何もしない方が、弓は開く──拳の動きが小さいほど開く力が増大する理由
弓を大きく開こうとした瞬間、開く力は弱くなります。
たった構えが静止するほど、何もせずとも横に伸びる力が出てくる
この動画では、「拳の動きを小さくした方が、結果的に弓が大きく開く」という、
一見すると矛盾した現象を、身体構造と物理の観点から解説しています。
つまり、弓の引き方は
「何もしない、静止し続ける、拳の動きを最小限にする、
すると開く力が2倍、3倍に膨れ上がる」と言う内容です。
これは、以前大三を取るときに、大三で余計な動きをしないようにするほど、開く力が二倍になると言う考え方と同じです。
弓道の開く力は、たった構えで引き出され、
素引きを100回するより、体幹トレーニングをするより、「静止する立ち方」を覚えた方が開く力が大きくなります。
なぜなら、「静止するほど、拳の移動が小さいほど、開く力が大きくなる」からです。
大きく引こうとして、なぜ引きが小さくなるのか
動画内でも触れられているように、多くの人は「大きく開こう」とすると、
手や拳を大きく動かそうとします。
しかし、手で大きく動かそうとするほど、引分は逆に小さくなります。
これは技術不足ではありません。
身体の使い方以前に、「力のかかり方」が破綻しているだけです。
簡単に解剖学的に見てみましょう。人は大きく引く、真っ直ぐ引くなど「引こう」と意識すると上腕二頭筋(力こぶの筋肉)や前腕の筋肉が収縮します。なぜなら、二つの筋肉が意識されると、腕が曲がって「引く動き」になるからです。
しかし、この二つ筋肉が収縮するということは、「腕が曲がって縮こまる」方向へ力が働くということです。
弓を「開こう」としているのに、身体は「縮もう」としてブレーキをかけている状態になっているのがわかりますか?これでは力が相殺され、結果として引きが小さくなってしまうのです。
これが、大きく開こうととて実際には大きくひらけないと言う理由です。
では、次にどのようにすると開く力が増大するかについて詳しく解説していきます。
「拳が勝手に動く」状態
ここで、肩甲骨を含め、全身の筋肉を緩めると、開く時に使われる筋肉が変えられることを体感しましょう。
まず、腰骨は少し引き上げるようにして、脚にも力を入れないようにします。そして、下腹を上に持ち上げるように伸ばします。これにより、仙腸関節が下に降りて、肩甲骨も下に下がるようになります。
この構えを作ったら、次に打起しをしてください。打起しで両肘を高い位置まで上げたら、次に両腕を上げた状態で深呼吸をしてください。
次の大三に入るとき、両肘を後ろにひくように動かしてみてください。すると、ただ両肘を軽く後ろに引いただけなのにも関わらず、拳が楽に横方向に伸びる感覚がありませんか?
これを「拳を自分の意思で動かしているのではなく、弓からの圧力によって拳が動かされている」と言っても良いでしょう。
拳は「動かすもの」ではなく、「動かされるもの」です。
重要なのは、拳を動かそうとする意思が入った瞬間に、この動かされる感覚が失われるという点です。
物理学で説明できる「極率(曲がりやすさ)」の話
では、なぜ両肘を動かしただけなのに、拳は楽に横方向に伸びる感覚がでたのでしょうか?ここで、拳の軌道を「極率(曲がりやすさ)」という概念で説明します。
ここで覚えてほしいことがあります。
拳を大きく動かそうとすると、軌道は直線的になり、開く力は小さい
拳の動きが小さいほど、軌道が円形になり、開く力が大きくなる
まず、大三の位置から引分に入る時に、右拳を真っ直ぐ動かしてみてください。確かに、右拳は横方向に大きく動いてはいます。しかし、真っ直ぐに動かそうと意識して、実際は右拳が力が入りますよね?
この時に重要なのが、右拳が動く時に、拳自体を動かそうとしなくても、胴体が左右にひらけば、その力が腕に伝わって、結果右拳が動くことです。
人の体は、胴体ー腕ー拳までつながっております。例えば、胸を開いたり、肩甲骨の上部を開いたりすると、鎖骨が開くようになります。その開く力は人体の中でとどまることなく、腕などの別の部位に伝わります。
つまり、胴体の中で発生するエネルギーは保存されると解釈できます。では、この考え方を踏まえて、拳の移動が少ない時の開く力を考えていきます。
もし、拳の動きが小さくしたとします。しかし、その拳の動きが小さい時ほど、右肘や肩、胸といった体幹部の筋肉を動かしてみてください。開きやすいですよね?逆に、右拳の動きが大きい時ほど、肩や胸の筋肉が開きづらくなっているのがわかります。
これにより、次のようなことがいえます。
拳の動きが大きいほど、右肘や胴体の筋肉が縮むため、結果弓を開く力に使える体を開く力は小さくなります。
拳の動きが小さいほど、右肘や胴体の筋肉が伸びやすくなり、結果弓を開く力に使える体を開く力が大きくなります。
これが、拳の動きを小さく保ったとき、結果的に開く力が増大します。
なぜ、止まっているのに、拳が大きく開くのか?
物理学的には「曲率半径の増大」と説明できます。
もし、胴体や右肘といった体幹部の開く力が出たとします。そうすると、これらの筋肉が動く量は少ないし、拳を動かす意識も少ないです。しかし、腕全体が動く量は大きいです。つまり、小さい動きほど、曲率半径が大きくなり、結果開く力が大きくなります。
一方、胴体、右肘の開く力がなく、右拳単体で大きく動かそうとすると、右拳は大きく動きますが、腕全体が開く力が少ないです。つまり、曲率は小さくなり、開く力が小さく感じます。
これが「拳は止まっているように見えるほど、内部で開く力が起きている」と言う、武道特有の逆説的な現象が起きるのです。
身体が止まるほど、開く力が増大する
では、もう少し、身体が止まるほど開く力が増大することについて詳しく解説します。それが、角運動量保存則と言う説明です。
角運動量保存則とは、「ある回転系では、発生した力や運動量は減ることはなく、保存される」と言う意味です。
体に関して説明すると、胴体(体幹、肩、腕)の中で発生する力は消えることなく、回転するようにかかる力であったり、別の方向に動く力に転換されると言う意味です。
胴体の中で発生したエネルギーは消えることはない。形を変えて回転するエネルギーに変わったりすると言う意味です。
では、この内容を考えるために簡単にその動きを解説します。
直立不動で立って、軽く膝を曲げて、ジャンプするように体を伸ばしてください。それと同時に、右腕の筋肉を上に伸ばしてください。
この時、あなたの体は上に伸びるだけでなく、体が左に回転するのがわかりますか?これが、角運動量保存則です。
「上に伸びる力」と「腕を前に曲げてあげる力」が体が左に回転する力に転換されたということです。
1胴体は上に伸びる
2ジャンプでさらに上に伸びる
3右腕を曲げて上に伸ばす
このように、体を直接左に回転させる必要はありません。人は上に伸びる力と、右腕を前に出せば、体は回転するのです。
では、この原理を理解すれば、「人は静止すれば、拳が体の中心に対して、円形の軌道で動く」運動が発生させられることがわかります。
まず、胴体を静止させます。その状態で骨盤を上方に引き上げるようにして引き上げます。その状態で腕を高く上げます。そのあとに、右肘を後ろに引くようにしてください。
上から胴体を見た時に、拳は、何もせずとも初動は「真横」、そして右肘を後ろに引くほど、右拳が反橋の軌道を描くように、右肩の後方に引きつけられるように体が動くのがわかります。
これが先ほどお話しした、右拳の移動が少ないほど、大きく開く力が出ているように感じる理由です。
角運動量保存則に基づいて、
なぜ?真横に伸ばそうとすると、真横に伸びないのか?
なぜ?開こうとすると、開かないのか?
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「手首の力を抜け」はなぜ間違いなのか
動画内で明確に否定されているのが、
「手首を意識的に緩める」という指導です。
手首は、肩甲帯が自由になった結果として、勝手に緩みます。
構造的に見ると、肩甲骨が下がり、肩関節の回転軸が安定すると、
前腕〜手首にかけて余計な固定が消えます。
なぜ「一度止まる」と、開く力が増えるのか
打起しから大三に入る際、一度静止が入る理由も動画で説明されています。
正しい静止は、力を止めるのではなく、神経系を切り替える行為です。
構造的に見ると、下半身と上半身で異なる神経の緩み方が同時に起き、
その結果として「抜いた方が開く」状態が生まれます。
明日の稽古で意識すること
- 拳を大きく動かそうとしない
- 動かさないことで、何が勝手に起きるか観察する
- 「止まる=力を抜く」ではないことを体感する
操作を減らすほど、弓は正確に仕事をします。
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