矢が前に飛んだり、後ろに飛んだり、上に行ったり下に行ったり…。弓道をやっていて、矢所が定まらないと本当に不安になりますよね。「自分の実力が落ちているのではないか」「何が悪いのか全くわからない」と感じている方も多いのではないでしょうか。
私も20年以上弓道を続けてきましたが、こう考えてください。
矢があちこちに飛ぶことは、決して悪くない
むしろ、そこから「どうすればまっすぐ飛ぶのか」という戦略を立てることのほうが大事です。
ただただ、こうすれば、射型を整い当たるという理想を追い求めて、それが具体的にできない。その完璧な形を作ろうとして、一生懸命頑張るか?
外れた具体的な原因を明確にして、その原因を確実に潰して、徐々に矢所が収まって当たっていき、その後に射型を整えていく、
どちらが実践する上で効率的か?圧倒的に後者です。
前者は努力をしても、なかなか結果に繋がらず精神的に疲弊します。綺麗に形を整えたとしても、その後的中しません。そして、的中を狙いに行こうとすると、結果的にまた射形が崩れたりします。
しかし、最初に外れる要因を分析し、外れる要素をどんどん潰していって、的中させていくように稽古したとします。そうすると、あとで射形を変えたとしても、的中するために必要な身体の使い方はできるようになります。
的中に綺麗な射形は必要ありません。
綺麗な射形と的中はまた別の話です。的中するために必要なことを練習し、それを綺麗だと言われる形でもできるようにする
この考え方で稽古して初めて、良い射形で的中できるようになります。
今回は、私が実際に指導してきた中で、的中率7割、8割、9割と上がっていった方々に共通するプロセスをお伝えします。
結論:的中の鍵は「離れ」にある
最初にはっきりお伝えしておきます。矢をまっすぐ飛ばすために一番大事なのは、射形ではありません。正解は「離れ」です。
これは私自身の経験からも断言できます。実は私、左の肩が上がっている状態でも的中を出すことができるんですよ。なぜかというと、離れが鋭いからなんですね。離れを鋭く出すことができれば、多少射形が崩れていても矢はまっすぐ飛ぶんです。
物理学的に説明すると、矢の飛翔は離れの瞬間に決まります。弦から矢が離れる際の力のベクトルが的に向かっていれば、矢は的に向かって飛ぶ。単純な話なんですね。射形はあくまでその「良い離れ」を出すための準備段階に過ぎないんです。
ステップ1:とにかく「早く抜く」ことを癖づける
まず最初にやっていただきたいのは、離れを「早く抜く」ことです。これは100回、200回と繰り返してください。矢があっちに飛んでもこっちに飛んでも構いません。とにかく早く抜くことだけに集中するんです。
なぜ早く抜くことが重要なのか。これは筋肉の「適応限界」という概念で説明できます。私たちの筋肉は、ある程度の負荷をかけ続けると、その負荷に慣れてくるんですね。早く抜くという動作を繰り返すことで、体がその動きに適応し、意識しなくても自然にできるようになります。
ここで重要な注意点があります。形の修正は後回しにしてください。「肩を揃えましょう」「手首をこうしましょう」といった形の指摘に囚われると、離れが出せなくなります。形で評価されて直そうとすると、別のところがわからなくなるし、当たらなくなるし、昇段審査も受かりません。

早く抜く練習のポイント
- どんな射形になっても早く抜くことだけを意識する
- 打ち起こしの高さが変わっても、離れがスパッと抜けるように練習する
- 緊張した状態でも早く抜けるように、様々な状況で繰り返す
- この練習は弓道を引退するまで続ける
ステップ2:左右の肩を動かさずに早く抜く
早く抜くことが癖づいてきたら、次のステップです。目標は「左右の肩が動かない状態で早く抜けるようにする」ことです。
矢が前に飛んだり後ろに飛んだりする原因を考えてみましょう。これは離れの瞬間に肩が動いているからなんですね。上から見た時に、左の肩が前に出たり、右の肩が前に出たりすると、力のベクトルがずれて矢が前後に飛んでしまいます。

矢が前(右)に飛ぶ場合
矢が前に飛ぶ場合、多くは左の肩が上がっていることが原因です。左肩が上がった状態で弓を引くと、離れの瞬間に左腕の開きが不均一になり、矢が的よりも前に飛んでしまいます。
解決方法は、左の肩を下げて、左の肘の力を少し抜いた状態で大きく引っ張ることです。肩甲骨を下制させる意識を持つと、広背筋が働いて肩が安定します。
矢が後ろ(左)に飛ぶ場合
矢が後ろに飛ぶ場合は、右の肩が上がっていることが原因です。右肩が上がっていると、いわゆる「巻き肩」の状態になり、右肘が後ろに回らないんですね。
本来は右肘をスパッと後ろに引き抜きたいのに、引き抜けないから左手だけがグワンと開いてしまう。結果、矢が後ろに飛んでしまうわけです。
解決方法は、右の肩を外旋させるように意識することです。よく弓道の世界では「肘を前に」と言われますが、これは上腕を内旋させながら前にするのではなく、外旋させながら前にするんです。ここを間違えると逆効果になってしまいます。
ステップ3:矢の長さいっぱいを引く
前後の外れを減らすために、もう一つ重要なことがあります。それは矢の長さいっぱいを引くということです。
離れを早く抜くためには、大きく引っ張る過程で肘が使えるようになる必要があるんですね。右肘を使えるようになると、肩が前後に動かなくなります。

肘を抜く離れの出し方
肘を抜くというのは、今まで拳でグーンとやっていたことを、手ではなく肘でやるということです。多くの方は肘に力を入れてやろうとしますが、私の場合は力を一瞬切って抜くことで抜いています。
具体的には、横に引っ張って力を抜くんですね。これができると、肩が動かずに離れが出せます。もちろん、右肘に力を込めて低く引き抜くやり方でも構いません。どちらでも早く抜けるし、肩も動かなくなります。
ステップ4:矢を上に番える
ここまでのステップで、矢が前後に飛ぶことはかなり減ってきているはずです。早く抜いているので、確率的には上に飛ぶ矢が多くなり、下に飛ぶ矢は少なくなります。だいたい6対4くらいの割合で上に飛ぶようになれば、射形としてはすごく良い状態です。
さて、この上に飛んでいる矢を抑えるにはどうすればいいか。これは簡単で、矢を上に番えればいいんです。
矢を少し斜めに傾けた状態で飛ばしてあげた方が、一番重いところ(矢の先端)に重心がかかってスピードが乗りやすくなります。物理学的に言えば、重心が前にある物体は、その重心に向かって落下しながら飛翔するため、的に向かって吸い込まれるように飛んでいくんですね。
弓道の世界では「右手を主として上げて、矢先は取り打ちにならないように」という教えがありますが、これは注意が必要です。特に現代のグラスの弓は、江戸成りとは言っても外れている可能性があります。右手を主として上げると肩が極端に上がってしまうことがありますので、右の拳と左の拳を同じ高さにして引くことを意識してください。
的中率向上のための具体的な稽古法
- 離れの素引き練習:弓を持たずに、離れの動作だけを繰り返す。早く抜く感覚を体に覚えさせる。
- 肩の位置確認:鏡の前で引き分けし、左右の肩が一直線上にあるか確認する。
- 肘抜き練習:ゴムチューブを使い、肘を後ろに引き抜く動作を練習する。力を入れるのではなく、力を抜いて抜く感覚を掴む。
- 矢束の確認:毎回、矢の長さいっぱいまで引けているか、自分の矢束を確認しながら練習する。
- 番え位置の調整:上に飛ぶ矢が多い場合は、矢を少し上に番えて微調整する。
まとめ:確率で考える的中の仕組み
私が提唱するのは、形をきれいにすれば当たるという考え方ではありません。現実的に、前後に飛ばない構えを作り、上か真ん中にしか飛ばない状況を作り込み、上に飛んでいるのを排除するという確率的なアプローチです。
この方法で、大会優勝された方や昇段審査に合格された方がたくさんいらっしゃいます。私自身も35キロ、36キロの強弓で的中率を半分以上キープし続けていますし、15キロの弓なら当たらないことがほとんどありません。
外れるということは決して悪いことではありません。外れ方を分析し、その原因を一つずつ潰していけば、必ず的中率は上がります。この方向、この順番でどんどん弓を引いていけば、次第に矢所は収まっていき、最終的に当たるようになります。
ぜひ今日から、まずは「早く抜く」ことを意識してみてください。大の字になれば、あなたは最強です。






