、恥骨が前から上に引き上がるような状態を作るのです。
具体的には以下の状態を作ります:
- 仙腸関節と尾骨を下に下ろして中に入れる
- 恥骨が前に引き上がっている感覚を得る
- お尻の下部に力が入り、上部は柔らかい状態
この構造を作った状態で腕を上に上げていくと、弓手の方が自然と横に開きやすくなります。「開いてください」と言っているような、開きたくなる状態になるのです。
逆に、お尻の筋肉の下のところが縮まっていない、つまり恥骨が前に引き上がっているのではなく後ろに逃げて骨盤が開いた状態になると、腕を上に上げた段階で何も持っていなくても肩が上がってしまいます。
★ 恥骨が引き上がっていない状態は、弓道の八節をやるにおいてかなり致命傷です。打起しも大三も難しくなりますし、的中を出すとか綺麗な形を作るということにも大きく影響します。
具体的な稽古法
以上の内容を踏まえて、日々の稽古で意識すべきポイントをまとめます:
- 足踏みの段階で、仙腸関節と尾骨を中に入れ、恥骨を前上方に引き上げる
- お尻の下部に軽い緊張を感じ、上部は柔らかい状態を確認する
- 胸の筋肉を開き、肩甲骨が自然と寄る感覚を得る
- 打起しで腕を上げたら、一度静止して体重を下に沈める
- 大三に入る前に間を取り、肩がはまる感覚を確認する
- 大三から引き分けに入る前にも間を取り、開く力が蓄えられるのを待つ
- 急いで動かさず、間を開けることで自然と開く力が増大するのを体感する
まとめ:形を変えても体幹は動かない
基本的に弓道というのは、形を多少変えられても、元の恥骨が引き上がった状態がキープできれば、ほぼ関係ありません。私も30キロの弓で広い大三とか狭い大三とかいろいろな状態を取れるようになりましたが、それだけ動かしても体幹は安定しているのです。
だから当たりも出るというところにもつながりますし、そういう射を目指した方が私はいいと思います。
今日お伝えした「間を開ける」という概念と「恥骨を引き上げる」という立ち方。この2つを意識するだけで、あなたの弓道は劇的に変わるはずです。ぜひ明日からの稽古で試してみてください。






