「左腕を軽く伸ばして」弓を押すと、楽に弓が押せて射形もきれいになる

引き分けにおいては、できるだけ矢の長さ一杯に弓を引いていく必要があります。そのためには、大きく弓を引くための右こぶしの働きだけではなく、左腕についても学ぶ必要があります。

ただ、大部分の人は引き分けにおいての左腕が力んでいます。大三から引き分けにかけて左腕が突っ張っていたり、左肩が上がっています。あるいは、左手全体が力んでおり、会に至る際には痛みが出てしまいます。

では、このような事態を解消するための弓の押し方について解説していきます。まず、矢の長さ一杯に弓を押し開くためには「軽く左腕を伸ばすように押す」ことを意識します。実は、この内容を学ぶだけで、弓道における引き分け動作は楽になります。加えて、何本弓を引いても疲れにくくなり、弓を押し開く動作を楽に行えるようになります。

教本2、3巻の内容理解する手順

①範士の先生の言葉から、技術が伸びる引き分けを定義する              (https://rkyudo-riron.com/kyou23_hikikai/hikiwake)

②技術が加速度的に伸びる大三を取る3つのポイント                                                    (https://rkyudo-riron.com/kyou23_hikikai/hikiwake-2)

③矢の長さいっぱい引くための右こぶしの働きをまとめる               (https://rkyudo-riron.com/kyou23_hikikai/hikiwake-3)

④ 左腕を軽く曲げると弓が押しやすくなり、引きやすくなる *ここの記事を読んでいます   (https://rkyudo-riron.com/kyou23_hikikai/hikiwake-4)

⑤ 合理的に楽に弓を引くための呼吸の話                                                                     (https://rkyudo-riron.com/kyou23_hikikai/hikiwake-5)

 

「左腕を軽く伸ばして押す」ほうが弓が押し開きやすい

引き分けにおける「左腕が突っ張る」「左拳に力が入る」問題を解消するためには、「軽く左腕を伸ばすよう」にして弓を押すように心がけます。まずは、軽く弓を押すような動作についてもう少し詳しく解説していきます。

まず、左肘を完全に伸ばしきった状態で壁を押します。すると、押した荷重は左腕全体に響き、肩の上部に力が入るのがわかります。このように、腕を完全に伸ばし切ろうとすると、左ひじの関節は上に浮き上がり、連動して左肩も上に浮き上がります。

反対に、「軽く肘を曲げる」ようにします。この状態で弓を押していくと、左肩に荷重がかからず、左脇下から左腕裏側にかけて弓の荷重がかかります。

弓を押し開く運動の際は、上記の写真のように、左腕が軽く曲がった状態が最も押しやすいです。射形も自然と整いやすくなるため、意識して取り入れるようにしてください。

なぜ、軽く左腕を曲げたほうが弓を押し開きやすいのか

では、なぜ弓を押し開く運動の際に、左腕を軽く曲げた方が押しやすいかについて解説していきます。理由は、弓は上部が長く、下部が短くできているからです。

まず、弓を押し開く運動をする際に、身体のどの方向に向けて力がかかるかについて考えていきます。単純に考えて、弓を的方向に押したとします。すると、弓はその方向逆方向に戻ろうとする力がかかります。しかし、人が最後まで押し続けると、弓の戻ろうとする力に対抗して弓を押し開く力が勝つようになります。すると、弓は円に近い形で開かれていきます。

次に、押し開かれた弓にが、元通りに弓が戻っていくのを考えていきます。このときに、弓は上部が長く下部が短いため、下部の方が形状がたわむのに大きな力が発生します。そのため、弓が元に戻るときは、下部の方からかかる「戻ろうとする力」が非常に強いことがわかります。

つまり、弓の下部から、自分の身体の脇下の方向にかけて「下から上に突き上げるような方向に力」がかかります。この方向に力がかかるため、引き分けにおいて左腕全体は上方に浮き上がりやすいのです。

もし、左腕を完全に伸ばし切ったとします。すると、弓を引き分けている最中に左肩から左ひじにかけての上腕を下に降ろしずらくなるため、左肩が浮き上がりやすくなります。反対に、軽く肘を伸ばした状態であれば、弓の反発力を受けても左上腕を下方向に下げられるように力をかけられます。つまり、弓の下部がもとに戻る力が体にかかっても、左腕が浮き上がりにくくなるのです。

このように、左腕が突っ張ってしまうと、弓は長く強く押せなくなります。理由は、左腕が突っ張ると、弓の反発力によって上に浮き上がるからです。この状態で弓を押そうとしても、弓道における「手先ではなく、身体全体で押し開く」という身体の使い方ができず、左腕に過剰に負担をかける結果となります。最終的に左肩、左腕に痛みが発生し、怪我をする可能性があります。

こうした事態を防ぐために、少しだけ左腕を軽く曲げて弓を押すようにします。この状態で弓を押し続けてください。楽な気持ちで弓を強く押し続けることができます。

左肩を下げると「脚力」さえも押す力に変換できる

左腕を軽く曲げるようにすると、左上腕と左肩を下げて、弓を押し続けることができます。このような姿勢で押していくと、さらに「体幹部に近い筋肉」を活用して押し動作できることがわかっています。具体的には「脚の踏ん張る力」を弓の押す力に変換できるのです。

試しに実験をします。まず、左肩を上げた状態で誰かに押してもらいます。この場合、押された圧力は「左肩」に集中します。

それに対して、左腕、左肩を下げた状態で押されたとします。すると、圧力は左肩ではなく「右脚」にかかることがわかります。これは押されたときに、「肩根」で受けるか、「体全体」で受けるかの違いによって起こります。

左肩の上部には、「三角筋」「僧帽筋」といった筋肉が存在します。これらの筋肉は肩の上部や首にかけて生えている筋肉です。肩関節を上げた姿勢で押されるとこれらの筋肉が収縮するため、肩や首の上部に負担がかかってしると感じます。

一方、左肩の下には、「前鋸筋」「広背筋」といった脇、背中にかけた生えている筋肉があります。左肩を下げ、押されると、これらの筋肉が収縮します。

広背筋は背中の筋肉で最も広い面積を有します。加えて、広背筋と連動して働く筋肉があり、その中に「大殿筋」お尻の筋肉があります。この筋肉は、骨盤を垂直に立てるだけではなく、坂道を登ったり、重いものを転がしたりして「踏ん張る」ときに活用される筋肉です。そして、大殿筋を収縮させると、太ももの裏側、加えてふくらはぎの筋肉にまで連動、つながりがあります。

つまり、背中の筋肉は脚先にかけて連動して働くといえます(専門用語で「ポステリアキネティックチェーン」とも言います。)もし、弓を押し開く際は、できるだけ全身の筋肉を活用したほうが大きな力を引きだすことができます。そのために、左肩、左上腕を下げた状態で押していくことが大切です。

ちなみに、教本二巻の高木範士は、弓を手先ではなく、全身の筋肉で押すための流れを詳しく解説しています。

左右の力の働きの関係を述べると
A.角見から二方向に働きは通じる。一方は角見→左肘の後ろ下。左上膊の後ろ側に通じ、左肩、左脊中から腰にいき、右足の裏へ納まる。他方は矢、弦、弽の方向に右肘と釣り合う。

B.弽からも同様に、一方は弽→右肘の後ろ下、右上膊の後ろ側に息、右肩右脊柱から腰へ通じて左足の裏へ納まる。他方は弽、弦、弓、手の内の方向に左手とつりあう。
 
これなどの力の働きの統合調和されたものが、これ以後の引き分けー会ー離れを生む原動力となるのである~高木範士~

「A」を見てわかる通り、弓の押し動作においては「右脚」の筋肉まで活用できます。それを実現させるために左肩、左上腕を下げて弓を引くことは大切です。そのためには、軽く左腕を伸ばして弓を押せるようにしましょう。

軽く肘を曲げたほうが射形も整う

ちなみに、大三、引き分け動作においても、「軽く腕を伸ばす」ようにすると、射形がきれいに整います。

大三、引き分けにおいて、射形が崩れて見える例として、「矢先が上がり、鳥打の射形になっている」場合です。鳥打の射形は矢の線が平行にそろわず、射形で「恰好が悪い」と判断されてしまいます。

さらに、大三や引き分け動作においては「弓懐の心持ち」を忘れないようにも指導されることがあります。つまり、弓構えのときのように腕は突っ張らず、柔らかく軽く伸ばしておいた方が見た目がキレイと判断されます。これらの内容は、昇段審査でもよく見られる大事なポイントです。

ただ、これらの問題は「左腕を軽く伸ばすようにする」ことで問題が解消されます。大三のときに、軽く左ひじを伸ばす程度にし、この状態を維持したまま弓手を動かしていきます。すると、弓手自体が下がるため、鳥打の状態になりずらいです。加えて、両腕のどこにも突っ張った状態がないために、「柔らかい印象」も保たれます。

神永範士の「猿臂の射」を実践する

では、このような押し方は特別な教えでしょうか。そのようなことはなく、教本二巻の神永範士がこの押し方を解説しています。神永範士は教本において「猿臂の射」を解説しています。神永範士も教本二巻では「軽く肘を曲げて弓を押すように解説しています。

古く「猿臂の射」といって左肘に弓懐の気持ちを残し、肘をクッションのように働かせる ~神永範士~

ちなみに、尾州竹林の富田範士はこの状態を「骨を残す」とも説明しています。つまり、左腕の筋肉を伸ばし切らず、関節を最後まで伸ばし切らないようにします。この状態を骨の伸びしろが残った状態として、「骨を残す」という名前で解説しています。

左肩を沈めることは弓手を強くするためである ~富田範士~

始めより左手を伸ばしきってツクに突っ張ることは悪い。多少の余裕を残すことが肝要である。これを「骨を残す」と称する。 ~富田範士~

このように、「猿臂」「骨を残す」という風に表現は異なりますが、「左腕を突っ張らせないで軽く伸ばすくらいにしておく」という意味で弓の押し動作を解説しています。他の弓道家も軽く左腕を伸ばすように押すことを強く推奨しています。

したがって、弓を押す際は、少しだけ左腕を伸ばすようにして弓を押すようにしましょう。

猿肘の射、骨を残す射を実践するために、理解しておきたい三つのこと

さぁ「猿臂の射」の重要性を理解したところで、さっそく弓を引いてみましょう。といっても、いきなり左腕を軽く曲げただけで、弓を目いっぱい押せるようにはなりません。他にも注意しなければいけないことはあります。一つずつ気を使って実践していきましょう。

①大三の際に、できるだけ左手の指の力を入れないようにする

②引き分けで弓を押す際に斜め上方に左こぶしを押すようにする

③力をかけずに、徐々に的方向に押していく

①~③の内容を実践することで、左腕を軽く伸ばしながら、最後まで弓を押すことができます。次に、①~③の詳細について解説していきます。

①大三の際に、できるだけ左手の指の力を入れないようにする

まず、大三から引き分けに入る際に、できるだけ左手の指に力を入れないようにしてください。ここで、左手指に力が入るようにすると、左こぶしの中で円滑に弓が廻りにくくなります。

大三から、引き分けに入る際は、自分から「握らない」ように心がけてください。手の内で固く握りすぎていない状態を維持し、大三から引き分けに行くようにしてください。

ここで無意識に「握ってしまう」方が多いです。大三においては、左手の中で弓が動くため、つい「握りたい」と思ってしまうのでしょう。始めは握ってしまっても問題ないですが、徐々に握らないように実践してみてください。

②左腕を斜め上方に押すようにする

次に、左腕を押す方向についてきちんと定めます。大三においては、左腕は「斜め上方」に向いています。したがって、斜め上方に押すように意識してください。

もし、左手が軽く握られている状態で維持できているとするならば、左の親指が力みなく弓の右側に入っていきます。左手首を無理やり外側に向けて弓手を弓に入れるのではなく、「左腕を斜め上方に押すことで、左親指が弓の右側に入る」ように方向づけをします。

ここで行ってはいけないことが、弓手を的方向に向けて入れてしまうことです。もし、左拳をいきなり的方向に向けてしまうと、左手首が外側に曲がりすぎてしまいます。この状態で弓の反発力がかかると、左拳にかかる負担が強くなってしまうため、弓を強く押していくことができません。

③力をかけず、徐々に的方向に押していく

もし、大三から引き分けにかけて、左手に余計な力が入らなければ、弓を楽な気持ちで大きな力で押すことができます。しかし、ここでも押す方向を「斜め上方」→「的方向」といきなり

押す方向を変えてしまうと、左腕の筋肉が緊張したり、うまく弓を押せなかったりします。

そのため、弓を押す方向を徐々に斜め上方から的方向に転換していきます。斜め上方に押して行けば、左手は自然と的方向に向いていきます。それに応じて斜め上方に押していく角度をどんどん的方向に近づけていきます。

徐々に押す方向を変えていけば、弓からの反発力がじわじわ左手の中に伝わってきます。具体的には、「正面から見て、親指が右の側木に少しずつ現れてくる」ようになります。引き分け→会にかけて、左親指が徐々に弓の右そばきに入っていくように押していきます。すると、押す方向が自然と「斜め上方→的方向」と向いていきます。

ここでは、左手・左腕にかかる圧力は少しずつかかっていきます。したがって、左手の各部の筋肉は、「少しずつ変化が起こる」ようにしていきます。

 

重要なのは、手の内は「弓の中で周りながら収まる」ようにできています。決して、自分から力を入れません。弓構えの段階で、手の内の形を固定して、最初から最後まで変えないように維持したとします。すると、人差し指と親指の間の皮、三指の第一関節の指の腹に強く弓が擦ります。すると、「握ってしまう」のです。一度握ってしまうと、弓の圧力が強く左手に集中してしまい、会における押し運動、弓返り動作に響きます。

そのため、手の内は「押すことで入る」ものと考えるようにします。加えて、押していくことで、少しずつ形づくものであり、自分で決めるものではないと考えられます。範士の説明を理解して、できるだけ左手に余計な力みのかからないように手の内を意識されてみてください。

左手は正面から的の方向に九十度転回しながら、手の内が収まるように心がける~千葉範士~

上押しを推奨する指導者は無視しなければいけない理由

ただ、実際にはこのような親指の押し方でも「良い場合」は存在します。しかし、いきなり親指を入れる引き方は、上記のように「徐々に親指を入れていく引き分け」を実践されてから行った方が良いです。なぜなら、親指を早い段階で入れようとすると、「上押し」で弓を押してしまう癖が身についてしまい、左腕を怪我をしてしまうからです。

今の弓道の世界では、形式を第一に大切とします。そのため、「親指を早く向けた場合、どのようなイメージで押せば負担がかからないか」という押し方の応用的思考ができる指導者がいません。そのため、もしも親指をいきなり入れさえたがる指導者、高段者がいたら、「そのようにすると上押しになってしまいますが良いでしょうか?」

「この押し方をすると、左肩が痛くなって押せません、それでもいいですか?」

あるいは、「審査に大切なのはわかりました、しかし私は昇段審査をそこまで高望みしていないため、そのやり方はしなくてよいでしょうか」

といって、上押しをかける押し方をできるだけ回避してください。

上押しの引き分けは最悪です。ひどい場合は、この引き方が染み付いてしまうと、13kg程度の弓であっても10~20本程度しか引けなくなります。小さなことかもしれませんが、とても重要なことなので、気をつけるようにしてください。指摘は好きでも責任まで全うできる指導者は数少ないです。でも、そのうえで弓道をするのはあなた自身です。自分を大切にするか、昇段を大切にするか、問い詰めてください。

などと言って、責任を追及するようにしてください。

手の内は少しずつできてくる

もし、このように入れることができれば、人差し指と親指の間に余計な力みなく弓が入ってきます。具体的には、「内竹が拇指と人差し指の間にはさまる」くらいに親指が入るようにしましょう。この動作が実行できると、余計な力みなく、弓を押し続けることができます。

例えば、左手の中の状態は、次のようになっていれば、かなり楽に、弓を押せるようになるでしょう。

・中指、薬指、小指は少しずつ締まっていく

・人差し指と親指の間の皮が少しずつよじられる

左手で弓を押していけば、弓は元の状態に戻ろうという力が働きます。この戻る力が働くことによって、「小指・薬指・中指」は締まる方向に力が働きます。引き分けから会にかけて「斜め上方→的方向」と徐々にシフトしていけば、三指の手の内は締まっていきます。

この締まる力は「自分で握りしめて」起こるものではないので、ご注意ください。

弓の側面にある虎口を、拇指大指と小指の緩急よろしきの働きにより、「手の内」で回転させながら、弓の内竹の角を大根で応え、小指で締め~松井範士~
 
引き分けながら手の内も定まり、会に至るものである~富田範士~

これまで軽く結んで来た手の内は、手の裏筋を効かせて弓の側木を強く締めつつ、拇指と中指を固く結んでここに手の内は定まり、徐々に引き分けへ入るのである~高塚範士~

次に、人差し指と親指の間にも注目していきます。親指は弓の右側に入るように動きます。次に、弓は親指の中に入ろうとする力が働きます。この二つが合わさって人差し指と親指の間の皮はよじられるように動きます。この皮がよじられる運動は、弓の押す圧力に応じて、徐々に起こっていきます。

引き分け動作において、始めは斜め上方に押し、少しずつ的の方向に押していくとします。それに伴って親指の押す方向は斜めから、少しずつ直線方向に向きます。したがって「人差し指と親指の皮がよじられる運動」も少しずつ置きます。この度合いは、あくまで少しだけ起こります。 
 
引き分けられたと伴い、拇指の指横腹の力は増々弓の内竹の右角に加わり、更にその拇指の腹は弓の右側木に密着するにいたり、あたかも弓が拇指と人差し指との股に吸い付けられた心持となる~富田範士~

左手を押しまわして中力をとるとき・・・・弓の握り革に吸い付くような気持ちで押し廻すと弓のために手のひらの皮が幾分よじられるようになる。このよじられ方があまり強いと、弓の働きを弱めたり握りだしたりして・・・・手の内の働きを弱められる結果となる~高木範士~

手の内が定まり、引き分けに入るに従って、角見すなわち拇指根でうけた弓(右角)の握り革は吸い付くように締まってくるので ~高塚範士~

以上の内容を理解することで、引き分けにおいて、楽に大きな力で弓を押すことができます。

ここまで来たら、最後に胸の筋肉もゆるめておくようにしておきましょう。「合理的に弓を引くための呼吸の話」から、射の最中の適切な胸の筋肉の使い方と呼吸の仕方を学ぶようにしてください。

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