押し開く引き分けを実践するための「準備」「物理的分析」「心構え」

「引き分けは引くのではなく、押し開くもの」と心得れば、大きく弓を引き、鋭い離れを実現できます。もともと、「弓は押し開くもの」という教えは、阿波研造の弟子である吉田能安氏がお話しされている内容です。

ただ、いきなり押し開く引き分けをしましょうといわれても、具体的にどのように行えばよいかがわかりません。そこで、今回は、押し開く引き分けを実践するための「準備」と「意識」の仕方について解説していきます。

押し開く引き分けには「準備」と「意識」が大切

まず、押し開く引き分けをするためには、「準備」をすることが大切です。この準備ができなければ、引き分けでの筋肉の使い方は引きよせる使い方をしてしまいます。

この使い方を変えなければ、「手操り」「ゆるみ離れ」「早気」にかかりやすくなってしまいます。そのため、これらの射癖にかからないような筋肉の働きをするための準備を行います。ここでは、私の経験から、押し開く引き分けの準備を解説していきます。

①首を伸ばして両肩を落とす

まず、首の後ろを伸ばして両肩を落とします。頭の頂点を10センチ上につり上げるようにして、肩を耳元から垂直に楽に落とします。首を伸ばすことで背中周りの、両肩を落とすことで胸周りの緊張がほぐれます。

これにより、上半身の無駄な力みがなくなります。これにより、押し開くための引き分けをするための体構えが構築されます。引き分けをする前に、胸と腰に力が入っていると、「引きよせる」引き分けになりやすいです。胸周りは引き分けのときに、あまり前に出さないようにします。

②取り懸けを指先近くではなく、深めに取り懸ける

三つがけの場合、中指の根本近くで取り懸けるようにしましょう。指先近くで取り懸けると、引き分けで弦の復元力が指先に力が入ってしまうからです。指先が力むと手首周りも同時に力んでしまいます。

もし、指先の力みは手首に伝わってしまうと、引き分けをするときに、肘や後背部の筋肉まで感じることができなくなります。その結果、弓を押し開くのではなく、引いて体に寄せることができなくなります。そのため、取り懸けで指先に力がこらない構造に整える必要があります。

また、手の内も同様に、指先に力を入れず、軽く弓を握るようにします。

③打ち起こしを45度以上、高く上げる

胴造り、取り懸けを整えたら大きく押し開く準備をします。そのために、打ち起こしをなるべく高く上げましょう。

打ち起こしを高く上げて、脇周りの皮が上に上がるくらいにあげましょう。これにより、脇の下~腕の裏側の筋肉が伸びます。この二つの筋肉で弓を中から外に左右対称に押し開くようにしていきます。

打ち起こしが遠いと、引き分けの初めが重く感じてしまい、弓を体の中に割り込ませることはできません。かといって、近すぎると胸や腰が反った姿勢になるため、自分で最も収まりのよい部分はまずは探しましょう。

以上より、①と②で「上半身」「手首」に力が凝らないように姿勢を整えます。これにより、引き分けで脇の下と腕の裏側を使うための準備が整います。

そして、③で押し開くための主となる筋肉を働かせます。イメージとしては押し開くために助走をつける感覚です。打ち起こしを高くすることで、引き分け以降に働かせる筋肉を働かせます。すると、脇の下と腕の裏側をより意識して引くことができます。

押し開く引き分けをするために、まず「胴造り」「取り懸け」「打ち起こし」によって、押し開きやすい体構えを作りましょう。押し開く引き分けを早く身につけることができ、射技の向上につながります。

押し開く引き分けを身に着けるための意識の仕方

次に、押し開く引き分けの準備が整ったら、毎回の稽古で意識するようにします。ただ、「胴づくりの状態」「取り懸け」「打ち起こしの角度」だけではまだ足りません。実際に、弓を押し開く筋肉の使い方を身に着けるためには、日々の稽古の「意識」も転換してください。

左拳、右肘を斜め上方に押し続ける

最初に、左拳と右肘の押す方向が大切です。このとき、左拳と右肘ともにななめ上方に押していくイメージで押していきましょう。そして、ある程度押したら徐々に押す方向が的の線上に向いてきます。そのようになるまで左右対称に押し続けていきましょう。

自分で的方向に押して行くのではなく、自然と的の線上に拳がくるように押す方向づけをしましょう。これにより、格段に弓を大きく引くことができます。

ここで、多くの人は左拳を先に的につけようとします。すると、引き分けの軌道が小さくなってしまうため、大きく弓を割り込ますことができません。

左拳は最初、ななめ方向なので「弓の方向」に押すイメージです。押していくと徐徐に拳が的方向に向いて、弓を押す方向も的の線上に揃っていきます。

このように、最初、ななめ上方から押して、徐々に的方向に押すようにしていきましょう。

右肘も同様のことが言えます。多くの人は右肘をすぐに体に近付けようとします。すると、せっかく打ち起こしで張った脇の下から腕の裏側の筋肉の張りがなくなってしまいます。

すると、引き分けが小さくなってしまい、右肘の収まりが悪くなってしまいます。そのため、左拳と右肘の押す方向はななめ上方から押して行き、徐々に的方向に押して行くようにしましょう。

押し開く押し方をすることで違いが出る右肘の位置

このように、左拳と右肘を押して行くと、引き分けで引き切った状態の右肘の位置が異なります。押し開く引き分けをして、最大限に体を弓の中に割り込ませると、右肘がななめに向きます。これにより、肩より後方に収まるようになります。

一方、引き分けで左拳をいきなり的方向に押してしまったり右肘を早く引き寄せようしたりとすると、弓を大きく体に割り込ませることができません。すると、右肘の向きが下向きになって肩より後方に行かなくなります。

押し開く引き分けをするためには、右肘が肩より後方に入ることが理想です。鏡を見ながら、自分でできるようにしっかり稽古をしてみましょう。

引き分け中に首の後ろを伸ばすことを忘れないようにする

引き分けの運動は左右に押し合う運動のため、上半身の姿勢が崩れやすいです。

胸が出てしまったり、両肩がずれてしまったりして上半身の姿勢が変わりやすいため、押し開く横の運動と同時に姿勢を整える縦の運動を意識する必要があります。

ここで、意識することは首の後ろ(うなじ)の筋肉を伸ばし続けることです。腰や胸を真っすぐにしようと思うのは引き分けにおいては難しいです。上半身の姿勢の崩れは首の傾きによって起こる事が多く、引き分けにおいても注意することが大切です。

そのため、「左拳」「右肘」で左右対称に押し開くのと同時に、首の後ろを伸ばすようにして、上半身の姿勢を整えましょう。

これにより、引き分け中に姿勢の崩れにくくなり、左右対称に深く引き分けることができます。

胸が出て腰が反った姿勢になると右肘が下に向きやすくなります。すると、右肩より後方に右肘を引きつけることはできません。あるいは、姿勢が屈んでいると体の中に弓が割り込まなくなって引き分けが小さくなってしまいます。

多くの人は大きく引くために、引き方や軌道を変えようとします。しかし、大きく引くためには上半身を真っすぐこりなく働かせることも必要です。そこで、押し開いていく最中に「首を上に伸ばす」意識を持つことで体に深く引きこむ姿勢になっていきます。

押し開く引き分けをするために、「左拳」と「右肘」をななめ方向に押して行き、徐々に的方向に押し開いていきましょう。また、姿勢を整えるために「首の裏側」を伸ばすようにしましょう。今までより体に深く引き分けることができ、あらゆる技術が向上していきます。

なお、この弓の引き方を身に着ければ、25kg程度の弓であれば、楽に引けるようになります。現在、私は25~33kg程度の弓を用いて稽古しています。さらに、これらの弓を用いても、身体に負担なく楽に引けます。

さらに、次の日の疲労度もほとんどありません。以前、15kg程度の弓を引いていたときは、左肩が痛くなったり右ひじが痛くなったりしました。しかし、今はこのような痛みは全くなく引くことができています。このような経験から、自分の射の技術は伸びているなと確信できます。

押し開く引き分けを行うと、通常より少ない力で強い弓を引くことが可能になります。弓道教本一巻に、日本の弓が美しい理由の一つとして、「身体に負担なく弓が引けるようになる」ことが挙げられます。もし、弓を楽に押し開くための角度や意識の仕方がわかれば、弓においての悩みはほぼなくなります。

後はあなたがやるかやらないかです。

押し開く引き分けを物理的に解析する

では、もう少し押し開く引き分けを深く理解し、実践レベルに落としこむために「物理的」に解析していきましょう。

弓の抵抗力から、「引く寄せる」動きでかかる癖について考える

引き寄せる運動は、左右の腕を自分の体に近づけるように腕を近付けることです。実際にこの体の使い方で引き分けを行うと以下のような見た目になり、感覚を体験します。

・引き分けの軌道が円を描くように丸い軌道になる
右肘の位置が下向きになる
・耳の辺りを通り過ぎると肘がかくっと下に落ちる。
・手首がたぐりやすい
・会で「止まる」感覚があり、そこから右肘を後方に押すことができない
・胸が緊張する

これは「円を描くように」「自分の体に引き寄せよう」とすると、自分の体に引き寄せようとする力が働きます(①)。これに対して、弓を引いたときの復元力は弓、弦から自分の体にななめ向きに力が働きます(②)。

すると、自分の引く力の向きと弓の復元される力の向きがあわなくなります。そのため、弓の復元力が自分の胸や手首にかかります。これにより、手首が曲がったり肘が後方まで行かなくなります。

手首に弓の反動力がかかるため、曲がりやすくなぐりやすい射になります。

さらに、肘の引く方向に対して、弓の反動力を常に逆向きに、かつ自分の体の方向に受け続けます。すると、肘が体に寄せやすくなり、さらに後方に押すことができません。これが、「会に入ったとき、そこからさらに後方に押せない」原因です。

さらに、大三から目通りの辺りまでは手首や腕の力で弓を体に近付けることはできますが、目通りから、引き分けの最後の位置まで持っていくためには、腕以外に背中や脇周りの筋肉を使わないと肘を動かすことができません。

引き寄せる運動では、こういった体の後ろ側の筋肉は働きにくく、むしろ胸周りの筋肉の方が優位に働きます。そのため、弓を引いて目通りを過ぎたら、肘が下向きになって下に落ちていきます。

この動きが見る側には「円を描く」ように引いているように見えます。引いている側はとても胸がつらいため、弓を早く離したくなってきます。そのため、早気にもなりやすいです。

このように、引き寄せる引き分けを行うと、さまざまな射癖にかかる可能性があります。そのため、より射型や射技を向上させるには、引き分けの軌道や押し方をしっかり理解する必要があります。

押し開くように体を使うための力の働かせ方を理解する
次に、射型、射技を向上させるのにてきした引き分けが「押し開く」引き分けです。この動きは次のような特徴を持っています。

押し開く引き分け
右肘がななめに入る
・肘、肩に負担がほとんどない
・大きく開くため、離れはほぼゆるまない、矢勢もよい
・会が長くなりやすい

「押し開く」運動は左拳、右肘ともにななめ前方に押すように力を働かせます。

そのように押して行くと弓の復元力がかかります。しかし、押し力と弓の復元力は互いに向きが違うため、そのまま押して行けば力の均衡が保たれます。

この状態で押し続ければ、手首や胸に弓の抵抗力による負担がかかりません。そのため腕動きが制約されることなく、左拳と肘をななめ方向に押し続けることができます。

このように、押し開く動きは常に弓の抵抗力と同じ角度に力をかけるため、体の負担が少ないです。そのまま押して行けば、さらに弓を体の中に割り込ませることができます。実感としては胸周りが広がる感じが出ます。

ただ「左拳」「右肘」をななめに押し続けることで弓は開いていきます。自分で口割を合わせたり体に寄せようとしたりせず、押して行けば、左拳と右肘は自然と直線に向いてきます。

引き分けてきて矢が耳元あたりまで来たら、右肘が勝手に下がってきます。下がってきてもそのまま右肘を裏的方向に押し続けるようにしましょう。すると、右肘は後方に入っていきます。

このように、押し開く引き分けは、物理的に考えても理にかなった方法と言えます。射技をさらに向上させるには、押し開く引き分けを意識して、稽古に取り入れてみましょう。

引き分けをするときは、自分の体に引き寄せようとするのではなく、体を開くように押して行くと、良い効果をもたらします。とは言っても、押し開く引き分けをするには技術以外に知っておかないといけないことがあります。

身につけるためには、いくつか心構えを知っておく必要があります。ここでは、「押し開く」引き分けをするときの心構えを紹介していきます。

準備ができないと押し開くことはできない。

押し開く引き分けは誰でも簡単にできると言うわけではありません。なぜなら、弓を引く前の姿勢で上半身や手首に力が入っていると押し開く運動をする前に先に力んだ箇所に負荷がかかってしまいます。すると、気持ちではそうしたいと思っても実際にはできません。

そのため、「押し開く」引き分けは準備をすることが大切です。具体的には「胴づくりで項、背骨を上方に伸ばす」「取り懸けで指の横っ腹で取り懸ける」「打ち起こしを大きく上げる」といったものです。

他にも、「手の内」「物見」「引き分けの押す方向」など、準備することはたくさんありますが、少なくとも上の三つを行わなければ、「押し開く」体の使い方ができなくなります。そのため、準備を行う心がけを身につけるようにしましょう。

何回も繰り返して少しずつできるようになる。

最初は準備をしっかり行い、意識の仕方も心がけて毎日射を行うようにしましょう。そうすると少しずつ、引き分けのときの引きやすさ、自分の体全体を使っている感覚、離れのしやすさが変わります。

押し開く引き分けをすると、上半身のあらゆる関節を最大限に活かした引き方になります。今まで使っていない筋肉や関節も使うことになるため、慣れない運動に会や離れで関節に変な動きが出てしまいます。

働かせている関節が少しでもブレてしまうと的をはずしてしまいます。そのため、押し開く引き分けをすると、最初は的中率が下がります。

しかし、何回も行うと、次第に的中率も上がっていき、射型も技術も向上します。時間はかかってしまいますが、身につけることができれば、弓道の実力が上がることは間違いありません。

ここで、目先の的中にとらわれて、意識をやめてしまうと押し開く引き分けは身に付きません。引き分けの方向を変えるためには、ある程度の時間と練習が必要です。

しかし、身につけてしまえば、これまでの苦労が嘘だったかのように弓道をすることが楽しくなります。そのため、長期的に稽古をとらえて、押し開く引き分けを身につけることは重要です。

引き分けは自分の体に引き寄せる引き方と体全体を使って押し開くようにする引き方があります。実力を向上させるには、押し開く引き分けが有効です。

とはいっても別に肩の力で引くこともできます。肘が後方に回らなくても、両肩が入っていなくても的中はすることはします。

しかし、そういった体の一部分で引いていると、良くない射癖にかかる可能性があります。
ここでは、悪い引き分けの仕方によって身につく射癖について解説していきます。

何も考えないで引き分けをすると廃弓に陥る

そして、「押し開く引き分け」は弓道関係者はみな実践しなければいけないです。なぜなら、引き分けを大きく押し開けなければ、廃弓に陥ると教本で説明されているからです。

引き分けで押し開く引き分けがなかなかわからず、何も考えずに引いていると、引き分けの中でも特に怖い射癖にかかる可能性があります。

その癖が「引き肩(これをのき肩という)になる」ことです。教本第三巻より、右肩の引きによる射の悪影響を説明している文章があります。

ここでもっとも留意すべきは射法上の一大失敗とされる、右肩の逃げたいわゆるのき肩の人はこの際厳に調節しておかねばならないことである。・・・こののき肩の人が現時の射者にいかに多いか、・・・」

「いまここに射場に上がっている射者を見て、その右手はどこまで引き取っているか調べてみるとそれは驚くほど引きつまりが多いということを知るであろう、・・・・引き詰まるとも伸びはしない。

段々に詰まっては中りも減り、体裁も悪くなり、完全に廃弓に到着する。」
教本第三巻より

弓道で一番悪いくせが引き肩であり、そのままの形で続けていると弓の人生が悪くなると説明しています。

弦を無理やり引き寄せようとすると、「引き肩」の癖がかかります。引き肩になると左胸が前方突出してしまうため、押しがきかなくなってしまいます。あるいは、右肩が後ろに引けるため、胸弦がつきにくい、このため会が安定しない。

このため、「手繰り」「早気」「ゆるみ離れ」といった、あらゆる癖にかかります。

さらに、この癖はかかっていたとしても的に当たります。そのため、本人がこの癖にかかっていたとしても、なかなか直そうという気持ちになれません。最終的には、射型が崩れて基にもどせなくなってしまいます。

このため、弓道を志す人は一度かかって抜け出せなくなるような癖があることを理解しておく必要があります。押す方向、姿勢、そういったものを勉強し、見直す必要があります。

押し開く引き分けを目指して稽古していけば、引き肩の問題は解消される
何も考えずに引き分けをしてきた人が「押し開く」引き分けを身につけるのは、時間がかかります。しかし、努力をすれば確実に身につくものであり、引き肩を解消するのに必要な動作でもあります。そのため、引き分けの仕方を変えることはとても重要な意味を持っています。

たとえできなくても、それをするための準備や押す方向を理解し、行っているだけでも、引き肩の射癖の予防には有効に働きます。そのため、押し開く引き分ができなくても、それを続けることで、着実に癖のつきにくい射型が構築されていきます。

「ひき肩」は弓道の射癖の中でも厄介な病癖です。そのため、押し開く引き分けのやり方を理解し、毎日稽古で実践するようにしましょう。射癖にかかりくい姿勢が身について、射技の向上につながります。

以上、押し開く引き分けをするための準備、物理的分析、心構えについて解説しました。この引き分けを身につけて、弓道における悩みと迷いを払しょくして下さい。行動すれば、あなたの弓道の考え方は変わります。

メルマガ登録

 

ここまでの記事を読んで、「さらに深く弓道を学び、上達したい」と思う方もいるかもしれません。その場合、以下の「メルマガ」登録を済ませて、「合理的に弓を引くために必要な情報」を受け取りましょう(600ページ以上の非公開テキスト、 10時間以上の動画もプレゼントします)。

 

稽古会案内