世の中にある手の内の教えをまとめる

前回は、手の内を左手の使い方ではなく、体の状態が整えば、左手の状態も整うことを解説しました。

矢尺いっぱい弓を引き、姿勢を無理なく真っ直ぐに保てば、余計な力みなくしっかり押せた左手の状態になります。その上で形も整います。

その前提をきちんと理解した上で、世の中にある手の内の教えをまとめていきます。

まず、古くの文献には

5種類の手の内の教え

があります。

・鵜の首

・鸞中

・三毒

・骨法陸

・呼立

この5つの特徴を解説します。

鵜の首

会から離れに至った時に、人差し指・親指・中指の三指をもって、上筋(腕の上部)に押しかけるように押すことを指します。この三指が自然と浮く心持ちになります。

鸞中

親指・薬指・中指をもって、鳥籠を抱えるような形の手の内になります。親指、小指を寄せて、拳全体を丸く取り囲むように形作る左の形を指し、三本の指が軽くなります。

三毒

上開下閉の手の内と解説されています。人差し指と親指の間が広がり、薬指と小指が締まるように作り上げる左手の形。

骨法陸

指を重ねて、小さくとって小指と親指で、中指、薬指の二つの指を寄せて作り上げる手の内、腕の付け根から親指にかけて見渡して、手の内が小さく陸に見えるように見えることからこのような名前が付けられている。

呼立

何事もなく、素直で無心な状態の手の内。乳子の立ち上がるときに物に取りついて立ち上がろうとするときに、左手の状態は少しも無駄な力み、囚われがないことから、その状態を指す。

古くの文献で紹介されている手の内のは5つです。

これが「手の内=左手の使い方」と解釈すると意味がわからなくなります。そもそも5種類あるなかで何を活用すれば良いのかが不明ですし、どう実践に活用すれば良いかがわかりません。

しかし、左手の状態を体の状態を指し締めるものと考えれば、次のように理解できます。

両腕の力みをとり、大きく弓を開いていけば、上記5つの左手の状態を観察できると解きます。

先ほどお話ししたように、大きく弓を引けば、拳の下部が締まり、上部が少し浮くようになります。

そうすると、人差し指と親指、そして中指の間の部位が少し浮くようになり、上筋で押しを受けているようになります。(鵜首浮きたる)。

そして、離れの時は、上筋を押しかけるように上部が伸びる手の内になります。

次に、小指と薬指は弓の圧力にしたがってしまっていき、掌が卵のように丸く形作られていきます。この三本の指は弓の力によって締まるため、三本の指の意識、負担は軽くなります(鸞中軽し)。

この時。指に余計な力みがなければ、人差し指と親指の間が開き、薬指と小指がしまっていきます(三毒)。

そして、中指、薬指が寄せられて、少し掌がすぼまる状態になった結果、拳がより小さくとれて、腕を通して「遠くの陸を眺めている」ような感覚を得られます(骨法陸)。

やがて、上記のように5つの指を締めて、開いていけば、その動き自体が意識して起こるものではなく、自然に働かせて指、掌が整います(呼立)。

指に余計な力みなく弓を引いていけば、鵜の首、鸞中、三毒、骨法陸、呼立の手の内を体で体験することができます。

これらの手の内は、あらゆる角度で一つの自然の手の内の状態を表現しています。

・三本指から自然の手の内を表現しているのが鵜の首

・親指・薬指・小指の状態から観察するのが鸞中。

・拳の上部、下部にかかる力と方向から観察するのが三毒

・理想の状態を、目で見てその時の心持ちを骨法陸

・そもそもの左手の意識、心持ちから解説しているのが呼立

それぞれの視点から観察すると、その手の内の説明の仕方が変わってくるのがわかります。

これらを体を通じて観察することが、手の内です。自分の姿勢が力みなく、伸び伸びしているほど、これらの状態を観察できるようになります。

しかし、これもその人によります。「三本指で押しを受けている感覚」はわかるが、「小指がしまっている感覚」はわからない場合があります。

人間の腕は、肩を通じて上部、下部に神経が通っており、稽古をしなければ、それら神経を通じて、手の内の状態を観察できないです。

それを、稽古を続けていく上で、感じとるようにします。

腕の上部が抜けている感覚、腕の下部がしまっている感覚、これらは続けていくにつれて区別してどの人も共通して感じられるようになります。

だから、尾州竹林弓術書では、手の内の教え5つが段階を持ってその人それぞれが相応して考え、稽古に取り組んでいくことを記述されています。

この手の内を体感できたからと言って一流というわけではありません。

強く弓を引き続けていくと、鵜の首や鸞中の手の内を少々、100本中1本「呼立」の手の内のような状態を経験するなど、人によって手の内で感じる状態は異なります。

ただ、しっかり弓を引き続けることを長く続けていけば、これらの手の内を経験するときがあります。

つまり、引き続けることで、心と体を鍛えて、その上で左手の状態をより細かく観察できるようになることです。

その手の内の状態に囚われることなく、引くことで理想の左手の状態を開発し続けることを稽古といいます。

この手の内5つは稽古を通して感じれるようになり、最終的には何ものにも囚われない左手の状態に近づいていきます。

では、次にこれらの教えの左手の状態の字面だけ見てみましょう。すると、

現代の弓道の指の揃え方、整え方は5つの手の内の教えから来ている

とわかります。

上記の文章を指の揃え方だけに注目してみると、

・三指を揃えるは「三毒」「骨法陸」

三毒の「小指、薬指を締める」骨法陸の「中指と薬指を寄せて」という文章が似ています。

・弓と親指の十文字は「鵜の首」

少し、三指の向きを上に向けるようにすると、矢の長さいっぱいに引いてたわんだ弓に対して、親指が十文字に揃うようになります。

・人差し指と親指の間の皮を巻き込むは「三毒」

人差し指と親指の間の皮を広げると、人差し指と親指の間の皮を巻き込まれるように締まります。

会での指の状態を、弓構えで行うと、弓道連盟で教わる手の内になります。

今日の弓道の手の内の教えは、このあたりの教えから派生しているのがわかります。

しかし、これらの内容は「会、離れ」のときに完成するものです。弓構えで行うとできません。

特に、「呼立」の手の内の状態が理解できなくなります。

呼立の手の内は、何にも囚われない状態を観察するのが目的です。弓を構える前に、指を意識してしまうと、何にも囚われない状態を体感するのが難しくなります。

ではなくて、最初から指に余計な意識自体持つ必要がありません。そのような意識で稽古を続けていくと、自然と三指が締まり、少し手首が上に起きて、拳だけではなく、手首・腕と連動して弓を押せるようになっていきます。

そうすると、本当に「手先」に何にもとらわれないようになるし、拳の形を整ってくるのです。

さらに、これら手の内の内容を指に力を加えて意識してしまうと、結局その形を維持できないこともわかります。

もし、小指と親指の間を意識的に寄せて骨法陸という手の内を意識したとします。しかし、そのようなことを行って、弓を押し回している最中に指の意識が抜けてしまったら、寄せられていた指は開いてしまいます。

あなたが弓構えで意識していることは、大体大三か引き分けあたりで抜けてしまいます。

だから、結局左手に余計な力みが出てしまいます。

いずれにしても、弓構えで余計に指に力を加えてしまうと、弓を硬く握りすぎてしまう元になってしまい、結局、大三から会のあたりでその構造は崩れてしまいます。

姿勢に注目する

では、これらの手の内の情報を、実践で活用する方法をお話しします。

重要なのは「姿勢」です。

姿勢を追求し続ければ、より軽く弓を握れるようになり、三指が揃いやすくなり、手の内十文字を実践しやすくなり、形が整います。

良い胴造りが良い手の内、左手の形を構築します。

ここで、手の内と胴造りが関連している例をもう少し踏み込んで解説していきます。

まず、足踏みでしっかり体重を下半身に乗せてください。下腹部に体重が落ちると自然に肩が下がって首が伸びます。

実験的に、いつもより足幅と足先の角度を広く踏んでください。そうすると、いつもより下半身に体重が乗る感覚を得られます。

下半身に体重が乗って脚に力が入ると、中指、薬指、小指の三指に力を込めやすくなります。

それと同時に、上半身の力みが抜けます。そうすると、肩が伸びて腕の上部が自然に伸びて、親指が弓との十文字が形成されます。

姿勢が整うと、手の内が完成します。

このように、手の内の形は意識的に作るものではありません。

姿勢が伸びていれば、自然と左手の形も整っていきます。

あなたが意識するべきことは、姿勢です。より良い手の内の状態を構築するために、姿勢の作り方を詳しく解説していきます。

より、左手が整い、押し動作に働かせるために、姿勢に注目して解説していきます。

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