打起しで腕を上げるとき、
どうしても肩が一緒に上がってしまう…。
弓が照って打起ししてしまう。
このような悩みを持っている人もいると思います。この原因は腕の上げ方そのものにあるのです。
ただ、打起しの適切な上げ方を自分で見つけるのは難しいです。しかし、今回は、ある簡単な動作を用いれば、肩甲骨を使って無駄なく腕を垂直に上げる方法がわかります。
ぜひ取り入れてみてください。
結論:肩甲骨で腕を動かせば打起しは劇的に変わる
まず、打起しで肩が上がらないようにするために★ 肩甲骨で腕を動かせるようになることが重要です。
ここで明確にしておきたいのは、「肩甲骨から腕を動かす」動作と「肩から腕を動かす」動作の違いです。
肩甲骨から腕を動かす場合は、主に脇の下の筋肉(前鋸筋や広背筋)を使って腕を上げます。腕の力を抜いてください。そして、脇下の筋肉に力が入ると、腕が動きます。
一方、肩から腕を動かす場合は、肩の三角筋や僧帽筋上部が過剰に働き、肩全体が持ち上がってしまいます。これは純粋に、腕を動かしてください。そうすると、肩と腕が一緒に動きます。
この違いを理解し、打起しでは、肩甲骨から腕を動かすように意識してください。
わかりやすいのが座った状態で腕を動かすことです。
椅子に座った状態で腕を上に上げてみてください。次に、立ち上がった状態で同じように腕を上げてみてください。
★ 座った状態では肩は動きにくいのに、立った状態では肩が上がりやすくなることに気づくはずです。
これは、立位では重心が高くなり、体幹の安定性が低下するため、腕を上げる際に肩周りの筋肉が代償的に働いてしまうからです。
正面打起しでは、座った状態の時のように打起しすることが大切です。
弓構えでの「肩で胸を開く」が前提条件
ここで重要なのは、打起しの前段階である弓構えの状態です。前回の動画でもお話ししましたが、★ 弓構えで肩で胸を開いているかどうかが、打起しの成否を大きく左右します。
よくある間違いは、胸の筋肉(大胸筋)を使って胸を開こうとすることです。この方法だと、的方向に顔を向けた際に首の筋肉が詰まり、呼吸がしづらくなります。さらに腕を上げると、もっと詰まってしまいます。
正しい方法は、肩と肘を後ろにスッと引いて構えることです。胸の筋肉は一切動かさず、肩甲骨を寄せるようにして胸郭を開きます。この状態であれば、顔を的方向に向けても呼吸は全然大丈夫です。
肩で胸を開いても打起しで失敗するケース
ただし、ここで注意が必要です。弓構えで正しく肩で胸を開けたとしても、★ 打起し動作で肩を使ってしまうと、結局うまくいかなくなります。
つまり、弓構えという「構え」が良くても、打起しという「動作」が悪ければ、せっかくの良い状態が台無しになってしまうのです。これが第二のポイントです。
では、どうすれば肩を使わずに腕を上げられるのでしょうか。その答えが「呼吸」にあります。
呼吸で腕を上げる感覚をつかむ
肩の筋肉を使わずに腕を動かす感覚を身につけるために、次の練習を試してください。
椅子に座った状態で、両腕を軽く前に出します。そこから息を吸って…吐いて…を繰り返してみてください。
呼吸に合わせて脇の下の筋肉が動いているのがわかりますか?ところが、★ 肩のこの辺り(僧帽筋上部)は全然動いていないはずです。
この「肩が動かない状態」で構えを作ることが重要なのです。
呼吸を使った打起しの実践
具体的な方法をお伝えします。
まず、肩で胸の筋肉を開いた状態で弓を構えます。深呼吸がしやすい状況を作ってください。そして、★ 呼吸で腕が動くようなイメージで打起しを行います。
息を吐いて…息を吸って…この息を吸うタイミングで腕を上げていくと、肩の筋肉をほとんど使わずに、スーッと真上に楽に上がっていく感覚がつかめるはずです。
深呼吸の本当の意味:流れを作る
ここで、弓道における「呼吸」の本当の意味についてお話しします。
多くの方は、呼吸を「心を落ち着けるため」のものと考えています。もちろんそれも一つの効果ですが、私が重視しているのは★ 呼吸は弓道の動作の「流れ」を作るためにあるということです。
深呼吸を正しい姿勢で行うと、何が起こるか観察してみましょう。
- 息を吸うとき:胸郭が広がり、肩(胸)が開く
- 息を吐くとき:肩甲骨の位置が下がる
つまり、深呼吸の動作を通じて、息を吸うことで胸を開き、息を吐くことで肩甲骨を下げるという、弓を開くために必要な二つの動きが自然に起こるのです。
呼吸動作がもたらす三つの効果
正しい姿勢での深呼吸は、以下の三つの効果を同時にもたらします。
- 開く力が生まれる:胸郭の拡張により、横に開く力のベクトルが自然に発生
- 呼吸が整い心が落ち着く:副交感神経が働き、リラックス状態になる
- 肩が下がる:肩甲骨が下方回旋し、適切な位置に収まる
★ この三つが全て揃った状態を作れるかどうかが、打起しの成否を決めます。
意識的な深呼吸では効果が出ない理由
ここで一つ注意点があります。「呼吸に合わせて動作をしましょう」「腕を垂直に上げましょう」という二つの知識を頭で理解して、意識的に深呼吸をしながら打起しをしても、実は力が入ってしまうのです。
なぜか?それは★ 気道が潰れているからです。
肩で胸の筋肉が開けていない状態で顔を的方向に向けると、首の筋肉が縮んで気道が狭くなります。息も吸いづらく、吐く量も少なくなります。
この状態では、いくら「呼吸を意識」しても、本当の深呼吸にはなっていません。死ぬわけではないので動作はできますが、垂直に上げても力は入っているのです。
具体的な稽古法
では、正しい打起しを身につけるための具体的な稽古法をお伝えします。
- 椅子に座って呼吸練習:座った状態で深呼吸し、肩が動かず脇の下だけが動く感覚を確認する
- 弓構えでの胸の開き確認:肩と肘を後ろに引いて胸郭を開き、的方向を向いても呼吸が楽かチェック
- 呼吸に合わせた打起し:息を吐いて準備し、息を吸いながら腕を上げる。このとき肩の位置が大きく動いていないか観察
- 鏡を使った確認:打起し中の肩の位置を鏡で確認し、上がっていないかチェック
- ゆっくりとした動作:最初は非常にゆっくり行い、肩甲骨主導の感覚を体に染み込ませる
最初の構えが全てを決める
最後に強調したいのは、★ 最初の重心をしっかり下げて骨盤を引き上げ、垂直に立てる力ができていれば、これらの動作は自然にできるようになるということです。
足踏み・胴造りで正しい姿勢ができていれば、深呼吸は自然と深くなり、胸も開き、肩甲骨も適切な位置に収まります。そして呼吸の流れに乗せて打起しをすれば、肩は上がらず、横に開く力も自然に生まれてきます。
つまり、個別の技術を一つ一つ意識するのではなく、正しい構えから全てが連動して生まれてくるのです。これが「理論弓道」の核心です。
まとめ
今回は、打起しで肩が上がる原因と、肩甲骨を使って無駄なく腕を上げる方法についてお伝えしました。
ポイントを整理すると:
- 肩甲骨で腕を動かす感覚を身につける
- 弓構えで肩で胸を開き、深呼吸しやすい状態を作る
- 呼吸の流れに乗せて打起しを行う
- 息を吸うときに胸が開き、息を吐くときに肩甲骨が下がる
- この一連の流れで開く力も自然に生まれる
「呼吸で腕を上げる」という感覚は、最初は掴みにくいかもしれません。しかし、正しい姿勢を作り、呼吸の流れを大切にすれば、必ず体得できます。
ぜひ今日の稽古から、椅子に座った状態での呼吸練習から始めてみてください。肩が動かない感覚を掴めたら、それを弓構え・打起しに応用していきましょう。あなたの打起しが、スーッと真上に楽に上がる日は、そう遠くありません。






