あ行
うちたけ(内竹)、外竹(とだけ)
弓を張ったとき、弦に相対する面の竹を内竹、外側になる側を外竹という。
うのくび(鵜の首)
弓手の栂指の形の名称で、弓を左手に握った時、拇指の付け根が弓の右角(カド)によく密着した形で、鵜という水鳥が水中に入って魚を捕り呑もうとして水にもぐり入る時の恰好のように、拇指の先を下方に向け、しっかりと押すのをいう。これに反して拇指の根元の力を抜き上向きにしたら、手の内は弱くなって押し手が働かない。そればかりか、そのために弓の圧力を肩で支えようとして、押し手そのものもきかなくなる。拇指を中の関節から折って爪先に力をこめて握るのはよくない。
うらぞり(裏反り)
弓の弦の張らない時、弓は弦を張った時とは反対の方向に反りかえるのを言う。最近の新素材の弓には裏反りがない。
うわおし(上押)
会に入って持満の時、弓を的の方へ突っ込むように力を働かせる手の内。
おおまえ(大前)
多数の射手が順に射位に立って射るとき、一番先頭の射手をいう。いちばんうしろの射手を落(おち)という。
おくりばなれ(送り離れ)
離の瞬間、右手の肘が弦に引かれるようにして離が行なわれるのをいう。
おさまり(納まり)
射法通りに骨法に合って弓を引き納めた形、状態で、すなわち会の内容である。
おしで(押手)かって(勝手)
押手は弓を持つ手、左手のことで弓手ともいう、弦を引く右手に対していう。右手は勝手といい、また馬の手綱を執る手のため馬手(妻手)ともいう。
か行
かいちゅう(皆中)
所定の数の矢を全部中てること。
かえづる(替え弦)
射の最中、弦が切れた時、掛けかえる予備の弦。
かけ(懸)
今日一般に堅帽子の懸をいう、正しくは弓懸。
かけぐち(懸口)かけまくら(懸枕)
かけぐちはゆかけの弦のかかる溝、懸溝をいう、かけまくらはそれに沿うたやや高い所を指していう。
かけほどき
懸の栂指が中指(三ツかけ)か薬指(四ツかけ)と磨れてわずかにひき出されるのをいう。
かたいれ(肩入れ)
弦を弓に張って、矢をかけずに引くこと。別名素引き。
かたぼうし(堅帽子)
日本では元来三つ懸(がけ)で、拇指の中関節の内側に弦をかけ、柔皮を重ねて用いた。のちに堂射の影響で帽子を角や木で製して用いるようになり、三つ懸けも懸け口が拇指の根元に移った。堅帽子は元来は四つ懸けに用いられた。中国では古(いにしえ)は決(けつ)といい、象の骨で作り右手大指につけて弦をひくに用いたと古書にある。拇指で弦をひく法は、中国と日本は同じである。あるいは中国からの影響で日本もそうなったのかも知れない。
かね
準、規矩の字をあてる。射法上守るべき基準となるきまり。曲尺からの造語
からはず(空筈)はずこぼれ(筈こぼれ)
矢を射放す瞬間、弦から矢筈がはずれて矢がとばないで、弦のみもどることをいう。この際弦が切れたり、矢の羽を損じたり、頻を弦にて打ったりなどが起こることがあるので初心の時、特に注意するとよい。はずこぼれは射放す前やその瞬間に弦がはずれること。
きざ(脆座)
片足半足ほど引いて座り、引いた方の脚のひざを床につけ他方のひざを床よりわずかに浮かして腰を張った姿勢、このひざを浮かすを「生かす」といい、弓を持った側のひざを生かす。従って、右手に弓を持った時は右ひざ、左手に弓を持った時は左ひざを生かす。
ぎちこ(ぎち粉)
ぎちぎち音がするのでいう、近頃ぎり粉という。ぎりぎりは音の形容ではない。
くちわり(口割)
矢を引きしぽった時、すなわち会に入った時、箆(矢幹)が上下のクチビルのさけ目の高さに来ることをいう。「頬付け、口割は的中の秘訣」といわれた。
くすね(薬練、天鼠)
「くすりねり」よりの語(謙亭筆記)。松ヤニに種油を混じて適当なかたさに煮詰めたもの、弓弦にすりつけ弦を保護しまた中仕掛を作るに用いる。最近は木工用ボンドを用いる人が多い。
ごうぐし(侯串)
的をとめる串、侯は中国で射布と訳し、むかし布を張って、これに矢を射あてるのに用いた。虎侯、熊侯、豹侯が用いられたという。これは虎や熊や豹の皮を的のまわりにかざったのでこのような名がある。この中央に鵠を設けた。鵠とは射る的のこと。正鵠ともいう。釈文(しゃくもん)という中国の書に。「正も鵠も鳥の名なり」とある。小さな鳥で矢が中りにくいので的の名にしたという。
ごしん(五身)ごどう(五胴)
胴作りの注意すべき点である。かかる身、そりかえる身、俯する身、退く身、直なる身の五つをいう。
かかる身とは、的の方に上半身を寄せかけることで、ごく手近かの所や、穴中のものを射る時にする。退く身は低い所から高い所を射る場合の胴造りに用いる。この場合は足踏を少し狭くする。俯する身はからだをそのまこ則方にかけるのをいう。場合、矢はうしろにとび易い。(注、うしろは的に向かって的の左方をいう、まえは的に向かって的の右方をいう。)反りかえる身はからだをそらすので、矢が前に出易い。この四つの形の中、前二者は、実用上に用い、後二者は、このような胴造の場合はよくこれを加減して中ごろである直なる身を覚えて練習するのがよい。従ってかかる身、退く身によって矢は上下し、俯する身、反る身によって矢は前後するので、直なる身を保持するようつとめること。直なる身は十五間の的前の時だけ肝要である。
ごみ(五味)
物見(目付)、引分(ヒキワケ)、持(モチ)、伸(ノビ)(この二つは会)見込(残身)の5つをいう。
ごか(五加)
押手の手の内の作用をいう。上押、下押、拳の入れすぎ、拳のひかえめの四つの形の手の内は悪く、これに真中をまっすぐに押す、中押しの形を加えて五加という。初心は前四つの失をおこさないようにすること。
ごじゅうじゅうもんじ(五重十文字)
五箇所に十文字を重ねた姿勢をいう。
弓と矢の十文字、弓と手の内の十文字、懸(カケ)の拇指の腹(懸口)と弦との十文字、背筋と肩骨との十文字、首のすじと矢との十文字、むかしはこのことは大三においてたしかめられた重要事項であったが、今日の射方では、会の時の形となるしかし。しかし、会の時では時ですでに遅く、これをただす暇はない。
ここう(虎口)
左の手の栂指と人差し指(食指)の股の中間を言う。
こっぽう(骨法)
①各関節が正しく祖み合わされて合理的にその射人の骨格に合致した射法をいう。
②流派により骨法は手の内のことをいう。
さ行
さしや(指(差)矢)さしやゆみ(指(差)矢弓)
堂射用につくった矢、差矢前は沢山の矢数を連続して射る射法で、三十三間堂通し矢は差矢前の一種。差矢弓はこの堂射に用いる弓。
しこの離れ(四個の離れ)
切る離れ、払う離れ、肘先の心ない離れ、拳の離れの四つをいう。切る離れは中る離れともいう。単に何の考えもなく切り放すのをいう。払う離れは前にあるものを払いのける格好で放すのでいう。肘先心ない離は勝手の肘先が十分に後ろに回ら手首だけで引いたときとか懸け口をあけて放すのを言う。拳の離れはどの辺で離そうかと拳に力味を持って懸口を解くだけの離れで拳に気合いがのらない。
したおし(下押)
手の内の掌根部を弓につけ、すき間のないようにべたりと弓を握ること。
したがけ(下懸)
汗や手あぶらで汚れるのを防ぐためにその下に着用する木綿製の手袋様のもの。
しゃくに(尺二)
一尺二寸(直径三十六センチ)の略、十五間(二十八米)にて川いる的の大きさ、またこの的。尺二的。なお尺二的には陰・陽二種あり、陽の的を貧的・陰を星的ともいう。
すんのび(寸伸)
弓の定尺、七尺三寸より伸びた弓、普通二寸伸びを言う。
せきいた(関板)
外竹、内竹、側木、ひごを接着するとき、内竹を上下からせき止めるために弓の上下に接着してある木板。
そくる(束る)
一手または四本の矢を皆中すること。
そばき(側木)
弓の側面にみえる木部。
た行
たぐる(手操る)
矢を引き、会にはいった時、右手首に力を入れすぎて、矢束より多く引いて手首の折れた形になることをいう。
つけ(付け)
ねらいのこと、矢の筈から矢ノ根までを見通して的の中心の垂直線上と矢幹とが一致すればよい。
つのみ(角見)
弓手栂指の根を言い、発射の際、弓の右内角をつのみで的の中心にむかって押すのを「角見をきかす」と言い、この角見の働きは大切である。
つるがらみ(弦がらみ)
取りかけのとき、懸け口に弦を内手に強くからめることで、「筈をかまわず弦を折れ」と教えたもので、弓を引くということは弦を引くので、筈を持って引くのではない。
てさき(手先)
弓手の手をいう、これに対してひじさき(肘先)は引きしぼった時の右手のひじをいう。手先肘先は射のもっとも大切な技である。
な行
なかじかけ(中仕掛)
弦に矢の筈をさしこみ、かけのあたるところを補強するため、また矢筈に密着するように他の麻で巻く所をいう。
のじない(箆じない)
矢を引きしぼって放す際、とりかけの具合で箆が頬の方に鸞曲するのをいう。主に右手の食指で強く矢の箆を押すのに起因する。
は行
は(把)
弓と弦の間の幅をいう、普通藤頭のところではかる、十五センチ前後を普通とする。広いのを「把が高い」、狭いのを「把が低い」という、余り低いと弓形をそこねる。
はけや(掃け矢)
射た矢が地に落ちそのまま滑走して的にあたるをいう。むかしはこれも「あたり」とみなされた。これは敵を殺傷する上にかわりはないと考えられたからである。
はず(弭)
弓の上、下端に弦をかけるとがった部分。上を末弭(うらはず)、下のを本弭(もとはず)という。
はず(筈)
矢筈、矢羽のついた方の矢幹の末端で弦につがえる所、もろはず(諸筈)といって矢幹の末端をけずって作ったものと別の品物で作ってはめこむものとがある。竹、角、プラスチック、骨などで作る。
はわけ(半別・半分)
的中とはずれと相半ばすること。
はやおとや(早矢乙矢)
はやは甲矢、早矢、兄矢、発矢。おとやは乙矢、弟矢。
弓馬問答には内向きを兄矢、外向きを弟矢など人申すとあるが、貞丈雑記には「矢に内向きというのは矢を弓につがひて羽表(ハオモテ)わが身の方へむいたのをいう、外向きというは羽表我がむかうの方、外へ向いたのをいう。内向、外向という事。的矢にいう事なり。一手なる故也。外向をば早矢に射る也。内向をば乙矢に射る也。外向は陽也、内向は陰也、陽の矢を先にし、陰の矢を後にする志なり」とあり、弓馬問答の人申すことは相反す。貞丈雑記には更に説明して「外向きを兄矢に射、内向を弟矢に射るという事もきっと定まりたる方式にはあらざれども右のごとくするのをよしというなり」と。そしてはや、おとやというのは的矢で一手ある矢の時にいうと限定されていた。
ま行
まえ(首うしろ(後)
的に向かった時、的の右を前、的の左を後という。
もちまと(持的)
射手各自が一つの的を受持って射ること。
や行
やつか(矢束)
各人の引くべき矢の長さ。甲、乙二矢を一手、この倍数四本を一紙という。
やみち(矢道)あづち(染、安土)
射場と巣との中間の地面。的をおく土手状の所を果という。
やぐち(矢口)
矢を射る時、放れる瞬間かその直前、矢が左手栂指の根元の上から上方か右方へ離れること、「矢口があく」という。これを箆間きともいう。
やがえし(矢返し)
一手または四本を射る時、矢の足りない場合、一度射た矢を繰り返しまた射るため、梁から矢をその射手に返すこと。