真っ直ぐに矢を出すために必要な稽古法

離れにおいて勉強することは「矢を真っ直ぐ飛ばすための工夫」であると解説しました。矢を真っ直ぐ飛ばすため具体的に勉強することは左手と右肘にあります。二つの部位の筋肉の使い方を理解すれば、矢を真っ直ぐに飛ばすことができます。

そして、具体的に意識することは「左親指付け根をもって不退転に押し続けること」「右肘を深く後方に入れ続けること」です。この二つの内容を理解することで、範士の言葉を引用して、心身に滞りのない離れを作る方法に解説していきます。

理想の残心の形から、離れで行うことをまとめる

左右の拳をどう動かせば良いかは、残心の理想の形からわかります。

まず、弓道教本の内容から、適切な残心の状態をまとめます。

左拳・左肘:拳一個分後ろに動き、肘はまっすぐに伸びる
右拳・右肘:的の線上、もしくは、拳半個分後ろ程度、肘は90~120度位に開いている

左拳は左斜め後ろ下四十五度位の方向に四寸(十二センチ)開き、右拳は会の位置から更に八寸(二十四センチ)の広さに開き止まるのを理想としている。~浦上範士~

右手九十度位から百二十度の開きで、平らでなけらばならない。百八十度も開き離れると、右肘が前に出て右手が開く。右手の活躍線がきいていれば中離れ位に止まる~神永範士~

右肘が会のときの位置から上がったり前へ出たりせぬように、口から両肩の方向へ五、六センチ動いて、なるべく大きく軽く離れる~高木範士~

この文章からわかるとおり、弓を放す際に左手と右肘は拳一個後方に動きます。両こぶしが後方に周りさえすれば、上から見て矢の線上に両こぶしが通るようになります。これにより、矢が真っすぐに飛ぶのです。

もしも、矢の線上に拳が通らないとします。つまり、左拳が体より前に動いてしまったら、矢は前に飛びます。右ひじが後方に行かず、右ひじが前に動けば、矢は後ろに飛びます。

つまり、適切な残身の状態から矢を真っすぐに飛ばすためには左右の拳が同時に後方に回る必要があります。

左拳が後方に動かすために行わないといけないこと

次に、左手を後方に動かすために必要なことを考えていきます。左手を後方に動かすためには、「不退転に左親指の付け根で押す」ことを行います。

会に至って弓の位置は身体とほぼ平行にそろいます。このときに左手の押す方向を「右側木側」を押してあげるようにしましょう。つまり、的方向に押すのではなく、少し斜め上方に押します。

この方向に押すことで、離れの際に拳一個後方に動きます。

例えば以下の実験を行います。左腕を軽く伸ばしてください。その後に、左拳を二通りの方向で押してください。「的方向に真っすぐに押す」「斜め上方に押す」の二通りを行います。的方向に真っすぐ押そうとすると、左拳は真っすぐ動きます。一方、斜め上方に押そうとすると、左拳が後ろに動きながら左腕が伸ばされます。

もし、左手を的方向に向けて押そうとすると、左手の位置は的方向のまま変わりません。しかし、押す角度を変えると、左腕から肩甲骨周りにかけて使われる筋肉が変わり、左拳が自然と後ろに動こうとする動きが現れます。

離れの余力で弓手拳は幾分後ろよりに開くのが自然である。~松井範士~

そして、左拳は、弓の抵抗力が常にかかります。したがって、「左拳をひたすら斜め方向に押そう」という気持ちを持ちましょう。具体的には、左親指根の部分(角見)で弓の右側を押すイメージを持ちます。

自然の離れに到達するために、初心者はこれに到達する基礎を磨かなければいけない。

それにはまず第一に左手角見を大切にし、弓の受け押す力が肘から三頭前膊筋その他に通じ、脊を通って右肘へ誘うように力の働きを注意して稽古しなければならない~高木範士~

 
意識的に右手を動かして弦を離したのでは離れに色々の悪い変化が伴う。どこまでも、右手の離れは左手によって誘い出さねばならない。それは、弓の右角を左拇指の付根で鋭く押して的に突っ込むのである。~浦上範士~

左親指付け根自体には力を入れない

ただ、「左親指付け根で押す」ことを左親指の付け根を弓に右側にねじ込むように押しこむように解釈する人がいます。このようにすると、一時的にたくさん的中するかもしれないですが、後で的中しなくなるので気をつけてください。

なぜなら、左親指を弓にねじこもうとすると、左腕が内側に曲がります。すると、弓が人差し指と親指の間にかかる圧力が強くなるため、弓が押しづらくなります。人指し指と親指の間に接触しすぎてしまい、弓がその間に食い込むと、人差し指を含めた4本の指が閉じられ、自然と「握る」力が発生します。

試しに次の二つのことを行います。弓をもって親指の付け根で無理やり弓を押し込もうとします。そうすると、手の甲が内側に回転し小指の付け根が弓から離れてしまうのがわかります。このようになると、弓の荷重が全て人差し指と親指に集中し、左手の筋肉が緊張します。これによって、離れで左拳が余計にぶれてしまい、矢が真っすぐに飛ばなくなります。

中には「人差し指と親指の間の皮がよじられるのが正しい」と解釈される方もいます。誤解してほしくないのが、人差し指と親指の間に皮に巻き込まれるのは、弓がその間に入り、食い込んでくるからです。「皮のよじり」は自然と行われるのであって、自分で行うものではありません。

弓道の世界では、「恵休善力」と呼ばれる教えががあり、これは会においてそれぞれの指の力の状態を説明したものです。そこで、親指は「恵(安心、やすらぎを与える)」人差指は「休(休ませる)」と説明しています。この二語からわかるとおり、人差し指と親指は力を入れないように弓を押していかなければいけません。したがって、親指の付け根を無理やり的方向に押し込んでよじるようなことを念頭におかないようにしましょう。

本人が等分に離れたと感じるような場合はたいてい右手が勝っているので、これでは弦の働きに悪い影響を及ぼすこととなって、前にいうような「自然な離れ」とならない。~浦上範士~
 
そうではなく、シンプルに「左肩を下げる」「左拳を斜め方向に押す」ことに専念します。これを続けて離れ動作を行うと、弓が離れれば、その反動で左親指付け根が的方向に押し込まれるはずです。かならず左親指付け根は「自分から押し込まれる」のではなく、離れた後に、自然と「的方向に押し込まれる」ように押す方向をつけてあげる必要があります。

ちなみに、二つのことを行うと後ろから見て「小指の付け根がしっかり弓について弓を押した」状態になります。

右ひじを後方までいれつづければ、右こぶしが真っすぐに伸びる

左親指付け根を的方向に押し込まれる原理は説明しました。次に右こぶしを的の中心線状を通るためにやるべきことを書いていきます。原理は簡単であり、「右ひじを肩より後方に入れ続ける」ことを行います。

まず、簡単に弓を引くポーズを作ります。次に右ひじを肩より後方に入れ続けるようにしてください。すると、右肘の皿が自然と地面に対して垂直に立つようになります。この状態で腕を動かすと、右こぶしが後ろ方向に回るように動き、矢の線状を通ります。

次に、右ひじを後方に入れるのではなく、下に向けるように動かしてください。すると、肘の皿が地面に対して垂直ではなく、平行にするように向けてください。この状態で腕を動かすと、右こぶしは後ろ方向に回らず、いったん前に出てから、後方に回るように動きます。すると、矢の線状を通りません。

このように、矢が真っすぐに飛ばせるか、右こぶしが矢の線状を通すためには、「右ひじの皿の向き」で決まります。最後まで右ひじを後方に入れ続け、肘の皿を地面に対して垂直になるようにすれば、矢は真っすぐに飛びます。

実際に、弓道の世界では右ひじを後方に入れることを推奨している弓道家の写真が何枚か記されています。

とにかく右ひじを後方に入れ続ければよい

ただ、このように解説すると、多くの人が「それは四つ弽の場合はそうだろう、三つ弽の場合だったらどうするんだ」という反論が変えってきます。結論から言うと、行うことは変わりません。

 

適切に入れれば、「キチキチ音」が鳴る

次に、このように

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