打ち起こしが終わり、次に引き取りの動作を行います。体に負担なく引き取りを行うためには、右拳の形や指の整え方を理解しなくてはいけません。
ここでは、引き取り動作を行うための左拳の形と指の整え方を解説していきます。
引取での右拳の使い方
引取での右拳は手首の力で引くのではなく、勝手の肘で引けと言われます。この引き方を「手綱引」と呼んでいます。
そのために、右手は弓を引くのではなく、肩と肘を伸ばす気持ちにせよと言われています。これを左手と合わせて考えると、左手は的へ的へと伸び、右手は反対側にしまっていくことになります。
引取でのそれぞれの右手指の使い方
引取のときの手首、手指の適切な状態を以下にまとめました。
右手首・・・身の方に折れないように。(「坤の事」より)
親指・・弓に引かれて伸びてはいけない。(「地定の事」より)
人差し指・・中指に重ねるようにして、親指を直ぐにおさえる(握って押さえるのではない。「母恵より」)
中指・・・人差し指により強く添えて、親指を確かにおさえる(「兎善の事」より)
薬指、小指・・しっかり並べて握る(「兎心の事」「兎力の事」より)
しっかり引取で右肘を後方に回せば、親指は変に引かれることなく、安定します。人差し指、中指で注意しなければいけないのは、親指を握りしめるように力は入れてはいけません。
直ぐにおさえると書いてあるように、取り懸けで中指第二関節で親指につけ、その面で押さえつけていればよいです。これを握りすぎると右手首がたぐってしまいます。
取り懸けるときは、左拳と同じく、握るように力むのではなく、薬指と小指を曲げ、手の甲を丸くして、中指の第二関節で弽帽子を押さえます。こうすることで、引き分けで弦がしっかり絡み、右弽が締まります。
引き取りでの左手指の使い方
ここでは、引取での左手指の使い方を以下にまとめます。
親指・・・矢を放つまで直ぐに直ぐに押す。弓に負けないようにする(「揚定の事」より)
人差し指・・軽く伸ばす(「陽恵の事」より)
中指・・握らないように少し外にくつろげる(「乾善の事」より)
薬指、小指・・・たしかに弓にくっつける(「剛心の事」「天力の事」より)
まとめると、「小指、薬指を中指に寄せる」「中指を少しくつろげて、薬指、小指にそろえる」「中指の上に親指を重ね軽く握る」の三つを心がけます。
左拳の働き: 6種類の手の内の取り方
次に、左こぶしの働きについて解説していきます。
小笠原流の射法の説明には「居付手の裏」、「惣まくり」、「卵中(らんちゅう)」、「鱗形(うろこがた)」「紅葉重ね(もみじかさね)」「呼立(ああたったり)」などがあります。
弓は小指、薬指を曲げると手の甲が少し丸みを帯びます。この状態で軽く握ると掌全体で弓が全部ベッタリつくのではなく、掌の要所要所(具体的には人差し指と親指の間と小指の付根)に付きます。
この状態を「居付手の裏」といい、教本第二巻では神永範士が「三角の手の内」と説明しています。
そして、握るときは、ぎゅっとにぎるのではなく、少し手の中をふくらませるようにして、弓を軽く握るようにします。このように弓をつかずはなれずの状態で握ることを「惣まくり」といいます。
そして、この握り方は自分の感触としては、「赤ちゃん、子供が何かものを握るときに、指先で握るのではなく、掌全体で包むように握るように、柔らかく握る」または「卵をつかむように軟らかく握る心持ち」が大切です。
この感触、状態を「卵中」や「呼立」と説明しています。(「呼立」は小笠原流射法では「二才、一才児、木にとりつきて立たる味の手の内也と説明しています。」)
そして、大三とって、引き分けるときに、左親指を真っ直ぐに押すのではなく、弓の内竹左七分右三分の箇所を押すイメージで押すと、角見(親指の根)が効き矢勢いがさえます。
この角見を効かせた手の内を「紅葉重ね」といい、正面打ち起こしのときは、軽く握って、大三のときに、左手首を外側に曲げないようにして、親指の内側が弓の右側木をするように押していきます。
そして、このように角見の効いた押しが決まったときは、掌の親指の根の下に模様ができます。この形を鱗とたとえて「鱗型」と説明しています。これが、内にひねられたり、外に向いたりしていると、この三角形の模様は崩れてしまいます。この説明は唐沢範士の弓道読本に記されたものです。
手の裏は形にとらわれないことが大切で、軽く握って、左右いっぱいに引取ることで、拳の握り方、力加減が変わり、少しづつ適した形に近づいてくるものと考えた方が良いです。
そのためには手の内は握らないことを言われており、強弓のときも握りしめず、弱い弓のときも心やすさから、無理な手の内の整え方をしてはいけないと説明しています。
以上の内容を理解することにより、適切な引き取り動作を行うことができます。