浦上範士の足踏みの教えは本当に正しいのか?

足踏みの動作を教わる際に、足の置き方や重心の位置を定めることは大切です。適切に重心を定めなければ、上体を伸ばすことができず、弓が引きにくくなるからです。

 

そこで、浦上栄範士の足踏みの説明によっても、足踏みの説明がなされます。しかし、よく文章を読んでみると、浦上氏の文章には、本当に正しいのかの「疑問」があります。

 

もちろん、私は日置流のことが嫌いだから、このように話しているわけではありません。しかし、物理的な知識をもって文章を解析してみると、教本の浦上範士の文章には、多いに疑問があります。疑問が多く、合理性のない文章は、言葉だけ取り入れると、射の技術の低下を招く危険があります。

 

そのため、気をつけるようにしてください。

 

足踏みの体重の置き方は左右に分ける必要があるのか?

まず、浦上範士の文章の足踏みには、「左右の足で重心の置く位置を変えるようにすると姿勢がぶれにくくなる」という教えがあります。

 

足踏みはただ、外見上の安定感ばかりではなく、弓を引いてこれを支えた場合、重量感を受けるから、力の入れどころにも自然に注意が必要になって来る。

 

日置流では左が爪先に、右は踵に力を入れるように教えている。こうすれば、上体が前に出たときは無意識に左爪先で支え、後ろにかかったときは右踵で支えるから、前後に動揺することがない〜浦上範士〜(弓道教本二巻、足踏みの説明より)

 

このように、左右の足で重心の置く位置を変えれば、たとえ前や後ろから押されても姿勢のブレが抑えられると解説しています。確かに、一文を見ると、なるほどと思わせられるような考え方です。

 

ただ、このように、両足の重心の置く位置を変えて、前後のブレを抑えることを強調しても意味がありません。理由は、初学者を含め、足踏みにおけるずれで多いのは前後方向ではなく、弓の反発力がかかる「左右方向」だからです。つまり、弓を引く際にかかる、左右の力に対して姿勢がぶれないことが大切になります。

 

例えば、初心者の場合、引き分けから会に至る際に、胸が前方に出た「出る尻鳩胸」の姿勢になってしまうことがあります。もし、浦上範士の教えを参考にするならば、上体が「前」に動いています。すると、改善策は、体が前方にぶれないように「左足」に重心を乗せるようにすれば、問題が解消されます。

 

ただ、残念ながら、このように左足に重心を置いたとしても、胸の前方突出は抑えられません。なぜなら、胸が前に出てしまう原因は弓を引く動作の際につい入ってしまう「力み」だからです。

 

腕が力み、肩が力むと上体が浮き上がって旨が前方に出ます。弓を引いて初めての人、力が弱い人、押す角度を間違えた人など、弓の引き方の不正が起こってしまったら肩や腕に力が入ってしまいます。すると、下半身で踏ん張る力が弱くなり、上体が浮き上がったような姿勢になって、重心が前後に移動します。

 

したがって、具体的な解消方法としては、肩と腕の力みを取り去ることが先となります。

 

腕や肩の力みを取るようにして、なるべく最初は「大きく弓を押し開いていく」ことを目的とします。すると、腕や肩の筋肉を積極的に使うようになり、体もリラックスしてきます。もしも、左足に体重を乗せたまま射を行わせてしまうと、左足に体重が乗っていること自体気になってしまい、上半身が力んでしまいます。

 

つまり、前後のブレを抑えるために、左右の足に重心を乗せる位置を変える必要が果たしてあるのか疑問です。する必要がないともいえますが、ここは指導者の解説の仕方によります。

 

「左足はつま先に載せる、かかとに載せる大切さ」を論理的に解説できるのであれば、教えてもよいでしょう。しかし、そのようなことをせず、ただ「上の先生がそうお話しされているから」と言ってしまうのであれば、意味のない情報に結果的になります。このように、根拠のない情報はなるべく鵜呑みにしないようにして、正確に文章を読むほうが最適といえます。

 

ちなみに、私はこのような指導は行いません。なぜなら、過度に左足に体重を乗せるようにしてしまうと、会に左右の骨盤にぶれが発生するからです。左足に力を入れると、弓を押しやすくなります。しかし、それによって、右腰が後ろに引けて、両肩と両腰骨が的の線上に対して揃った線が妻手を後方に引き付ける意識がおろそかになってしまいます。

 

その、結果として離れで矢が真っすぐに飛ばない危険があります。

 

本当に、足の位置を変えて、ねらい目が変わるのか?

いっぽう、日置流では、足の位置を変える教えがあります。具体的には、的が前後にぶれてしまったら、そのときに合わせて右足の踏む位置を変えるように教えています。

 

足踏みは、一直線上に出入りなく踏み開くべきであるが、その日の身体や気分の具合によって弓を引く力のつり合いが異なることがあり、それが自然に矢と美に影響して来る。何時もと同じに引いても、矢が前にばかり出たり、後にばかりはずれたりすることがある。

 

斯様なときは左足を動かさず、右足を動かして修正するのである。これを日置流では教外口伝といって、六十ケ条の別の教えとしている。

 

日置弾正(日置流の開祖)は「初矢一筋に習いあり」と教えており、正しく足踏みをして矢が前方に着いたならば、その日一日は前方につくものと思い、右足を少し前に踏み、矢が後ろに着いた場合は、反対に右足を少し後ろに踏むようにする。これを「権足の中準」という。 〜浦上範士〜 (教本二巻 足踏みより)

 

確かに足の位置を変えれば、狙いが変わるかもしれません。しかし、このようなことを果たして射において正確に行っていいのか?物理的に計算するとこの教えに従って良いかが不明です。

 

まず、狙い目です。弓道においては、的は28メートル離れています。つまり、立っている位置と的の位置は大きく離れており、矢の出る角度が1度違うだけで、横のずれは大きなものになります。計算すると、矢を放った角度が1度ずれると、42センチのずれになります。弓道の的が36センチであるため、離すときのちょっと拳の通る軌道がずれるだけで、的一個以上のずれになります。

 

物理的に考えて、最初の離れ動作での右こぶしの出す軌道を少し修正すれば、狙いは真っすぐに飛びやすくなります。実際に、初心者が弓を引いて、私が「最後まで限界に引き切ってから話してください」とお話しします。すると、的2個分も離れていた狙いが真っすぐに飛び、的中することがあります。

 

矢飛びが的方向からずれてしまう要因で多いのが、「ゆるみ離れ」です。右こぶしは常に、弦の復元力によって的方向にかけて拳が戻る力がかかっています。そのため、古くの弓道家は、「裏的方向に押す気持ちで」「こぶしではなく、右ひじで引け」という言葉を残し、右こぶしが戻らず、矢の線状に離れるように説明しました。

 

しかし、浦上範士の教えによると、狙いを変えるために右足の位置をずらすと説明しています。では、もう一度いいますが、一度ずれれば40センチ以上のずれが発生する弓の動作において、足を踏み方を変える必要があるのでしょうか?私には疑問です。

 

そのように実践されていることもあるかもしれませんが、「どのくらい右足を前後にずらすのか?」「どのタイミングでずらすのが適切か?」といった明確な説明、補足がありません。したがって、一般人の私たちにこの教えは実践できません。できないというより、下手にやらないほうが適切といえます

 

日置弾性氏は弓道史に残る有名な弓道家です。そのような弓道家であるため、人より尋常じゃない数の矢数をかけています。そのような、私を含め、凡人ではとうていたどりつかない矢数や稽古量をしている人であれば、「足踏みで右足の位置を前後にずらしてうまくいったとき」もあったと思います。なぜなら、昔の文献を見ればわかりますが、昔の弓道家は、右足を前後に踏みかえたり、柔軟に立ち方を変えないと、目当て物の距離や大きさ、高低がすべて異なっていたからです。

 

昔の本を何冊か読めばわかりますが、「船の上を想定して」「馬に乗っているときに」といった記述あり、昔の弓道射法の考え方には、細かい規則など存在しません。しかし、現代では、そのような状況、環境に置かれることがないむやみに足踏みの置く位置は変更する必要がありません。したがって、この教えは現実の稽古と少し感覚のずれた話をしているように思います。

 

足の踏み方を変える教えは実際に存在する

ただ、浦上氏のように、足を踏みかえる指導は、昔の弓道書籍を見ると、実際に存在します。しかし、その足の踏み方を変える教えは目的が異なります。

 

以下に、私が国会図書館で見つけた足踏みの位置を変える話について引用します。

 

引き手臂が上がる癖を矯正する法
引手ノ臂差し上り為めに十分引く自体はざることあり、斯の如きときは右の足を定側より少し前へ踏み左腰に力入れて打ち起これたる際、臂に充分重き物を括り付けたる心持にて耳の上より廣大に引き引き手の肩上に腕首乗せたるが如く直すべし(右足を少し前に踏んで、重いものwかつぐように引いていく)

 

引き手の右臂下に下がるの矯正する法
第一に右の足を後ろへ踏み、右の腰に力を入れて引き渡れ左右折り合いたる上へ胸を割り込む

 

(弓術独稽古 諸編 乾健一郎 著より、) 

 

実際に、古くの弓道文献を見ると、この資料の他にも足踏みをずらし、射における癖を改善する方法が記されています。ちなみに、この教えが本当に正しいか同じ弓道仲間で検証しました。その結果、右ひじが下向きに入っている人は斜めに入り、力んでしまう人は、きちんと入ることが確認できました。

 

そのため、私は足踏みを前後に入れる教えは「狙い目」を変えるためではなく、「右ひじを収める角度を変えるため」と解釈し、説明しています。その他、右ひじの位置の収まりに悩まれているかたは、「足踏みの位置」を変えて、腰の力の入れ具合や弓を引く際の意識を変えるようにしてください。

 

上級者の内容を乗せても意味がない

さらに、教本二巻で浦上氏は、このような足踏みの踏み方、前後へずらす方法は「左右両肩に高下があったり、前後で入りのある特異な体格のものにも応用できる」と書いてあります。つまり、この内容は、一般人とは違う、骨格がずれた方に活用できる情報といえます。

 

ただ、そうだといっても、「特異な体格」という言葉が抽象的であり、判断しずらいです。といっても、このような教えがあったとしても、機能していない一面もあります。現代の弓道で、骨格のずれを判断して、自由な射形で引いても問題ないと説明できる弓道家が少ないからです。

 

他の弓道連盟の教えを聞くと、肩関節の付き方が人と違うのに、「肩が出ているから癖を直しましょう」といわれている人もいます。そのため、この教えが文章に合ったとしても、現実の弓道の世界と事情が異なります。

 

浦上範士の書に書いてあるとおり、「本当に昔の弓道家は初矢の飛び方でそのときの足踏みを変えていたのか?」という疑問はわかりません。少なくともいえることは、現代の弓道においては、物理的に狙い目を変えるために足の踏む位置までを変える必要はないということです。

 

今回述べたように、中立的に考えると、たとえ範士の先生のお話しされている文章であっても疑問に思う部分は多々あります。そして、間違っている場合も十分に存在します。これから、弓道の本を勉強される場合は、この事実を理解し、文章を読むようにしてください。

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