下腹に力を入れると、弓道の実力は低下する

 

 

弓道の技術向上のためには、本を読み、姿勢や弓の引き方を勉強する必要があります。そこで、弓道の世界では「丹田」という言葉があります。丹田とは臍から約8センチ下、体の奥側に8センチ辺りの奥の部分を指したものです。決してそういう器官が存在するわけではありません。

 

そして、丹田は「胴づくり」の説明でよく使われます。「気息を丹田に整える」や「心気を下腹にこめる」などの言葉は丹田周りを意識の重要性を説明したものです。

 

弓道を勉強する人たちは「丹田に力を込める」と言われると、自分から下腹を張ったり、力を入れたりしてしまいます。中にはそうするために腰を入れるといって前に突き出したりする人もいます。学生弓道の場合であれば、棒を下腹に押し当てられて、「ここを意識して」と言われることもあります。

 

しかし、そのような事を意識すると、射に悪影響を及ぼします。それどころか、上半身全体の姿勢が崩れ、弓を引くために必要な筋肉を働かせることができなくなります。それによって、矢が飛ばなくなり、ひどい場合には、弓道の実力が一生上がらなくなる危険があります。

 

では、なぜ射において腹部に力を入れてはいけないのでしょうか?ここでは、おなか周りに力を入れることで起こる弊害と適した丹田の力の入れ方を解説していきます。
 

丹田とは

まず、丹田の姿勢は自然と意識や重みが乗った姿勢のことを指します。中国では「仙薬」とも呼ばれ、へその下から8センチ下、さらに8センチ体の奥に当たる空間です。具体的に体にそのような名前のついた部位があるわけではなく、あくまでそのあたりをぼんやりさしたものです。

 

上記の空間は体の中で最も血液循環が激しい部位です。ある武道の書籍では、全体の血液循環量の20パーセントが
丹田周りで締めているともいわれます。そのため、呼吸の方法を変えて丹田周りの筋肉を働かせることで、全身の血の巡りをよくすることができます。

 

禅の世界では「丹田呼吸法」やその他武道での呼吸も丹田を意識させる呼吸を取り入れています。ヨガの世界では、グンバイと呼ばれる呼吸があります。これは、腹周りの内臓を意識的に動かし、身体の神経、内臓の機能を調整する呼吸法です。

 

ある剣術の達人は、常におなかに体重がしっかり乗った姿勢を日常化させたことで、切腹する前夜になっても普段通りに過ごしていたといわれています。このように、常におなか周りに体重が乗り、丹田周りに筋肉や意識が働いていると、上半身全体がリラックスし、呼吸も整います。

 

その結果、動き出しが速く、身のこなしも変わってきます。下っ腹への意識や筋肉の働きは、姿勢に大きく関わります。そして、最も体に負担のない姿勢は丹田に自然に意識が行っている姿勢と言えます。

 

丹田へ意識を向けると姿勢全体が崩れる

普段の生活で重心が下に落ち、丹田周りに体重の乗った姿勢を取ることによる利点は他にもあります。それは、心が安定することです。

 

人間には、緊張時に働く交感神経と安静時に働く副交感神経の二つの神経が背骨を介して通っています。これらの神経は、お互いがバランスを取って働いています。しかし、姿勢が悪くなり、背骨の神経に圧迫やつまりが生じると、これらの神経の働きに影響が出てしまいます。

 

例えば、腰をそらせて胸の張った姿勢を取ったとします。この姿勢は、解剖学的に背骨が腰部で前方向に湾曲し、胸部で後ろに湾曲しすぎた姿勢になっています。この姿勢を取ると、その周りに取り巻く神経に詰まりを起こします。

 

すると、全身の血液の通る道が悪くなってしまいます。この影響によって背骨にある自律神経の働きが悪くなります。ここでいう、「自律神経の働きが悪くなる」とは、交感神経、副交感神経がバランスよく働くことができないことを表します。

 

交感神経とは興奮時に働く神経であり、副交感神経とは静止時に働く神経です。二つの神経はバランス良く働いているときは、弓の反発力が身体にかかったとしても、精神や筋肉に無駄な張りや緊張が起こることはありません。血圧や血液循環量、心拍数まで、平静に保たれ、結果として、落ち着いた状態で射を行うことができます。

 

しかし、不用意に腹部に力を入れたり腰を反らした姿勢は二つの神経を過剰に働きすぎてしまう結果をまねいてしまいます。実際に胸を意識的に張った姿勢を取ると、呼吸が浅くなり、肩が緊張しやすくなります。これは、胸が張ることで胸部の背骨の神経が圧迫されて、自律神経の働きが悪くなるからです。

 

これを、武道の世界では「心気下方に通ぜず」とも表現されます。下腹に力を入れたときも同様です。下腹に力を入れると、みぞおち部が縮むため、胸部が屈みすぎてしまいます。これにより、肺を膨らます呼吸運動の機能が低下し、呼吸が浅くなります。

 

もし、前述のように、「下腹を意識して」と言われ、自分から下腹を硬直させると、「腰を前に突き出して腰を反らせる」か「下腹部を硬直させてみぞおち部を縮ませる」ことをしてしまいます。すると、上半身の姿勢の崩れのみならず、感情の起伏や精神状態の制御も困難になります。

 

実際に、私が射をアドバイスしてきた方の丹田の説明を聞くと、大部分の人がお腹に力を入れたり、圧迫させた姿勢より、骨盤をゆがませて射を行っていました。その多くの方に、教本の胴づくりを行わせることで、「前よりも弓が引きやすくなり、離れが鋭くなった」「無駄な力みがなくなった」と報告をいただいています。

 

下腹に意識してと言われると、自分から下腹に力を入れようとします。すると、自分から骨盤や胸郭の位置をずらしてしまい、射に適切な姿勢を構築できません。すると、実力は上がりません。もし、このように誤った解釈で射を続けると、弓道の稽古だけでなく、日常生活における姿勢にも影響が出てきます。そのため、きちんと体の仕組みに基づいて、適切な姿勢を取るようにしましょう。

 

脊柱、項を真っ直ぐに伸ばして射を行う

教本の胴づくりの説明には、「脊柱、項を真っ直ぐに伸ばし、総体の重心を腰の中央に乗せて」という記述があります。「重心を腰の中央に乗せて」が丹田部の説明と類似していますが、それより前に「脊柱と項を伸ばして」と説明しています。

 

もし、腰の反りがなく、腰部、胸部、頸椎に必要以上の湾曲がなければどうでしょうか。頭部から腰にかけて生えている背骨の神経が圧迫がないため、血流に阻害なく姿勢を保てます。各内臓や全身の筋肉にきちんと栄養分や血液が流れる姿勢が取れるため、気持ちは落ち着いた状態になります。

 

腰が立つことによって、骨盤が地面とほぼ垂直(厳密には少しだけ骨盤が前傾する)に立ちます。これによって、その上に乗る小腸、横隔膜が適切な位置に収まります。加えて、消化器官である胃袋が横隔膜の上にしっかり乗ります。このように、小腸、横隔膜、胃袋が骨盤の上部にどんと乗った姿勢を「丹田に重みが乗る姿勢」とも表現されます。

 

通常、緊張したり、だるい状態では、小腸が骨盤の上に正しく乗らない状態になっています。もし、小腸、横隔膜が骨盤にきちんとのらなければ、それにつながる神経や筋肉に圧迫や無理がかかります。すると、血液の循環や栄養分の運搬がうまく行われず、内臓器官の機能低下につながります。

 

例えば、横隔膜が機能低下すると、上下運動が行われなくなり、体内に取り込める呼吸の量が少なくなります。小腸に血液が行かなくなれば、栄養分の吸収効率が低下します。こうして内臓機能が低下し、呼吸量と栄養分の吸収量が低下すると、「不安感」「疲れ」「だるさ」といった身体的症状に悩まされます。

 

胃袋でも同様のことがいえます。丹田に体重が乗っていない姿勢(腰が反ったり、屈んだりする)になると、胃袋が活発に働かなくなります。胃袋、小腸は蠕動運動(ぜんどううんどう)と呼ばれる上下に動く運動形態をとります。もし、胸郭の位置や背骨の位置が定まなければ、胃袋、小腸が体内で上がり下がりしずらくなり、消化不良になります。

 

したがって、イライラしたり落ち着かなくなります。丹田に意識や体重が乗らない姿勢は筋肉の凝りだけでなく、心の不調を発生させることにつながります。つまり、丹田に重みの乗った姿勢を構築することで、姿勢改善だけでなく、呼吸量、栄養吸収量、消化量、心身の改善までできると理解してください。

 

「丹田」が最も働く姿勢の取り方

そこで、ここでは丹田に意識、重みが乗る姿勢の構築するには、どのようなことに注意しなければいけないでしょうか?
丹田に自然に体重が乗る姿勢は心月謝儀の胴づくりの文章説明より、以下のように説明されます。

 

・背骨の湾曲がないこと
・下腹部の硬直がないこと
・左右の肩が傾いたりしないこと

 

このように、背骨に余計な湾曲を作らず、下腹部に余計な力みのない姿勢を作らなければいけません。先ほど述べたように、本質的に姿勢を変えるためには、背骨に余計な湾曲を作って、神経や血液の流れに詰まりを作ってはいけません。さらに、下腹部を余計に力ませてしまうと、背骨全体が猫背にように曲がってしまうため、気をつけなければいけません。

 

まず、全身の筋肉の無駄な緊張をとります。そのために、首を伸ばして両肩を落とすようにしましょう。やせ型の人は胸が前に出やすいので、みぞおち部分を少し体の中にいれるようにします。太っている人は頭が前方に出やすいため、眼球を体の中に入れる心もちで頭を後方にずらしましょう。すると、上半身の力みや緊張がとれます。

 

人の全体重は上半身が60%を占めているといわれています。その体重を頭の頂点から丹田周り(だいたい腰周り)に
集中させるようにしましょう。これにより、丹田を働かせるための姿勢が整います。両肩を落とすことで、胸周りがスッキリして体がほぐれるのがわかります。

 

また、少し体重が軽くなった感覚にもなるでしょう。イメージとしては、最初に地球上の重力が私たちにかかっています。
それに逆らわないでいると頭が縮み、姿勢は負けてしまいます。そこで、首を伸ばします。すると、首の後ろ側、背中の筋肉が働き、重力の反対の上方向に伸びる力が働きます。

 

このように、二つが合わさって、結果的に丹田回りに力や重心がまとまります。自ら首を伸ばすことで自然の力と合わせて丹田を働かせます。

 

このように丹田に力を入れることは自分から下腹を張るのではなく、上半身の無駄な力を抜くことです。その結果下腹周りに体重が乗るようになります。首を伸ばし、肩根を落とすということを理解すると、胴づくりが整い、良い射を与えます。

 

首を上方に、肩を下方に落としましょう。すると、上半身の体重が自然と下半身の丹田に集中し、体全体の筋肉を最大限に働かせる姿勢を身につけることができます。

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