会において抽象的な表現が多いために、何を行えばよいかは勉強することが大切であることはお話ししました。次に、会において何をすべきかを明確にすることで、射の技術を現実的に向上させられます。
その中で、充実した会を保つための条件があります。具体的には、「肩周りの筋肉」を効果的に活用することで、安定し、かつ矢を真っすぐ飛ばすための射形(会の状態)が完成します。
ここでは、力強い離れにつなげるための会の条件をいくつか解説していきます。
教本2、3巻の解説 手順 適切な会を行うために、「抽象的な表現」を無視する https://rkyudo-riron.com/kyou23_hikikai/kai 安定した会を身に着けるためには「肩周りの筋肉」を活用する https://rkyudo-riron.com/kyou23_hikikai/kai-2 *ここの記事を読んでいます 「西半月の位なり」に沿って狙いを定めても矢が真っすぐに飛ばない理由 https://rkyudo-riron.com/kyou23_hikikai/kai-3 |
肩周りの筋肉を使えるようにする
まず、具体的に会で使うべき筋肉は「肩周り」です、さらにじっと待って矢を放つまでの余裕を持たせるためには「肩周り」の筋肉を使うようにしてください。
この理由として、肩周りの筋肉は「厚みがある」からです。
腕や肘の筋肉は自分の意識で動かしやすい分、「力が弱い」という欠点があります。したがって、会でさらに弓を後方に引き付けるときに、弓の反発力によって肘が押し戻されてしまいます。したがって、会でさらに弓を押し開き続けるのに適していません。
弓の反発力は離れまで持続的に身体にかかります。加えて会では、弓の反発力は身体に大きくかかっています。さらに、離れ動作で今よりも弓を押し開くためには、今よりも弓を押し開くための「力」が必要です。つまり、「長く」「強く」「深く」弓を押し開くためのどのように筋肉を活用すべきかを考えないといけないのです。
もし、腕や肘の筋肉を使う場合、持続的に弓を押し続けることができません。したがって、会において右腕関節の位置がずれてしまい、次の離れ動作に悪影響を与えます。
具体的には、脇正面から見て「右ひじが前に出た射形」になります。
矢を真っすぐに飛ばすためには、必ず右ひじが離れの時に拳一個後方に動かなければいけません。なぜなら、この状態になると、右ひじ自体を後方に動かすことができなくなります。右ひじが後方に動かなければ、右こぶしが矢の線状を通るように動きません。したがって、矢が真っすぐに飛ばなくなります。
それでは、右ひじはどの位置に収まるとよいでしょうか。正解は「肩より後方」です。肩より後方に右ひじが入り、脇正面から見て「肩関節が右ひじによって隠れる」程度に右ひじが後方に引き付けられた射形を目指します。
上記の図を見ればわかる通り、右ひじによって右肩が隠れています。これだけ右ひじが右肩より後方に入ると、離れの際に、拳一個分右ひじが後方に動きます。それによって、右こぶしが矢の線状を通るようになり、矢が真っすぐに飛びます。
このように、右ひじを方より後方に引き付けるためには「肩周りの筋肉」を効果的に活用する必要があります。肩の筋肉は大きく、厚みがあります。さらに、肩甲骨周り、脇周り、背中の筋肉など弓を押し開くのに使える筋肉が多く存在するため、「持続的に弓を押し続ける」ことができます。
さらに、次の離れ動作まで弓を押し開くことができます。
「肘で引け」といわれて、本当に肘を意識してはいけない
実際に、教本の原文(射學正宗)を見ると、「肩の力を用いる重要性」について説いています。肘を動かす力、肩周りの筋肉を使う力を比較して、「肩周りの筋肉を使うようにし、肘の力を使ってはいけない」と説いています。
射學正宗「匀」の項より
~前功盡く棄る故に曰くきんの法肩を用いるより妙なるはなし而して臂を用いるなかれ~
匀・・・射法八節での「会」にあたる
体重を百分比にして、肘にかかる重さは全体の2%です。つまり、肘についている筋肉は全体から見ると、圧倒的に少ないです。それに比べて、肩周りの筋肉は体幹部の重量から換算すると、全体の30%弱はあります。非常に多いため、肩周りの筋肉を射行中に効果的に活用する必要があります。
そのために、弓道の世界では、積極的に肩を使わないといけません。よく、弓道の世界で「弓は手先ではなく肘で引け」と説明されることがあります。これでは説明不足であり、「なぜ、肘を使わないといけないのか」という理由を説明し、それが肩周りの筋肉を活用することにつながることを解説しなければいけません。そうでなければ、「肘で引く」と意識しても、結果的に「手先で引く」形になってしまいます。
肘で弓を引く方法、肩周りで弓を引く方法
では、ここで「腕で弓を引く」「肩周りで弓を引く」二つの筋肉の使い方について解説していきます。
まず、会で弓を引き切った状態を作ってください。その後に、腕を使って肩甲骨を寄せるように、両腕を後ろに引きつけてください。すると、背中側の筋肉が縮み、筋肉を使った感触があります。この筋肉の使い方では、「腕は動いていますが、肩周りの筋肉は活用できていない」状態になるために、安定して会を持たせることができません。
「背中側の筋肉が縮んでいるのに、肩周りの筋肉が使えていない?どういうことだ?」と文章だけを見たら思うかもしれません。これは、弓道教本の引用元である「射學正宗」には、「胸前開き、背肉縮む射」のことをいいます。意識的に自分で背中の筋肉を縮め、弓を大きく引くための「肩周りの筋肉」と活用した引き方になります。
ただ、この引き方は「下手用の工夫=うまく行かない人のための工夫方法」と説明されています。つまり、肩周りの筋肉の使い方がわからない人にうまく説明するための方法であって、正しい方法と解釈できません。弓道の世界では、「肩甲骨を寄せるようにして(=背中の筋肉を自分で縮めて)引け」と教える先生がいます。しかし、この方法ばかり行っても肩周りの筋肉を使って引けるわけではないので、気をつけるようにしてください。
では、「肩周りの筋肉」を活用した引き方の正解はどうでしょうか?引き分けで会の形を作った後、左右の肘を直線方向に外側に開く(肩甲骨を開く)ように動かしてください。このようにすると、腕の付け根が伸ばされるようになって「肩周りの筋肉」が使われます。
両腕を体に寄せる動きは、体の周りに腕を近づけているだけです。一方、左右の肘を外側に開くように動かすのは「体に対して両腕を引き離す」ように腕を動かします。一見、小さなことのように思いますが、これが内臓に与える影響は大きいです。
中力から会に入るにしたがって、体が弓に寄せられながら前面に開いてくるので(張ってくる)、これによって、後面の張りに対して両肩がはまるのである。~神永範士~
腕の付け根周りの筋肉を固めると、心肺機能に負担がかかる
肩関節周りには、腕関節につながる神経や腱が集中しています。したがって、肩関節と腕関節の付け根は弓の反発力によって、圧迫させるのではなく、むしろ外側に開いて離してあげる(治療の世界ではこの行為を「はがす」とも表現されることあり)ようにします。
そのため、左右の肘を外側に開くように動かすことは、解剖学の点でも理にかなっています。しかし、「肩周りの筋肉を使う=肩甲骨を寄せる」と勘違いしてしまい、肩甲骨を寄せようとすると、弓の反発力に合わせ、背骨周りの筋肉が硬くなります。その結果、みぞおち周りの「横隔膜」の筋肉が硬くなります。
すると、肺を膨らます呼吸運動がしづらくなり、心臓、肺に負担がかかって心拍数の増加や感情のぶれにつながります。したがって、離れ動作をスムーズに行えなくなります。このような欠点を防ぐために、肩関節と腕関節はできるだけ開くようにして、「心肺機能」に負担がかからないようにする。
このように、腕関節の付け根が圧迫されてしまい、さらに弓を押せなくなった状態を「縮んだ会」と表現されます。縮んだ会は、肩関節と腕関節のはまる位置がずれてしまったことで身につきます。
会として望ましいのは伸びられる会で、これは弓に勝つが、望ましくないのは縮む会で、これは弓に負けるのである~神永範士~
実際に、神永範士の弓の引き方を見ると、左右の肘を最大限に伸ばした射を実践しています。このようにすると、弓がもっとも開いた状態になります。さらに、腕や心臓に負担がないために、「少ない力、意識」で弓を押し開き、離れが鋭くなって矢飛びも良好になります。
肩周りの筋肉を活用すれば、「詰合」の意味がわかるようになる
では、ここまで解説すると、弓道の世界でいわれている「詰め合い」「伸び合い」についてなんとなくイメージがつくと思います。
会に収まったら左右の肩甲骨が両方から詰め合うように全力を挙げて十文字に伸び合う。~宇野範士~
詰め合いとは、これまでの解説を取り入れると、腕関節を肩関節に、負担がないようにはめ込むことです。肩関節が上に浮き上がったり、右腕の関節が下や前に向いたりして、肩より後方に収まりきれていない状態を避けます。「結果的に弓の反発力がかかっても腕関節と肩関節がつぶされることのない」状態を作るのが「詰め合い」と解釈します。
実際に、腕関節をきちんと肩関節にはめて、誰かに押してもらいましょう。まず、左肩は下げて、左肘の皿を地面に対して垂直にそろえて、左手の平は少しだけ地面に向けるようにします。この状態で誰かに押してもらえば、姿勢全体が崩れることはありません。
一方、右肩を下げて、右肘の皿を垂直にたてるようにしてください。この状態で誰かに押してもらえば、関節がぶれないことがわかります。
教本一巻に、詰め合いは「三重十文字を整える」「五分の詰め」の二つのことを満たすように行います。つまり、肩と腕関節を適した位置に収めれば、縦方向の「姿勢」と横方向の両腕関節がぶれにくい状態になります。文章の内容を理解し、両側から押されても姿勢と腕がぶれない状態を構築するようにしてください。
この時に、弓と体は自然と近づくようになります。肩甲骨を背中側から前に開くようにします。すると、両腕が左右に伸ばされ、弓が開かれることで、弓と体が近づきます。このときに、矢は頬骨について、胸に弦がつくようになります。
「詰め合い」とは「引き分け三分の二」から矢束の残りを引き終わったときを言う。矢は頬骨の下につけ、的は左拳の上に置き、弦は胸につける。この三動作を頬付胸弦という。この三動作は同時に行われて、直に次の「伸び合い」に移らなければならない。~浦上範士~
「伸合」についても何となくわかるようになる
一方、伸び合いは、適切に腕の付け根と肩関節をはめた後、さらに弓を引き続けることです。そうすると、両腕の裏側の筋肉がさらに伸ばされ、「筋肉が伸びている感覚」が得られます。縮んでいる筋肉を伸ばすことで、関節のはまりがはずれるのを防ぎます。さらにそのように意識することで、自然と弓を押し開くことに集中します。その結果、無駄な動きやたるんだ気持ち、的をねらおうという「無駄な思考、考え」が浮かびにくくなります。
どのくらい伸ばすかというと、「自分の意識が続くところまで」です。最後まで押し続けていると、やがて伸ばしきって、瞬間的に「離れ」動作が行われます。これは、無意識レベルで行われます。意図的に「そろそろ離そうかな」と思った時に離すのではなく、最大限まで弓を押し続けた後に、離すようにします。
ただ、このように言葉にしたものの、詰め合い、伸び合いは古くの文献を見ると奥の深い内容がかかれています。例えば、古くの文献の一つには、詰め合いには「陰の詰め合い」「陽の詰め合い」の2種類あることもわかっています。つまり、これらの内容もすべて理解しなければ、詰め合い伸び合いについてわかったことにはなりません。少し学んだだけで「詰め合い伸び合い聞かせて云々・・・」とえらそうに話さないようにしましょう。
浅い会、深い会の本当の意味とは
深い会、浅い会についてもこれらの内容を理解すれば、なんとなくイメージがつかめるのではないでしょうか。深い会は、引き分けでしっかり肩関節と腕関節をはめて、押し続けることです。「はめる」という行為をきちんと行うこと、次に左右に押し続けることを続けることの質が高いことを深い会といいます。
一方、浅い会はこれとは反対に、「はめる」「押し続ける」という行為の質が低いことを差します。「左肩を落とす」という行為がしっかり行われず、「左肩甲骨を外側に巻くように開き、常に押し続ける」時間が「短い」と、会の質が低いと判断されます。
かといって時間だけが長くても意味がありません。会のときに、きちんと骨にはめこんだところまでは行ったものの、そこから左右に「押し続ける」動作が抜けると、ただ待っているだけの状態になります。この状態は、見た目では、会がもてているけども、弓の反発力を引き出せていません。さらに、弓を押し開き続け、鋭い矢勢と離れを出すための目的からはずれてしまうため、「浅い会」と判断されます。
或る私の関係者に平素行動に頼る遅鈍な人がいた。どうせ一切の射行為がのろいのだが、会に入ると中々放さない。ただわけもなく十五、六秒も保っているのでその心情をたずねたら、その秒数をかけなければ、発射心が起こらないと言うのだ。・・・・・
深会精神を遵奉して、果ては二十秒も三十秒も待つという人もあるが、それは第一に弓が弱すぎるとみるべきである。十秒も持てば腕力の上において弛みが来るというほどの弓を把るべきである~祝部範士~
つまり、関節にはめる動作と押し続ける動作を両方意識してできるだけ長い時間をとって行う必要があります。これらを併せて「深い会」といえます。深い会を実践するには、できるだけ右肘を肩より後方に入れて、左右の方向に押されても安定した姿勢をとらなければいけません。
引く矢束、引かぬ八束の正しい意味と実践する方法
先ほど申し上げた通り、「押し続ける動作が長ければ、会としては良いのか?」というとそういうわけではありません。押し続ける気持ちや動作は、見た目では「矢ジリ」で現れることを解説しています。これを、弓道の世界で「引く矢束」「引かぬ矢束」「ただ矢束」と表現しています。
引く矢束とは、まだまだ引けるのにも関わらず、弓を最大限押し開けていない状態を差します。このような事態は「弓の押し開く角度をわかっていない」「弓を押し開く気持ち、勇気が足りていない」などの精神的な理由で起こります。
優先順位を明確にして、弓を引くようにしてください。まず先に優先すべきことは「弓をいっぱい開くこと」です。これを先に行い、いつでも行うようにしてください。そうして、矢の長さ一杯に引くことになれて、「的付けする余裕」がでてきたら、ねらいを考える、手の内を考えるようにしていきましょう。
ちなみに、現代弓道における「引かぬ矢束」は、昔と解釈が異なります。引かぬ矢束は、しっかりと矢を引き込めば、会の後に見た目矢束に現れないと解説しています。
「伸び合いとは」「詰め合い」から離れに至るまでをいい、すなわち「会」である。力が両方に緊張して伸び合うので、この力は矢束の長さとなって現れない~浦上範士~
しかし、教本の引用元にあたる射學正宗では、「弓を引き込んだ段階で、まだ矢じりは浸やく進んで、未だ発せず」と解説しています。
そのため、引かぬ矢束ができていると思いこんで、「矢をさらに深く引き込むのはやめよう」と思わないようにしましょう。実際には、深く弓を押しひらいた後に、「さらに押し開こう」と思うことが大切です。そうして、1ミリでも2ミリでもいいので矢鏃を引き込もうと意識しましょう。もし、この意識がなくなってしまうと、射型はそろっているが、気持ちがゆるんでいる「ただ矢束」の状態になっているとわかります。
鋭い離れと確実な的中を手に入れるために、「引かぬ矢束」を身につけるようにしましょう。そして、「引かぬ」と書いてあるからといって、「ある程度まで矢束を引いたら引かない」と思わないようにしましょう。最後まで最大限引き続けるようにし、それを最後まで続けるようにしてください。
引かぬ矢束を実践すると、離れの質が向上する
ちなみに、引かぬ矢束を実践することで、より離れが鋭くなり、矢勢も強くなります。
先ず、矢の長さを引けるだけ引くようにします。取り懸けで右手首が曲がらないように、取り懸けの構造をきちんと決めて、目いっぱいに引くようにします。目安は、右手の拇指根が右肩先まで、具体的には外側が右肩の斜め後方に回るようにします。右ひじも肩の後方に回るようになります。
引けるだけ引いた矢は右手の拇指根の外側は、右肩の突角すなわち図示したように、いわゆる肩のはずれの点まで来ていて、右腕は背後の方に引き廻した姿を構成する~祝部範士~
目安としては、右手の角度が60度になります。右肩の右の突角まで引き取った右手は、これを懸金をかけた右手と言われています。
右手の角度は60度、すなわち胸の一番開く形勢でなければならない。・・・・・・かけ金にかけた形になれば、その時の弓力は右肩に来て、いわゆる全身でこれを形勢を構成して、それが弓法上合理的であることは明瞭である。~祝部範士~
このように、右ひじを後方に引き込んだ姿勢を作ることが充実した会を形成します。その理由は右ひじが後方まで回ると矢の線が両肩の線と近づくからです。
右ひじが後方まで回ると弓と体がほぼ一直線上にそろいます。そのため、会で弓と弦の抵抗力がかかるときに、右ひじや左拳が押し戻されることがありません。そのため、会の過程で右ひじを押し続けることができます。
それに対し、もしも右ひじが後方に回っていなければ、矢の線と両肩の線が離れてしまいます。すると、弓が体より前に出てしまいます。すると、弓と弦の抵抗力によって左拳と右ひじは押し戻されてしまいます。
このように、引けるだけ引いてもう引ききるところがない状態を引かぬ矢束といいます。筋肉の観点でいうと、全骨格筋肉が最大限に活用されて伸びた状態を表しています。
会は引き分けの延長で整った身心各部の機能が合致し、伸びきった頂点が会であり~高塚範士~
充分な矢束をとれていない状況でも会に至ることを引く矢束、ただ矢束と呼びます。その中でただ矢束は矢束をとれていない上に、その状態で待つことを表します。そのため、手首、肘、肩がずれる可能性があります。そのため、まずはただ矢から初めて稽古を重ねるうちに矢束をしっかりとれるようにしていくことが大切です。
持満と自満の言葉で理解しなければいけないこと
さらに、会にまつわる話は他にも多く存在します。教本の先生は他に会の説明で「持満」と「自満」という言葉を用いています。その二つの言葉を説明すると、
持満
会において一定の矢束を引き保ち、それ以上引きすぎたり、ゆるんだりせず、離れの時機まで持ち耐える状態をいう。
自満
自満は持満の理想的な状態で、持満は意識的に会を保つのであるが、自満は持満の修練によって、無意識に自然に押し引きの力や気息が充実調和して離れの機が熟するのをいう
(現代弓道講座7巻から引用)
二つの言葉は、教本を見ると、言葉の説明がかかれていますが、「どのようにすれば実現できるか」については具体的に書かれていません。ただ、次のように理解をしておいてください。
稽古しているときに、意識的に矢の長さ一杯に弓を引き、「気持ちも体も満ちあふれた状態」を作るのが「持満」、そうでなくても、自然とその現象が起こることを自満といいます。このように考えれば、理解が進みます。「矢の長さ一杯に引く」ことに徹して、それを意識的に行うか、無意識に起こったかの違いです。
「自満」が崇高の会であり、それを目指しましょう。というわけではありません。長年多く稽古すれば、自然と矢の長さいっぱい引けることがあり、その現象が起こるまで頑張りましょうという感覚で二つの言葉をとらえてください。
肩周りの筋肉を活用するためにやること5つ
次に、「肩周りの筋肉」を活用するために具体的にするべきことをまとめます。
少しだけ、右肩を上げて前に差し出す意識を持つ
会において、右肩を少しだけ上げる意識をもってください。引き分けの初め、「左肩を少しだけ下げて、右肩を少しだけ上げるように前に差し出す」意識で弓を引くと、右肘を後方に回りやすくなります。
もし、右肩について特に意識せずに、「目いっぱい弓を引こう」とすると、「右肩が引ける」という問題がでます。これが出てしまうと、「右肩が後ろに引け、左肩が前に出てしまう」問題が発生します。この射形になると、矢の長さいっぱいに引けないどころか、弦が腕に当たりやすくなり、危険です。
こののき肩の人では、右手を肩の突角まで引くということは望めない。それはそのはず、突角を示す肩が逃げていて、その辺に無いからである。~祝部範士~
右肩は少しだけ前に送るだけで会における安定感が増します。例えば、肩を少しだけ下げた状態と、肩を上げて前に差し出したときで腕を後ろに引いてみてください。右肩を少しだけ上げると、腕を後ろに引くときに右肩が後ろに引けにくくなります。
このことを教本三巻では、「右肩を翻し差し出せ」と表現しております。右肩を前に差し出すようにすると、右肩関節が少し上がり、右ひじが横に向くようになります。この状態で引くと、会に入っても右肩が引けず姿勢全体が安定します。
右肩を翻し差し出すようにすると、脇正面から見ると、「右ひじが上から測って60度の向きに向いた射形」になります。この射形になると、右ひじが肩より深い位置に引き込まれます。そして、最大限に弓を身体の距離が近くなります。弓の負担が「腕」ではなく、「肩周り」に負担がかかり、上半身全体の関節が安定します。
引けるだけ引いた矢は右手の拇指根の外側は、右肩の突角すなわち図示したように、いわゆる肩のはずれの点まで来ていて、右腕は背後の方に引き廻した姿を構成する~祝部範士~
右手の角度は60度、すなわち胸の一番開く形勢でなければならない。・・・・・・かけ金にかけた形になれば、その時の弓力は右肩に来て、いわゆる全身でこれを形勢を構成して、それが弓法上合理的であることは明瞭である。~祝部範士~
この内容に一つ注意していただきたいことがあります。それは、弓道の世界では、この教えを逆にして教えている人がいることです。弓道の世界では、「上から測って60度」ではなく、「横から測って60度」に向けた射形が適していると教えている人もいます。つまり、右ひじを斜め後方に入れるのではなく、少し立てるような構えで教えている人もいます。
このようにすると、弓の反発力を右腕で支えられなくなり、離れがゆるんで矢が真っすぐに飛ばなくなります。右ひじを下に向けようと意識して引き分けをすると、会に入る際にガクッと右ひじが下に下がる感覚があり、最後まで弓が押せなくなります。気をつけるようにしてください。
上から引き分けて両手が均衡を保ちつつ会に入ってくるが、ガクンと落ちない心づかいが必要で両手の下筋をきかしていかなければならない~神永範士~
身体の一部を動かそうとしない
次に、教本二巻の高木範士の文章を見ると、「ただ矢の長さいっぱいに弓を引くことに徹して、余計なことをしない」ことを示唆しています。この内容に則り、できるだけ弓を引く動作以外の意識は持たないようにしましょう。
会は教本の文章より、「会は引き分けの延長」「引き分けでは矢束一杯に引きこみ」と説明と記してあります。そこから、「ねらい目を考えるのがよくない」「身体の一部を不用意に動かすのもよくない」ことがわかります。
なぜなら、高木範士の文章には、
身、弓、心が調和することが大切である。
と記されているからです。この一文があるために、身体の一部を意識すると、三つの要素のどれか一部に意識が強くいきすぎてしまい、「調和」が乱れることがわかります。したがって、したがって、「狙いを考えるのが良くない」「身体の一部を動かすのもよくない」ということがわかります。
会においては弓の反発力が最もかかっています。この状態のときに不用意に関節を動かそうとすると、必要以上に筋力を使ってしまいます。
会の一見静止しているように見える中に隠されているエネルギーは非常に大きいもので、行射の運動中最大の運動量が内に存している~高木範士~
したがって、会において「身体の一部を無理やり動かして、意識する」ことは余計な力みにつながります。当然ですが、「会から離れにおける〇〇が大事」と特定の意識を作ることも悪い場合があります。
次のようなことをやってしまいがちですが、できるだけ行わないようにしましょう。
・狙い目を合わせるために、左拳だけを不用意に動かす
・詰めあい、伸びあいという言葉を意識して、肩甲骨を寄せて「詰めてる」、左肩関節の根本を外してまで左親指付け根を的方向に伸ばし、「伸びている」と錯覚すること
・「親指をはじくように放す」と意識しすぎて、離す瞬間に親指だけを跳ね上げるような動きをすること
・「会では丹田に気が集まって」という言葉を意識してしまい、「弓を引き続ける意識」をなくして「おなかあたりを何となく意識」してしまうこと
・「気力の充実」「無念無想」という言葉にとらわれてしまい、何となく頭の中で考え事をしてしまうこと
このようなことをやってしまうと、一生懸命弓を引いていたのに「無駄」になってしまう可能性があります。余計な意識を捨てて、とにかく弓を引き続けるように意識してください。
両拳に力が入らないようにする
さらに、神永範士の文章を見ると、会のときに、「力を入れるべき箇所、抜くべき箇所」が書かれてあります。これを参考に会でやるべきことについて考えていきます。
両拳は力を凝らず軽やかに~神永範士~
この一文があるように、両こぶしには力が入らないようにします。ただ、両こぶしに力を入れないといっても、力を抜く箇所がわかりにくいかもしれません。そのため、一つの箇所に注意して、両こぶしに力が入らないようにしてください。
まず、両こぶしではなく「人差し指と親指の間(虎口)」に力を入れすぎないようにしてください。虎口に力が入ると、腕の表側、肩の上部と他の筋肉に連動して凝りを与えます。すると、結果として弓を押し続けるための「筋力」が低下します。
ちなみに、神永範士は「前膊(肩から肘まで)は活躍線、上膊(肘から手首)は停止線」とも解説しています。この言葉にある通り、肘から先は力を入れないことを指し、拳にも力を入れないように意識します。そして、両こぶしの中で、最も力が入りやすい筋肉は、「人差し指と親指の間」です。
もし、人差し指と親指の力が抜けない場合、「人差し指と親指の間を広げる」ように意識してください。弓を押している最中、人差し指と親指の間は、常に圧力がかかり続けます。
なお、人によっては「人差し指と親指の間の皮を巻き込むように」と指導される人もいます。この教えは「自分で人差し指と親指の間を自分から巻き込ませる」教えではありません。したがって、「人差し指と親指の間を巻き込ませよう」という意識を持たないようにしてください。そのように、余計に左手首を動かそうとすると、左拳の力みにつながります。
軽くあごを引き、首関節を伸ばし続ける
次に首関節です。会に入った後に、一層「軽くあごを引き、首の後ろを伸ばす」意識をもってください。会に入ると、弓の反発力が肩周りにかかります。肩周りの筋肉に緊張が発生したとき、物見が無意識に戻る可能性があります。最後まで胴づくりを崩さないようにしましょう。頸椎が崩れるとその下の背骨、腰まで大きく響きます。
各部の骨節もその規矩にはまり、完全に一致して動かざること山のごとく、静かなること林のごとき気配を示す~松井範士~
左は左親指から、右は右肘先から押し続ける
最後に意識の仕方です。会においては左親指の付け根から押し、右肘を深く後方に入れ続けるようにします。
このように左右ともに押し開くことで、両肩周りが力むのではなく、脇下周りに緊張感が膨らむようになります。これは充実した会ができている証拠です。
このように、左右対称に押し続けている様子を、「応分に働かせる」「筋骨の釣合いをとる」といったように説明しています。あるいは左拳、右肘、下腹(丹田)の三点を結び、三角形の無限延長とも表現されています。
技の伸張は、弓手右手をそれぞれの約束に従って応分に働かせ、筋骨の釣合を計ることにある。~松井範士~
引き分けの無限延長境であらねばならない。つまり「大三」より左、右、丹田と三点を結んだ正三角形の無限延長であり、すなわち三足合尖ともいうべきである。~安沢範士~
「弓道教本三巻から引用」
これらの内容を理解し、実際の稽古に生かしてみてください。「肩周り」の筋肉を効果的に活用することで、安定した会が実現できます。
さらに、安定した会を得るためには、「狙い」についても深く勉強する必要があります。「西半月に狙いを定めても、矢が真っすぐ飛ばない理由」の記事から、会における正しい狙いの定め方について学んでください。