ここでは、小笠原流射法にしるされている胴づくりの教えを解説していきます。
真っ直ぐな胴づくりを「五胴」から理解する
胴づくりはまず、反らず、屈まず、掛からず、退かず、真っ直ぐな姿勢というのが大切です。
屈む(俯す)・・・腰が張らず上体が前に突き出る。
反る(仰ぐ)・・・上体が反り返っている、弓も照ってくる。肥えた人は仰ぎがちになる
掛かる(懸る)・・両足の中央に垂直であるべき胴の線が的の方に傾いている。弱弓を好む人にいく出る
退く・・・胴の線が右の方に傾く、遠矢などに用いるときがある。
ただし、この「真っ直ぐ」ということは物理的に垂直という意味ではありません。射術のつりあい上の真っ直ぐです。
「よく腰を据えてその人の足の爪先と額と直に矩の合いふ如く」とあり、正しい足踏みと正しい胴づくりができると額は足の爪先の線の真上になります。このときの上体は垂直線よりやや前方に出ています。
そのため、真っ直ぐな姿勢とは、上半身の重みが下半身に負担なく乗っている姿勢と理解します。見た目としては、やや前傾になることを覚えておきましょう。
「竪一(たていち)」の教えから、最も胴が崩れやすい「みぞおち」を理解する
小笠原流の歩射の説明で「竪一」という個条があります。
これは、的の方に頭を回したとき、頚の右方の筋が体の上方に来ます。これから、縄を当てて脊骨と胸の正中線と臍とが一直平面上に来るようにします。これと同様に「胸筋」という伝にも胸の筋を真っ直ぐにして臍の下まで通せと説明しています。
あるいは、「身の矩(かね)」という伝には、左脇を的と正対させ、反りも屈みもせず、かかりも退きもせず、よく腰を据えて、足の爪先と額の矩を合わせるとも言っています。
この全身の縦の線は、気をつけなければ崩れてしまうため、注意が必要です。特に「みぞおち」の辺で曲がりやすいです。
みぞおちの下は横隔膜、腸といった器官があります。この器官には腹横筋というわき腹周りについている筋肉で支えています。骨や関節といった支えが少ないため、最も姿勢が崩れやすく、かつ緊張しやすい部分です。そのため、上半身の上部がが少しでも前に傾けば、縦の線が崩れてしまうため注意が必要です。
それを防ぐ方法として、袴板を使います。小笠原流には「腰目」という腰の据え方があり、腹をよく据えて。腰を後に引いて「袴のえびらの上を段のあるように」と記してあります。これは、日置流の「袴腰の準(はかまごしのかね)」とよく似ています。
腰を後ろに引く際、やせている人の場合は、太っている人に比べて、お腹に負担がかかりすぎる場合があります。そのため、ほんの少し前傾させる心もちで立つ姿勢をとってみましょう。
「上重」の教え
足踏みの下重、中重に続き、「上重」の教えがあります。これは「胴より頭まで黒縄を下て大木を大地に植えたるようにすべし」というもので、どっしり垂直に胴づくりして、足踏みの重々しさに劣らない胴を作りだせという意味です。
頭までしっかりした胴づくりを整える方法として、「身の詰」の伝に「穴をよくしめよ」という教えがあります。これは。肛門を締めることです。
肛門を締めようとすると、お尻周りが締まり、その結果背筋が締まります。足踏みで足の角度を広げると背筋がしまりますが、同様の感覚です。
ただ、足踏みの角度を広げると、胴の安定性が変わります。左右にぶれにくくなりますが、前後にぶれやすくなります。そのため、太もも、肛門を締めるようにすると、胴が安定します。
「小腹」の教え
「小腹」の伝では、腹の前を強く張って全体をしっかり詰めよと教えています。お腹周りを張ることは、自分自身の心を落ち着けるために、必要な動作です。
人がわくわくしているときは、落ち着かない気持ちになっていて、気分が動揺していないときはお腹がどっしり据わっているといいます。気持ちを落ち着いている、心が整っている状態は「お腹」を意識するこtこが大切です。
「腸の事」の伝では、「腸不在の在所にあらざれば弓勢違う也」と説明されており、気分が落ち着いているときは、腸のあり方がしっかりしていると説明したものです。