引き分けで重要となる「脇の下」の筋肉を弓構えで活用する

弓構えを行う際に重要な筋肉

胴づくりでは、教本一巻に「脊柱、うなじをまっすぐに伸び……」と記されているように、少し顎を引いて首の後ろの筋肉を伸ばすようにします。これにより、背骨に無駄な湾曲が少なくなり、筋肉や内臓に負担のない姿勢を構築することができます。

 

このように、胴造りで首や胸、肩の位置を整えることで、弓を引くために必要な筋肉を意識することができます。それが前鋸筋(ぜんきょきん)と呼ばれる筋肉です。

 

弓構えによって、前据筋が張る

まず、弓構えを行う際には具体的に行うことは、教本二巻の神永範士、高木範士の言葉をお借りします。

 

項を伸ばし、下がった両肩を八文字のように足踏みの向きに開く気持ちで備える〜神永範士〜?

 

前膊の二骨(橈骨・尺骨)のなす面が地面とほとんど垂直に近く交わるように、肘のところを後ろ外へ内からわずかにひねる心持ちでひねり伸ばすようにする〜高木範士〜

 

(教本二巻から引用)

 

このように、弓懐を構築することで、弓を押し開く際に重要な「前鋸筋」を意識することができます。人間の体には首の後ろから肩にある「僧帽筋」と、肩から腕の表側に「三角筋」があります。

 

この筋肉は肩を動かすときに働く筋肉です。通常、私たちは肩を動かすとき、働く筋肉は他にもあり、「前据筋」もその一つです。この筋肉は前に何かを押すときに使われる筋肉です。肩が上がらないように肩甲骨を動かすと、この筋肉が働きます。

 

 

「前据筋」は弓道の引き分けや会において重要な役割を持っています。大きく弓を引こうと思うと、肩や腕が力みがちです。初心者の場合、弓を押す動作でうまく筋肉が使えないと、左肩が浮き上がった射型になることがあります。

 

しかし、経験値が向上し、腕に力みなく弓を押そうとすると、前鋸筋を使い、弓を開きます。

 

現代弓道講座の文章の中で、初心者と熟練者と弓を引く際の筋電位を調べた実験があります。そこで、筋肉の使い方を調べると、「熟練者ほど腕の裏側の筋肉を活用している」ことがわかっています。これは、前鋸筋を張り、肩甲骨を開くことで、腕の裏側を用いて弓を押す動作が行えていることがわかります。

 

具体的には、両肩を下げ、腕ではなく脇下の筋肉を意識して弓を押すようにします。すると、左肩根が上がったときより強く弓を押すことができます。今より深く弓を引きこむためには、弓を押し開く際の前鋸筋の使い方が大切となります。

 

前鋸筋の重要性

では、前鋸筋は弓道においてなぜ重要なのでしょうか?この理由として、弓を引いている最中に前鋸筋によって関節のぶれを抑えることができるからです。

 

まず、弓を押し開く際に、最も関節がぶれやすいのは、胸部と肩関節です。この詳細は胸部、肩関節に分けて解説します。

 

まず、胸部は背骨の中で最も可動域(関節が動く範囲)が広い部位です。頸椎から腰椎まで24個ある背骨のうち、可動域が狭いのは腰椎、体をねじったり、傾けたりする際に動くのは胸部の背骨である胸椎です。さらに、胸には心臓や肺といった呼吸や心拍数に関わる内臓器官があります。つまり、胸部は関節の中でねじれが起きやすく、身体の緊張にも深く関係する部位です。

 

次に、肩関節は打ち起こし→大三→引き分けにおいて、腕がダイナミックに動きます。肘が肩を中心に後方に回転運動が起こり、肩関節も回ります。少しでも押す方向が間違っていたりすると、肩関節の回転運動がうまく行われず、腕や肩に力みが生じます。

 

これ以外に、身体の仕組みに基づくと、胸部にある臓器に強い緊張が走ることで、肩や腕の痛みを伴うことがあります。これを、「関連痛」ともいいます。こうした関連痛は、胸部に強く負荷がかかる弓の引き方をしていると引き起こす可能性があります。

 

以上の内容より、弓を引く動作で、胸部と肩関節は最も歪みやすいといえます。さらに、右肩や左腕の痛みに関係する臓器も存在しているため、無駄な緊張や負担を極力なくす必要があります。

 

そこで、大切となるのが「前鋸筋」です。

 

前鋸筋は、解剖学的に肩甲骨を前方に開くように働く筋肉です。もし、前方に肩甲骨を開くように姿勢をとったとします。すると、肩関節の可動域(動く幅)が狭くなるため、弓の反発力によって生じる関節の歪みをおさえることができます。

 

まず、肩甲骨を寄せるように姿勢をとったとします。すると、腕自体は動かしやすくなります。しかし、実際に行うとわかりますが、肩甲骨を寄せると、背骨と肩甲骨の間が窮屈になります。耳から肩にかけてついている僧帽筋が強く緊張しすぎてしまい、弓を引くときに肩が上がりやすくなります。

 

もし、両肩自体が上がってしまうと、弓を左右に押し開いていくときに、僧帽筋や三角筋が強く緊張してしまいます。すると、弓を大きく開けなくなってしまいます。教本一巻に記されている「横線」に関係する関節として、左親指付け根・左肘・左肩・胸・右肩・右肘があります。これらのうち、胴体部に位置する関節ではなく、腕に関係する部位に負担が多くかかってしまうことがわかります。

 

もし、前鋸筋が働かなければ、胸や両肩の関節で歪みが起こります。すると、筋肉に負担なく弓を押し開く運動ができなくなります。これにより、狙った方向に矢が飛ばなくなってしまいます。

 

弓構えでは、肩甲骨を前方に開く「前鋸筋」を強く働かせる目的があります。これによって、胸と肩関節のぶれが軽減されます。肩甲骨が開くように動かすことは、身体に負担なく、かつ大きく弓を引くために必要といえます。

 

前鋸筋の重要性:アーチェリーから読み解く

「前据筋」はアーチェリーの世界ではオリンピックでメダルを取る選手に発達していることで有名です。

 

プロの射手たちは正確に狙ったところに矢を放つためには拳や腕はほとんど動かさず、関節を1、2センチだけ真横に動かすことで正確に矢を真っ直ぐに出すようにしています。このとき「前鋸筋」が働きます。

 

もし、打ち起こしおこしをするときに、弓と一緒に肩も上がってしまう人は、弓構えで前鋸筋の張った姿勢はとれているでしょうか?もし、胴づくりで骨盤が前に傾いていたり、弓懐を作る動作を誤ったりすると、肩の筋肉が張ってしまいます。このような姿勢で稽古を続けていると、やがて右肩や左肩、左腕が痛くなってきます。どんどん弓が引けなくなり、やがて矢が的に届かないくらい弓が引けなくなってしまいます。

 

そのため、弓構えで働く前鋸筋の重要性を理解し、稽古するようにしましょう。

 

そして、引き分け中に前鋸筋を強く意識したい場合、会で左肩を意識的に落とすようにしましょう。肩根が下がることで、左脇下の筋肉が強く張ります。

 

弓道で長く稽古を続けていくためには、弓構えの重要性を理解する必要があります。その一つとして、前鋸筋を働かせることにあります。前鋸筋の働きや重要性を理解することで、会においての両肩のぶれが少なくなり、矢どころの安定につながります。

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