弓をすることでしか得られないもの

弓道を他のスポーツと比較して体格テストを行ったとき、全体的にみて、得られる運動効果は少なかったです。こう見ると、運動をして、体力アップしたいと思うのなら、弓道ではなく、バスケとかサッカーとかやったほうがいいかもしれません。

実際テレビを見てもそうです。テレビに映るのはサッカーのようなめまぐるしい展開をしめすスポーツです。バレーもそう、バスケもそう。武道でいうと柔道が人気なのも、技がかっこよいし、力を使っている姿がなにより見る人にかっこよい印象を与えます。

しかし、だからと言って弓道は良いところがないかと言えば、そうではなく、他のスポーツになくて弓道にしでしか得られないものがあり、それは「姿勢の良さ」です。

姿勢の良さとは、姿勢が猫背になってたり後ろに反りかえった姿勢になってたりしない度合を表すものです。

これに関しても実験結果があります。早稲田大学の一般人、弓道部の選手、他の部活の選手それぞれの脊柱の湾曲度を測った実験があります。

計測点として、第七頸椎A、胸椎のもっとも前方に突出した点をB、後方に突出した点Cをとり、Cから垂線を立て、これとCAをなす角をαとよんで、ACとBCをなす角度をβとします。

α、βと比較して、αが大きく、βが小さい場合は後ろに反り返った姿勢であり、αが大きいときは脊柱が前方に傾斜し、βが大きいときは円背となります。

そして、測定した結果です。この豹は分布図になっているので、表の値が左右に偏るほど、姿勢が悪い(α、βの角度が極端に大きい)ことを表し、表の値が分布が真ん中ほどからいろんな値まで広がっていると姿勢が良いことを表しています(α、βどちらの値も極端に大きくない)。

表の値が広くばらついていると「姿勢が良い人もいれば、後ろに反った姿勢の人、猫背になっている人もいる」ということになり。値の分布が狭かったら、「姿勢が良い人が多く、後ろに反っていたり、猫背のような偏った姿勢をしている人が少ない」ことを表します。

 

そうすると、、運動部全体はα値が「-5.0~-3.1」~「-7.0~-8.9」まで値が広がっており、一般大学生は「-7.0~-5.0」~「-9.0~-10.9」まで広がっています。これに対して弓道部のα値は「-5.0~-3.1」~「-3.0~-4.9」と一番値が広がっていないので、極端にαが大きい人、小さい人が少ない、つまり姿勢が後ろに反っていたり、前に前傾している人が少ないことを表します。

βの値も同様にみると、弓道部の値が一番広がっていません。つまり猫背になってる人が少ないことがわかります。

このことより、わかることは「弓道は偏った姿勢を作ることはない」ということです。運動の中には片側ばかり仕様するものもあるし、不自然な姿勢で行うものもあるが、弓道はこの点では姿勢に悪い影響を与えることはありません。

弓道は良い姿勢が求められる武道です。それゆえに研究され、注目されているのは弓道と長寿の関係です。

弓道家は概して長寿を保ち、中高年に達してからは年齢より5~10歳若く見られる例が多いです。これに対する回答で姿勢の立場より考察したものがあります。

日本人はアメリカ人に比べてだいたい姿勢が悪く、かつ姿勢に関心を持たないので、姿勢が改善されることはありません。脊柱の湾曲度、腰骨の位置、脚の伸び方など、姿勢を見る指標があり、このよい姿勢こそが長寿、健康の秘訣と考えられています。

腰が反り気味になっていたり、猫背になっていたりすると、脊柱の湾曲が変わってきます、反り腰、猫背により腰椎を前に傾き、そうした結果は骨盤を前傾させることにつながり、脊柱起立筋(背骨の筋肉)の負担が大きくなります。

これが腰痛の原因となり、これを防ぐためには骨盤を水平にするために背骨を丸くしなければいけません。これが、老人のような猫背を作り、脚の伸びも悪くなります。この姿勢の変化こそが老化の原因と言われています。

弓道はまず、このような姿勢をすると正しい射を行うことができないため、姿勢に気を配るようになります。正しい姿勢をすると、体にかかる負担がうまく分担されて、内臓、関節、いろんな部位の負担を軽減することができます。

このことが弓道にしか手に入らないものだと私は感じています。私の周りでも60歳後半でも声が大きく、元気に30kgの弓を引いている人もいれば、90歳でも元気に弓を引いている人がいます。

しかも、寝たきり老人ではなく、みな元気な高齢者なのです。かつての弓の達人、梅路見鸞先生は渓流を子供のようにピョンピョンとんで回っていたという話もあります。これは、いくらお金を払っても手に入ることはできず、長く太く人生を楽しむには必要なものです。

(表、引用、現代弓道講座5巻より)

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