弓道初心者必見:無理なく弓を引くための「足踏み」練習法
弓と禅の内容を実践するために「重心を落とした姿勢」を身につける重要性を解説しました。
今回は、初心者が弓道を始める際に必ず学ぶ「足踏み」のポイントについて解説します。
初心者の方でも無理なく、そして美しい射型を目指せる方法を具体的にお伝えします。
やるべきこと
まず、やるべきことを先にお伝えします。
・大の字に伸びて四肢、体幹を伸ばそう
・ふくらはぎを伸ばそう
・胸の筋肉をストレッチしよう
・両太ももを寄せて、まっすぐに立つ
・寄せる意識をなくしたら、自然に足が開く
・結果的に「足先の角度が70−80度」に収まれば○、下腹部の重みが下に落ちれば○、足裏の重心は全体に均一に乗るようになれば○です。
では、ここまでのやり方をしっかり学んだ上で、足踏みの重要なポイントと、既存の弓道稽古でやりがちな罠と対策方法について解説します。
まず、足踏みは、
体が左右に伸びるように踏めれば○
になります。
理由は、足を開く行為は「体を左右に伸ばす」ためだからです。
先ほどお話しした通り、腕を使わないように弓を引くためには「重心を落とす必要があります」ここでの重心は「腹部」「股関節」にあたります。
股関節あたりの重みが下に落ちるようにするためには、両脚の筋肉を左右に伸ばし、開く必要があります。お尻の筋肉も内腿の筋肉も緩めて、脚を開く動きによってさらに伸ばしていく必要があります。
そうすることで、両脚が左右に伸び、体全体が左右に伸びた感覚が得られ、さらに体重も下に落ちます。
さらに、両脚と体が左右に伸びれるということは、肘も後方に深く動かせるようになります。そして、離れも鋭く真横に離せるようになり、結果的に的中も得られます。
つまり、左右に伸びれる足踏みを作れるということは、重心の位置・右肘の動かしやすさ・離れ動作のキレを改善できるようになることがわかります。
逆に、既存の弓道でやりがちな足踏み動作が「扇を開く」ように足先を開くことです。
このようにすると、太ももを外側に回す筋肉(外則広筋)が過剰に縮んでしまい、お尻の筋肉が縮みます。
お尻の筋肉が硬くなると、両腕が最大限に伸ばせなくなります。そうすると、弓を開く動作で右肘を最大限に使えなくなり、射型が崩れやすくなります。
先ほどお話しした通り、射型が崩れる大きな原因は肩が動くからです。肩が動く原因は右肘を最大限に深く動かせなくなるからです。お尻が縮み、股関節周りが縮んでしまった構えになると、右肘を深く動かせなくなります。
そのため、両内太ももに寄せるようにしてください。そして、力を抜くようにすると自然に太ももが開くと思います。脚は左右に伸び、重心は下に落ちて、体が左右に伸びれるようになります。
足踏みの基本:初心者が陥りがちな落とし穴
弓道連盟で推奨される足踏みは以下のように教えられることが多いです:
- 足の角度を60度に開く
- 足の幅を矢の長さの半分に揃える
- 両足先を的の中心線に一直線に揃える
一見、これらのルールは理にかなっているように思えますが、初心者にとっては難しさも伴います。この形式に厳密にとらわれると、逆に体が硬直し、射がぎこちなくなることがあります。
形にこだわりすぎると何が起きるのか?
例えば、足を60度に正確に開こうと意識しすぎると、太ももを外側に回して、60度に開こうとします。すると、お尻が縮み、下半身が硬直します。結果として、体を左右に伸ばしづらくなります。
次に、矢の長さ半分に足を開くとします。絶対とは言いませんが、矢の長さ半分の足踏みは、ほとんどの人にとっては「狭い」です。狭い足踏みにすると、重心が下に降りず、右肘を大きく動かせる構えになりません。すると、射型があとで崩れやすくなる可能性が高くなります。
最後に、足先を揃えようとすると、無意識に「拇指球付近」に体重がのります。人は、拇指球に体重を乗せると、ふくらはぎと背中の筋肉が縮むようにできています。その結果、重心が上に上がり、反りこしになります。
弓道の世界では「そり腰の構えは最もなりやすく・最悪の構え」と覚えておいてください。なぜなら、反り腰は重心が上がるだけでなく、両肩の線が動きやすい構えだからです。
もし、あなたが反り腰の構えに無意識になってしまった場合、意識的に直す必要があります。特に、指導者によっては、そり腰の構えは胸が開いて良い構えのように解説する指導者もいます。
このように、60度・足先揃え・矢の長さ半分の幅の足踏みは、重心をうまく下におろせず、体の安定感を失います。結果として、射の際に体が揺れやすくなります。
さらに、「前かがみ」になるように指導されることもありますが、これも問題を悪化させる場合があります。頭を前に傾けることで、重心が不安定になり、的中率が下がるのです。
さらに、この形に合わせて引くために「前かがみになるように姿勢をとりましょう」と指導されることが多いです。なぜなら、
前屈みにすると、足幅と足先はそこまで広く踏めなくなるからです。拇指球に体重も乗せやすくなり、既存の弓道の足踏み動作がしやすくなります。
しかし、この前かがみの姿勢には、実は意外な問題点があります。
2. 前かがみの姿勢が引き起こす問題
前かがみの姿勢で弓を引く際に起こる主なデメリットは次の通りです:
視覚的な誤差が生じやすい
前屈みとは体を前に倒すことです。すなわち、頭が前に傾くことで「体は後ろ、頭は前」の構えになります。この構えで弓を引くと、左右の手の位置と体とが離れすぎた姿勢で会を迎えることになります。すると、目線が不安定になり、狙いを定めにくくなります。
その結果、的中率が下がることが多いです。
肩甲骨が動きにくくなる
前かがみの姿勢では、背中の筋肉が動きにくくなるため、硬直しやすく、弓をしっかり引き切れなくなります。
体のバランスが崩れる
体重が足裏の前側に乗り、足裏の中心部に乗らなくなるため、重心が不安定になります。すると、姿勢が乱れてしまいます。
例えば、猫背のまま長時間過ごすと肩や首が凝ってしまうことがありますよね。それと同じで、前かがみの姿勢では弓道の動きがぎこちなくなり、力を無駄に使ってしまいます。
したがって、足踏みの角度を60度にすることはあまり推奨されません。綺麗な構えと的中を合理的に目指したいなら、広い足幅、角度を意識して踏む必要があります。そうすることで、体を左右の伸ばしやすくなります。
なぜ、60度の足踏みが主流になったのかの理由
弓道における「60度の足踏み」が主流になった理由には、歴史的背景や指導方法の変遷、さらには特定の人物の影響が関係しています。以下では、その背景について詳しく説明します。
1. 60度の足踏みの起源
60度の足踏みが一般化した理由は、弓道の基準が整備される過程で、特定の人物や時代の影響が強く反映されたためです。
中野慶吉と弓道教本
日本弓道連盟が発行している弓道教本には、射法八節の基本が記載されています。その中で、射法八節図解の足踏みの角度として「60度」が推奨されています。
この教本の基準は、戦後の弓道普及に尽力し、射法八節を広めた一人である中野慶吉によるものです。彼が踏んだ足踏みの角度は60度であり、その当時の指導者たちの影響が大きいとされています。
戦後、弓道の全国統一を目指す中で、具体的な「型」や「基準」が必要とされました。その結果、60度の足踏みや前かがみの姿勢が普及していきました。
60度の足踏みは、初心者に教える際の基準として扱いやすいという利点がありました。全員が同じ基準で足を開けば、形の統一が簡単になります。
戦後の日本人の平均的な体型や筋力を考慮して、より無理のない形として60度が選ばれた可能性があります。特に、当時の社会状況では弓道が広く普及することが求められ、万人が取り組みやすい基準が必要でした。
2. 本多利実の影響
60度の足踏みが標準となった背景には、本多利実という指導者の影響も指摘されています。
写真と形の解釈
本多利実が弓を引く写真が、弓道指導において「理想的な形」として解釈されました。この写真では、彼がやや前かがみの姿勢で弓を引いている様子が写されており、この姿勢が「正しい形」として受け止められ、標準化されていったとされています。
なぜなら、60、45といった数字は、本多利実氏にまつわる文献から来ているからです。
例えば、教本の八節の基礎とされる内容でもう一つ「うちおこしの角度は45度」があります。この45度の数字が初めて出ている本は本多流関連の文献です。
本多流の範士同士が集まって話しあった結果、45度を基礎とするという記述が初めてであり、それ以外で「45度」の数字が記載された文献は私は見つけられていません。(ありましたら、連絡を求めます)。
そのため、足踏みの60度という記述も本多流の流れによって、出て来ている可能性があります。
このように、60度が標準化された理由は、その時代の先生の足踏みの角度を基礎として、そのあとにその足踏みを合理化した可能性があります。
もちろん、両者ともに本多利実がこの姿勢を「理想」としたかどうかは明確ではありません。しかし、そうであった場合、人いよっては大きな不具合が生じます。
例えば、この足踏みをする人が70歳以上で背骨が曲がっている高齢の方であれば問題ありません。理由は、参考となった中野氏、本多氏の状態も高齢の状態だからです。
しかし、40ー50後半の方でまで背中がまっすぐ伸ばせる方であれば、この足踏みに不具合が生じます。そのような方が上記の足踏みをしようとするなら、自ら背中を曲げて、あたかも自分が高齢になったかのような構えを作らないといけません。
その結果、脚も背中の筋肉も縮んでしまい、結果射型は崩れてしまいます。
このように、文献から考えても「60度、足幅少し狭め」の足踏みは推奨できません。それよりは、少し角度を広めにとって、左右に体を伸ばしやすくする必要があります
では、弓と禅を推奨してきた弓道家の足踏みを見てみます。みてみると、全員足踏みの角度は60度より広めです。
梅路見鸞氏、阿波研造氏、その弟子に当たる神永範士も皆足踏みの角度は広いです。このように、足先を広く踏んだ方が、体を左右に伸ばしやすくなります。
ただ、ここまでの内容を聞いたとして、既存の弓道の環境下では「広い足踏みをしようとすると先生に直される」「格好が悪いと言われて、指摘されてしまう」といった問題が起こるかもしれません。
そのような問題が起こっても大丈夫です。なぜなら、事前に筋肉を伸ばしておけば、広い足踏みをとった時のように「低い重心、左右に伸ばせる足踏み」を作り上げることができるからです。
次に、その対策方法をご紹介します。
解決策:足踏みを楽にする2つのコツ
初心者の方でも、弓道連盟で推奨される60度の足踏みを無理なく行えるようにする方法を紹介します。ポイントは、「ふくらはぎを伸ばす」「胸の筋肉を広げる」です。
1. ふくらはぎの筋肉を伸ばす
- 方法:
- 壁に手をつき、片足を後ろに引きます。
- かかとを地面にしっかりつけた状態で、体を前に倒してふくらはぎを伸ばしましょう。
- 反対側も同じように行います。
おそらく、ふくらはぎを伸ばしただけで、「体の重心が下に降りる感覚」を得られると思います。要するに、ふくらはぎを硬くしないように脚をひらけば良いだけです。
このことを意識すれば、足踏みの角度と幅が多少狭くなっても重心をしっかりおろすことができます。
2. 胸の筋肉を広げる
- 方法:
- 壁に手をつき、肘を軽く曲げます。
- 胸を前に突き出すようにして、胸の筋肉を伸ばしましょう。
- 数秒キープしたら、反対側も同じように行います。
このようにすると、足幅が狭くても、右肘を横方向に動かしやすくなると思います。
このように、狭い足幅、角度であっても重心を落としたい場合は、ふくらはぎと胸の筋肉を伸ばして広げるようにしてください。