小笠原流歩射の説明では、射の説明だけではなく、普段からの稽古の心構えについても詳しく説明されています。
ここでは、その一部を紹介していきます。頭に入れて、心がけることで、稽古の上達のキッカケになります。
射において、体と心と道具はつながっている
よい射を出すためには、身体の調子、心の調子、道具、すべてつながっています。
たとえ、身体の調子がよくても心にわだかまりがあってはよい射が出ないから、平生から心がけて浩然の気を養えというのです。逆も同じことが言えて、心の調子が良くても身体の調子が悪いと良い射が生まれません。これを、「心の養生」「身の養生」といいます。
そして、道具も同じです。弓、矢、弽、弦にいたるまで、道具になれて、わが身の一部分のような気持ちになることが大切です。これを「弓を身に知らせる事」と言います。
丁寧な稽古、粗末な稽古を辞めて、熟した射を時間をかけて目指す
稽古をするときは、平生常に油断せずに弓術に心がけること。力を練ってだんだんと強い弓にしていくことを心がけます。これを三好といい,その逆を三毒(さんどく)といいます。これは、弱弓を好むこと、強弓を好むことをさしていっています。
そして、丁寧な稽古をし、年を重ねれば、「木枯らし」「紅葉重ね(もみじかさね)」の域に近づくことができます。「木枯らし」は木々の梢もいろどった木葉も、冬になって木枯がふけば、皆落ちていくように、修行も途中でいろいろの形が見られるが、老練ののちは素直なところに落ち着くということです。
「紅葉重」は冬になって木々の落葉が散り重なる。紅も黄色もあるが、それらは下づみとなり、表面から見てさしたることはないという意味で、「木枯らし」と内容は同じです。
初心のうちにむやみに老成をまねるのはよくなく、春の芽ぐみ、夏の青葉、秋の紅葉の順をへて老成枯淡の域に入るべきことをふくんでいます。
順序を守り、向上心を持ち続ければ、不可能な事が可能になる。
順序を守り、修行することが大切でこれを「十重」と言います。書物を読んで、技術を構ずることは良い点ばかりではないので、読者は注意が必要で、ひとつひとつ重ねて極意に達せよという教えです。
そして、順序を守り、常に向上心を持ち続けることです。これを「中央」と言います。これにより、技術が向上し、一段上の業に気がつくようになり、いつも自己の中に不足を感じ、また稽古で技術を積み重ねようとします。
よって、出来難いようなことも修行によってはできるようなものだと言います。盤上に卵を重ね、机上に筆の袖を同じように十一まで積み上げたという故事のたとえで、「玉と竹」と言います。
全ての修行は、人によって難易はあっても不可能はないということをよく心得て、稽古に励むのです。
病気、我流の囚われをなくし、常に稽古のつもりで引く
稽古には、三つ病気があり、その気持ちをなくすことが大切です。この三つを「三病」といい、「好きではないこと」「第二が早癖(早気、弓道の病癖の一つ)であること」「吉と思うこと(自惚)」の三つを指します。
他、昔から「天狗は芸の行き止まり」といわれ、ひとつの直らない心の病気でもあります。そのため、いい加減な修行で天狗になり、師の教えをないがしろにして、我流の出すことのないようにすべきです。これを「師に離れぬ」と言われています。
そして、稽古では、「大切な晴れの場所のつもりで毎日平生で稽古をする心構え」が必要です。この意識により、大切な晴れの場所でも、稽古のときと同じ心持ちで引くことができます。これを「稽古を晴とし、晴を稽古とすること」といい、大切な場所で上がったりしないようにするための心構えです。
初心者は一つずつ、師の教えに従い、小さい油断に潜む危険を
初心者はまだ、稽古、弓道の持つ世界がわからないので、我流やテクニックに頼ると上達を止める可能性があります。
そのため、初心者は「上手な真似をするのをやめ、地道な稽古を第一」にすることが大切です。これを、毎日重利ずつ行けば三年の間に万里の道にたどりつくことができることに例え「万里一足より起こる」と言われています。
地道な稽古には、まずテクニックや我流に囚われるのをやめて、初心者は師の教えだけを守ることが大切です。そして、地道な稽古を続けていったら、どんな人でも何かしら弓術の噂をする人がいれば、これについて博く聞き、自分で考え、修行せよというのです。
これを「梅棟劣楠、高山推車(こうざんにくるまをおす)、道を問ふ」と言います。
このように、師の教えを守りながら、人の言う弓術に耳を傾けるのは、弓道は的中や少し上達すると、我流が出てきて、ほんの少しの油断が上達したことができなくなり、実力が初心者と同じになることがあります。
これを千丈の堤も蟻の穴から破れるということわざにより、「大堤小蟻」と言われています。
これまでの内容をまとめると、
日常精神を正しくする。
常に心の練磨をする。
体を大切ににする。
常に弓を忘れない。
長い年月をかけて一日一日修行を心がける。
とまとめられます。
これらの内容を理解し、射の稽古を実践するように心がけます。