尾州竹林は引くときに「骨、関節」にそれぞれの動作で適した位置、道があり、「正しい骨節の組み合わせと正しい筋肉の働きと正しい弦道によって弓を射よ」と考えました。
尾州竹林射法の核ともいえる教義に「骨相筋道」という言葉があります。このページでは骨相筋道の内容を解説していきます。
骨相筋道とは
人の骨格はその人その人によって多少の差異があることは当然ですが、人体は二百数個の骨と無数の筋肉などによって組み合わされているといわれ、それがすべて関節によって継ぎ合わされています。
弓を射る場合に、すべての骨や関節や筋肉が直接あるは間接的に作用することになるが、そのうち関係の深い主なる関節を列挙してみると、足首、膝、股、腰(胴)、胸、肩、肘、手首、首等です。
これらの関節はそれぞれの機能を持っており、動く方向を一考してみると膝や肘のように一方だけに屈折するものもあり、また、首のように自由自在に回転したり、前後左右に屈折できるものもあります。
あるいは、肩のように自由自在に回転したり屈伸できるものもあります。このように多種多様の関節を筋肉の正しい使いかたによって最も正しく合理的に組み合わせて屈伸させたり、回転させて弓を射る考えが骨相筋道です。
一方にだけ屈折する関節の場合は、その扱い方が比較的容易であるが、自由自在に動く関節は、その扱い方が非常に難しく、これらの自由に動く関節が射形を崩したり、いろいろの病癖を生ぜしめる根源となるのです。
骨節の名称、自由度を理解する
弓を射るのに主要な役割を持つ骨節と、その関節の運動について運動範囲を考えてみると、次の表になります。
骨節の名称 | 運動範囲 | 運動範囲の度合 |
足首関節 | おおむね一方のみに屈折する | 1 |
膝関節 | おおむね一方のみに屈折する | 1 |
股関節 | 前、後、左、右に回転する | 5 |
腰(胴)関節 | 左右に20,30°回転、かつ前と左右に屈折する | 5 |
肩関節 | 前、後、上、下に回転し、かつ肩の位置が自由に移動する | 6 |
肘の関節 | 一方にのみ屈折する | 1 |
橈骨(とうこつ)尺骨(しゃくこつ) | 二方へ半捻する | 1 |
手首関節 | 上、下、左、右に回転する | 5 |
手の拇指根の関節(第一関節) | 自由に回転する | 5 |
手の四指の関節 | 内側にのみ屈折する | 1 |
首の関節 | 自由に回転する | 5 |
前表に示す通り、股の関節、腰の関節、肩の関節、手首の関節、拇指根の関節、首の関節はいずれも自由性に富んでいます。自由になるということは同時に病癖の根源となる危険性をはらんでいます。
プラス、これら自由性にとんだ各関節と筋骨は、いずれも行射の場合に重要な役目をもつものであり、股、腰、両肩、首の関節、等基幹的な関節が正常に保たれるかどうかによって射の運命の大半が決まることになります。
また、これらの基幹的な骨節を正直に保つことを前提として他のすべての骨節が正しく運行されなければいけません。
首の関節は非常に重要になる
射において、足踏みにも胴づくりもあまり関連せず、弓を引くのにも直接関係しない首の関節はあまり重要ではないように感じますが、骨相筋道の考えからするとそうではありません。
首の骨の正直は縦軸に直結しており、正常な縦軸があってこそ、左右の横軸を正常に働かせることができるのです。
そのため、首の骨の正直は軽視してはいけません。首の骨の正否は顔持ちの正否と同じであって、目付の正否に直結しているので、きわめて重要と思わなければいけません。
足踏みから離れに至るまでのすべての教義を忠実に守りながら、無数の筋骨の作用が合理的に積み重ねられてこそ最後に合理的に負担のないおさまりができ、いかなる強弓でも弱弓でも矢束に長短短不及がなく一定となります。
ムリ、ムラ、ムダのない合理的な骨相筋道は精神の安定にも好影響をもたらすものです。もしも骨相筋道を誤れば、射の運行に無理が生じ、その無理なところへ意識がかたより、総体の筋力の不調和を生じ、心気が乱れます。
とうてい円満な射を得ることはできないのです。ゆえに正しい骨法によって的中を明確にし、矢勢を強くし、いわゆる正射必中を期することが肝要であって、尾州竹林が骨法を重視する理由もここにあります。