今回は、なぜ審査における引き分け動作が難しいの理由とその対策を解説します。
審査で弓を引こうとすると、「大三で左肩が上がる」「引き分けで鳥打ち(矢先が平行にならず、上がってしまう)になる」「引き分けで力が入る」「会で力む」といった問題が起こります。
そして、この問題は、決してあなたが悪いのではなく、審査で求められる弓の引き方を行うと高い確率で左手に負担が出てしまい、弓を適切に引けなくなるのをご存じでしょうか。このことを理解しなければ、審査で適切に弓を引くための方法がわからなくなります。審査で合格したい場合は、この内容を実践してみるようにしてください。
左手首を曲げるようにとると、引き分けがうまくいかない
問題点を挙げる前に、引き分けがうまくいかない理由は、大三で左手首を外側に曲げすぎてしまうからです。
大三では、弓手を的方向に取るため、左手首を外側に曲げながら左腕を伸ばしていきます。ここで、左手首を外側に曲げる運動が強すぎると、弓の力で左手首に力がかかります。それにより左腕も連動して力んでしまいます。
大三で左手に力が入るのは、左手首を外側に曲げすぎるからです。左手を外側に曲げた状態では、弓の反発力をしっかり受けるのは難しいです。そうして、左手首の筋肉が緊張し、左腕が連動して力み、左肩が上がってしまいます。これで、引き分けの最中に左肩が上がるのです。
なお、左肩が上がってしまうと、大三で矢先が上がってしまうため、鳥打になります。弓の反発力も強く受けられないため、会で上半身が強く力んでしまいます。そのため、左手首を外側に曲げすぎると、弓の反発力が受けられず、左手が力みます。すると、引き分けであらゆる問題が起こります。
左手に負担のない引き方をすると、審査で落ちる
そのため、大三では、弓手を的方向に動かすために、できるだけ的方向に動かしやすいように取るのが合理的です。弓手は的方向に少し向けて、弓を左側に寄せる方が良いです。実際に弓道教本一巻の図説は、左手を少し的方向に向けて、うち起こししているのがわかります。
しかし、実際はこの射法をすると、「左右対称に打ち起こしてない」と注意されます。左手首を内側に向け気味にし、弓の位置を中央位に修正しなければ、弓を左右対称に打ち起こせません。その結果、左手首が内側に向きすぎてしまい、外側に曲げる運動が強すぎてしまいます。
他に、弓構えを取るときも左腕を少しだけ伸ばすように取るのが合理的です。実際に、弓構えで左腕を少し伸ばして取る高段者は多くいます。
しかし、これを行おうとすると弓構えが円相になっていないと言われてしまいます。すると、左手首を内側に曲げた弓構えを取らないといけなくなります。
ちなみに、既存の弓道では円相を「円の形」と解説しますが、円相は円形と解釈しません。円相とは、円のように終わりのない状態を指しており、筋肉のつながりや血管系の状態にあてはめています。
左腕を軽く伸ばすと、左手首の筋肉や血管系に圧迫がないため、血流に滞りなく終わりができません。この血流に詰まりのない腕に無駄な力みのない状態を円相にとっていると解釈しています。教本一巻の射技の基本には自然体と記されております、無理のない構えと姿勢を取って動作すると記載もあります。
しかし、実際の審査では。このような自然な腕の状態は形式美に反するため、良くないと判断されます。そのため、左手首を内側に曲げて、筋肉には負担をかけているが、見た目の形がきれいな射型をしなければいけません。
だから、審査の射法は難しいのです。
弓道連盟発行の教本の構えや打ち起こしをすると、連盟の審査では「左右対称ではない」と言われてしまいます。大部分の方が身体の合理に合わない形だけを優先した射を行わないと行けないため、うまく行きません。
実際に、弓構えで少し左腕を伸ばし気味にしてください。そして、打ち起こしで少し左側に寄せて打ち起こししてみてください。大三で左手を的方向に入れやすくなるのがわかります。しかし、これを指導者や高段者の前で行うと、弓構えと打ち起こしの段階で弓の位置を直されます。
このような状態を回避するために、高段者や合格されてる方は工夫をします。
イ、軽い弓を使う
ロ、内竹の狭い弓を使う
ハ、握りが細い弓を使う
上記の内容を実践すれば、左手首を外側に曲げても、大三で負担がかかりにくくなります。いわゆる「小技」を聞かせて合格している人が多数です。実際に、高段者の弓を見ると、大半が竹弓で15kg程度で、内竹も狭めです。このような弓は腕にも体にも負担が少ないため、少々大三で手首が曲がりすぎたとしても、余計な力みは加わりません。
イに関しては、審査のために女性用の弓を使う男性高段者がいます。ある弓具屋の情報によると、内竹が広い弓の場合、左手が入れずらいとクレームが多いらしいです。
思うところは個人であると思いますが、審査はそのようなものとご理解ください。実際に、全国の高段者で30kg以上の弓を、筋肉に負担なく引ける技術を持っている方はいません。なぜなら、このような大三で稽古し続けると、軽い弓しか使えない引き方になってしまうからです。
大三の問題を軽い弓を使わずクリアする正攻法
ただ、ここまでの話を聞いて
「軽い弓を使ってまで審査に受かって、果たしていいものか」
と考えたくなる人もいるかもしれません。個人的には、正しい感性と思います。軽い弓で審査だけ受かって弓道が教えられるわけがありません。本当であれば、自分の力を持て余すような弓で合格しようと考えるのではなく、きちんと弓を引いて、形も整えて、合格する必要があります。
ただ、そのようなことを高段者に言っても現実の世界では何も伝わりません。そこで、軽い弓を使わず、クリアする方法について解説していきます。
1少し強めの弓を積極的に使う
まず、今自分の持っている弓より少し強め(+2,3kg)の弓で稽古するようにしてください。自分の無理のない範囲で少しきつめの弓を選ぶようにしてください。そして、審査ではいつも使用されている弓で挑むようにしてください。
普段の稽古で引きやすい弓を使って、審査でより軽い弓を使って出場するのではありません。普段の稽古で少し強い弓を使って体に厳しめに稽古します。そうして、本番では少し軽くして「余裕」を持たせるのです。これで、左手首を内向け気味に大三をとっても問題なく押せるようになります。
この方が、効率よく技術が向上します。確かに、軽い弓を用いるのも一つの手です。しかし、あまりに軽すぎると、矢が下に落ちやすくなり、余計に的中率が悪くなります。何より弓のkg数を下げ続ければ、技術が向上することはありません。軽い弓ばかり使い、射型のキレイさだけを優先し、駄目だしだけはでかい高段者にならないようにと個人的に思います。
2弓を伏せる
次に、弓を伏せて大三を取るようにします。弓を伏せれば、左手は的方向に入れやすくなります。打ち起こしの際に、左小指を軽く締めるようにすると、弓の上部が前に傾きます。すると、虎口(人差し指と親指と間)と弓の間に隙間ができるため、親指を動かしやすくなります。これによって、大三動作を行いやすくできます。
ただ、先生によってはこの方法で打ち起こしすると「体と弓が平行になっていない」と言われてしまう可能性があります。その場合は、自分の体もやや前方に倒してください。そして、小指も締めてください。すると、身体と弓は平行にそろっていますが、弓と左手の位置関係は伏せた状態に近くなります。そのため、大三を取りやすくなります。
実際の審査では、正面から見られるので、弓が伏せているかどうかもわかりにくいです。多少であれば問題なく伏せられると思いますので、行ってみてください。
3大三の瞬間に左腕を伸ばしながら取る
最後に、大三のときに左手首は外側に曲げず、左腕を伸ばしながら取るようにしてください。
大三を取るときに、左腕を伸ばして、斜め上方に伸ばすようにします。そこで、矢先がやや前に向くように取ります。すると、左手首を外側に曲げる運動が抑えられるため、左手の力みが軽減されます。それだけではなく、この取り方は、左肩の負担を減らすことができ、上半身に力みのないキレイな射型に整えやすいです。
ただ、この方法をとると、「大三では常に矢は的方向に向け続けてとらなければいけない」と言われるときもあります。その場合、打ち起こしから大三に入るとき、両拳を一個程度前方に動かしてください。そのあとに、左腕を伸ばしながら大三をとってください。すると、矢の線が前に傾かずに、左腕を伸ばしながら大三がとれます。
実際に、このように大三を取られている高段者もいます。ただ、これにもデメリットがあります。この方法は両拳を前にとって、両腕が伸ばされるため、痩せている人の場合、胴がかがみます。すると、引き分けで大きく体に割り込んで引けなくなります。逆に、太っている人はこの手法が使えます。
実際に、太っている高段者はこの方法を使うため、左右対称に打ち起こし、左手首を外側に曲げても胴が崩れません。加えて軽い弓を用いるので左手も力みません。しかし、痩せている人の場合これが使えなくなります。
それでも左右対称に平行に大三を取れといわれたら?
上記のような内容を理解すると、左右対称に打ち起こししながらでも行うことができます。ただ、それでも一つ二つ形式的に打ち起こしするように話される場合もあります。あるいは、「審査で教本に書いてある内容を実践するだけでも、こんな煩わしい思いをしないといけないのか?」と思う人もいるかもしれません。
それが、今の弓道の審査です。現在、私は弓道の協会を60か所以上の弓道の協会の方とお会いし、事情や情報を交換してきました。その結果、弓道教本を3巻まで合理的に勉強している人はおらず、一巻ですら教えられない人が多数と報告を受けています。つまり、自分たちの連盟でかつて決めた弓の引き方を勉強していない人たちが審査し、指導しているのが現実です。
その場合、さっさと昇段審査を受かってやめてください。今の高段者が実践している大三が審査で使えないのは、審査規定や基準に問題があります。そのような欠陥がある試験に受かると、あなたの弓の引き方が余計に悪くなります。
正しい型を行えば、必ず中るが弓道の理念と言われます。しかし、上記した通り、無駄に形式的な縛りをつけすぎた美しい射を行うと、ずっと左手が力んで稽古しないといけません。左肘か左肩を怪我するでしょう。正しい型と言っているはずなのに。
そのようなものに時間を費やすのは無駄な行為であり、間違った権威が生み出される元です。
このようなことに寛容にならない、無駄にキレイさを求めて弓を引きにくい形にさせすぎたために、無駄に審査料と払い続けて疲弊している弓道家がたくさん出ています。何も考えずに見た目のキレイさを追い求めた結果、引き方に悪い癖がついて全く改善されなくなってしまうこともあります。あなたの弓道人生です。そうした現実を理解し、審査の射法が自分に必要か考えるのも大切です。
以上の内容のために、審査で使う引き分けはしずらいです。教本にも書かれ、高段者が実践している射なのに、ほとんどの場合に指摘されます。「少し強い弓で稽古する」「弓を伏せる」「左腕を伸ばしながら大三を取る」ことを意識して、審査に挑むようにしてください。