尾州竹林では、引き分けに入るときに、他の流派にない、左手、左肘の使い方があります。
それが、「骨の残す」「猿臂の射」と言われる左肘の使い方です。弓の反発力を最大限に生かす強みのある押しを手に入れることができます。
他に正法流の射士、吉田能安先生も尾州竹林の射法の左肘の使い方を実践しています。
ここでは、引き分けの概要を説明し、さらに弓の反発力を生かす押し方について説明していきます。
引き分けでの左手、右手の力の入れ具合
引き分けに入るときは手の内と弓がよくなじんでいるので、その手の内を緩めないようにします。
そして、丹田に気をせしめつつ、正常な息合いとともに左右両肩を沈める心持で(こと左肩が浮かないように押さえて)扇の要(肩甲骨)を中心として左の親骨(左手)と右の親骨(右手の上腕と肘)を開くような気持ちで引き分けます。
引き分けに際して力の配分はおおむね左手が三分の二、右手が三分の一の割合に注意して引き分けることが肝要です。この引き分けの心持ちを尾州竹林では押し題目、引き三分の一(大三)と言います。
父母大三の意識で左右対称の引き分けを理解する
左手を父に例えて陽とし、右手は母に例えて陰として、父母陰陽の和合によって、子供を立派に育てることが必要です。
「父母陰陽を和合する」とは、常に母(右手)は父に逆らわず分ける心持ちが、実際には五分五分となって円満に子供が育つという意味です。
教歌に「剛は父かけは母なり矢は子なり片思ひして矢は育つまじ」
と教えられていますが、父母大三の心もちと同じです。
・左手は「骨を残して」延びを効かせる
引き分けを行う左右両手の関係は左手の押す力は元来弱く、また、引き分けの運動範囲は左手よりも右手の方が多いです。
したがって運動範囲の多い右手の方へ意識が多く働きやすいので、左右同じ程度の意識で引き分けを行うと右手の方へ力が片寄り、右手が強く働きやすいです。
よってそれを勘案して運動範囲が少なく、かつ弱い左手の方へ多くの神経を使うことによって左右適度に均衡が保たれるのです。
このとき、左肘は少し余裕を残しておきます。この余裕を残すことを「骨を残す」を称し、離れに際しこれが伸びて弓の反発力を強めることができます。
具体的にこの「骨を残す」とは、大三、引き分けで左腕を伸ばし切るのではなく「ほんの少し、曲げる」心もちで左腕を押すという意味です。こうすると、離れの後、左腕が伸ばされ、理想的な残身の形になります。
伸ばし切らない、8部程度の押しで少し余裕を残す押し方はのちの離れで大きく役立ちます。
・猿臂の射を理解して、反発力を生かした押しを手に入れる
尾州竹林の得意とする射法で「猿臂の射」という教義があります。やり方は、引き分けのときに肘をほん少しだけ曲げた心もちで引き分けていきます。
そうすると、会で延びを効かせて、離れでその反動で肘が伸び、矢を真っ直ぐに強く発することができます。
猿が口に藤蔓の一端をくわえ、他の一端を左手に持って、木の枝を矢のように藤蔓を番えてはなち飛ばしたという故事を習い、曲がっている左手の肘が離れるときに伸びることを言います。
左腕が伸びきってしまえば、離れに際して、さらに伸びる余裕がなく、逆に縮む結果となります。これは、「満つれば欠ける」の道理です。
よって、肘に少しの余裕を残して、引き分けて、会で延びを効かせて、離れで伸ばすようにすると、弓の反発力を最大限生かした押しを手に入れることができます。