足踏みの角度がだいたい60度が適している理由

 

 

弓道において、体の仕組みに基づきながら、姿勢を整えることは大切です。年齢を重ね、筋力を衰えてきた人ほど、無理に筋肉を使うのではなく、骨格や骨組みを考えながら、立ったり弓を引いたりすることが大切です。

 

弓道の八節動作の中で、的中率に大きく関わる動作として、「足踏み」があります。なぜなら、足踏み動作は次の動作である「胴づくり」動作に大きく関わる動作だからです。

 

胴づくりは、弓道の文献によると、5種類の状態があると言われています。人の背中は反ったり屈んだり、両肩が左右に傾いたりして、引き分けの最中に崩れてしまいます。そのため、会の最中でもブレナイ胴づくりを構築するためには、その前に行われる「足踏み」動作が重要とされています。

 

尾州竹林弓術書の内容には、「射における胴は少しも歪みがないこと」と記されており、大きな歪みのない姿勢の構築は弓道上達には必要不可欠です。その中で、足踏みの角度は「60度」に踏み開くことように説明されます。

 

男女、骨格により、多少値が前後しますが、だいたい基準は60度と言われています。歪みのない姿勢を構築するためには、両足の開き幅をキチンと理解する必要があります。では、なぜ弓道教本では、60度と説明されているのでしょう?今回はその理由について解説していきます。

 

足踏みの角度における上半身の姿勢の影響

足踏みにおける両足の角度は、狭く踏むのと広く踏むことで働く筋肉が変わります。これによって、弓道における胴づくりの崩れや押し動作のしやすさが変わります。

 

例えば、足の角度を広く踏むと、的方向に押す力(左右に押す力)が強くなります。なぜなら、足の開く角度を広くすることで、太ももを外に外旋させる筋肉(大殿筋、梨状筋)が張るからです。この筋肉が張ることで、背中の筋肉も同時に強くなり、弓においては、的方向に押す力が強化されます。

 

一方、足を狭く踏むと、前方向に押す力が強化されます。なぜなら、足の開く角度を狭くすることで、脚の内側の筋肉が張り、骨盤が前傾するからです。骨盤が前傾し、上体の重心が前方向に移ることで、後ろ側の筋肉(背筋や太もも裏側の筋肉など)が強く働きます。これによって、前方向に押す力が強化されます。

 

このことは、実験をすることで簡単にわかります。最初に、足を広く踏んだ状態で左腕を横に出します。次に、もう一人が伸ばした腕を押すようにし、足を広く踏んだ人は押し返すようにします。すると、足の角度を広く踏んだ方が、押しやすいことがわかります。あるいは、足を狭く踏んで、腕を前に出して押すと、足を狭く踏んだ方が前方向に押しやすくなります。

 

つまり、足を広く踏むと、横方向(的方向)に押しやすくなり、狭く踏むと前方向に押しやすくなります。これを弓を押し開く運動に当てはめます。弓は大三から引き分けにかけては、腕を斜めに、会においては、腕を的方向に押し続けます。つまり、前方向と横方向に押す運動が生じます。こうした力に耐えるために、足の角度は開きすぎず、狭すぎずの60度に踏み開く必要があります。

 

人の骨盤の角度は足の開き幅によって決まる

ただ、このように聞くと、多くの方は、「それならば45度に開くのが最も安定して押せるのでは」と考えられます。なぜなら、前方向に押す力と横方向に押す力を均等に働かせるためには、足の角度を45度にする必要があるからです。

 

もし、前方向に押す力を最大限に働かせるのであれば、足は60度ではなく、的の線と垂直方向(0度)に踏み開く必要があります。逆に、横方向に最大限に強く押したいのであれば、足は60度ではなく、的の線で平行に(足の踏み開く角度を180度)にすると強く働きます。

 

つまり、物理的に足の角度によって押したい方向が決まるのであれば、その間をとって45度の開き幅になる必要があります。

 

しかし、弓を押し開くための足の角度以上に、射においては重要な要素があります。それは、「骨盤の角度」です。弓道において、胴づくりは「中胴」が近的において適切とされています。中胴とは、背骨が反らず、屈まず、上方に伸びている状態です。このような状態を構築するためには、骨盤の角度はできるだけ地面と垂直な状態にしなければいけません。

 

当然ですが、人の足は開くことで、骨盤の角度が変わります。足は狭く踏むと骨盤が前傾しやすくなり、広く踏むと骨盤が後傾しやすくなります。このように、骨盤が前や後ろに傾きすぎない足の角度に踏まなければ、胴づくりの理想の状態を構築できません。

 

そこで、骨盤を垂直に立たせるために必要な筋肉が「お尻を締める筋肉」です。これは、解剖学の世界では「外旋筋」とも呼ばれ、太ももを外に開く際に必要な筋肉です。この筋肉を締めた姿勢を取らなければ、骨盤が前傾し、背筋が張りすぎた姿勢となります。そのため、外旋筋を締めた姿勢を構築する必要があります。

 

そのためには、だいたい60〜70度前後に足の角度を開く必要があります。骨盤を垂直に立たせる他のポーズとしては、バレェの姿勢や、消防隊員における気をつけの姿勢があります。この姿勢の重要な要素として「アゴを引く事」「お尻を締めること」などが挙げられます。そのため、骨盤を真っ直ぐに立たせるために、足の開き幅は60度を目安とするのが大切です。

 

 

年齢を重ねると注意しないといけない「お尻を締める筋肉」

ただ、このように聞くと、大部分の人は「やはり60度がいいのか」と納得します。しかし、人間の骨格は筋肉や神経に凝りやつまりが生じたとたん、適切な姿勢が取れなくなります。そのため、安易に60度に決めて満足するのではなく、骨格を整えることが大切です。

 

特に年齢を重ねると要注意するべきなのが、「お尻を締める筋肉」の低下です。年齢を重ねて、筋肉に衰えが生じると、まずお尻の筋肉がゆるみます。もし、お尻の筋肉がゆるんでしまうと、骨盤を垂直に立たせることができなくなり、前傾になりやすくなります。すると、膝関節が内に入りやすくなります。

 

すると、膝関節と足先が向いている方向が一致しなくなります。多くの人は、膝が内向きに入りすぎてしまい脚の関節の間でねじれが生じます。これによって、膝関節の柔軟性の低下、さらには胴づくりを支える筋肉に凝りが生じます。

 

そのため、古くの弓道の書籍には、「肛門を締めるように」という教えがあります。例えば、小笠原の射法の説明の「小腹」「下重」の教えには同様の内容が記載されています。これは、肛門を締めるようにすることで、お尻を外旋させる筋肉を使い、骨盤を立たせるためです。

 

教本第二巻で、阿波健造とともに稽古した神永政義範士は、「胴づくりでは、少し腰骨を立つように」という説明があります。このように、骨盤を立たせるために、太ももの外旋させる筋肉が働き、その上で末端部に当たる足や膝の向く方向が整います。

 

安易に、足先だけ60度に向けて、お尻を締める筋肉の低下によって、太ももだけ内に向いた姿勢になれば、太ももから足さきにかけて通る神経に圧迫や干渉が生じます。すると、筋肉に凝りが生じてしまうため、足踏みにおいて余計な力みが生じます。

 

弓のkg数が多くなると、幅や角度が変わる

ただ、このような足の角度は絶対的に決まっているわけではありません。例えば、弓のkg数が大きい場合、足踏みの角度は少し広く踏むようにします。なぜなら、弓のkg数が大きくなると、的方向にかかる反発力が大きくなり、左肩の位置がずれやすいからです。

 

さらに、年齢を重ねると「筋力の低下」「筋肉を動かすための神経繊維につまりが起こる」「内臓の疲弊による筋力低下」が起こるため、筋力自体の収縮運動ができなくなります。この場合は、実際に神経の詰まりを取り去る手法や内臓機能を高める食事法をご存知の方に、教えを受けると良いです。

 

こうした内容を実践することで、今まで動かせなかった筋肉が全て機能し、弓が引けるようになります。

 

以上の内容を理解することで、「足踏みの角度が60度である理由」「弓道における角度を理解する重要性」を理解できます。明日から、実践し、前にも後ろに骨盤が傾かず、背骨が常時上方に伸びた胴づくりを構築するようにしてください。「胴づくりの安定」「射癖の改善」「弓の引き方自体の改善」には、足踏みの角度と胴づくりの安定が必須となります。

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