今回は、手の内十文字の教えの内容の誤解について解説していきます。
弓道の世界では、「手の内十文字」という言葉があります。これは、手の内と弓とが十文字に交わることを指します。そのため、弓道の指導者は、「天文筋と弓を当てて、弓と左手が十文字になるように」と解説します。
ただ、この指導自体が弓道の文献上間違っています。弓と左手が十文字になるのは間違いありません。しかし、文献に記されているのは「天文筋と弓」ではないのです。
この内容は、きちんと精査して「適切な手の内」を行うようにしてください。その理由について解説していきます。
天文筋と弓が十文字になるわけではない
実際、弓道教本二巻には、手の内十文字についての記述があります。「五重十文字」の項には、次のように記されています。
以下の5つの部位が十文字に保たれること
〇首と矢
〇手の内と弓
〇妻手の弽と弓
〇弓と矢
〇肩と脊柱の十文字
この内容の通り、手の内は十文字に保つように説明されます。この内容に沿って、「天文筋と弓を十文字に当てましょう」と解説されてます。
しかし、古文の文献を調べると意味は異なります。「五重十文字」の出典とされている「尾州竹林弓術書」は天文筋ではなく、「小指と弓が十文字になる」と記されています。
実際に文章を見ると、
骨法の手の内とは指を重ねて小さく取り、小指と大指にて中心の二指をよせつめたれば、弓と小指は曲尺(かね)にあたるものである~尾州竹林弓術書より~
曲尺とは「垂直を測るL字の定規のことである」
つまり、この文章では「弓と小指が垂直に交わるように」握ると解説されています。この手の内の作り方を解説します。
まず、既存の弓道の教えのように、天文筋に弓を付けます。その状態から、弓の上部を伏せるように前に傾けてください。人差し指と親指の間と弓との間に隙間を作り、小指を締めるようにします。
このように、弓を前に傾けて小指を締めると、弓と小指が十文字になります。昔の文献から見ると、手の内と弓を十文字にするのではなく、小指と弓を十文字に交わらせるのが正解と言えます。
このように手の内を取ると、次の大三・引き分け動作に用意に移りやすいことがわかります。
大三で弓手が入れやすくなる
人差し指と親指の間と弓の間が空くために、次の大三で左手を親指を入れやすくなります。もし、天文筋に弓を当てて握ると、次の大三動作で二指の間と弓が密着したままで大三を取ることになります。
すると、二指の間の皮がよじられすぎてしまい、左手に力が入ってしまいます。弓道の世界では、左手を握りすぎるなという指導があります。この教えに従うためには、天文筋と弓をそろえるのをやめて、小指と弓を十文字にそろえた方が良いです。
三指がそろいやすくなる
三指をそろえる手の内ができない原因として、小指の締まりが悪く、薬指と中指の握りが強すぎるのが挙げられます。小指と弓を十文字にすることで、この問題は解消されます。
弓を少し伏せることで、小指をより締めやすくなります。すると、小指の締める運動が離れる最後まで続くため、小指が外側に逃げにくくなります。反対に、親指と人差し指の力みは少なくために、中指と薬指の握る力は減ります。
その結果、薬指と中指は握りすぎず、小指はしっかり締められるため三指をそろえるのが容易になります。
反対に、最初から天文筋と弓をつけたとします。すると、大三で人差し指と親指の股が強くよじられます。解剖学的上、人差し指と親指の間の筋肉に力が入ると、手の甲が一枚の板のように伸びるようにできており、小指が伸びるように弓から逃げます。つまり、相当小指に握る力をかけないと、小指を締めることができなくなります。
そのため、天文筋に弓をつけるのはオススメできません。
天文筋と弓がしっかりつく
最後に、小指と弓を十文字にすると、結果的に天文筋と弓が会でしっかりつくようになります。
シンプルに考えればわかりますが。天文筋に弓ををつけたまま最後までキープしたいのであれば、「弓構えで天文筋につけてはいけない」とわかります。なぜなら、弓構えでそろえても、次の大三で手に接触している弓が変わるからです。最終的にしっかり押したい「会」の段階で天文筋に弓をつけたいのであれば、逆算して、その手前では天文筋から離さないといけません。
すると、弓構えの段階では、人差し指と親指の股と弓とに隙間を空けます。つまり、天文筋からあえて弓一張り分指の付け根側に弓を置いたとします。すると、次の大三動作で左手を的方向に押していった際に、弓の位置が手の中に移動し、結果的に「天文筋に弓がつく」ようになります。
確かに、弓構えの段階で、天文筋と弓をつけると、天文筋と弓についたままにはなるかもしれません。しかし、大三で弓がさらに手の中に食い込んでしまうため、「皮がよじれる」「指を握る」「手首が下や内側に曲がる」と言った問題が起こります。
したがって、このような問題が起こるために、
すると、「天文筋と弓はそろいます、でも拳はがちがちに固まって弓をちゃんと押せない」状態になってしまいます。か
では、この手の内と弓が十文字になると解説されたのはいつ頃でしょうか。まず、魚住範士が説明する、尾州竹林射法大意を見ると、
手の内と弓は十文字になる。と記載あり。
しかし、小指と弓が十字になるとは記載がされていません。この他に、弓道教本の