弓道教本含め、あらゆる書籍に「三重十文字」という言葉が記載されています。三重十文字とは、足踏みの線、腰の線、肩の線を平行に重ね、これらの中央を貫く脊柱を正しく垂直に保持することです。
初心者にとって楽に弓を引いて、綺麗な姿勢で矢を放ちたいと思ったら、三重十文字の姿勢を意識することが重要になります。そこで、本記事では、三重十文字の姿勢で行うべきことをまとめて行きます。
キーワードは「首の後ろ」と「重心」です。二つのことを意識すれば、肩の線が揃った綺麗な射型になります。
三重十文字は首の後ろから整えよう
まず、体の仕組みから考えて、肩、腰、足の三部位のうち、もっとも崩れそうな線を分析し、その上でやるべきことを考えて行きましょう。そうすると、三重十文字の姿勢を構築するにはまず「首の後ろ」。あごを引いて、上方に吊り上げるようにしましょう。
これには2つ理由があります。
1つめの理由は、首と肩は体の中で自由度が高い関節だからです。
例えば、腰骨は左右に捻るのは容易ですが、上下に動かすのは難しいですよね。しかし、首と肩はあらゆる方向に自由に動かせます。上下前後左右に動かしたり、ぐるぐる回せたり、体にある関節の中でも自由度が高いです。
このように、動かしやすい反面、射の最中では最も崩れやすいというデメリットを持ち合わせています。つまり、首と肩関節は自由なんだけど扱いが難しい。バランスをとるのが難しい関節です。
人の頭部は4〜5kg程度あり、首や肩関節周りにある筋肉によって支えられています。ここで、首の筋肉が硬くなっていると、頭部を支えられなくなってしまいます。
もし、首の筋肉で支えられなくなってしまった場合、「肩関節」周りの筋肉が今度は硬くなります。つまり、頭を支えるために肩に力が入ります。このように、頭部の位置が少しでも前後にずれてしまうと、首や肩関節周りの筋肉に力が入ってしまうのです。
かなり昔ですが、私メンズエステで「フェイシャルエステ」のコースを受けたことがあります。美人のエステティシャンにレンタルのガウンの首元の部分を外され、少し胸もとまで肌を出しました。なんでフェイシャルなのに胸の上部までだす必要があるん?と聞いたら
エステティシャン:「当サロンのエステでは、顔はここまで(顔から首元、胸の上部まで)と考えて施術します」
私「まじすか、えらい贅沢。やっちゃってください」
と言われました。これがいわゆる「デコルテ」という部位です。でも、エステの世界ではここまで行うのが普通とあとで知りました笑。
顔のたるみや歪みについても顔自体を施術しても意味はありません。実際は、首や肩関節の筋肉にも凝りが出て、頭部に流れてる血行量が不足し、皮膚のターンオーバー(古い細胞から新しい細胞へ入れ替わること)が遅れてしまうことから、皮膚の老化が現れます。
これと同じことが弓道でも起こり得ます(あ、肌の老化の方じゃないよ)。
頭が数センチ前後にずれると、首と肩に力が入ります。これによって、三重十文字に置ける両肩の線が上からみて他の線と一枚に重ならなくなります。
たとえば、弓を引いている時に、あごが上がっていたり、頭部が前に出ていたり・・。こうした姿勢の崩れがおこる原因は頭部が動くからです。それに比べて、腰が左右にねじれる、両足の線が平行からずれるってことは頭部のずれに比べたらあまり起こりません。
つまり、早く確実に三重十文字の姿勢を構築し、維持したいなら、まず首の後ろを伸ばすことを覚えましょう。
次の理由は、頭部のずれは自分で気づくのが難しいからです。
おそらく、けっこう人間の体の中で頭部が前後に出ている状態に慣れています。スマートフォンやPCの作業をしている時、けっこう前に出ているのですが、大半の人はこの状態に慣れてしまっています。
人の頭にある目や耳は、体の重心バランスを保つ平衡感覚があります。頭が前に出ていたとしても、他の首や肩の筋肉に力を入れて、関節を固定して、バランスを取ろうとします。そのため、頭部の位置がずれていてもけっこう不自由なく過ごせます。
しかし、これはあくまでスマートフォンなどの日常生活の場合の話です。弓道ではこれが問題です。頭部のずれは気づきにくいため、知らない間に猫背になっていたりあごが上がっていたりします。こうした問題を稽古しながら解決していかないといけないのです。
どのくらい気づきにくいか、簡単な実験で体感してみてましょう。目を開けたまま少し頭を前に出します。この状態でいてもおそらく何も違和感がないと思います。しかし、ここで目をつむってみてください。おそらく、首の後ろがすごく重い感じが感じられると思います。
目をつむるといかに自分の頭が前にずれているか感じられると思います。しかし、目を開けたままだとなかなか気づけない。だから、弓を引きながらまっすぐの姿勢を保つのって難しいんですよ。
特に、大三から引き分けに入った時に、頭部や肩のずれは大きくなってきます。弓の反発力が体にかかると、より関節のずれや筋肉の緊張が大きくなってくるからです。後に、胸郭や腰の位置にブレが起こり、重心のブレも起こってきます。
そのため、弓を引いている時に「体が前後にずれる」「腰がねじれる」「肩が上がってくる」といった問題が起こった場合、あまり「腰」や「足」に原因を求めないでください。その原因は「頭部」、つまり首の後ろが伸びてないことから起こっている可能性がけっこう高いからです。なので、何かしら胴作りに問題が起こったら、三重十文字の中でも「首の後ろ」を先に疑うようにしてください。
さぁ、首の後ろを伸ばそう
さぁ、ここまでの内容を理解したところで首の後ろをしっかり伸ばす方法についてお伝えしていきます。「重心の位置」「行なってはいけないこと」についてまとめてみます。
シンプルに、あごを軽く引いて、首を上方に伸ばしてください。次に、肩を下げてください。これで完了です。肩の力が抜けている感じがあれば大丈夫です。おそらく、誰かに押してもらったら、肩関節が上部になってブレにくくなるのが体感できます。反対に、あごをあげて見ると、姿勢が前後にブレやすいのが体感できます。
重心の適切な位置を覚えよう
しかし、首の後ろを伸ばそうと思ったら、うまく伸ばせなかったり、背中が痛くなってしまったりします。その場合、重心の位置が間違えている可能性があります。
その場合、神永範士(教本二巻に記載されている先生)の胴造りに置ける重心の位置を真似てください。神永範士は以下のように説明しています。
「重心の位置は左右の拇指のつま先とその反対側の踵を結んだ線の交点上に落ちるくらいが良い」
上の図における交点の方向に垂直方向に体重を落とすイメージで行います。つまり、中央よりも少しだけ後ろです。これは、神永範士の胴造りの説明の中で「腰骨」を立てるように解説されているからです。こうすると、太ももが外側に開きやすくなるため、そのぶん少しだけ後ろにいきます。
なお、弓道の文献の中には、「母指球に体重を乗せる」ようにと指導されます。この教えに従うと、かえって脚に力が入って姿勢が崩れる場合があります。
あるいは、お腹に力を入れるのもアウトです。意外にやってしまいがちなのが、お尻を締めること、あまりに締めすぎるとこれが原因で失敗することもあります。首の後ろを伸ばそうと思っても伸びない場合は、次の二つが原因として疑われます。チェックしてみてください。
これらの内容を理解すれば、綺麗な姿勢で最後まで弓を引き続けることができます。ぜひ行なってみてください。
ただ、胴づくりの重要性はこれにとどまりません。実は、適切な胴づくりを行うことは、次の弓構え動作に良い影響を与えます。「胴づくりを行うもう一つの理由」を読み、胴づくりを行う重要性をさらに勉強するようにしましょう。