引き分け~尾州竹林から正しい息合いを考える~

引き分けでの息合いは射の運行、引き分けから会に至るまでの体の働きにかかわるので、大切とされていますが、息合いはきわめてむずかしい問題です。

各人の精神状態、体質、肺活量、筋骨(力量)、弓の強弱、射の運行の遅速、射技の巧えつなどがからんでいるので、一概にこれと言い切ることはできません。

息合いは悟りの道の中なれや有無の二つは目中にぞよる

とあり、息合いは各人の修練によって自分の息合いをつかまないといけないと説明しています。

尾州竹林では息合いは次のように説明しています。

息が詰まらないように平常の息で射を運行し、会において轄(くさび)を詰めるときに至って息を満たし、目中と骨法が整ったところで離れます。

最初から息を詰めると全身が凝って力みが生じ、離れは不自然のものになります。息は作ってはいけないし、かといって、有るだけでも、無い状態でもないです。

悠々たるを息合いというのであって、あるもの、ないものと気にかけず、自ら調うのが大切と説明しています。そして、そのようにするには生理的な呼吸と弓を引く動作が調和するように心がけることです。

下に各動作での息合いをまとめると

弓懐のときに平常の行きでよく収め、
打ち起こしてよく収め、引き渡すときによく収め、
会にはいって平常の息(呼吸するのではない)でよく抱え、
目中と骨法がよく整ったところで五部の詰とともに詰まる息で自然に離れる

息合いは行射に際して進退起居を始め、すべての動作に調和しないといけませんが、こと打ち起こしおよび引き分けの際には全身の筋力を弓の力と対応して働かせなければならないので、特に重要です。

打ち起こしから会までの息合いについての一例

「吸う息」
息を吸うときは丹田の力が抜けやすく、かつ上半身へ力が片寄りやすく、全身の筋力の充実が難しいです。

しかし、息を吸うときに丹田をさらに充実するように気をつけていれば、弊害はある程度防ぐことができます。

「吐く息」
丹田を充実させ、筋力を増強させるのに都合よく、気力と筋力が全身に均等にいきわたりやすいです。よって、重要な動作の最後の締めくくりは全て吐く息(詰まる息)とともに行わないといけません。

ただし、吐きすぎるとその後は気力筋力が衰えるので注意します。
つまり、「吸う息」=全身の筋力が働きにくい、「吐く息」=全身の筋力が働きやすいと考えます。そして、斜面打ち起こしの場合の息合いを図表にして示します。

B~Cの幅は心静かにしているときの通常の呼吸の幅、A~Dの幅は、深呼吸した場合の幅で、Aは最大に吸ったとき、Dは胸郭を収縮させて息を吐き出してしまったとき。

波形の線は息合いを示します。上向きは吸う息、下向きは吐く息、会における平行的な線は吸うともなく吐くともなく、静かに詰め満ちる状態を示します。

回数が多いとあまりよくない

上段①の図は平常な息で静かに呼吸しつつ打ち起こし、引き分けを行い、会に入るころから息を軽く詰めて詰合、伸合を行い、離れののち、約二秒の残身を経て、弓を臥せるとともに残りの息を静かに吐きます。

この息合いは比較的容易な息合いの扱い方ですが、射の運行中に何回となく呼吸するのは弱弓の場合は大きな支障はありませんが、肺周りの呼吸筋が強く働きすぎるから好ましい息合いとは言えません。

息合いのよく言われるパターン

上段②の図は打ち起こしの初めから中途まで静かに息を吐き、打ち起こしの後半ごろから中力に至るまでの間に平常の息よりやや大きく吸います。

中力のところで吸うのをやめて、引き分けに移るころから会に至るまでの間は静かに微量ずつ息を吐きつつ丹田の方へ気力を充実せしめつつ引き分けて、会に入るころから息を静かに詰めて詰合、伸合を行います。

離れて残身の約二秒を過ぎてから、残りの息を静かに吐きつつ弓を伏せます。

これは、教本で射技の解説をしている先生も行っている人もいるよく言われる息合いのパターンです。人によっては打ち起こしの後半から息を吸うのをやめる人もいます。そこは、各人によって自ら適した息合いを持つことが必要です。

ちなみに正面打ち起こしの場合は打ち起こしの終わりで息を吸い、大三をとるときに息を吸うのをやめ、そのまま引き分けで徐々に息を吐きます。

強い弓を射る場合の息合い

自分の体力に比して強い弓を射る場合の息合いは、会において通常よりやや多くの息を残しておく必要があります。

そのために打ち起こしの後半ごろから中力にかけて大きく息を吸い込み、引き分けに移るころから静かに吐きつつ丹田に充実せしめて引き分け、会において静かに息を詰めて詰合、伸合をして離れ、残身の後に残りの息を吐きます。

このとき、会においては静かに息をつめない(吐かないと)といけませんが、そのとき息が多く残っていると息が詰まってくるしくなります。

かといって、吐きすぎてしまう場合は気力筋力が衰えので、その度合いは各自の肺活量、体力、弓の強弱によって異なるので自らつかむことが大切です。

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