教本に記された「五胴」の本当の意味

胴づくりの説明で必ず出てくるのが五胴(ごどう)の話です。五胴とは、胴づくりでの上半身の状態を5つに分けて説明したもので、昔の教えで使われていました。

五胴
掛る胴、退く胴、俯す胴、反る胴、中胴

そして、実際の弓道の指導でも「中胴」で弓を引くように指導します。「縦線を意識して」「背筋を伸ばして」など、背筋を伸ばすように指導するのは、教本に記された胴づくりの文章に則して教えていると考えられます。

ただ、五胴において、「中胴」以外の胴づくりについてはあまり詳しい説明がなされていません。しかし、これらの胴づくりも重要であり、むしろ学ばないといけないことをご存知でしょうか?中胴だけを学んでも、「中胴」の重要性を理解できません。

五胴以外の胴づくりも大切である

まず、教本二、三巻の胴づくりの説明にも、「五胴」が多く記載されています。

五胴のことという教えがある。「伏さず」「反らず」「懸からず」「退かず」「直なるのを良しとする」とあるが、これは外面上の戒め(いましめ)で、要は重心を失わぬようにせよということに外ならない。 ~松井範士~

五身という教義がある。すなわり、不屈・不反・不退・不掛・中央の体ーの五つでこのうち中央正直の体がよい。 ~富田範士~ 

胴づくりの目的は行射にあたり、身体各部を据え、反らず屈まず懸らず退かず中央に位するように正しい姿勢を作る動作である。~鈴木伊範士~

古来「五身(懸かる身・退く身・伏す身・反る身・中央なる身)のうち、中央なるのを吉とす」とあるのは、この真っすぐな胴をいうのである ~高木範士~

(教本二、三巻より)

このように、胴づくりにおいては、「中央の胴」が良いと強調している先生がいます。

まず、近的で「胴づくり」を背筋を真っすぐにした方が良いのはご理解できます。なぜなら、稽古する際は近的で行い、多くの矢数をかけることがあるからです。礼射を行う場合は、キレイな姿勢をもって動作しなければいけません。

そのために、できるだけ背筋を伸ばし、身体や腕に負担のない姿勢をもって弓を引く必要があります。

ただ、伏す胴、反る胴は、古くの書籍でも必要な場合があります。例えば、伏す胴、反る胴はで必要な場合が記された文献を紹介します。

退く胴・掛かる胴・・・ 上方、下方にある的を狙うとき
伏す胴 ・・・ 動揺しているとき
反る胴 ・・・  遠距離の的を狙うとき   (日置流八十八か条 二条 五胴のことより)

このように、五胴はそのときの状況によって、使用されていたとされます。その理由は、昔は近的のように決まった位置に的がないからです。目中て物が上にあるかもしれないし、下にあるかもしれません。さらに、的の距離も28メートルと決まっていなかったので、狙いを変えなければいけませんでした。したがって、五胴、すなわちあらゆる胴体のすえ方を習熟する必要が本来ありました。

ちなみに、小笠原流は古くの書籍になると、五胴よりも、重心の安定を強調しています。なぜなら、小笠原流はもともと、馬射(馬の上にまたがって射を行うこと)を行っており、馬の上では、一つの胴づくりの状態に収められません。

もし、五胴という五つの胴体のすえ方があり、「中胴」のみが大切であるならば、他の4つの胴は記載する必要性がありません。にもかかわらず、他の胴のすえ方を紹介しているのは、当時は他の4つの胴体のすえ方も必要である場面があったからです。

つまり、胴づくりを説明するときは、単純に「五胴のうち、中胴が大切」と説明するのは適切ではなく、様々な状況がある中で、近的では中胴が適切であると説明するのが良いです。そのような説明もなく、ただ真っすぐが大切であるというと、受け手はそれ以上、胴体のすえ方について深く勉強しなくなります。そのようなことがないように、きちんと説明することが大切です。

形が五種類あっても、身体に負担なく弓を引くことは可能である

五胴という言葉から、胴づくりには5つの姿勢の状態があるとわかりました。しかし、外形が変わったとしても、身体の内部の状態を変えないで立つことも可能です。

尾州竹林派を習った魚住範士の説明した「尾州竹林射法説明」によると、両肩と背骨の線を十文字に保てば、どのような胴づくりの外形でも、弓矢が引けると説明しています。

例えば、足踏みでつま先付近に重心をおいたとします。立てたとします。その状態から、みぞおちより上部を前や後ろに傾けたり、左右の肩の高さを変えてみてください。すると、背骨がみぞおち部から湾曲してしまうため、胴づくりが崩れてしまいます。

しかし、みぞおちより上部ではなく、腰から体を前後左右に傾けてください。すると、両肩の線が背骨に対して十文字の関係を保ったまま、掛かる胴や退く胴にかえることができます。このように、腰から体を傾けることで、中胴以外の胴体を構築することができます。

現代弓道では、この原理を「遠的」の際に利用しています。遠的は、60m先の的を狙うために、通常よりも狙い目を高くします。しかし、狙いを上げる際に、左こぶしだけを高く上げてしまうと、両肩と背骨が十文字の関係から崩れてしまうため、左肩に強く負担がかかります。そこで、遠くに飛ばす際は、「腰から体を曲げて、狙いを高くするように」と説明されます。

この状態で弓を引き、矢を放つと、肩に負担なく矢が飛ぶことがわかります。つまり、胴づくりにおける体幹部に余計なねじれをかけなければ、見た目五胴からはずれていても問題なく矢を飛ばすことができます。

例え、胴体が見た目中胴でなかったとしても、矢を問題なく飛ばすことができます。

中胴を意識しすぎると、上半身が緊張する

そして、実際に弓を射たり、勉強する際には「五胴」という言葉にあまりとらわれすぎないようにしなければいけません。なぜなら、すべての人が見た目背骨を真っすぐにして、身体に負担なく弓を引けるわけではないからです。

実際に、五胴における中胴を意識すると、かえって射の動作に悪い影響を与える事例を古くの文献では説明されます。

例えば、太っている人が胴づくりで「姿勢を真っすぐにする」とします。つまり、地面に対して上体を垂直にするように立てます。すると、以下のように、腰部だけが前にゆがみ、上体だけが真っすぐになった姿勢になります。つまり、太っている人が真っすぐに胴体を据えようと意識すると、かえって上半身に力みが発生します。

なぜなら、太っている人は脂肪が前方についています。普通の体型に比べて腰椎が前方にすべりやすいです。この体型で姿勢を真っすぐに正そうと意識すると、背中の筋肉(脊柱起立筋)が張ります。これによって、引き分け以降、無駄な力みなく弓を引くことができなくなり、射を円滑に動作できなくなるのです。

その結果、「中胴」を意識しすぎたために、射を失敗してしまいます。

そのため、太っている人は、中胴のように「背筋の伸びた姿勢」を構築するためには、上体を少しだけ前方に傾けて屈んだ胴にしなければいけません。例えば、梅路見鸞氏における「武禅」の雑誌には、「直なる身」を意識して、背筋を伸ばそうとするとかえって射に悪い影響を与えると説明しています。

宇野範士の胴づくりの修正法には疑問が残る

そして、体型が太っている人、痩せている人によって、どのような状態が「背骨が上方に伸び、上半身が楽か」という姿勢の状態は異なります。

そのため、宇野範士が説明した胴づくりの説明は、本当に全員が適切な射に導く引き方に導く教えなのか、疑問です。

痩せた人肥えた人によって、「胴づくり」がいろいろ変化する場合がある。これは「離れ」の場合に色々な欠陥となってあらわれるから、十分注意して補正する必要がある~宇野範士~ (教本二巻 胴づくりの説明より)

この文章の内容は問題ありません。しかし、次の文章で

やせ型の人は反りやすいが(反り身)、これは重心が後ろに行っているから「離れ」の際後ろへ振ることになる。肥満型の人は前屈みになりやすい(伏し身)、これは手が前へ出る。

これ等はいずれも、三本の横木(両足首の結んだ線、両腰、両肩)が一枚に重ならず、前後に出入りがある結果であるから、一枚の堅板の中に収まるようにしなければならない。

この文章の記した通りにすると、痩せている人は、反らないように身体を前カガミにすることに意識し、太っている人は前カガミにならないように、少し身体を反らすようにしなければいけません。このようなことをすると、痩せている人は、みぞおち部の筋肉が強く緊張し、太っている人は背筋が張った姿勢になります。

いずれにしても、上半身の前、後部の筋肉が緊張するために、肩甲骨周りの筋肉の緊張につながります。その結果、打ち起こし、引き分けで肩関節の重要な回転機能が損なわれ、矢束一杯に弓を引きにくくなります。

そのため、ご自身できちんと考えて、文章の理解が浅くなっていないか確認するようにしてください。現在、私の考えは、梅路先生の「武禅」に記した内容にもあるとおり、太っている人、痩せている人によって、胴づくりの理想の外形は異なっていると考えています。そのように、指導しゆるみ離れや引き分けを改善された実例があります。

一方、宇野範士の説明を取り上げると、どのような体格の人も「一枚の堅板(両足、両腰、両肩が上から見て一枚に重なる)」にしなければいけないと説明しています。本当にその理屈は当たっているのでしょうか?どのような体型の方を考慮して、このように話されているかわかりませんが、この文章の理解、内容が浅いか、深いか、ご自身の判断で稽古を取り入れてみるようにしてください。

胴づくりには、「掛る」「退く」「俯す」「反る胴」「中の胴」の五つの胴があります。現代の弓道では、「中胴」が大切であると説明しています。しかし、それは近的に限った話であり、実際にはあらゆる状況に対して射の動作を行うための考え方でもあります。

さらに、中胴を意識しすぎたことによって、かえって背筋が縮み、射に悪い影響を与えてしまう結果を与えてしまう可能性があります。そのため、「五胴の中で中胴が大切」とただ思うのではなく、なぜ中胴が大切で、他の胴づくりとの関係もきちんと調べて勉強するよううにしましょう。

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