姿勢の整った胴づくりには4つの条件が存在します。これらを意識することで弓を引く上で必要な胴づくりを理解できます。
ここでは、射法書からまとめた、正確な胴づくりを整えるための4つの条件を解説していきます。
胴づくりの条件4つ
胴づくりの条件は4つあります。
①身体の重みを両足に託し、左右の肩を落とす
②上体はやや前屈みになる
③両脚はひかがみ(膝の裏)を伸ばし、両足裏は大地にピッタリつくように力を入れる
④静かに緩やかな気持ちになり、腹の力が抜けないようにする
・左右の肩を落とし、上肩、妻肩、地紙を重ねる
①は上体の重みを両足に平均に乗せるために行います。左右の肩を落とすことで、両足裏に体重が乗ります。古人はこれを「上肩(うわかた)、妻肩(めかた)、を地紙に重ねよ」と教えています。
上肩は左右の両肩のことであり、妻肩とは両脇腹下のことで、地紙とは、両足裏のつま先、踵同士で線を結び、その二線と両足裏で囲まれる面積部のことです。
両肩、両脇腹下を両足で外八文字に開いた足踏みの上に前後出入りしないように均等に重ねるようにします。特に大三から引き分けにかけての動作で身体の重心が後ろに動いてしまう可能性があるため、気をつけるようにしましょう。
初心者と練達者の違いは重心移動にあるとされています。ある研究で、初心者と熟練者との射の違いを測定したところ、
練達者は重心移動がほとんど起こらないことがわかりました。
重心移動が起こると、姿勢の崩れや感情の揺れが生じてしまう可能性があります。そのため、射においては、なるべく重心移動を減らして行うことが大切です。
初心者が射を行うとき、重心移動を減らすポイントとしては、両肩を気持ち前に置くことです。両肩を前に置き、上半身全体を前傾させると、重心移動が起こりにくくなります。
さらに、胸周りの筋肉がゆるみやすくなり、弓を引いている最中に心や感情の動揺が軽減されます。少し両肩を前に置くときは、「アゴが出すぎない」「膝関節の裏側が張りすぎない」「腰が反らない」ことを心がけましょう。
先ほどあげた三つの動きは両肩を前に置いたときに陥りやすい姿勢の崩れです。これらの失がち生じた場合、両肩の位置を前に出さず、再度正しい位置を見つける必要があります。
小笠原流の教えでは、物見を行うときは、「おとがい(あご)を出さない」という教えがあります。さらに、日置流の射法の説明より、胴造りが正確に整ったときに、腰に袴についた板がピタリと付つくようになる(袴腰の準)という教えがあります。
両肩の位置にとらわれて、あごや腰に変に力みや崩れが起こった場合、修正する必要があります。
・上体をやや前屈みにし、弓を引く姿勢の安定を取る
②は上体をやや前傾させる日本射法の特色です。前傾させる理由は日本の弓は両手が最終的な離れまでが、自分の背面に移動する傾向があるからです。
その運動を安定的に維持するために体の重心をやや前面に移します。
ただし、ここで注意することは、上体を前屈みにすることで、足裏の接地が水平さを欠くことです。上体を前屈みにしすぎると、足裏、とくに踵部が浮き気味になります。
こうすると、胴づくりの条件が適っていても、足裏の浮きによって、足踏みの安定が欠けます。尾州竹林ではこの足裏の接地を水平にする教えを「中墨の準」と説明しています。
足裏の接地が水平でないと、足裏より上の体の部位が射の動作中に動いてしまう可能性があります。すると、水平でなくなるため、ねらい目に悪い影響が出ると説明しています。
体の部位で動きやすいのが「みぞおち」です。さらにみぞおち部は弓構えの時の腕の関係が崩れると動きやすいです。
弓構えの時の拳の位置が体と遠くなりすぎると、屈んでしまいます。または、的を狙うことを先行しすぎて、左拳が早く降りすぎると、みぞおちが左側にひねられて、胴体部が左側にねじれてしまいます。
教本第二巻には、「弓懐の関係は最後まで崩さないようにする」という考えがあります。この考え方を参考にすると、弓を引く上でみぞおち部が崩れやすい原因を理解できます。
弓を引いているときの両腕の位置が適切な位置でないと、それに影響を受けてみぞおち部が崩れてしまうということです。
例えば、大三を取るときは、左肘をピンと伸ばさず、ほんの少し曲げるように取ります(神永範士の引き分け、猿臂の射より)。
さらに、会において左腕の裏側の筋肉を使って適切に押し動作を行うと、腕の外側、内側についている檮骨、尺骨が垂直になり、親指が前に出るという教えがあります(教本第三巻、高塚範士の会の説明より)。
そのとき、左肘はピンと伸ばさず、ほんの少し曲がった状態で落ち着きます。射を行う上では、両腕が伸ばしすぎず、かつ曲げすぎずの関係を保ち続ける必要があります。
つまり、弓の反動力をしっかり受けて、かつ両腕の筋肉に縮みや弛みのない状態を維持し続けます。この関係が崩れたとき、弓懐の崩れによって、みぞおち部の崩れが生じます。
それによって、上半身全体の崩れにつながり、狙い目に大きく影響します。上記に挙げた二つの胴の崩れ方は稽古中によくみられる射の失です。内容を理解し、足裏をピタリとつけることで、上体の揺れや崩れを軽減できます。
・ヒカガミは足裏をピタッとつけるために力を入れる
両脚の膝の裏側をヒカガミと呼びます。この部位を伸ばし、両足裏はピッタリ床面につくように力を入れます。膝に力が入っていないと上体を支えることが困難であるため、膝関節をはめ込むようにして、膝裏を伸長させます。
上体だけを前屈みにすると「出る尻鳩胸」の姿勢になりがちです。
ヒカガミの重要性は理屈ではわかりますが、実際にこれを行うと膝関節を硬くしすぎることがあります。
膝関節を固くしすぎると、かえって射を行っている最中に上半身が力んでしまい、射型が崩れたり狙い目がぶれてしまったりしてしまいます。
膝関節の伸ばしかたは二つあります。一つは、項を真っすぐに伸ばし続けることです。これにより、腰周りの筋肉が上方に引っ張られます。さらに、足裏がピタリと地面についていると、結果的に膝の裏側が伸ばされるようになります。
もう一つは太ももの前側の筋肉を張ることです。太ももの前側にある太腿四頭筋(だいたいしとうきん)を固くすることで、
脚が伸び、膝の裏側が伸ばされます。
多くの人はこのようにヒカガミを伸ばします。ただ、このように、姿勢を取ると、射を行っている最中に姿勢が崩れる可能性があります。
弓の抵抗力が体にかかったとき、下半身で上半身の崩れをおさえないといけません。もしも、太ももの前側の筋肉が張っていると、自然とお尻が出すぎて胸が前方突出した姿勢になりやすくなります。
これによって、引き分けで大きく弓を引きこめなかったり、右肘の位置が適切な位置に収まりにくくなります。具体的には胸が前に出ると、右肘が下向きになります。これによって、離れの動作で、拳を投げだすように離してしまうため、狙い目に影響が出ます。
さらに、このように肘の向きでは、会において弓を左右に押し合う運動がしにくくなります。なので、伸ばす、力を入れると言っても、意識しすぎて張った状態にならないよう、膝関節を硬くしすぎない程度にヒカガミを伸ばすことが大切です。
・腹の力を抜けないようにする
①~③により、重心の固定、体の安定が決まります。このとき、上半身(特に胸周り、背中周り、お腹まわり)が楽に、下半身(特に膝関節、足首関節、足裏)などによけいな力みがないと自然と気持ちが落ち着きます。
自分で入れなくても腹の力は抜けていません。これにより、④が完成します。
腹の力については、自分から意識的に力を入れる必要はありません。その理由として、腹に力を入れると、上半身の姿勢が崩れてしまう可能性があるからです。
適切な腹力のかけかたは両肩を落とすところから始まります。両肩を落とすと、胸郭の下にある横隔膜が下方に下がります。
すると、腹圧がかかるようになります。実際に試してみるとわかりますが、お腹に手を当てて両肩を落とすとお腹が少し膨らみます。
このように、自分から腹に力を入れなくても、両肩を落とすことで、腹圧をかけることができます。これによって射を行う上で終始腹の力が抜けることなくなります。
胴造りの姿勢の安定だけでなく、精神の動揺を軽減することができます。他、胴づくりの説明は日置流では「袴腰の準」という、男子の袴の腰板が左右の腰骨の上端と背骨の結合点あたりにピッタリ密着することをよしとしました。
他の流派では「腰を入れる」と教えています。
もしも、腰板に腰を当てることを意識しすぎて、必要以上に腰を入れたり、腰を入れると言って、腰を入れることを意識して、腰を必要以上に動かして、腹や背中が必要以上に力むと④の条件を満たさなくなります。
なので「袴腰の準」や「腰を入れる」ことを実践するときは注意が必要です。
自然と腰の入った姿勢は首の位置、足裏の位置を正確に定めた後に構築されます。弓を引く上で、適切な姿勢は下半身から上半身まで地面と垂直になった姿勢ではありません。上半身がほんの少し前傾し、下体から上体にかけて竹の節のようにほんの少し曲がった姿勢が適切な姿勢と言えます。
この姿勢を取ると、自然と腰部の筋肉が上方に伸ばされ、結果として袴板にピタリと付きます。不要に腰だけ動かしてしまうと。
膝や肩といった体の部位も一緒に動いてしまい、立ったときに不用意な力みが生じてしまう可能性があります。
以上の関係を考えると、体の重心は両足の中央よりやや爪先よりになります。これにより、弓を引く上での性格上体の安定を保つことができます。