これまで、踵荷重の姿勢に変えることで、様々な効用があったことは理解できました。
では、踵荷重の姿勢を実際の射で実践していきましょう。
・背中に力が入らない
・無駄な力みがなくなる
・弓矢を楽に持てる
これを意識して、踵荷重の姿勢を構築しましょう。
つま先から体重を置いてはいけない
まず、足踏み動作、ここで
つま先に体重を置かない
ようにしましょう。
足踏みで「60度に踏み開こう」と言われると、つま先から足を置く人がいます。そうした方が足先を60度に合わせやすいからです。
しかし、「角度を合わせる」ことだけを目的に、つま先から体重を乗せると、ふくらはぎ、太もも裏側、背中の筋肉が力むます。この状態で次に右足を踏み開くと姿勢がブレやすいです。
そこで、踵を意識します。
少しだけ膝を曲げて足先を60度に合わせる意識より「太ももを外側に開く」ことに意識を置いてください。そして、足裏全体で床を踏んで、左足をおきましょう。
こうすることで脚に力みなく足踏み動作を行えます。体重をしっかり踵に踏みしめて足踏みができます。
つま先荷重で4歩歩くと、胴造りがぶれやすくなる
弓道連盟の執り弓の姿勢は「正しい姿勢」を行なったあとで、弓と矢を持つと記されています。その、正しい姿勢は
・目線を鼻頭を通して4メートル先に向ける
・膝頭を締める
・重心を中央よりやや前方体重を乗せる
となっています。この「膝を締める」「重心を中央よりやや前方」を正しい姿勢と解釈しないでください。ここでは、「軽く膝を曲げるくらいに緩め、踵に体重を乗せる」ようにします。
そうして歩かないと、射場に入る時の「4歩の動作」だけで、腹圧が下がり、姿勢が不安定になるからです。
拇指球荷重にして歩くと腹圧が減って姿勢が不安定になります。反対に、踵に体重をかけて歩くと腹圧が上がり、姿勢が安定します。
文章ではわかりませんので、実際に体験してみてください。
まず、何もしない状態で、腕を前方に伸ばして、もう一人からその腕を押し下げてもらいます。この時に、腕を押し返して、姿勢を保持してください。この時の、姿勢のぶれにくさを覚えてください。
そのあとに、拇指球荷重の姿勢で前に3、4歩程度歩き動作をします。その後、もう一度腕を前に伸ばしてそれを誰かに押し下げてもらいます。
拇指球に体重を乗せて4歩歩いた後、腕を押されると姿勢が崩れやすくなります。つまり、拇指球に体重を乗せて歩くと、前後の姿勢の安定性が減っているとわかります。
しかし、踵に体重をかけて歩くと、腕を押し下げられても姿勢は安定します。
たった4歩、拇指球に体重を乗せて歩いただけで、あなたの姿勢が崩れてしまうのが体感できたはずです。
逆に踵に体重をおけば、体配動作によってより姿勢を安定化させて射に挑めます。
座射の場合、入場から射位まで10歩以上歩きます。その最中に意識的に踵に乗せるようにしてください。
そうすれば、歩いている最中に腹圧は高まっていき、姿勢が安定していきます。
そのためには、教本の「膝頭を締める」のは考えないようにしてください。もっというと、立っている時に「膝頭を締める」ことはご法度です。
中には「膕(ひかがみ)を伸ばさないと先生に指摘される」という人がいます。問題ありません。軽く膝を曲げるくらいであれば、見た目膝を曲げているかはわかりません。膝頭を緩めてください。
逆に、そのようにひかがみを伸ばすように言う先生に指導を受けても、弓を引く実力は伸びないので、聞かないでください。
「膝」は武道に置いて力を入れてはいけない部位です。膝関節に力を入れると、脚だけではなく、肩や腕に力みをかけてしまいます。
射が始まる前に、「間違った正しさ」を意識して歩いていては、的中率は落ちてしまいます。むしろ、的中率が伸びると期待できる「合理的」な歩き方を実践してください。
膕は伸ばすのではなく、凹ますもの。完全に脚の筋肉をリラックスさせて射場に入るようにしてください。
胴造り:軽く膝を曲げる、骨盤を立たせる、首の後ろを伸ばす
次に、胴造りで実践したいことを3つにまとめます。踵に体重を乗せることを意識して
・軽く膝を曲げる
・骨盤を立たせるようにする
・首の後ろを伸ばす
まず、踵に体重。拇指球に体重を乗せていた時よりも、膝を軽く曲げられると思います。すると、骨盤を上方に立たせやすくなります。
そして、骨盤が垂直にたつことで、軽くあごが引きやすくなって首の後ろを上方に伸ばしやすくなります。
ここでのポイントを強調します。「踵に体重を置くと、膝関節は軽く曲げた方が落ち着く」と思います。踵に体重を乗せて、軽く膝を曲げるようにしてください。
これによって、弓が格段に引きやすくなります。その理由を説明します。
膝関節を曲げると両肩が上がりにくくなる
先ほどお話した、膝関節を曲げる重要性について少し解説します。
まず、「膝を緩めると、肩関節が力みにくい」です。
先ほどお話した通り、膕(ひかがみ)を伸ばすとは「膝裏をピンと伸ばす」のではなく「膝関節を凹ませる」ことです。そうすると、両肩が上がりにくくなります。
膝関節が曲がると、腰の位置が下がり、相対的に肩を下がるからです。
打起こしや引き分け動作に置いて、肩関節が上がってしまう人が多くいます。この問題は、膝を緩めると解消できます。
膝を軽く曲げて、腰を下げた姿勢で打起こし、引き分けて見てください。肩が下げやすいのが体感できると思います。
膝を曲げた姿勢で弓を引くとむしろ、肩が上がった窮屈な姿勢を取りづらくなります。
吉田能安は自身の書籍では「太っている人ほど弓を引くのが有利」と解説しています。
理由は、太っている人ほど、腰にかかる重みが大きくなり、両肩が上がらないからです。強い弓を引いても、上半身が浮いた姿勢になりにくいのです。
踵に体重を乗せると、膝関節が緩まるのがわかります。
弓構え
次に、踵に体重を乗せた状態で
踵に体重を乗せると、強い取り懸けと手の内が完成する
ことを実感してください。強い取り懸け、手の内とは?これも踵に体重を乗せるとわかるようになります。
踵に体重を乗せると、小指、薬指をしっかり握れる
指を動かす時に、次のことを意識してください。
・踵に体重を乗せると、小指と薬指が握りやすくなる
踵に体重を乗せると、小指の握る力が強くなります。これによって、取り懸け、手の内の形が安定します。
反対に、母指球に体重を乗せてみてください。小指と薬指に力を入れにくくなったと思います。それより、人差し指と親指の方に力が入りやすくなります。
手の内、取り懸けでは、「少ない力で拳全体が弓の反発力で崩れないようにする」ことが大切です。そのためには、小指、薬指を握て、指の関節が寄せつめる必要があります。
少ない力で強固な拳を作るためには、全ての指関節を寄せて、関節の間を狭くする必要があります。密にしき詰まった関節の状態を作れば、弓の圧力がかかっても崩れることがありません。
じゃんけんのぐーとパーの形を作って見てください。押された時に強いのは「ぐー」の形です。なぜなら、ぐーの形の方が、拳の体積に対して関節が密にしき詰まるからです。
しかし、このぐーの形を作るためには「握る力」を強くかけないといけません。そこで、「小指と薬指」を使います。
小指と薬指を締めると、指の関節を容易に寄せ詰めることができます。先ほどお話した「ぐー」の拳を少ない力で作ることができます。
強い拳ができると、右手首が曲がりにくくなります。これは引き分けをしている最中のたぐり防止に繋がります。
さらに、小指を握ると、親指付け根の力が抜けて、離れ動作が格段にしやすくなります。
小指の筋肉に先に力が入って手首が立つことで、親指の筋肉の負担が減ります。
親指の付け根の筋肉が硬いと、右手を弦から外しにくくなります。離れた時に拳に微妙な狂いが出て、真っ直ぐ離すことができなくなります。
そこで、踵に体重を乗せ、薬指に力を入れると、親指の無駄な力みが抑えられます。
小指を握ることで、右手首が曲がりにくく、離れ動作もしやすくなります。弓をスムーズに引くために、踵に体重を乗せてください。
手の内も同様です。
踵荷重にして、小指と薬指をしっかり締め、後の指は極力力を入れないようにします。特に、親指の付け根に力が入らないように気をつけてください。
そして、弓を包み込むように軽く握ります。すると、「少ない力で構造が崩れにくい」手の内が完成します。
例えば、大三動作で弓を必要以上に握ってしまうことはありませんか?。大三で左親指を弓の右側に入れようとするときに、手の内の構造が崩れる可能性が高いです。
そこで、踵付近に体重を乗せて、拳を丸く作ってください。その状態で大三をとると、手の内の形が崩れにくくなります。
大三で弓が掌を擦った時、まずはじめに指先に力が入ります。ここに力が入ると、掌全体に力が入ります。
しかし、踵に体重を乗せると、小指、薬指以外の指に力を入れずらくなるため、掌に弓を擦る力がかかっても力は入りません。
掌の中心には、指を動かすための「手根管(しゅこんかん)」と呼ばれる組織があります。この部位に負荷がかかると、指に力が入ります。
踵に体重を乗せてみてください。おそらく、掌の中心を押して見ると、柔らかくなっていませんか?そのくらい、体重を後ろに乗せると、掌の無駄な力が抜けます。
修行の一環だからと、左手に力を入れて無理をしてしまってはいけません。余計に弓を引けなくなります。
そうではなく、踵に体重をかけてください。指先の力を抜いて弓が握るため、問題が解決します。
ここまで、できたら、次は「さぁ、踵荷重の姿勢で八節動作を実践しよう:打起〜離れ」までを行ってみてください。ここまでやれば、あなたは完全に弓を引けるようになります。