踵荷重の姿勢に変えて、姿勢から弓の引き方までだいぶ感覚が変わってきたのではないでしょうか?
会と離れに入ると、今日の弓道の指導では、
・余計なことを考えるな
・離れは作って離れるのではなく、自然に離すんだ
・綺麗な離れは精神七分技三分と言われる、心を鍛えなければ行けない
と言われます。ただ、こんな風に「精神」「心」と言われても訳がわかりません。
実際に、会や離れで「伸び続けろ」と言われて、何を?「自然に」と言われても何が自然?と思うでしょう。
しかし、ここでも踵が大切になります。踵に体重を乗せると、弓を引いている最中でも心が落ち着きます。引いている最中の心理的な負担や考え方まで変わるのです。
その具体的手法について解説していきます。
会:踵に体重を置くと、精神の動揺が少なくなる
会に至っても、やることは変わりません。踵に体重を乗せたまま弓を引き続けてください。すると、引いている最中の「気持ちの動揺」を減らすことができます。
その根拠として、呼吸があります。
踵に体重をかけると、ふくらはぎと背中の筋肉が緩んで胸部が力みにくくなります。つまり、会に入って肺自体が圧迫が減ります。
この状態だと、自分の思う以上に息を止めても息苦しくなくなります。
この「楽に息を止められる」ことが、落ち着いて会を保つのに大切です。自然に呼吸ができている会=自然でかつ平静に弓を引けていると言えます。
人がもっとも精神が動揺する行動として「息を止めること」が挙げられます。息を止める行為は不自然なことであり、生命活動に必要不可欠です。
その呼吸動作を止められると人は苦しさや焦りが増えます。
そこで、踵に体重をかけて息を止めると、長く止めても気持ちが落ち着いた状態で維持できます。
肺の圧迫が減るということは、気道の圧迫も取れています。人は喉仏の下の部分に凹みがあり、空気が通る気道があります。この部位が、圧迫されると息苦しくなります。
例えば、拇指球荷重の姿勢で弓を引いたとき、会で息苦しくなります。猫背になると気道が詰まるのです。この息苦しさが、会での緊張感や不安感を招いてしまいます。
かといって、呼吸を意識しすぎて弓を引こうとすると、引きにくく感じます。実際、弓道教本2、3巻でも、「呼吸は意識してはいけない」「会での呼吸の流れは平静にする」と解説されて先生も複数います。
そこで、「踵荷重の姿勢」を使います。
踵に体重を乗せると、気道の詰まりを減らせます。この姿勢で会を保ってみてください。仮に息が止まったとしても、息苦しさがありません。呼吸運動が阻害されず、弓を引き続ける動作に集中できます。
気持ちを落ちつけるためには、「的のことを考えない」「良いイメージをもつ」「半眼にする」と考える必要はありません。
踵を踏んで「胸を緩める」だけで問題ありません。
そのために、息を長く止めてられる余裕な姿勢を身につけてみてください。踵荷重の姿勢によって。
踵に体重を乗せ続けるだけで「楽に強く押せる押手」が自然に出来上がる
次に、踵に体重を乗せることで、楽に強く押せるようにしましょう。
会では、「左肩が下がって腕が軽く曲がった状態」が強く押せます。
・左手の余計な力みがぬけている
・左肩が下がっている
・左肘が軽く曲がっている
この内容は、弓道教本三巻の高塚範士や射學正宗でも記載されている内容です。強い押手は「左拳が上で、左肩が下になって、少しだけ左肘が曲がった」状態です。
そのためには、軽く左腕が曲がっている状態で、肘の皿が地面に対して垂直に立っていることが大切です。
こうすることで、弓の反発力が腕にかかっても腕が曲がりにくく、かつ左肩が上がらなくなります。
この左腕の構えも踵荷重の姿勢で作れます。
踵に体重を乗せて、顎を引いて立ってください。次に、左腕をピンと伸ばして的方向に向けて、左腕の力を抜いてください。すると、自然と左腕が曲がるのがわかります。
左拳が一個分斜め上方に上がり、左肩が下がりやすくなります。このように、踵を踏んで立つと、「自然と左腕が曲がった押手」を構築できます。
一方、これが拇指球荷重の姿勢に変えると「自然に曲がった押手」を作るのが難しくなります。
拇指球荷重の姿勢で立ってみてください。そして、左腕を真っ直ぐに伸ばして、力を抜いてみてください。左腕が伸びきったまま戻らなくなります。
拇指球荷重の姿勢で力を抜いてたつと、左腕が突っ張ったままになり、弓を押しにくくなることがわかります。
弓道では、「左肩が上がって突っ張ってしまう」人がいますが、拇指球荷重の姿勢で引くからです。
強い押手は踵荷重の姿勢から作れます。正常な姿勢で引き分け動作を行えば、左肩は下がるはずです。
右手で引き続けるためにも踵荷重が必要である
なお、会に置いて右手は
「離れる手前まで最後まで弓を引き続ける」
ことが大切です。これを行うために、弓道家は「肩甲骨を開くようにしなさい」と解説されることがあります。
ここでは、引き分けで教えた内容を思い出して、踵を踏めば肩甲骨が開くと覚えてください。それを会でも続けていくだけです。
拇指球荷重の姿勢にしようとすると、肩甲骨から動かせないのです。と言うより、肩甲骨から動かそうとすると、他の筋肉が痛くなってしまうのです。
拇指球荷重の姿勢は、最初から背中や肩の筋肉を縮めてしまいます。そこから、伸ばすのは難しいです。だからこそ、最初の構えで背中の肩に解剖学的上、力みのない姿勢を構築することが、合理的です。
そのためには、踵に体重を乗せて起きましょう。
踵に体重を乗せると、胸の筋肉が緩みます。このおかげて、弓の反発力がかかっても肩甲骨周りの筋肉を自由に動かせます。その結果、最後まで弓を押し続けられます。
弓を最後まで押し続けるとは、「会の最中でも、肩甲骨が使えている状態」と言えます。
肩甲骨周りの筋肉が硬くなってしまっては、最後まで腕の筋肉を伸ばし続けられません。「伸び合いの会」にはなりません。
最後まで弓を押し引き続けるためには、適切な左腕の状態と肩甲骨周りの筋肉を開く必要があります。
なので、「踵荷重」の姿勢で弓を引きましょう。
離
踵荷重にすれば、「胸の中筋」から弓を離せる
離れ動作は、踵に体重を乗せたまま、弓を引き切って大きく離してください。
弓道の世界では、「胸の中筋から離れる」と言う言葉があります。
手先ではなく、胸の中心から弓を離すという意味ですが、踵に体重を乗せると体感しやすくなります。
行うことは、
・踵荷重の姿勢にする
・左親指付け根で弓の力を受けておく(押し込むのではない)
・右肘に力を込めて、二つの部位を持って左右にパッと開きます。
特に、「右肘」は大切です。離れる瞬間に右肘を早く引き抜いてください。これによって、胸の中筋から弓を離しやすくなります。
なぜなら、踵荷重の姿勢であれば、本当に胸郭が中心から左右に「開く」からです。
もう少し詳しく解説します。右の脇腹を触りながら、右腕を離す動作をしてみてください。すると、脇腹周りの筋肉が外に広がるように動きませんか?
この動きこそが「胸の中筋から離れる」動作です。
解剖学的に、胸郭が左右に広がるのは「下部」だけです。
解剖学的に、胸郭は上部と下部に分けられます。上と下で開き方が異なり、上部は前後に、下部は左右に開きます。
つまり、胸の中筋から開こうとするならば、右肘をもって肩甲骨を左右に広げる必要があります。解剖学的に、脇下にある「前鋸筋」が縮むと、肩甲骨が左右に開きます。
ここで、これまで説明してきた踵荷重においての肩甲骨の話を振り返ります。
踵に体重を乗せると、菱形筋が伸びます。この時に連動して、前鋸筋が縮みます。
この状態で維持して離れ動作を行うと、胸郭が左右に開きます。
つまり、踵に体重を乗せると、胸郭が左右に開くように離れ動作が行えます。
これは、手先で離した訳でなく、全身を使った自然に起こる離れと言えます。そのため、踵荷重の姿勢によって、胸の中心から開く離れを覚えるようにしましょう。
では、前面を開く「胸を開いた離れ」ではだめなのか?これでも問題ありません。これは俗に言う「大離れ射法」です。
胸の前面を大きく開くと、両拳が離れたあとに下に落ちますが、このこと自体悪い訳ではありません。
弓道教本二巻、三巻では、離れたあとに、両拳が一個分下に落ちて、大きく開くのは問題ないと解説している先生は複数います。
ただ、大離れ射法を行うとき、拇指球荷重の姿勢にはしないでください。なぜなら、それで胸を開こうとすると、最悪肉離れを起こす危険があるからです。
拇指球荷重の姿勢をとると、背中が張って筋肉が縮んでしまいます。その状態で腕を大きく開こうとすると、胸部に強い負担がかかってしまい、胸筋を痛めます。
実際、ある近畿地方の弓道連盟では、先生に前かがみの姿勢を指導され、その状態から「とにかく胸を大きく広げろ」と言われて、その通りにやったら胸の肉離れを起こした人がいました。
肉離れを起こした理由は、離す前に胸部に力が入っていたからです。
そのため、拇指球に体重を乗せてこの言葉を行わないでください。そのままで弓を引くと、離れで大怪我をします。
これまでの内容をまとめると
・骨盤が立ち、胸の筋肉を緩めると脇下の筋肉が張る
・脇下の筋肉が縮むと、肩甲骨が左右に広がる
・姿勢の安定性が強化されて、腕の力を使わずに弓を最後まで押し続けられる
・胸郭が左右に開き、胸の中心から開くように矢を離せる
これら一連の流れは「踵荷重」の姿勢にすることで、実現できます。最後まで踵に体重を乗せて、全身の無駄な力みを取り払って、気持ちよく弓を開いてください。
さらに「踵荷重の射法」の面白さを知りたい方は
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