手の内で指をそろえようと意識しすぎると、射は失敗する

この記事では、手の内に置いて形を決めてしまうとうまくならないどころか、弓道の実力を低下させる危険がある。そんなことをお話していきます。

まず、指導者に手の内を教わるとき、本で調べると、指の揃え方を教わりますよね。例えば、以下のようなものがあります。

・三指をそろえる

・小指と親指をそろえる

・中指と親指で輪っかを作る

こうした手の内を教えて「手の内を習う段階で整えなければ、弓道の技術は向上しない」とも説明する指導者がいます。高段者に言われたら「やらなきゃいけない」と思っちゃいますよね。ただ、この考え方は間違っていますので、気にしないでください。

というのも、解剖学や体の仕組みから考えると、「指を整えると皮膚組織への摩擦が強くなり、神経、脳への刺激、筋肉の働きに悪影響が出るから」です。この内容を詳しく解説していきます。なんとなく、形を揃えておけば良いという発想はやめましょう。力が入って弓をうまく押せなくなります。

指の形を整えると、脳と腕に強い緊張が走る

弓道に限らず、日常生活、仕事、スポーツにおいて、「指先」「指」は大きな役割を持っています。その理由として、人は指先をそろえようと無意識に力を入ると、腕、肩、頭部に無駄な緊張が走るからです。

人の皮膚には、触覚、痛み、寒気など、微細な感覚を感知する神経があります。

具体的には「マイスナー小胞体」「ルフィニ終末」「パチニ小体」などの感覚器です。

「Wikipedia「皮膚」より出典」

これらの感覚器は皮膚の表層に存在し、その役割は、細胞膜に電気的刺激を与えることです。

この電気的刺激により、細胞膜外で電位差が発生し、血液の循環が始まります。この反応によって、老廃物の除去、周辺の筋肉の活動、自律神経(精神、感情にかかわる神経)の活動の調整にかかわります。

ざっくりいうと、皮膚をプニプニ触ると表面にいる細胞がその圧力を感じ取って脳に「指の筋肉に力を入れて」「もっと指に血液送って」と命令を流していると思ってください。

なぜ、恋人に手を握ってもらうと気持ちが安心するか?恋人の手に触れる圧力で皮膚が脳に「この刺激は心地よい」と刺激を送るからです。

そして、指先の皮膚が硬くなったり強い圧迫を与えたりすると、腕や肩、脳に強い緊張が働きます。なぜなら、感覚器に過度に圧をかけると、電気的刺激が高くなりすぎるからです。これによって、過剰に血流が促進され、筋肉の無駄な力みや自律神経の働きの崩れを起こします。

聖徳大学で皮膚について研究されている山口教授は人間の感覚は「皮膚、筋肉、脳」であると説明しています。つまり、皮膚の接触と人の感情に与える影響は重要な意味をもっています。

簡単にいうと、皮膚に柔らかくタッチすると気持ちが緩みます。ふかふかのベットに身を預けるとその刺激を背中の皮膚が感じ取って気持ちよく感じます。しかし、硬い所に触れると圧力が強すぎて、不快に感じ取って力が入ってしまうのです。

指を整えると、大三で強く皮膚がすられてしまう

そして、なぜ指を整えと、手に力が入ってしまうのでしょうか。それは、正面打起しで、弓の中に手を入れていこうとすると、皮膚の擦られる力が強くなりすぎるからです。

指の形を整え、その形を最後まで変えないようにすると、弓が手の中に回る際に、大きな摩擦が生じます。こうして弓と皮膚とで摩擦や圧力がかかりすぎてしまい、皮膚の感覚器が強く反応してしまい、「左手を握るための刺激」が強く送られてしまうのです。そうして、左手が力んでしまいます。

もし、大三をとる際に、手の内と弓との間で「ぎりぎりぎりー……」と音が出ていたら、危険のサインです。手の内の形に強くこだわりすぎてしまうと、大三で弓と掌の皮膚の間で強い摩擦音が生じ、無意識に握ってしまいます。

これは、皮膚にかかる圧力が大きすぎて、表層にある感覚器が過度に反応し、「軽い緊張」が起こっているともいえます。つまり、皮膚をソフトに扱ってあげて、弓を引ければ、一人前と言えます。

皮膚が身体に与える影響は大変大きいです。人の手は寒気を感じると、手だけではなく、腕や肩も身震いします。これは、指先にある神経の電気的刺激により、腕や肩の神経、筋肉にまで情報が伝播するからです。あるいは、人は手をだれかにぶたれると、痛さは手にしか残りません。しかし、その痛さは脳で感知し、「手」しかぶたれていないのに、脳に痛い感覚が強く残ります。

なぜなら、手に痛い刺激が来たら、それによって生じた毒素や痛み物質(ブラギニン、ヒスタミン)を広い範囲に拡散しないよう、制御されるからです。このように、人の指先は腕、肩、脳まで密接な関係を持っています。そのため、皮膚は柔らかく、大切にしてあげてね。

指導者が受手に批判や指摘をしてはいけない理由

ちなみに、指導者がダメ出しや指摘をすると、手の内が硬くなって、受け手が下手になっていきます。そのため、指導者はダメ出しをしてはいけません。

なぜなら、脳が緊張すると、指先も同調して硬くなるからです。

例えば、指導者に稽古している方に「○○ができていない」「▽▽が悪い」と指摘をされたとします。このようなネガティブな言葉をかけられると、その言葉によって頭が緊張し、連動して手が緊張します。「指先が震える」「手の筋肉が硬くなる」「汗ばむ」こういった手の反応は、指導者に叱責を浴びることで起こります。

人は寒気や恐怖感を感じると、同時に腕や手にも緊張が走ります。暗い空間で人気を感じたら、体をびくつかせ、両腕で体を抱えるように動かします。これは、奇妙な感覚を「耳」や「眼」で感知し、脳が「恐怖」「不気味」と認識し、腕や手が動いてしまうからです。頭で怖いと思ったら、手も一緒に硬くなるのです。

つまり、手の内の無駄な力みを取り去るためには、単に力を抜くだけではなく、あなたがどのような環境で弓を引いているかも大切と。当然、指先の皮膚が硬くなったら弓道は上達しません。脳に過度な緊張がかかった状態では、全身の筋肉を最大限に働かせることができなくなるからです。

弓道の射法訓には、「胸の中筋から離れる」と呼ばれるものがあります。これは、弓を引いている最中は、胸から開くくらいに、全身の筋肉を活用して遠くに飛ばしてください。という意味です。そのためには、「皮膚」を緩めて、全身の筋肉をリラックスさせる必要があります。

あなたがさらに弓が引けるようになり、身体全体の筋肉を活用するためには、自分自身の「皮膚感覚」にも目を向けて、弓を握るようにしてください。「形を整えて手の内の形を変えない」「ダメ出しする指導者に指導を受ける」といったことをすれば、弓道はうまくなれません。軽く握って、変な指導者からおさらばしましょう。

ちなみに、古くの弓道書籍にも

「様々な教えがあるが、要は弓を堅く握りすぎないこと(弓道教本二巻「高木範士手の内の説明より」)」

「手の中(手の内)は軽く握って握るという意義を解く(心月射儀「梅路見鸞氏手の内の説明より」)」

古くの弓道の先生は、握る形より、むしろ無駄な力みを取って握ることを強調しています。そのため、まずは「形にとらわれず、軽く握る」ことだけを意識してください。

リラックスして高く弓を打起し、スムーズに大三で左手を入れてあげてください。そうすれば、弓道の実力は伸びていきます。

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