今回は、尾州竹林弓術書にある「墨指」の内容について解説していきます。
目中に用いる墨指という心は、矢をはめて、弓と矢と拳と三つの中ほどに目あてをするなり
墨指と言うは、大工の業にたとえいかほどに長き木にても雨の端に墨を指して糸を私、其の糸にて墨打をしてすぐなるところを知って木を削る是を目当にたとえたり、矢を糸にたとえたり、弓と矢と拳の中ほどに心をつけて是を的の真中に押し当てる心得は墨指の通り也。
弓構えで墨指という言葉がきましたがさっぱりわかりませんね。しかし、この内容もしっかり理解すれば読むことができます。ではポイントをまとめていきます。
・弓、矢、拳の三つをみて、その中間あたりを観察するようにしよう
・長き木でも、墨を当てて、真っ直ぐになるとこをしり、そうでないところは木を削って、真っ直ぐに正そう
・矢を糸に例え、三点の中間を意識して、的に押し当てるようにしよう
この文章で大切なのは、墨指です。墨指とは、墨を糸に垂らして長き木にあてて、その木のねじれているところ、真っ直ぐになっているところろを見つける道具です。
おそらく、皆様が気になっている点はこの二つでしょう?
・この文章の「長い木」とはどこを指す?
・どうやって、弓矢拳の三点の中程でその木が真っ直ぐになっているかを見つけるのか?
この二点が分かれば、
この文章の内容が容易に理解できる
ようになります。
ただ、この内容を理解する前に
覚えておかないといけないことが
あります。
🔳前提や斜面の弓構えである
と言うことを覚えておいてください。
尾州竹林は斜面打起ですので、この内容は、正面打起を前提に理解しようとするとややこしくなります。
そのために、まず次のことを意識してください。まず、弓構えで左腕を伸ばし、的方向に向けるようにします。そのあとに打起動作に入っていきます。
そのため、まずは左腕を伸ばすようにしましょう。そうすると、もう一つ覚えないといけない前提が、
🔳弓構えの次に、胴造がくる
ことです。
尾州竹林弓術書の文章を見ると、弓構の次に胴造がきます。普通の弓道では、胴造→弓構の順番ですが、逆です。
これは、古くの文章の順番が合理的です。姿勢を伸ばしてから、弓の持ち方を理解して持とうとすると、また姿勢が崩れてしまうからです。ですから、弓構えでは、あまり余計な力を入れずに弓矢を持って、その後に、胴造で姿勢の作って行く方が適切です。
つまり、弓矢のもつ構えを完了させてから、背中を伸ばした方が、後で姿勢が崩れにくくなるため、弓を構えてから胴造を行う方が自然です。
この二つの前提を理解すると、長い木の正体と、三点の中程で木の歪み
を見つける方法がわかってしまいます。
それは、
🔳長い木はあなたの胴体。左腕を伸ばす運動であなたの胴体の歪みを見つける
と言うことです。長い木はあなたのことです。
この文章の言いたい内容をまとめると、
・あなたと言う長い木が、弓構から打起に入ったら直ぐなる木のごとくどんどん伸ばしていこう。
・その木の歪みを左腕を伸ばす運動の時に観察する
と言うことになります。
斜面の弓構では、左腕を伸ばしていきます。普通、左腕を伸ばそうとすると、弓の圧力が左手にかかりますよね。この時、自分の姿勢が真っ直ぐに伸びていれば、その圧迫感がほとんどなく、素直に入るのがわかります。
しかし、あなたの左手に弓の圧力が残っていたら、それはあなたの姿勢の歪みが起こっていることがわかります。
この左腕を伸ばす運動からあなたの姿勢の歪みを見つけ、それをなくして行くようにする必要があります。そのことを「墨指」を表現し、弓矢を用いてその歪みを見つけるのはあなた次第です。
つまり、弓構では、あなたがその姿勢の歪みを稽古を重ねるごとにより深く観察してとっていくようにしていきましょうと解いています。
この時、目でみてその歪みを取るのではなく、あなたの体の内部の状況でその歪みがどこにあるかを確かめる必要があります。だから「目中」と表現されています。
そして、この歪みがとれた状態にはゴールがありません。人によってその歪みがとれた状態はは感じ方が異なり、またその正解が何かがわからないため、口で伝えられる事ではない「口伝」と表現しています。
もし、両拳に力が入っていたとします。すると、重心が前に行きすぎてしまい、体の上部が曲がります。
◼️拳と腕で姿勢のねじれがわかる
では、上記したように、弓矢と拳の三点で姿勢のねじれを観察する方法を解説します。
例えば、拳の力の入り具合で、大体姿勢のねじれがわかってしまいます。左右の拳に力を入れた状態で左腕を伸ばしたとします。すると、体の重心が前に動いて背中の上部が曲がります。
あるいは、左腕をしっかり伸ばそうと意識したとします。これも、左腕に力が入りすぎてしまい、体が的方向に突っ込みすぎてまうため、左脇が縮み、背骨が左方にねじれます。
つまり、姿勢が前後左右にねじれないようにするためには、両拳に力が入らないように弓を開く必要があります。斜面の弓構をする時は、左腕に余計な力みをかけずに、弓を左方に伸ばしていきます。もし、両拳に何も力みなく弓を開けると、あたかも自分という大木に対して、墨糸をサッと引いてみる(左腕を伸ばす)と、その糸を真っ直ぐの大木に引いて、真っ直ぐ伸びているのを確認しているかのような感覚を得られると思います。
その時、両拳の中程を観察します。左拳、右拳のいずれかに力が入っていれば、力んだ部位の方に意識が行きすぎてしまい、弓と矢の間に意識を置けません。
しかし、両拳の無駄な力みが抜けていれば、弓、もしくは拳の
◼️脚で腕を動かす
では、左腕に圧力をかけず、弓を開く方法はあるでしょうか?そこで、弓構えをやるときは、「腕からではなく脚から開く」ように意識してください。
腕から動かそうとすると、腕の裏側に圧迫感があります。そうではなく、「まず脚を引いて、次に胸を開いて、最後に腕を動かす」ように意識してください。
そうすると、左腕を伸ばす時に圧迫感が軽減されます。
理由は、脚を後ろに引くようにすると、自然に胸が開くからです。胸が開くと自然に左腕が左方に伸ばされます。そうして、左腕の筋肉を使わずに左腕を伸ばすことができ、左手にかかる弓の圧迫感が軽減されます。
まず、左手に直接圧力をかけずに弓を押し開くようにしてください。そうすると、弓の圧迫感が少なくなり、矢で糸を引くように、自分の体幹という大木が糸によって歪みが少なくなるようになります。