「肘で引け」と言われても、具体的にどうすれば…?
弓道の稽古で「肘を使って引きなさい」「肘で押し開きなさい」と指導されること、ありますよね。言葉としては理解できるのですが、具体的にどう意識すればいいのか分からない…そんな悩みを抱えている方は非常に多いのではないでしょうか。
実は私自身も、弓道を始めたばかりの頃は「肘を使う」という感覚が全く掴めませんでした。手で引っ張るものだと思っていましたし、肘を意識しようとすればするほど、かえって力みが生じてしまったものです。
今回は、私のコミュニティの会員様からいただいた素晴らしいご質問を元に、★ 肘の使い方には実は3種類あるということを、漢字の違いから紐解いていきたいと思います。この視点を持つことで、あなたの引き分けは劇的に変わるはずです。
結論:動きを良くすることで、結果として形が良くなる
先に結論をお伝えします。弓道における肘の使い方で重要なのは、★ 形を気にして肘を動かすのではなく、動きを良くすることによって結果として形が良くなるという順序です。
多くの方が「肘の位置を〇〇にしよう」「肘の角度を△△にしよう」と形から入ろうとします。しかし、これでは的中にも繋がりませんし、何より力みが生じてしまいます。正しい動きを身につければ、肘は自然と良い位置に収まるのです。
3種類の「肘」を漢字から読み解く
さて、肘を表す漢字には実は3種類あることをご存知でしょうか。これは弓道教本の引用元となった『射学抄集』などの古典文献にも記されている、非常に重要な概念です。
①「肘」(簡単な漢字)= 肘の1点
皆さんが日常会話で使う「肘」という漢字。弓道では「肘力矩の肘」などと使われるこの字は、★ 前腕に近い肘の1点を指しています。多くの方が「肘を使って」と言われたとき、この部分を意識しているのではないでしょうか。
②「肱」(広いと書く肘)= 上腕に近い肘
「肉月」に「広い」と書いてコウと読む漢字があります。この字が指すのは、★ 上腕に近い方の肘です。肘関節を上腕骨側から意識するという、非常に重要な概念を表しています。
③「臂」(難しい漢字)= 腕全体
最も難しい漢字の「臂」は、★ 腕全体を意味します。前腕から上腕まで、腕という構造体全体で弓の圧力を受け止めるという、最も高度な肘の使い方を表現しています。
なぜ「広い方の肘」を使わなければならないのか
現代弓道で言われる「肘で引け」の肘は、主に簡単な漢字の方、つまり前腕に近い肘の1点を指すことが多いです。しかし私たちが目指すのは、綺麗な射形と的中の両立ですよね。
そのためには、「広い」と書く方の肘、つまり上腕に近い肘の使い方を習得する必要があるのです。
前腕側の肘で引くと何が起こるか
前腕に近い肘を意識して引くと、どうしても弓と体の距離が近くなっていきます。脇正面から見ると、肘を使って引いているつもりでも、実際には弓がどんどん体に近づいてくるのです。
物理学的に説明すると、弓の重心と体の重心が近づくことで、モーメントアームが短くなります。これにより、大きな動作ができなくなり、手先の力に頼った引き方になってしまうのです。
上腕側の肘で引くとどう変わるか
一方、上腕から肘を動かすことを意識すると、★ 弓と体の距離が保たれたまま引き分けることができます。これが「遠く高く打起しにしましょう」という本多流の教えの本質なのです。
ここで重要なのは、「遠い」という感覚の正体です。肩に対して手が物理的に遠ければ良いというわけではありません。
「遠い」の本当の意味を理解する
実験をしてみましょう。腕を前に伸ばした状態で、手首をグッと曲げてみてください。距離的には遠いはずですが、感覚としては近く感じませんか?
今度は、力を抜いた状態で腕を上げてみてください。物理的な距離は短くなっているはずですが、★ 力が抜けていると、感覚として遠く感じるのです。
つまり「遠い」とは、引き寄せる力があるかないかで変わる体感なのです。手先の力が抜けていれば、位置がやや近くなっても「遠い」感覚を維持できます。これを理解することが、肘を正しく使うための第一歩となります。
「腕全体で引く」という最終形態
さて、広い方の肘の使い方に慣れてきたら、次は難しい漢字の「臂」、つまり腕全体で引くという感覚を目指します。
この状態では、額と拳の距離も遠く、耳と肘の距離も遠くなります。腕全体に弓の圧力がかかり、前腕にも上腕にも均等に張力が生じるのです。
具体的に体感してみましょう。まず、拳を体に近づけた状態で弓を引いてみてください。肘は動いていますが、肩の筋肉にかなり力が入っているはずです。手先で力を使った引き方になっていませんか?
次に、肘と耳の距離を遠くし、拳と額の距離も遠くした状態から引いてみてください。★ 腕全体に力がかかり、前腕にも上腕にも弓の圧力がかかった感じが得られると思います。これが「臂」の使い方です。
初心者のための段階的練習法
ここまでお話しした内容を聞いて、「よし、すぐに腕全体で引いてみよう!」と思った方、ちょっと待ってください。初心者の方がいきなり肘を意識するのは難しいのです。
なぜかというと、弓道の道具を持っている経験があまりにも少ないからです。「手で引っ張るものなのでは?」という感覚が抜けていない状態で肘を意識しようとしても、うまくいきません。
そこで、以下の段階を踏んでください。
- ステップ1:無理のない高さで打起しと大三を取る
最初から高く遠く、と欲張らないでください。リラックスできる高さで構いません。 - ステップ2:力を抜いた状態でやや近い位置から始める
手先の力を抜き、近い位置からでいいので、下から上に引き上がっていくように持っていきます。これにより上腕が自然と使われるようになります。 - ステップ3:手首の力を抜いて引き分ける
手首をリラックスさせたまま、下から上に引き上がっていく感覚を意識してください。 - ステップ4:慣れてきたら徐々に遠くする
上記の動きに慣れてきたら、少しずつ距離を遠くしていきます。無理のない範囲で拡げていくことで、大三での肘の取り方が自然と身についてきます。
まとめ:形ではなく動きから入る
今回の内容をまとめます。
肘には3種類の使い方があり、それぞれ漢字で表現されています。簡単な「肘」は前腕に近い1点、「肱」は上腕に近い肘、「臂」は腕全体を意味します。
★ 形を良くしたいなら簡単な漢字の肘を意識すればいい。しかし、動きを良くすることで結果として形を良くしたいなら、広い方の肘の使い方をマスターする必要があるのです。
上腕から肘を動かし、腕全体に弓の圧力がかかるようになれば、肘の位置やポジションは自然と良くなります。形から入るのではなく、正しい動きを身につけることで、結果として美しい射形が生まれるのです。
いきなり完璧を目指す必要はありません。まずは力を抜いた状態で、近い位置から始めてください。そこから徐々に遠くしていくことで、あなたの肘の使い方は確実に変わっていきます。
ぜひ今日から意識してみてください。きっと弓を引く感覚が変わるはずです。







