矢束いっぱい引き収めて、会働かせた左右に延び合う力で離れに至ります。そして、充実した会を最終的に離れにつなげるために、尾州竹林では、二つの離れのたとえを出しました。
離れにおいて、「理想の離れ」とはどういう状態か?ここでは、尾州竹林射法に載っている三つの例え話で爆発力を効かせた離れについて解説していきます。
理想の離れとはどんな状態?
まず、理想の離れとは、舟、艫綱、竹竿、この三つの物によって、例えて説明しています。
急流に流される舟とそれをつないでいる艫綱(ともづな)を竹竿でつないでいるとします。そすると、流されている舟によって、竹竿の先端は張り合い、緊張します。
このときの、舟を押手、竹竿の先端を右手、竹竿の根本が右肘になります。急流の流れによって、舟は流され続け、竹竿はずっと張られた状態になります。
この状態が「五部の詰め」に例えられます。そして、この舟(押し手)が流され続け、竹竿(右肘)が張られ続けた状態で、艫綱がピンと張った状態で鋭利な刃物でプツリと切ったとします。
そうすると、舟(押し手)は下流(的の方)へさっと押し流され、竿の先端(懸拳)は反対方向に鋭くはねるのです。舟と竿の張り合い(延合、詰合の充満)が強ければ強いほど舟の流されようと竿のはね方が鋭いです。
これをもう少し詳しく離すと、押し手が前に押すスピード、弦がかえるスピード、右肘が引かれるスピード、この三つのスピードが速く、全部が同じスピードに同調している状態が「理想の離れ」と言えます。
もしも、押してが早くて右肘が動いていなければ(離れが緩んでいたり)それは理想の離れとはいえません。紐をプツリと切ったときに右懸と押手が一気にさっと動く離れが体の各関節のつながり、関節の収まりが理にかなった、体全体を使った離れになるのです。
理想の離れを生み出す体の部位「胸」
そして、この二つの離れを生み出すのに重要な事、尾州竹林ではこの離れを生み出すために重要な体の部位を説明しています。それは「胸」です。
なぜなら、左手、右肘がスピードで離れるとき「胸が開く」ように見えるからです。
五部の詰めで手の内、左肩、胸、右肩、右肘を楔(くさび:関節をゆるまないように詰める)を打ち、この五箇所の詰めた関節が適度に充実した瞬間に理想の離れを実現させます。
それは、胸の轄へ大きな石を打ちこんで、四部(左肩、手の内と剛弱所、右肩、右肘の四か所)の轄が一気に割れて烈火のごとくに離れるを言います。
この四か所が一気に離れるのが「紫部の離」とも言います。内面的には丹田から無限に湧き出る気力が全身に充満し、極地に達する瞬間に離れるもので、「総部の離れ」とも言います。
理想の離れを生み出す重要な体の部位「左手」
さらに尾州竹林では理想の離れを生み出すのにもう一つ体の部位を説明しています。それは「左手」です。
引き分けの説明で「父母大三」といって、左手を少し強めに押すようにすると説明したり、「左肩を少し低めに抑えて左手を強く押す」と説明したように、左手の押す動作を強めるように強調しています。
これと同様に離れでも押手をより的に押し込むことで、右手(懸)が離したくなるように離れを誘発するように離すように説明しています。
離れは胸を中心とした「四部の離れ」でないといけませんが、それは別の観点から考えてみると打起、引分、会に至るまで常に懸は左手に順がう心持ちで動作することが、左右対称に離すことにつながります。
この左手を押すことで、懸が離したくなるよう離れの動作を誘発させます。これを、人の言葉をまねる鸚鵡(おうむ)に例えて尾州竹林では「鸚鵡の離れ」と言います。
弓を引きつける運動は左手から右肘まで関連しています。そのため、離れるときの最初の意識はいきなり離そうではなく、わずかな左手を的方向に離れる瞬間ぐっと押したときに右拳が一気に離れるようにするのが理想です。
これを、離れは右弽で離すものと考えて、右拳から出そうとするとこの離れはできません。離れは左拳で出すことで理想の離れを生み出すことができます。
以上の内容を理解し、鋭い離れを理解することができます。