下腹に力を入れると、弓道の実力は低下する

弓道の世界では「丹田」という言葉があります。丹田とは臍から約8センチ下、体の奥側に8センチ辺りの奥の部分を指したものです。中国では「仙薬」とも呼ばれ、決してそういう器官が存在するわけではありません。

 

そして、丹田は「胴づくり」の説明でよく使われます。「気息を丹田に整える」や「心気を下腹にこめる」などの言葉は丹田周りを意識の重要性を説明したものです。

 

この教えを実際にされていた人物は弓聖といわれた阿波研造氏です。阿波研造は弓道の稽古をする際に、的中や形以上に「呼吸」と「姿勢」を厳しく観察していました。中でも、呼吸により、下腹付近に充実感を持たせることを指導で教えていました。

 

弓道を勉強する人たちは「丹田に力を込める」と言われると、自分から下腹を張ったり、力を入れたりします。中には丹田のために腰を入れようとして前に突き出す人もいます。学生弓道の場合であれば、先輩に棒を下腹に押し当てられて、「ここを意識して」と言われることもあります(この指摘の仕方も阿波研造が行っていた注意の仕方が今日でも広がっていると推察されます)。

 

しかし、そのような事を意識すると、射に悪影響を及ぼします。それどころか、上半身全体の姿勢が崩れ、弓を引くために必要な筋肉を働かせることができなくなります。それによって、胴づくりが崩れたり、矢が前に飛ばなくなったりします。

 

では、なぜ射において腹部に力を入れてはいけないのでしょうか?

 

丹田とは

上記したように、丹田に力を入れさしたり、意識させたりする指導は現在もあります。しかし、こうしたことを行うと、姿勢や精神が崩れ、人の精神に影響が出てしまうことも理解しなければいけません。

 

禅の世界では「丹田呼吸法」やその他武道での呼吸も丹田を意識させる呼吸を取り入れています。これは複式呼吸と呼ばれる呼吸により、腹部に効率よく酸素と血液を集めます。

 

なぜ、腹部に酸素を込めるのでしょうか?それは、精神や身体の状態を自然と同じ状態にするには、丹田に空気を入れる必要があるからです。

 

丹田の内容は深すぎるほど深い

丹田の正確な表現は「気海丹田」と呼ばれます。ここで言われる「気」やとは、東洋医学で言われる「氣」を指し、生命活動の根本的な源になります。そして、東洋医学で言われる「氣」は、現代では「空気」と解釈されることが多いです。丹田に多くの「氣」を集めるためには、外から取り込まれる空気の量が大きく関係します。そして、丹田に息を入れることは、東洋医学で不快な症状、精神状態の改善に必要な動作の一つとされています。

 

「氣」の内容を調べていくと、血液の調整、水分量の調整、老廃物の除去までかかわると東洋医学的に説明されます。ここまでくると、丹田に息を入れる行為自体が体や精神、総合して「どこにも滞りのない状態」を構築するために必要なことととらえられます。

 

丹田という内容を説明するときには、「氣が充実する」といいます。これは、東洋医学の書物によく記載される表現です。そして、「氣」の内容自体を調べていくと、食物の消化現象から、生命力の産生までひたすら深いというイメージがあったことがわかります。

 

このような前提があると、丹田を現代風に「力を入れる」「意識する」場所ではないと判断できます。なぜなら、阿波研造を含め、丹田に深い理解がある方がそのような安易な解釈をしていたと考えづらいからです。つまり、「明確な原因があって丹田には力を入れない」という納得ではなく、「多くの奥深い意味が隠されており、そんな簡単に「力を入れる場所」「意識するところ」と結論付けられない」というのが、現実的な解釈といえます。

 

腹部に力を入れると精神や感情に起伏が生じやすい

ただ、これだけ説明したとしても、東洋医学の書籍を知らない場合、なぜ「空気が腹部に入ると精神に関係しているのか?」とわかりにくいかもしれません。
実際、私も最初は東洋医学の知識がないために、イメージを凝らすのが大変でした。そのため、皆様にもう少しわかりやすく少しでも丹田の内容に対して理解が深まるように、少し西洋医学的に解説をします。

 

実際に、腹部に力を入れると精神状態に影響が与えるのは腸内の酸素不足と血流低下によって説明できます。なぜなら、意識的に力を入れると、腹部周辺の血管につまりが生じ、脳や心臓などを通る血管の血流にも影響が出てしまうからです。

 

まず、丹田を指す空間には、臓器でいう「腸」が存在します。腸には、神経伝達物質やビタミンといった生理活性を生み出す腸内細菌が存在します。これらの細菌の活動や全身への栄養の運搬によって、腸は多くの血液を必要とします。そのため、体の中で最も血液循環が激しい部位ともいえます(ある武道の書籍では、丹田では全身の血液循環量の20パーセントが締めているともいわれます)。

 

腸内で合成される神経伝達物質の一部に「セロトニン」と呼ばれる物質があります。これは、脳内に運ばれ、脳の活動を調整、気持ちや精神状態の調節に関わっています。丹田に多くの酸素や血液を送りこむことで、脳の活動を制御する神経伝達物質の合成に働きかけることができます。

 

しかし、腹部における酸素量が低下すると、腸内で物質の合成に必要な栄養分が足りなくなります。それによって、脳内の活動を制御する神経伝達物質の合成量が低下します。これによって、精神や感情の起伏に異常が起こります。体に起こる不快感や不安感は、腸内におけるセロトニンの合成量が低下したことで起こります。

 

ヨガの世界では、グンバイと呼ばれる呼吸があります。このような呼吸によって、気持ちを静めることにつながります。

 

丹田に無駄な意識をなくせば、射行における精神状態は変わる

こうした事実から、丹田周りの血管を圧迫させるようなことをやめることで、弓が引きやすくなります。?

 

実際に、私が弓道関係者に弓を引く際は、「上半身や丹田に力を入れないでください」と伝えます。その次に、「顎を軽く引いてください」と伝えます。すると、胸鎖の上に頭部が正しく乗り、口から入った酸素が腹部まで入るようになります。そのあとに、「その姿勢で軽く息を吸えばおなかに空気が入ります」と伝えます。すると、ほとんどの方が腹部に酸素が入ります。中には、このように考え方を変えたことで「前より弓が引けるようになった」「無駄な力みがなくなって肩の痛みがなくなった」と悩みを解決された方がいます。

 

つまり、目的は、丹田に力を入れることではなく、丹田に酸素が届き、自然と意識がいく姿勢を構築することです。その結果、上半身の無駄な力みがなくなり、気持ちが静まった後に、弓を引くための準備が整うのです。

 

「下腹を意識して」と言われたら、ほとんどの方は自分から下腹を硬直させたり、腰を前に突き出して反らせたりします。これらのことを行うと、丹田周りに血管や神経、筋肉に強い圧迫や緊張が生じます。よって、呼吸を行ったとしても、丹田に酸素が入らず、上半身に緊張が起こります。

 

そして、丹田の内容を理解したなら、教本に記された胴づくりの説明文をきちんと理解するようにしましょう。「教本の胴づくりの本質的な意味」を理解することで、射における適切な姿勢は完成します。

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