上半身が安定した胴づくりの状態と具体的な構築の仕方

胴づくりは上半身の形、筋肉の状態を胴づくりの内容を整える作業です。上半身を適切な姿勢を整えると、引き分けで両肩が崩れにくくなり、弓を正確に引くことができます。さらに、矢をまっすぐ放つことができ、的中率も上げるkことができます。

 

そして、範士の文章を観察すると、胴づくりを説明した文章があります。ただ、正直に言ってしまうとほとんどの内容が抽象的でよくわからず、何を行えばよいかがわからないのが現状です。

 

そこで、今回は範士の先生の胴づくりの文章から、適切な状態と行うことについて解説していきます。

 

どっしりとした気持ちではあるが、丹田には力を入れない

胴づくりの説明では、姿勢を真っすぐに伸ばした後に、できるだけ気持ちを安定させる気持ちを大切と説いています。これを、各先生は「どっしりとした感じ」と解説しています。

 

力があると言えば、どこにでも入って居るし、無いと言えばどこにもないという風な、ドッシリとした軟らかさが望ましい。〜千葉範士〜

 

どっしりした感じの胴づくりができたときは、足踏みも適正になされているときで〜佐々木範士〜

 

そして、胴づくりがしっかりできていることを「丹田(下っ腹)が充実する」とも表現されます。胴づくりにおいて、適正な胴づくりを丹田を使って説明することが多いです。

 

例えば、弓道含め、武道の世界では、「丹田」と呼ばれる部位を動作の上で重要視します。丹田とは「下腹部」を指し、動作するときに「丹田を意識して」「丹田からエネルギーを発して」といった具合に説明をされます。

 

胴づくりの重要な点は、気息の収まるところと力の中心点とがどこにあるかということであろうと思う。臍下丹田に気息を納めること、もう一つは腰の中央(脊骨と腰骨の愛するところ)に力の中心点を置くことである。

 

胴づくりの際、静かな呼吸のうちに、気息を臍下丹田に納めて重心の安定をはかり〜浦上範士〜

 

気息を臍下丹田に収め、従容として無我の境地に入るの心構えでないといけない〜松井範士〜

 

丹田より発する一気発動の元となる故、その良否により射の健全化に影響するところ大である。

 

全身の強き力の座は、身体の基底すなわち腰及び丹田の部分である。腰がしっかりし、丹田(下腹)の筋肉を緊張する直立不動こそ、最も強き体勢である  〜安沢範士〜 

 

(教本三巻 足踏みより)

 

ただ、胴づくりにおいて、気をつけないといけないといけないことが「上半身のどこかに力を入ってはいけない」ことです。それは、上半身の一部に力が入ると、射における精神状態に悪い影響を与えるからです。

 

体のどこかに力が入っていると、動作自体がぎこちなくなったり、やりずらくなってしまいます。やりにくい動作をしているとおのずと心の状態も不安になります。そのため、できるだけ無駄な力みをなくして、弓矢の操作に集中できる状態にしていかなければいけません。

 

誤解したくないのが「丹田」は動作中に自然と意識がいくものであって、力を入れる場所ではありません。考えていただければわかりますが、弓矢の操作をする際に、腹に余計な力が入っていれば、落ち着いた状態で弓を引けません。そのため、下腹には自然と意識がいくものであり、力を入れる場所ではないことを強調しています。

 

丹田とは、臍下二、三寸(八、九cm)で、体の表面から二、三寸(八、九cm)の中ほどであるといわれ、これに心気を集めるのであるが、下腹を故意に固くせず、また凹ましたりしない。〜千葉範士〜

 

下腹に力を入れるとか、臍下丹田に力をこめるというが、これは殊更に力を入れるのではなく、自然とドッシリとそうなるように、下腹部や下半身の力が抜けないように、上半身だけで射を行なわないように、無駄力を使わぬようにすることが大切であることを教えているのである。〜高木範士〜  (教本二巻 胴づくりより)

 

臍下丹田に心気力を貯えて凝らず〜高塚範士〜 

 

腹に力を入れるというのは、腹を膨らますのでもまたいきむのでもないことをよくわきまえるべきである〜鈴木伊範士〜 (教本三巻 胴づくりより)

 

姿勢は真っすぐであるが、背筋に力を入れるわけではない

次に、胴づくりの状態は、「できるだけ背骨を真っすぐにした状態」にすることを強調されます。

 

自然の形に正しくつなぎ合わせ、その上に腰骨がすわり、脊髄関節が首を通って頭まで真っすぐに通っているようにする。〜千葉範士〜

 

「胴づくり」は正しい足踏みの上に胴体を真っすぐに置くことで、この姿勢は謝の終るまで(残身)保ち続けなければいけない〜浦上範士〜 (教本二巻より)

 

このように、真っすぐな姿勢であると説いていますが、実際の射において背中の筋肉も必要以上に張らないようにします。上半身を真っすぐにしようとすると、背中の筋肉である「脊柱起立筋」に力を入れて、真っすぐに伸ばそうとする人がいます。

 

このようなことを行うと、弓矢の操作がしずらくなり、自然にのびのびと弓が引けません。したがって、背中にも力を入れないようにします。

 

真っすぐといっても棒立ちに硬直するのではなく、射を行うに適当で胴が浮かない体か前をなすのである。〜浦上範士〜 (教本二巻 胴づくりより)

 

このように、胴づくりでは上体に無駄な力みを入れないことを説明しています。そのためには、「下腹」「背中」の筋肉に力を入れないように、動作することが大切です。

 

下腹と背中の筋肉に力を入れない三つの方法

では、下腹と背中の筋肉に力を入れない方法として、どのような方法があるでしょうか?これも教本二、三巻の範士の先生の文章を見れば、具体的な手法が記されています。これらの文章を理解して、自分たちの行うべきことをきちんと理解しましょう。

 

首の後ろを伸ばす

まず、胴づくりでは、「首の後ろを伸ばす」ことを意識します。腰から首までかけてつながっている背中の骨の中で、首の骨は頂点に当たります。足踏み動作が終わったら、軽くあごを引くようにし、首の後ろの筋肉を伸ばすようにします。その結果として、首の骨が上方に伸ばされます。

 

一般に顎から上に脊骨から頸椎を通し、真っ直ぐに伸ばして胴体を安定させる。一般に顎から上がおろそかになりやすいが、これに十分に注意して少し意識的に頸椎を真っ直ぐに立てるようにすれば、脊柱も伸びるのである。〜宇野範士〜

 

宇野範士は、「頸椎を通す」ように強調されていますが、私を含め、多くの人が実践したい胴づくりの意識です。理由は、首関節は背骨の中で、最も可動域(動く幅)が広いからです。

 

背骨の中で、最も可動域広いのは「頸椎(首)」「胸椎(胸)」、狭いのは「腰椎(腰)」です。そのため、初めは意識的に首周りの筋肉を使って、動かないようにするのが大切です。

 

さらに、頭部の耳には「三半規管(さんはんきかん)」という平衡感覚を司る器官があります。少し頭部の位置がずれると姿勢全体が崩れ、弓を引く動作がしずらくなります。真っすぐな姿勢を維持するとき、的に狙いを定めるとき、矢を真っすぐに放つとき、身体の重心ができるだけ動かず安定させる必要があります。、もし、三半規管の働きに乱れが起こると、常に重心を同じ位置に保持できなくなります。

 

このような事情により、首の後ろを伸ばし、頸椎自体を安定させることは、上体を安定させるのに必要といえます。

 

ちなみに、教本一巻の胴づくりの説明にも「脊柱、項(首の後ろ)を真っすぐ伸ばし」と書いてあり、首の後ろを伸ばす重要性を説明しています。軽くあごを引くことで、首の後ろを伸ばすことで、4kgもある頭部を支える筋肉が肩以外に首自体の筋肉も関わるようになります。その結果、背中の負担が少なくなって、背筋が伸びるようになります。

 

加えて、梅路見鸞氏の胴づくりの説明の中にも「頭居(かしらい)」という頭部への心の持ち方を説明した内容もあります。これは、胴づくりにおける目線、眼球の状態、あごの伏せ方などを詳細に説明した内容であり、耳周りに心気(意識)が集まりすぎた姿勢にならないように気をつけることを解説しています。

 

つまり、胴づくりにおいて具体的に行わないといけないことは「頭部をできるだけ安定させること」と理解するべきです。

 

両肩を落とし、胸の筋肉をゆるめる

次に、できるだけ上半身を力ませないようにするために、「胸の筋肉をゆるませる」ようにします。

 

胸の筋肉を緩ませるには、両肩を意識的に下方向に落とすようにします。つまり、胴づくりを行うときに、呼吸を整えて肩を楽に落とすのです。これによって胸周りが落ち、上半身の上部がすっきしした心持ちになります。

 

この理由として、両肩を落とすと、横隔膜が下方に下がり、呼吸動作が深く行えるようになるからです。

 

横隔膜とは、みぞおち部にある膜のことであり、呼吸動作を行う際に上下に動きます。背筋や腹筋が緩んでいると、呼吸動作がしやすく、酸素を体内に取り込みやすくなります。しかし、弓を引く動作をする際、どうしても腕や肩に意識が行ってしまい、上半身の上部が緊張してしまいます。そのため、呼吸が浅くなって心が不安になってしまいます。

 

そこで、意識的に胸の筋肉をゆるませて、横隔膜を下げるようにします。胸の筋肉をゆるめると、肩の筋肉がほぐれ、腕に必要以上の力みがかかりにくくなります。その結果として、上半身に無駄な緊張なく、動作が行えるようになります。

 

胸を柔らかにするということは、保健の上からも射法の上からも絶対に重要である。胸をやわらかにするために胸を落とすということは同時に肩を落とすと言うことに重大な関係をもつからである。すなわち胸を落とせば肩は自然に落ちるものである。肩を落とすということは弓を射るときに必要な姿勢であるからである。〜鈴木伊範士〜

 

肩根を下げ、首は上に伸び、腕も脚と同じく故意に力を入れず、筋肉は全体を軟らかにして自然にゆだねるのである。〜千葉範士〜(教本二、三巻 胴づくりの説明より)

 

ひさこ腹の姿勢を構築する

そして、このようにして、背筋を自然に伸ばし、胸の筋肉を緩んだ姿勢を構築するに役立つ姿勢として、「ひさこ腹」があります。

 

ひさこ腹の姿勢とは、胸の筋肉をゆるめ、少しだけおへそを上に向けうように意識した姿勢です。このような姿勢を取ると、胸周りの筋肉がほぐれ、背筋が伸ばしやすい姿勢になります。

 

人の姿勢には、骨盤が後ろに傾きすぎた「前屈姿勢」、前傾しすぎた「前傾姿勢」があります。 前屈姿勢を取ると、身体の重心が後ろ側に乗りすぎてしまいます。すると、弓を引く際に、弓と弦の間に体を割り込ませる運動がしずらくなってしまいます。

 

かといって、前傾姿勢になってしまうと、胸が前方に張ってしまい、胸周りが緊張しやすくなります。すると、呼吸が浅くなりがちになり、上半身が緊張しやすくなります。

 

そして、最も心が安定する姿勢は頭から胸が真っ直ぐ立っていて、お腹周りにどっしりのっている姿勢です。弓道の世界では「ひさこ腹」といわれます。 胸が落ちているので、体内に多くの酸素を取り込むことができ、無駄な緊張がなくなります。

 

さらに、胸が落ちていることで、おなか周りの緊張がほぐれています。上半身の重みがゆるんだお腹にかかり、見た目は膨らんでいるように見えます。この姿勢をとることで、体に一部分に負担がかからなくなります。その結果、気持ちが安定します。

 

これは、教本二、三巻の先生が言葉を変えて説明しています。

 

 

 

 

全体重を足の爪先に寄せ、掛り身になって腰骨を引きつめ、両膝頭を上に上げて全身を緊張そのものにし、いわゆる臍の下向く姿勢たれと主張するもの。
 
これと全然反対に胸を落とし、軽き猫背を成すことを認め、へそより上三センチのところに腹をたくね両足に力を入れず、膝の関節は柔らかく上部臍を上向けにした、いわゆる「ひさこ腹」を形成せよというのがある〜祝部範士〜

 

胸窩(きょうか)を落とし軽き猫背をなすことを認め、臍(へそ)より上三センチのところに腹をたくね、両足に力を入れず、膝の関節は柔らかく上部の動揺はこの関節で調節し得るほどにし、臍を上を上向きにした、いわゆるひさこ腹を形成せよというのがある 〜松井範士〜 (教本三巻 胴づくりより)

 

足踏みの上に両足脚が伸び、腰から上に置くのであるが、腰骨の前側麺をちょっと上に向けるようにして肛門を閉じ、股の付根を張る。水月(みぞおち)を軟らかにし、あまり凹まぬように伸ばす。このときに鼻と臍が対し、両耳と両肩が相対するようになる。〜神永範士〜 (教本二巻 胴づくりより)

 

このように、射において上半身の姿勢を整えための姿勢として、「胴づくり」があります。しかし、そのために気をつけないといけないことが存在します。

 

・下腹、背筋に力を入れないようにする

 

・首の後ろを伸ばし、上半身全体を安定させるようにする

 

・胸周りの筋肉を柔らかくしておく

 

・ひさこ腹の姿勢を実践してみる

 

これらの内容を実践し、安定した胴づくりを毎回の稽古で行えるようにしてください。

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