弓の握り方は、左手ではなく姿勢を変えることが大切であると説明しました。
特に、姿勢を伸ばして深く呼吸をすると、より軽く握った感覚を得られます。
さらに姿勢を伸ばして、手の内を整えるための具体的な方法を解説します。次に、
胸の筋肉を伸ばす
ように意識してみましょう。
胸筋を左右に伸ばすと、弓をもっと軽く持てて楽に押せるようになります。
実際に体操をしながらこのことを体感しましょう。
弓を軽く持って、上方に上げて大三動作を行います。このときの軽く握っている感覚と押し回しているときの感覚を覚えておきましょう。
次に、胸の筋肉を開いて伸ばします。腕を真横に伸ばし、その姿勢で10−20秒程度伸ばし続けます。
このとき、後ろ斜め下に伸ばすように意識すると、より胸が開きます。
横から見るとこのような感じです。
この胸を開く体操をしてから、もう一度弓を持ってみてください。
先ほどよりさらに握る感覚が軽くなります。
さらに、大三動作を行ってみてください。胸を開くと大三の時に親指を伸ばしやすくなるのもわかります。
胸を開いて伸ばすと、より左手が軽く握れて弓を押せます。
より、胸が広がるヨガの魚のポーズ
次に、家でもできる胸を広げる体操法「魚のポーズ」をご紹介します。
あぐらをかいて、仰向けに寝ます。両肘を床について、両肩甲骨を寄せるように胸を上に起こします。お尻は浮かないようにします。
お尻から首にかけてアーチを描くように体を反らせます。胸当たりが伸びている感覚がありましたら正しいです。
このポーズを10-20秒程度静止しましょう。すると、胸筋がより伸びて緩みます。
このポーズの後に、弓を握ってみると、より軽く握れて大三で弓を押しやすくなるのを感じられるでしょう。
そうして、胸を広げ続けると
もっと大三で左手を伸ばせるようになる
のがわかります。
胸の筋肉を伸ばし、より緩めていくと「掌にかかる圧力がより深部になる」のを体感できます。
まず、普通に弓を持って打起こしから大三動作を行います。姿勢の伸びが足りなければ、大三動作に入ると、左手に弓の圧力が残ります。
次に、体操で、胸の筋肉を伸ばすようにして、弓を持って大三動作を行います。
すると、左手ではなく、「掌の中心部の深くー前腕の下側」にかけて圧力を感じられると思います。
特に、掌の小指の付け根に近い部分(これを掌根といいます)に感じられると自然です。
良い大三は左腕を伸ばしていくと、左の掌の奥に圧力を感じられるようになります。
悪い大三は、左腕を伸ばしていくと、人差し指と親指の間に圧力が集中します。
胸を開くと、「腕」「掌」「指」の筋肉が同時に緩み、腕を伸ばしやすくなります。
それによって、手ではなく、より体の中心に近い方で弓の圧力を感じて、受けることができます。
ここで、みなさまに常識に変えるようにしましょう。
大三で左手を押せないのは筋力不足ではない
一般的には、左腕の筋力不足と言われますが、そうではなく圧力の受け方が間違えているのです。
大三で左腕を押せないのは、胸が開いていないからです。胸が開かず、圧力が全て腕と手にかかってしまうのが本質的な原因です。
肩、胸が開いていないと、左腕を伸ばしても、腕の付け根や脇といった筋肉が働きません。結果、腕と拳に強く弓の圧力がかかります。
一方、肩と胸を開いて左腕を伸ばすと、脇下の筋肉が働き、腕にかかる負担が少なくなります。
実際に、脇下に手を置いて確かめるとわかります。肩と胸を開いて左腕を伸ばすと、脇下の筋肉が縮んで肩甲骨が動くのがわかります。
尾州竹林弓術書に、大三は「形だけの大三」と「実のある大三」の二種類があると言われています。
大目は押手にかた付き三分の一は勝手にかたづきて左右別々の力を用いるならば形は大三を似せたる計りにて實の大三にてはなきぞ故に引くの心のありと云うは押手の力に和して引く心得をせよと云う義也。 (尾州竹林弓術書三巻「歌智射の事 二段」より)
この中で、形だけの大三は手先だけを動かして、手に弓の圧迫感が残る大三です。
左手と右手を別々に意識して動かして、結果腕と手先だけに力がかかります。
当たり前ですが、左手を動かしても右手は連動して動きません。左右の手を別々ではなく、一緒に動かすためには、体の使い方を変えなければいけません。
そこで、実のある大三について考えます。これは体の中心から開き、体全体で弓の圧力を受ける大三です。
胸を開くとは、左右の肋骨をそれぞれ外側に開くようにします。そうすると、左右の腕が一つの「胸を開く」動作で開かれますね。
胸を開くことで、両腕の負担を少なくします。左右の腕と手首を別々に意識して動かすのを抑えます。
こうすることで、実のある大三になって、楽に弓を開きやすくなり、矢をスムーズに離すことができます。このとき、手の内の形も自然と整います。
姿勢の中で、胸の筋肉を伸ばして緩めると、より左手が軽くなり、大三での手の内の状態も整います。