弓道の本質を理解するために
弓道を正しく学ぶためには、技術や形を追うのではなく、その根本となる理論を正しく理解することが不可欠です。
そのときに、尾州竹林二十五有の文章が役立ちます。
ここには、弓道の本質が細かく記されていますが、多くの弓道家はその読み方を誤り、正しい理解に至っていません。
特に、手の内、取り懸け、胴造の学び方に問題があるため、この書を読み解くことすらできていないのが現状です。
そこで、この内容を翻訳し、具体的内容と行動レベルでやるべきことを解説します。

二十五有とは何か?
まず、大前提として「二十五有」とは何かを明確にしておきます。
この概念を一言で表すならば、**「中心が整えば、すべてが整う」**ということです。
弓道の動作は、一般的に「胴造」「弓構え」「足踏み」「手の内」「取り懸け」などに分けられます。
ここで、これらは独立したものではなく、すべてが繋がっていると理解しましょう。
例えば、みなさん、胴造で背中を伸ばし、そのあとに弓構えで形を整えようと考えます。
そうではなく、胴造でお腹と胸を開いてください。胸を開くと、肩が後ろに引かれ、上腕の付け根も一緒に弾かれます。そうすると、手の内と左手の形も取り懸けの形も作りやすいでしょう。
このように、弓道の各要素を個別に練習するのではなく、全体の流れとして捉えなければなりません。重要なのは、動作を部分的に区切るのではなく、**「すべてが一体となっている」**という視点を持つことです。
そうしなければ、正しい弓の引き方や形を整えることはできません。
無駄な動作を省く
良い形とは、無駄な動きを省くことに繋がります。
多くの弓道家が、胴造を作り、次に弓構えを整え、手の形を調整するというように、動作を個別に修正しながら射を行っています。これが、結果として無駄な動きになっており、むしろ射型を崩す原因となります。
そうではなく、一度の動作ですべてを決めることが理想です。「きれいな形を作る」ことが目的化してしまい、射の本質を見失っている人が多く見られます。弓道の目的は形を整えることではなく、適切に矢を飛ばすことです。
では、どのようにすれば無駄な動作を省きながら正しい射を行うことができるのでしょうか?
その答えは**「丹田を意識し、体の中心を開く」**ことにあります。
体の中心を開くことの重要性
体の中心を開くとは、丹田(へその下あたりの腹部)あたりを指します。
まず、この部位を広げるようにしてください。お腹を開いてから、同時に胸を開く。お腹を開いてから、腕も連動して開く、このようにすると、自然に手が動き、胴造や取り懸けが整います。
そうすることで、手の内、取り懸けが整うことがわかります。
5種類の手の内と取り懸けの名称と「中心開き」の考え方の関係
また、手の内には**「鵜の首」「鸞中」「三毒」「骨法陸」「呼立」の5種類があり、取り懸けにも「一文字」「十文字」「弦搦」「深浅」「弦計」**といった段階があります。これらはすべて、体の中心の開き方によって自然と変化し、最適な形へと導かれるのです。
1. 手の内の5種類
手の内とは、弓を握る手の形とその使い方のことを指します。手の内の完成度によって矢の飛びや弓の操作性が大きく変わります。
- 鵜の首(うのくび):親指と人差し指の間をしっかり締め、弓を安定させる握り方。
- 鸞中(らんちゅう):手のひらの中央を意識して握ることで、弓のバランスを取る。
- 三毒(さんどく):無駄な力を抜き、手首の柔軟性を活かした握り方。
- 骨法陸(こっぽうろく):指の関節を上手く使い、適切な圧力をかける方法。
- 呼立(こりゅう):手の内の形を維持しながら、射の流れに応じて柔軟に変化させる。
2. 取り懸けの5種類
取り懸けとは、弦を引く際の指の掛け方を指します。取り懸けの形によって、離れのスムーズさや弦の捉え方が変わります。
- 一文字(いちもんじがけ):指を一直線に揃えて掛ける基本的な取り懸け。
- 十文字(じゅうもんじがけ):親指と他の指を直角に配置し、安定感を増す掛け方。
- 弦搦(つるがらみ):弦を絡めるように掛けることで、強い引きを実現。
- 深浅(しんせんがけ):深く掛けるか浅く掛けるかで、弦の操作性を調整。
- 弦計(つるばかり):最も力を抜いた状態で、自然に弦の動きを引き出す掛け方。
比べてみるとわかりますが、鵜の首→呼立とい状態に行くほど「手のひらの圧力→手のひら下部→手のひら全体→手に圧力がかからない」といったように手のひらの圧力が減っているのがわかります。
取り懸けも同様に、「人差し指・親指に圧力→手のひら下部→手の中心→手自体の圧力が少なくなる」という段階を踏んでいます。
これは、「中心から開く」ように、胴造から弓構えを繋げるとわかります。体幹を緩めて伸ばすほど、上腕の付け根も緩み、手の平も緩みます。そうすると、手の圧力が軽減されます。
次に、胴造の五胴も同様に同じことがいえます。
3. 五身の5つ
五身とは、弓を引く際の体の使い方に関する5つの要素を指します。
- 掛かる(かかる):胴を左に傾ける。
- 退く(しりぞく):胴を右に傾ける。
- 反る(そる):適度に体を反らせる。
- 屈む(かがむ):姿勢を前に屈ませる。
- 直(なおす):全体の姿勢を真っ直ぐに保つ。
この5つの姿勢の据え方がすべてできるようになるには、「背中・お腹の筋肉ともに力みと緩んだ状態」を作る必要があります。
ただの、真っ直ぐな自然な姿勢ではなく、左右前後に曲げられるくらい体幹部の筋肉を緩めることが必要です。
これも、中心から体を開き、を保つことが重要です。
4. 五重十文字と中心の開き
現在の弓道では、五重十文字を形として捉え、それを守ることに重点を置いています。しかし、形を整えたからといって、それが本当に身についているのかを確認する術がありません。
重要なのは、適切な五重十文字とは、体の中心から開くことによって生まれるということです。その上で五重十文字の五つの十文字を見てみます。
・ 手の内と弓
・かけ溝と弦
・首筋と矢
・胴と肩の線
・弓と矢の位置
弓と矢が正しく整うことで、安定した射が完成。 五つの部位が意識せずとも、同時に自然に十文字に力がかかるようにする
この開きの動作を繰り返し行い、それを弓を開く動作に乗せることで、手の内と取り懸けが自然に整い、さらに離れの動作が洗練されます。
5. 五輪砕きと中心の開き
離れの技術を深く理解するためには、「五輪砕き」という概念が重要になります。
土体黄色中四角:土に根を生やすように下半身を安定させる
* 水体黒色北円形:水が流れるような動きで引き分けの動きになる
* 木体青色東三角:適切な引き分けを持って、懸けの状態が整う
* 火体赤色南三角:胸を中心に火の如く強く離れる
* 金体白色西半月:最終的に、右手に少しも邪がなく無意識かの如く
五輪砕きの5つを比べると、胴造りから始まり、離れまでの動作が段階的に良くなっていくことがわかります。これも「中心から開くと、その力が末端に伝わり、離れ動作まで良くなる」ことを示唆しています。
つまり、中心から開くと、
- 手の内が整う
- 取り掛けが正しくなる
- 胴造が安定する
- 五重十文字が自然にできる
- 離れの動作がよりスムーズになる
この流れが、弓道の正しい射のプロセスです。さらに、
6. 美しさの追求と「筵布絹綾錦」
また、中心から開くと、姿形が美しくなることも特徴です。これは、『尾州竹林』の「筵布絹綾錦」の5段階で説明されています。
縦と横に伸び続けることで、
- 筵(むしろ):粗くて形がない状態
- 布(ぬの):基本の形が整う
- 絹(きぬ):細かく滑らかになる
- 綾(あや):さらに質感が増す
- 錦(にしき):最高の美しさに到達
このプロセスは、稽古を積むことで射が美しくなる道筋と一致しています。
まとめ
「二十五有」は単なる技術の話ではなく、弓道の動作や体の使い方、精神の在り方を示した体系的な考え方です。
特に理解してほしいこと
- 形だけを真似るのではなく、中心から開くことで技術が自然に向上する
- その過程で手の内、取り掛け、胴造、五重十文字、離れが段階的に良くなる
- 稽古を重ねることで、射の美しさが「筵布絹綾錦」のように向上する
実践すべきこと
- 中心を開く意識で動作を行う
- 五重十文字を形としてではなく、動作の流れとして理解する
- 「五輪砕き」の5段階を意識しながら離れを改善する
- 日々の稽古で縦と横の伸びを意識し、射の美しさを追求する
これらを意識して練習することで、弓道の本質的な上達へとつながるでしょう。