「巻藁で矢がポロッとこぼれてしまう」「暴発が怖くて思い切り引けない」「なぜか離れがうまく出ない」——こんな悩みを抱えていませんか?
実は、私が22年以上の弓道経験の中で1万人以上の初心者を指導してきた結論として、巻藁でつまずく原因の95%は「弽(かけ)選び」にあると断言できます。あなたの引き方が悪いのではなく、そもそも道具の段階で間違えているのです。
今日は、初心者の方が巻藁で失敗する本質的な原因と、正しい弽の選び方、そして取り掛けのコツを徹底的に解説していきます。
結論:巻藁トラブルの原因は「弽」にある
巻藁練習で筈こぼれや暴発が起こる方、そのほとんどは取り掛けの問題です。より正確に言えば、弽そのものが合っていないのです。
★ 初めての人は99%、最初の道具選びで全部間違えている——これが現実です。
弓道教室に入ると、道場にある弽の中から「なんとなく指のサイズが合いそうなもの」を渡されることがほとんどでしょう。しかし、この「なんとなく」が、あなたの巻藁での苦戦を生み出しているのです。
なぜ弽選びが重要なのか——ゴム弓との違い
私は弓道歴22年以上の今でも、ゴム弓での練習を欠かしません。なぜなら、ゴム弓だけでほぼ綺麗な射形は作れてしまうからです。
しかし、巻藁になると話は別です。巻藁では「矢を押さえつける」という新しい行為が加わります。さらに「押さえつけた矢をきれいに離す」というリリースの技術も必要になる。
つまり、ゴム弓では問題なかったのに巻藁で急につまずく人は、この「矢を押さえつけながら離す」という動作と、それを可能にする弽の選び方を理解していないのです。
三つ掛けと四つ掛け——一文字と十文字の違い
弽には大きく分けて「三つ掛け」と「四つ掛け」があります。この二つの本質的な違いを理解することが、正しい弽選びの第一歩です。
一文字の弽(三つ掛け)
三つ掛けは「一文字の弽」と呼ばれます。なぜ一文字かというと、最終的に弓を引いた後に指を起こしていくと、親指が地面と平行——つまり「一」の字のようになるからです。
十文字の弽(四つ掛け)
四つ掛けは「十文字の弽」と呼ばれます。これは弦と親指が十文字のような形を作るからです。
★ 初心者が最も高い確率で失敗するパターンは、本来一文字で使わなければいけない三つ掛けを、十文字のように力をかけて引いてしまうことです。その結果、矢がポロッとこぼれたり、暴発が起こったりするのです。
絶対に選んではいけない弽の特徴——2つのNG条件
弓道場のレンタル弽を探す際、以下の2つの条件に当てはまる弽は絶対に避けてください。
NG条件①:人差し指と親指の間がゴワつく弽
弽をはめたとき、人差し指と親指の間の革の部分を確認してください。ここが柔らかくて薄く、指の間にぴったりはまる弽が良い弽です。
逆に、この部分の革が硬くてゴワついている弽は避けてください。
なぜか?物理学的に説明すると、ゴワついた革の部分が矢の筈を無意識のうちに押してしまい、それが筈こぼれの直接原因になるからです。あなたがいくら正しい引き方をしても、弽の構造上、勝手に筈が押されてしまうのです。
★ ここがゴワついている弽は、あなたが無意識に押さえつけている部分をさらに押さえつける力が働いてしまう
NG条件②:中指・人差し指が曲がってしまう弽
弽の号数(サイズ)は親指のサイズで決まります。しかし、中指と人差し指のサイズは弽によって微妙に異なります。
これは製造過程で革が伸びたり縮んだり、縫い方がずれたりすることで、最終的な完成形にばらつきが出るからです。
★ 親指がぴったりフィットしたときに、中指と人差し指がちょっと曲がってしまうような弽は絶対に選ばないでください
指が曲がった状態で取り掛けをすると、無意識に親指を下に向けて押さえつけてしまいます。本来一文字として使うべき弽を、十文字のように使ってしまう原因になるのです。
初心者におすすめの弽の条件——控えの硬さ
弽には「控え」という親指の付け根を支える部分があります。この控えの硬さが、初心者にとって非常に重要なポイントになります。
初心者は「控えが柔らかい弽」を選ぶ
私のように40キロの弓を引く人間は、控えがめちゃくちゃ硬い弽を使います。なぜなら、弦がかかった状態で親指がクニャッと曲がると、離れがブレてしまうからです。
しかし、★ 初心者の場合は、押さえつけたときに親指の付け根が曲がる程度の柔らかい弽の方が使いやすいのです。
その理由を解剖学的に説明しましょう。控えが柔らかいと、親指がある程度自由に動いてくれます。矢を押さえつけて引いていき、最後に離すとき——縦に向いている拳を横の平行方向にクイッと回す——この動作がやりやすくなるのです。
上達したら「控えが硬い弽」に移行する
ただし、この柔らかい弽には欠点もあります。引っ張っているときに親指が下に向きやすくなるのです。三つ掛けは親指がまっすぐになるのが最終形ですから、控えが曲がりやすいと射形が悪くなる可能性があります。
半年程度練習して、特に問題なく離せるようになってきたら、控えが硬い弽に移行することをおすすめします。
高段者でも道具を知らない現実
ここで一つ、私が実際に聞いて驚いた話をお伝えします。
ある生徒さんが、弓道教室の錬士五段の先生に「弽はどういうふうにサイズを決めたらいいですか?」と質問しました。すると、その先生の答えは——
「僕もここの道場に置いてあるレンタル品の弽しか使ってないから分かんないんだよね」
錬士五段です。弓道の世界では、高段者以外は弓を教えてはいけないというルールがあります。それは半端な内容を教えないためです。しかし、その高段者が道具を買わずにレンタルで済ませているなら、どうやって初心者に正しい道具選びを教えられるでしょうか?
★ 高段者の先生に弽の選び方を聞いても、ほぼ分からない。教わったとしても間違った内容を教わる可能性が高い
だからこそ、皆さんは自分で道具選びの知識を身につける必要があるのです。
取り掛けを楽にする2つのストレッチ
最後に、取り掛けを楽にするためのストレッチを2つご紹介します。これらは筋膜の柔軟性を高め、指の可動域を広げる効果があります。
ストレッチ①:人差し指と親指の間を広げる
人差し指と親指を広げてみてください。私は野球の経験もあり、自分でも伸ばしているので90度以上開きます。しかし、この角度が狭い人は、取り掛けで握りやすくなってしまいます。
なぜか?解剖学的に言えば、母指内転筋や第一背側骨間筋の柔軟性が低いと、指を広げる動作ができず、握るような力を使ってしまうからです。
やり方:
- 壁やテーブルの角を使う
- 人差し指と親指の間を押さえつけるように広げる
- 10〜15秒キープを数回繰り返す
ストレッチ②:中指と薬指の間を広げる
三つ掛けで取り掛けをするとき、中指と人差し指で親指を押さえますが、このとき小指と薬指は力を抜いた状態が理想です。
しかし、指の間の柔軟性が低いと、中指に力を入れた瞬間、一緒に薬指も小指も握ってしまいます。これは指の独立した動きができていない証拠です。
やり方:
- 中指と薬指の間に反対の手の指を入れる
- ゆっくりと広げていく
- 中指だけ力を入れ、薬指は脱力する練習をする
この独立した指の動きができるようになると、取り掛けで「力を入れたいところは入れて、抜きたいところは抜く」という繊細なコントロールが可能になります。
まとめ:正しい道具選びが上達への最短ルート
今回お伝えした内容を整理します。
- 巻藁トラブルの95%は弽選びの問題
- 人差し指と親指の間がゴワつく弽は避ける
- 中指・人差し指が曲がってしまう弽は避ける
- 初心者は控えが柔らかい弽から始める
- 人差し指と親指の間、中指と薬指の間のストレッチを行う
弓道の上達において、道具選びは想像以上に重要です。正しい弽を選び、正しい取り掛けを身につければ、巻藁での練習は驚くほどスムーズになります。
「自分の射がうまくいかないのは、技術が足りないからだ」と思い込んでいませんか?もしかすると、道具を見直すだけで解決するかもしれません。
今日からぜひ、ご自身の弽をチェックしてみてください。そして、大の字に開く身体の使い方を意識しながら、楽に弓を開ける感覚を掴んでいただければと思います。






