範士の言葉から、矢の長さいっぱいに引き分けるための「右手」の働きをまとめる

技術向上をし続けるためには、引き分けで矢の長さいっぱいに引く重要性を解説しました。そして、矢の長さいっぱいに引くためには、弓を押す方向、押す角度を明確にして、弓を引いていかなければいけません。

特に、弓を大きく押し開くためには、具体的に「右手・右ひじの働き」を理解しなければいけません。右こぶし・右ひじは射行において、について考えていきます。記事を見終わったら、一つ一つ実践していくようにしてください。具体的に弓を引くために行わなければいけないことがわかります。

そのため、弓を左右均等に押し開くために理想な右拳の働かせ方を理解する必要があります。ここでは、引き分けにおいて、弓を左右均等に押し開く右拳の働かせ方を解説していきます。

大きく引き分けを行うには:船の艫(とも)と舳(へさき)の関係を理解する

弓を大きく押し開く際に、具体的に右ひじをできるだけ肩より後方に引き付けないといけません。そこで、右肘の動きを理解する際に役立つ理論として「艫(とも)と舳(へさき)の関係」があります。

船には艫と呼ばれる部分と舳と呼ばれる部分があります。たとえば船の先を、90度に向きを変えたいときに、艫を90度内側に向きを変えると舳の部分は外側に動きます。艫と舳は独立しておらず、どちらかが動けば、どちらかがそれに伴って動く関係を持っています。

これを弓道では右肘と右拳の動きと関係しています。拳を艫(とも)、肘を舳(へさき)とすれば、艫が真横に動けば、舳も真横に動きます。艫が真横に動き、自分の体に対して外側に動こうとすれば、舳は勝手に内に曲がろうとします。つまり、肘と拳を真横に押せば押すほど自分の意志ではなく、勝手に肘は内側に曲がることを指しています。

 

右手の動きは、たとえば船の艫(とも)と舳(へさき)の関係で、拳を艫、肘を舳とすれば、艫が外に動けば舳は内へ動くのである。右手の三指を親指頭に丸めて巻き込むようにし、弽の外側の線を外に張って弦枕で弦を押すような具合に外に働かせば、肘は自然に内側(後方)へと働くのである。

 
こうすれば右肩は崩れないで、出会い頭に右拳を迎えて肩をかつぐようになる。~神永範士~

このように、外側に力を働かせようとすると、弦の抵抗力と相対して弓を押し開くことができます。そのため、矢の長さ一杯に弓を引けます弓を左右対称に押し開くためには、常に弦と抵抗力を受けながら、右拳を働かせる必要があります。この関係を引き分けの動きに応用させると、より大きな、矢束一杯に引き満ちた引き分けができます。

 

しかし、このように、外側に力を働かせるのではなく、「弓を引き寄せよう」と思って、右拳を自分の体に近づけるように方向づけると弦の抵抗力と力の向きが相対しません。その結果、弦の抵抗力を押し返すベクトルがないため、力や負担が関節に受けます。「手首」「肘」「肩」に大きく負担がかかるようになってしまいます。

 

①拳を外側に動かしてみる

では、「艫と舳の関係」を理解し、実際に、矢の長さいっぱいに引く引き分けるにはどうすればよいでしょうか?このためには、引き分けにおける「右こぶし」の働きが大切となります。

まず、引き分け動作で右こぶしを外側に動かすようにしてください。右手の小指、薬指を握り締めて、右手の甲を外側に向けるように押してみてください。すると、右ひじが連動して動き、肩より後方に入っていくのがわかります。

この動きを実際の引き分けでできれば、矢の長さいっぱいに弓を引くことができます。経験問わず、このことは実現可能です。

しかし、実際の引き分け動作は会に至るまでにこのように、右こぶしが動かない可能性があります。弓道においては、矢の長さいっぱいに引くための理想の軌道があります。そのためには、「艫と舳の関係」がありますが、実際の射行でできない可能性があります。そこで、「矢の長さ一杯に引き切る引き分け」を具体的に実現するために、右こぶしの動きをもっと詳しくみていきましょう。

右手は弓手が行動を起こすと同時に、その圧力を懸け口に受け、拳をやや内側に張る心持ちで肘尻にこたえ、後方に廻わす心で、両肩を掛け金として、的の線と平行に弓手右手のつり合いを保ちつつ、押し引きの安配よろしく、徐々に矢束一杯に口割の線まで引き下げて行くのである。 ~松井範士 教本三巻 引き分けより~

②引き分けの初め、拳を横10センチが外側を通るようにする

次に、初めの引き始めは「右こぶしを横に10センチ動かす」気持ちで「横に引くこと」を意識してください。

このように引き分けると、弓の反発力を強く身体で感じることができます。つまり、「弓の反発力を最大限に生かせている = 矢の長さいっぱいに引く」になっている証拠です。弓の反発力を体感できたら、さらに弓の反発力を引き出すべく、横に横に引いていきましょう。

ここでの注意は、「取り懸け」です。取り懸けにおいて、右こぶしの中で小指と薬指は握るようにします。引き分けに入ったら今一度小指と薬指を握る気持ちを入れて、右こぶしを動かすようにしてください。ここで薬指と小指が握れていなかったら、高い確率で右手首が曲がって(手繰って)しまいます。すると、大きく引こうとすると右ひじや右肩が痛くなります。

実際に、小指と薬指の力が抜ければ、引き分けにおいて右ひじがうまく動かないことがわかります。例えば、徒手の形で小指と薬指の力を抜いて引き分け動作をしたとします。すると、横に引こうとすると右手首が曲がってしまうのです。この現象は矢の長さいっぱい引こうとするほど、右手首にかかる緊張や負担が強くなります。

必ず取り懸けにおいて、小指と薬指を握り、その気持ちを忘れないようにしてください。

③引き分けはじめ~目通り:中指がこめかみより上を通るようにする

そうして動かすと、右こぶしが少しずつ下に降りていきます。そうして、右こぶしがだいたい耳の頭上を通ってきたら、次のように意識します。ある程度引き分けてきたら、中指が「耳より上」を通るようにしてください。右の中指が耳より上、そして後方を通るように動かしてください。

イメージで言うと、中指のこめかみをかくようなイメージです。右手中指が正面から見て「第一~第三関節にかけて軽く折り曲げられ、親指としっかりとついている」ようにします。このような恰好でさらに中指を横に横に動かしていきましょう。すると、楽に弓を押し開けるはずです。

 

ここでの注意もやはり取り懸けです。まず、こめかみより上を通る際に、「右手の甲の向き」が斜め45度の方向に向くようにしてください。艫と舳先の関係は「右手の甲を外側に動かすことで、右ひじが結果的に動く」ようになることを解説した関係です。したがって、引いている最中の右手の甲の向きが矢の長さいっぱい引くために大切となってきます。

もし、以下の図のように右手の甲が下に向いていたとします。すると、取り懸けにおける中指と親指との力のかかり方が悪くなります。手首を内側にひねってしまい、拳を横に動かそうとすると、中指が親指を押さえつけるような状態になってしまいます。すると、横に引こうとするほど中指に力が入ってしまうのです。このような状態になってしまうと、「大きく引き分けようとすると腕や肩が力んでしまう」ため、矢の長さいっぱいに引き込むことができなくなります。

次に、引き分け中の「中指の曲がり具合」についても気をつけるようにしてください。先ほどお話ししたように、取り懸けでは、中指の第一~第三関節周りまで適度に曲がった状態で引き分け動作が続きます。もしも、「中指が伸びきっている状態」で引き分け動作を行ってしまうと、中指と親指の接触面がずれやすくなります。

このようにすると、引き分けの最中に、中指と親指の間で弽が「ずるッズルツ」とずれる音が発生します。そのときに、中指を握ってしまい、余計な力みが入ってしまいます。その結果、弓を引くほどに腕にかかる負担が強くなりすぎてしまい、矢の長さいっぱいに引けません。

あるいは、「中指が曲がりすぎている状態」もよくありません。特に、「第一関節(指先)が曲がりすぎて、力が入った状態」にならないようにしてください。このようになってしまうと、弓を引くほどに、指先の血管が圧迫され、指周りの血流が低下します。その結果、手首、肘、肩といった血液の流れ、循環が悪くなり、右腕全体の筋肉の働きが弱まります。そのため、矢束最大限に引き分けをとれません。

このように、右こぶしの状態が一つ間違えれば、矢の長さいっぱいに引けなくなります。気をつけてください。

④口割にかけても横に引くのを忘れない

最後に、口割につく間際まで、最後の最後まで横に引くことを忘れないでください。「矢の長さいっぱいに引く」ことを忘れないようにしましょう。最後まで引き続ける気持ちを持てば、大きく矢の長さ引けた引き分けが実現できるはずです。

なお、このように①~④の引き分けを実践すれば、矢の長さいっぱい引ける射形は癖づいてきます。早い人であれば、1か月、遅い人でも半年程度続ければ身に付きます。一度身に着けてしまえば、あとは射癖がつきにくく、射型が整い、矢勢強く、的中確実になっていきます。

⑤肘が垂れ下がらないようにする

最後に、右ひじの位置についてです。右ひじは、「垂れ下がらないように、斜め後方に回す」ことを意識してください。

ここで右肘が下に下がってしまうと、次の会の過程で「弦の復元力」に対して右手が受けられなくなります。弓を押し引きする際には、左右の筋肉を両方最大限に活用すれば、楽に押し開きができます。しかし、右ひじが下に下がった状態では、弦をさらに開こうという力が少なくなるため、

肘先を後方肩甲骨の後ろへ引き回すように引き分ける~富田範士~

肘力(ちゅうりき)にて肘先が垂れ下がらないように、張る心持にて引き~富田範士~

ただ、上記に引用したように「本当に肘を後ろに回すように動かす」ことを行っても、右ひじは肩より後方に入りません。理由は、右手は常に、弦がかかり、的方向に戻ろうという力がかかっているからです。そのため、右ひじを方より後方に入れるためには、そうなるように「右手をどの方向に動かせばよいか」と考えるようにしてください。そうすると、「④」のように、口割がかかっても、最後まで横に引き続けるのが正解です。

最後まで弦が的方向に戻ろうとする力に対して、反対方向(右こぶしを横(的と反対側の方向)に動く方向)に動く力をかけていきます。これによって、右ひじは下に垂れ下がることなく、肩より後方に収めることができます。

①~⑤のようにすれば、矢の長さいっぱいに引ける根拠

では、先ほど説明したように①~④の工程を行えば、引き分けはできるようになってくるのでしょうか?結論から言うと「Yes」です。先ほどお話しした内容を実践していただければ、矢の長さいっぱいに引けるようになります。

それは、各範士の説明を見ると、形を変えて「適した引き分けの仕方」を説明しています。その内容を、集約すると、「横に引く」「右中指をこめかみを通るようにする」「最後まで引き続ける」ことを行うと実現できると説明できます。以下にその説明を解説していきます。

適切な引き分けは反橋のように、動く

まず、引き分け動作は、両こぶしの理想の動き方について教本に記されています。教本では、引き分けは「反橋し」のように拳が動くのを強調されています。

教本二巻の宇野範士はこの教えを「鳥兎の梯」と説明しています。

「引き分け」の方向は、左拳を左斜に的に向かって押し進め、右拳は右肘関節を中心とする肘の力で半円を描きながら右斜に右肩を添うて引き収める。一直線に引きこむことを好まず、反り橋が良いとしている。
 
古い教歌に「打ち渡す鳥兎(うと)の梯(かけはし)直なれど引き渡すには反り橋ぞよき」とあって、引き分けの際の力の方向を教えている。一本の矢の上に、左右の力が反り橋のように働くことを言うのである。~宇野範士~

このように、反橋のように両こぶしが動けば、結果として両こぶしの左右に動いた距離が長くなります。その結果として、矢束一杯に引き込んだ引き分けが実現できます。矢の長さいっぱいに引くようにするためには、できるだけ右こぶしを的に対して遠い位置に置く必要があります。

では、先ほどの①~④の意識のように、「横に引く」ことを意識します。すると、最初の初動で拳が真横に動き、徐々に拳が下に降りていき、結果的に「反橋」の形になります。そのため、「横に引く」と意識することは、教本で適切とされている「反橋の軌道」を構築するために必要な考え方といえます。

両こぶしが自然に円を描くように降りていく:円成する引き分け

次に、阿波研造に師事され、大射道教を学んだ安沢範士は、適切な引き分けを「無限の円成」と表現しました。

打ち起こしより会に至る精神的運行の調和を図示すると下の二図のようになる

 

打ち起こし・大三より引き分けの相
丹田を緊張し、物見を定め、映眼(心眼)を以て重視し、会に至らしめ、残身も一貫しなければならない。
 
会に至りたる相
つまり丹田線と大三・引き分け線との合一せる相にして、ここにおいて矢は骨法に則し、無限に後方に円成するのである。~安沢範士~

このように、絵でわかるとおり、引き分けでは、「円の関係」で力が働くことを強調されます。ここで注意していただきたいことが、仏教の概念で「円成」は「円形」ではなく、「終わりがない状態」と解釈します。

つまり、この円の意味は「両こぶしを円形のように動かす」ではなく、弓から発生する反発力に対して、自分自身がきちんと押して、結果的に「両こぶし」が円の軌道を通って「円に成る」ように方向づけをすると解釈されます。

もし、本当に両こぶしを円を描くように動かします。すると、円の頂点から降りるはじめは両こぶしは自然と降りてきます。しかし、最後の会において弓の反発力がかかると、円の通る軌道からずれてしまいます。「両こぶしが円の軌道」を不自然なく通ったことになりません。

これでは、力がかかり、両こぶしの動きが止まってしまいます。つまり、「終わりができた状態」になってしまい、「円」の性質を作り上げていません。あくまで、両こぶしは作為的に「円の軌道を通す」ように動かすのではなく、「円の軌道を結果的に通る」ように、右こぶし、右ひじを動かしていく必要があります。

左拳と右ひじの動きは円を描くように動くことが大切で、それが実現すれば矢は水平に降りてきます。この線を通ると、肘や手首に負担がなく、弓を押し開くのに各関節に不正なく、会の理想的な位置まで作られるのではなく、構築されていくように動きます。

そのためには、まずは、引き分けを横に引きます。さらに、目通りいっぱい引いてください。

平行四辺形が折りたたまれたように拳が動く

次に、右こぶしを外側に動かすと、「平行四辺形が折りたたまれる」ように動きます。これは、教本二巻の浦上範士の文章を引用いたします。

 

まず、大三を取ったときの射形で両こぶし、両肩の位置を見ます。次に、その4か所を線でつなぐと平行四辺形ができあがります。すると、両こぶしと両肩の間で「平行四辺形」ができあがります。この平行四辺形が折りたたまれるように動くように引き分けを引くのをイメージするように浦上範士は解説されます。

先ほどお話ししたように、右こぶしを外側に動かすようにします。加えて矢先が上に上がりすぎないように、両こぶしを動かしていきます。すると、平行四辺形の形が徐々に折りたたまれるように動きます。弓のかかる反発力も左右のどちらかに偏りすぎず、身体の負担をできるだけ少なくして弓を引けます。

ここで気をつけたいのが、右こぶしの通る距離が短くなる場合です。引き分けを大きくしようとしなくなり、右こぶしを身体の後方に寄せようとすると、右こぶしの通る軌道が短くなります。すると、平行四辺形のうち、右側の部分が折りたたまれるのが早くなります。

このように、平行四辺形が不均一にたたまれてしまうと、弓の反発力が左右均等にかかりません。すると、身体の一部に強く負担がかかってしまうため、気をつけるようにしてください。

「肘で引け」と言われても、はじめは引けない

よく、弓道の世界では、「肘で引け」と言われることがあります。これは、弓を引くときに、「手先で引く」ことを恐れて、より胴体に近い部分で引くことを解説しています。

ただ、「肘で引け」でいくら頭で思っていたとしても、肘で引くことができません。弓を引いて最中に手首が曲がって手先で引いてしまう理由は引き分けの仕方ではなく「取り懸け」だからです。まずは、小指薬指をしっかり締めるように握りしめて、手首が曲がらないように引き分けてください。

加えて、教本三巻の鈴木伊範士は「肘で引け」という言葉に対して疑問をお持ちです。右ひじは、右こぶしを動かした結果、同時に動くものであって、右ひじを強く意識して動かすこととは別であると説明しています。

「肘で引け」と教えている人もあるが、弓は果たして肘で引くべきものであろうか。私は然らずと断定するに憚らない。

弓は最初から最後まで拳で引くものであって、肘や肩はそれを助け、また一たん納まった矢尺が会の時に縮み勝ちになるのを防ぐ、自然の役目をするに過ぎないと思うのである。 ~鈴木伊範士~

この説明に関して、理解するところがあります。高校、大学時代に、先輩から「弓は肘で引くように」と言われ続けてきました。しかし、弓と弦に接しているのは「右こぶし」であり、意識として「右こぶし」を意識する方が弓を押し開くやすいです。しかし、慣れてくると、右こぶしを意識せずに、「右ひじ」を動かす意識で、右腕全体を適切に動かせるようになります。

しかし、そのように意識できるのは、まずはじめに「右こぶしから意識して弓を大きく開ける」ようになってからです。そのため、最初は「右手首が曲がらないように、きちんと取り懸け」を構築しましょう。その次に、弓を大きく引くことに慣れてきましたら、右ひじを意識して弓を引けるようにしましょう。

以上の内容をまとめると、

・右こぶしは「艫と舳の関係」を理解し、外側に拳を動かすようにする

・意識の仕方としては、「拳を最初、10センチ真横に動かす」「中指が耳の上を正しく通るようにする」「「最後まで真横に引き続ける」ことを意識します。

・その結果、「引き分けにおける右こぶしが反橋の軌道で動く」「結果的に右こぶしが円の軌道を通るようになる」「上方向から見て、両こぶしと両肩によってなされた平行四辺形が折りたたまれるようになる」ことで、適した引き分けができていると判断する

・一番最初に「肘で引け」と意識しても、できないため最初は取り懸けで小指と薬指をきちんと締め、右手首が曲がらないようにして右こぶしを意識して引くようにする。

これらの内容を意識することで、実際に矢の長さ一杯引いた引き分けが実現できます。

メルマガ登録

 

ここまでの記事を読んで、「さらに深く弓道を学び、上達したい」と思う方もいるかもしれません。その場合、以下の「メルマガ」登録を済ませて、「合理的に弓を引くために必要な情報」を受け取りましょう(600ページ以上の非公開テキスト、 10時間以上の動画もプレゼントします)。

 

稽古会案内

スポンサードリンク