弓構えで動作する際に、「取り懸け」動作を行います。さらに、弓を軽く握って「手の内」動作を行い、最後に弦調べを行います。このときに、弽、弦といった道具に対する知識を一つ知っておくだけで、弓構え動作を円滑に行うことができます。
射の内容の理解を深めるだけでなく、弓構えではできるだけ無駄な力みを抜いて、次の打ち起こし動作につなげなければいけません。無駄な力とを抜き、集中力を高めていくためには、道具にも細部にわたってこだわりましょう。そのためには、弓構えにおける「弽」「弓」といった部位にも気を配って動作をしなければいけません。
以下に、具体的に弓構えで心を落ち着けるためには、「弽」と「弓」において気を使うべきことについて解説していきます。
昇段審査で作法をキレイに整えたい方、弓を楽に大きく引きたい方はこの記事をよく読むようにしてください。
弦調べでは、目線に気を使う
あるいは、弓構えでは取り懸けをする前に、「弦調べ」を行います。早矢、乙矢のうちの乙矢を右手で抜き取り、次に「弦調べ」の動作を行います。弦調べは、以下のように行います。
イ、目線を弓の上部→握り皮→下部→握り皮と移す
ロ、目線を握り皮へと移したら、矢の箆へと目線を映し的を見る
ハ、的を確認したら、もう一度箆に目を移し、握り皮へと目を移す
このようにして、目線をうつします。昔は自分の身体から的への距離、高低、的の大小といった情報をこれらの動作を行うことで確認しました。しかし、現代の弓道では的からの距離、高さ、大きさはすべて決まっているため、形式上としてこの動作を行います。
この際に注意したいことが二点あります。一つは弦調べを行うときは、頭が上下に動くくらいに目線を動かしすぎないことです。
昔、弓の元弭と裏弭には「神」が宿ると言われてきました。上下の鏑藤は山の神、地の神が存在するといわれ、弓の部分一つ一つを大切なものと解釈します。そこで、道具一つに対しても失礼や失態のないように、目線を動かす必要があります。
「取り懸け」をする前に弦しらべを行うが、信仰方向からいえば、天理の神を礼拝する行いである。上下の鏑藤(かぶらどう)は天地の神を祀ってあり、矢摺藤は自分の守本尊の宿るところと考えられている。
第一に天神を拝し、次に地神を敬し、第三に守本尊を念じ、次に箆(の)を見るのは、現在の自分を省みるのである。そして、「板付け」から的という彼岸の希望に眼を移すのは、すべて動作や心を疎かにせぬためである。~千葉範士~
そして、目線を動かすときに、あまり頭部を動かさないようにするのは、周りを人から見られての失態も解釈できます。教本三巻の祝部範士は、弓構えを行うときに、「あまり頭部を動かさないように心がけること」を記しています。
或る流の人たちにて弦しらべと称して頭を上下して、弓の末弭と本弭とを見るというのがあるが、実利的にいまさら調べてもどうにもなるものではなく
構えができておらず、所在なさの眼のやり場ではないかとみられ、なすべきものではないと私は思っている~祝部範士~ (教本三巻 弓構えより)
上下の鏑藤を確認するときは上を向くときにアゴがあがっていたり、下に向くときに首がうつむいたり首が動かないようにしましょう。それにより、見た目姿勢が整ったまま弦しらべを行うことができます。
弦調べの方法としては、首をあまり動かさず、眼仕いだけで、矢筈のところから、上の鏑藤、下の鏑藤、矢筈にのところに戻って・・・・~千葉範士~
目は少し薄めにしておく
弦調べを行うときは、なるべく、「薄目」にして眼球周りの筋肉を緊張させないようにしてください。理由は、弦調べに気持ちが行き過ぎてしまい、胴づくりや足踏みの身体と心の状態が揺らいでしまう可能性があるからです。
足踏み、胴づくりの説明では、知らず知らずの間に「目」に意識が行くことを教えました。ここでも同様に「目」に行かないように弦調べを行います。このときに、「矢筈」「箆」「矢先」「的」といった場所を凝視しないようにします。
「視界には入っているけど、焦点がその場所に行き過ぎない」ように目使いを行ってください。矢渡し、座射の動作を見ると、矢筈を確認するときに、次のような身体の変化をする人がいます。
イ、弦調べをしているときに、目線で確認する速度が速くなる
ロ、口や鼻周りが動いていることがある
ハ、一つ一つの箇所をじっくり見すぎて、動作自体が遅すぎている
ニ、弦調べと矢筈を確認しているときに、上体が前後にかすかに動く
このような身体の変化が出ている場合、道具に意識が行き過ぎて、胴づくリや足踏みの状態が崩れてしまっているのがわかります。胴づくりでは上半身の力みが取れているだけではなく、「大日如来の如く」「ドッシリと、しっかりと」といった文章があるように、気持ちに「泰然とした」気持ちがないといけないと解説しています。
にも関わらず、弦調べや矢筈を確認するときに、ゆっくりしすぎる「弦を確認すること」が目的となってしまい、胴づくりの際に整えた心の状態から意識がおろそかになっているのがわかります。映画や舞台であればそれで問題ないかもしれません。ただ、あなたが弓を引く技術を学び、体感レベルで楽に弓を引けるようになりたいのであれば、道具の確認の仕方まで細部にこだわってください。
呼吸を深くしすぎないようにする
次に、弦調べをする際の呼吸の状態を「深く呼吸をしすぎない」ようにしましょう。
弓道に限らず、武道では「呼吸」が大切と説明されます。そのためか、弦調べや所作を行うときに、呼吸動作に意識を置きすぎている場合があります。このようなことはせず、呼吸はあくまで「細く、少なく」するようにしてください。息を細く吸って動作をはじめ、軽く吐いて動作を止めます。
理由は、呼吸動作を意識しすぎると、肺周りにある呼吸動作で活動する筋肉が働きすぎてしまい、凝りが発生するからです。
私たちは、呼吸をするときに肺や腹部に空気が入ります。これらの空気は肺周りの筋肉に毎回力が入って空気が取り込まれているように思います。しかし、実際は、外界の空気圧と、体内の内圧のバランスによって呼吸動作が始まり、筋肉はそれに応じて動いているだけと解釈できます。
息を吸って体内の空気が取り込まれると、内圧が上がります。あまりに上がりすぎて、これ以上体内に空気が取り込めなくなると、自動的に内圧を下げるために、空気が外に吐き出されます。また、内圧が低くなりすぎて、外の圧力とのバランスを保つために、体内に空気が自然と入ります。
つまり、私たちの呼吸動作は外の圧力と体内の圧力のバランスの差によって生じます。それに応じて筋肉が収縮しています。したがって、意識しなくても肺周りの筋肉は活動しています。このときに、「空気をどのくらいの量」で、「どの程度のスピードで取り入れるか」を総括するのが、私たちの脳であり、背中周りに存在する自律神経系です。
もしも、多く取りこもうとしすぎると、内圧を取り込むために筋肉が過剰に働きすぎてしまい、凝りや緊張が出てきます。実際に、息を大きく吸ったり吐いたるすると、その動作自体だけで身体がだるくなった感じになります。なぜなら、呼吸するためにエネルギーを使いすぎてしまうからです。
このような理由があるため、弦調べを行うときに、息を深く吐きすぎないようにします。弓道で深すぎず、浅すぎないように呼吸をします。すると、落ち着いて弦の上下、矢筈、的と確認して動作が行えるようになります。
矢筈のところから上に移って上の鏑藤に至ってちょっととどめ、(きわめて瞬間)、静かに下に下りて下の鏑藤でとどめ、更に矢筈のところに戻ってとどめ、箆に沿うて矢先に至ってちょっととどめ、矢先を通して的に眼を移す。~千葉範士~
以上のことを理解すれば、落ち着いて弦調べを行うことができ、姿勢が崩れずに射の動作に移ることができます。
では、両腕の力みを取り、心の落ち着いた弓構え動作は完了できました。次に、取り懸け、手の内動作を範士の先生の内容を参考に、適切な両こぶしの状態を構築しましょう。「多くの範士が実践する懸け口十文字」の内容を理解し、まずは良射をするための右こぶしの状態を勉強しましょう。